選択

Limi iliuda
日本語で読む
Published in
3 min readNov 12, 2019

あれは日本を襲った、大きな地震の3日後だった。

学生時代、バイトを通じて知り合った一つ上のお兄さん。

なんだかんだで仲良くなって、先輩後輩のまま、私たちは社会人になった。

お互い、一度もその手に触れたことはない。

何度も一緒に旅行に行く仲だったのだけど。

誰も信じてくれないのだが、本当に、一度もお互いの手に触れたことがない。

それに私たちには、お互い別の恋人もいたし。

それでも白状する。

ここはネット上だから。

私はずっと、彼が一番好きだった。

そして彼も、私のことがずっと一番好きだった。

いつか結婚する相手だと思っていた。

そして彼も、そう思っていたと思う。

でも私たちは、ずっとずっと、友達だった。

関係を壊すのが怖かった。

あの日、テレビでは映画のワンシーンのような映像が流れ続け、コンビニには何一つ食糧が置いていなかった。

日本全体がピリピリとして、異常な空気に包まれていた。

そんな中、彼は私に、手を差し出したのだ。

誰もが大切な人を想って、深い悲しみに暮れる中。

彼は静かに、私に手を伸ばした。

本当は容易に、その手を握り返せていただろう。

だって私は、彼の気持ちを、ずっと前から知っていたから。

彼も私の気持ちを、ずっと前から分かっていた。

でもあの日、私は、あと一歩が踏み出せなかった。

あの時、私があと少しだけ、今の恋に不誠実で。

あの時、私があと少しだけ、自分に素直だったら。

私は彼の手を握り返したのかもしれない。

あの時、もし彼が、気持ちを言葉にして。

あの時、もし私が、もっと寂しかったら。

私たちは何かが変わっていたのかもしれない。

あの日がもし、大震災の直後じゃなければ。

あの日がもし、恋人のための日だったら。

きっと、何かが変わっていたのだろう。

そして私たちは、別々の道を選んだ。

私が別の道を選んでしまった、と言った方が良いのかもしれない。

後悔があったかと言われれば、あった。

涙を流したこともたくさんあった。

あの日から、もう何度も「3月」を過ごしたけれど。

時々、昨日のことのように思い出す。

そしてきっと、これからも私は、彼の事を想いだす。

それでも今こうやって、この宝石のような想い出を抱いていられるのは、贅沢なことなのかもしれない。

「彼はあの日、大震災の直後だったから、私に手を伸ばした」

これで良いのではないか。

おとぎ話の続編は、読まなくて良いのかもしれない。

人生は選択の繰り返しだ。

毎日毎日、人は選択を繰り返して生きる。

別の道を選んでいたら、変わっていた未来もあるのだろう。

それでも私たちは、自分がその時選んだ道を、いつか「この道を選んで良かった」と思えるように、淡々と歩いていくしかない。

一度も後悔しないで生きるなんて、きっと出来ない。

それでも。

今の延長線上には「未来」しかやってこないのだ。

そしてその未来は、結局「今」をどう生きるかで変えていくことしかできない。

選択は難しい。

それでも選択は素晴らしい。

選択に苦しむ人生ではなく、自分が「選択できる環境にいる」ことに目を向けて、これからも来る未来を受け入れていきたい。

--

--

Limi iliuda
日本語で読む

is a Japanese blogger. addicted to Netflix,chocolate,brazil.日本語記事👉 https://medium.com/p/1e8665172425/