やせいのきょうしつ⑹
本研究の目的は過去の投稿に記述している。今回は、その目的をもとに前回紹介したフィールドワークで見られた100個の〈事件〉の分析を以下の2つのアプローチから行った。
フィールドワークをふりかえる
①〈事件〉の起こる条件
まず、〈事件〉起こる条件を洗い出す必要があると考えた。その中で「なぜ起きたのか」「どこで起きたのか」「誰が誰と共に起きたのか」といった疑問をもとにできた「性質」「場所」「関わった人」の3つの枠組みのなかで、分類分けを行う。その作業から、〈事件〉を成り立つ項目が生まれた(下図)。
その項目をもとに、同じような構成(組み合わせが似ているパターン)から「カブトムシ型」「肝っ玉先生型」というように異なる〈事件〉の事例を、20種類のタイプとしてまとめる。しかし、この方法では、一様に整理されてしまい、肝心の〈公立感〉と呼ぶ公立校のポジティブな側面の実態を明らかにできない問題点があった。そのため、次の方法で分析を行う。
②〈公立感〉を構成するキーワードとそれらの因果関係
自分がフィールドワークの中で、〈公立感〉と呼び表していた現象、行動やモノを具体的に言語化するために、次の手順にしたがってその構成要素の分析をおこなっていく。⑴〈公立感〉と感じるもの・感じづらいものを分類 ⑵〈事件〉の記述内容を一言で言い表すといった小見出しをつける(例:「幼馴染の関わり」「苦手の克服」など) ⑶それらを類似するもの で集約させ、大見出しをつける。
また、⑶の段階での羅列された項目だけでは〈事件〉の中で示されていたストーリーの文脈が抜け落ちてしまう。そのため、それらを組み替え、位置関係やつながりから ⑷大見出しのなかでの関係性の整理・図式化を試みる。
他者に体験を共有する
実際に公立校に深く関わったことのない人々も自分ごととして〈公立感〉を体験することができ、その意味を理解しやすいように更に形状化を試みる必要があると考えた。「ゲーミング・シュミレーション」 (スタイン グリーンブラッド, 1994)は、「複雑なモノ・コトをわかりやすくするためのメディア」 (加藤, 2018)として取り入れることができる。また、様々な役割を通じ、それらを一時的に演じることによって普段当たり前となって見過ごされている物事を捉えなおすができるメディアである。本研究では、〈事件〉を見過ごされがちかつ、日常的な出来事としてとらえ、そのなかでの〈公立感〉に主体的に向き合うことを目的とした「ゲーミング・シュミレーション」を以下の手順に沿って作成することにした。
第一段階:目的と実施条件の設定第二段階:モデルの開発第三段階:表現に関する決定第四段階:ゲーミング・シュミレーションの構築と修正第五段階:第三者が利用するための準備ー「ゲーミング・シュミレーション作法」(スタイン グリーンブラッド, 1994)
フィールドノートを構造化することの難しさ
しかし、自分が気に入っている〈事件〉は気に入っているものほど、まとめること(特に「ゲーミング・シュミレーション」の作法でいう「モデルの開発」)は難しい。
構造化されたロジックとして捉えることができないような流れで、瞬間的かつ偶然にある条件が重なり、その人の意外な一面を知れたり、新たな役割を見出すことができたり、役割を超えた関わりができたりすることにつながるものばかりだからだ。それらは世に言う「雑な」関わりだったり「変な」行動みたいなことなのかもしれない。しかしそれらをその場で目の当たりにすると、なんだか家族みたいなあたたかい気持ちになったり、その奔放さにうらやましい気持ちになったりもする。
それらは決して同じ様に再現できるものではない。その時その日のその場所にいる人やもの、生まれるルールや会話が複雑かつゆるやかに関係しあうからこそ発生するものなのかもしれない。そんな一瞬の出来事から勇気をもらったり元気がでるものをつくりたい。
正直、参加者の体験をある程度こちらが設計しなければならない点を考えると、もしかしたら今の表現手法は、流動的で多面的に捉えることができるフィールドワークと相性がよくないのかもしれないと思うこともあった。それでも、自分の問題意識を考えると、好みの感覚を他者と共有するためには実際に体験してもらい、参加者それぞれに何かを気づき感じ取ってもらうことが一番だろうと考える。表現物として何かを創造するためには、情報を取捨選択していけなければならないのはいつも同じだろうとも思う。
「ゲーミング・シュミレーション」は、その〈事件〉と「同じ状況を再現するもの」ではなく、その〈事件〉の当事者の立場で「同じ様な心理状況を体験できるもの」として位置付けられるのかもしれない。
実装へ
2020年2月開催の加藤文俊研究室「フィールドワーク展XVI:むずむず」にて、本研究の成果発表として来場者に上記のゲームを体験してもらう予定である。その後ワークショップを通してゲームの展開過程を個人で振り返ってもらう計画をしている。詳細は次号で明記する。