1つ屋根の下で(1)

Mari Tsuchiya
綿毛の友
Published in
7 min readJul 25, 2016

私のきょうだい

小さい頃の写真を並べてみると、私が1人で写っている写真はほとんどない。隣には、いつも姉の存在があった。

幼い頃の私と姉

私には、6歳上の姉がいる。昨年、姉が結婚するまで、私たち姉妹は20年間同じ家、同じ部屋で生活を共にしてきた。うれしいことや悲しいこと、何かあれば、まず、姉に報告して相談に乗ってもらってきた。私にとって姉は、1番信頼できて、1番影響を受けてきた人だ。その一方、私は姉をライバルとしても見てきた。優等生タイプだった姉を見て育ってきたからか、何をするにも姉には負けたくないという気持ちを強く抱きながら生きてきた。姉がいなかったら、私はまったく違う人になっていたかもしれない。そのくらい、私にとって姉の存在は大きいのだ。

そんな私は、周りから「お姉ちゃんと仲いいね」とよく言われる。たしかに、その自覚はあるけれど「私たち姉妹の仲って他の人から見ると特別に見えるのだろうか…」と気になってきた。多くのきょうだいは、私たちのように、幼い頃もしくは幼い頃からずっと同じ屋根の下で育つ。年齢が近いきょうだいは、家族でありながら、時に友達のような位置づけにもなる。よく一緒に遊んでいるきょうだいも、干渉し合わないきょうだいも、どんなきょうだいの間にも必ず何かしらの関係性は存在しているはずなのに、それが深く語られることはあまりない。敢えて言葉にする機会も滅多にないので、当事者自身が気付いていないという場合もあるのだろう。そんなことを考えているうちに、一見見えない「きょうだいの関係性」を覗いてみたい、もっと他のきょうだいのことを知りたい、という気持ちが芽生えてきた。

1つ屋根の下暮らす2組の姉妹

こうして「きょうだいの関係性」に関心を持った私は、2人暮らしをする、ある2組の姉妹の協力を得て、研究を進めていくことにした。1組目はH姉妹。姉Sが23歳、妹Hが18歳で福島県出身の笑いが絶えない愉快な姉妹だ。2人は、妹Hちゃんが東京の美術大学に入学するにあたり、今年の4月から藤沢市の鵠沼で暮らしを始めた。年齢が5つ離れていることもあってか、妹ちゃんにとってのお姉ちゃんはお母さんのような一面を持っているように感じられる。それは、お姉ちゃんが自分の学校を少し犠牲にしてでも、妹の入学式に参加してしまうくらいだ。

2組目はY姉妹。姉Rが21歳、妹Aが18歳の岐阜県出身の姉妹である。こちらの姉妹も、妹Aちゃんが東京の予備校に通うにあたり、今年の4月から目白で2人暮らしをしている。Y姉妹には他に中学3年生の弟と小学6年生の妹がいるので、4兄弟の内の上の2人に当たる。歳が離れた下の兄弟がいる中で、2学年差である2人は、友達関係に近い。ゆったりとしたペース感を持つ姉と、ズボンをかっこよく着こなすかっこいい系の妹。見た目は、だいぶ違って見えるが、聞くところによると2人は相棒のように思っているらしい。

お宅に入り込む

この2組の姉妹の協力を得て、「姉妹の関係性」を浮き彫りにしていくにあたり、私は2つの手法を考えた。1つめが、1ヶ月に1度の「お宅訪問」だ。それぞれの姉妹が暮らすお宅で共に時間を過ごすことによって、2人の会話や行動を記録したり、家具や生活用品の使われ方を写真や動画に撮る。会話からは、それぞれの口癖や特徴、また、2人の会話のパターンが見えてくることを期待している。家具や生活用品からは、多くのきょうだいに見られる、“おさがり”や“お揃い”のものを見つけたり、共同利用しているモノしていないモノから見えない境界線を発見していく。

7月25日現在、H家、Y家それぞれ4回ずつお宅にお邪魔させてもらった。12月まで計8回行う予定なので、ちょうど折り返しにはいるといったところだ。お宅訪問の日の大まかな流れは次の通りである。

①姉妹と最寄りの駅で待ち合わせる ②3人で2人の行きつけのスーパーで買い出しに行く ③お宅にお邪魔し3人で昼食もしくは夕食を作る ④ご飯を食べながら、2人と会話をする。(ここでの会話は、形式的なインタビューではない。特にテーマはきめず、できるだけ自然な状態の中から紐解いていくようにしている。)だいたい3、4時間を共に過ごすというスタイルだ。

1ヶ月に1度会うと、小さいものから大きいものまで、いつも何かしらの変化を見つける。当初は担当制にしようとしていた食事の準備は各自で済ませることが当たり前に変わっていたり…そもそも部屋のレイアウトが変わっていたり…。日々、思考錯誤しながら、緩やかなルールのもとに2人にとって暮らしやすい「住まいづくり」が構築されていっているようだ。

Y姉妹の食卓にて

レシートから読み取る

買い物をするともらえるレシートには、想像以上にたくさんの情報が詰まっている。お店の名前やお店の住所、買い物をした時間、買ったもの、買った個数、お金の出し方…などだ。これだけたくさんの情報を持つレシートを細かくみていけば、それぞれの行動パターンが読み取れたり、モノの好みを知る手がかりになるのではないか。そう考えた私は、2つめの手法として「レシートの分析」を取り入れることにした。

共同生活での、お金の使い方について話を聞いてみると、どちらの姉妹も、2人の食費や生活費を賄う「2人の共有財布」を持っているということがわかった。そこで私は、1ヶ月ごとに、その共有財布のレシートと、姉と妹それぞれのレシートすべてを回収させてもらうことにした。そして、これらの全ての情報を1ヶ月ごとにエクセルに入力して管理している。どちらの姉妹も、1ヶ月の個々のレシートはおよそ30枚前後、共有財布のレシートはおよそ10枚前後である。つまり、私は毎月約140枚のレシートを手に入れていることになる。

この分析作業は、まだ始まったばかりであるが、レシートを眺めているだけで面白い発見はたくさんある。姉妹2人ともが頻繁に同じチョコチップクッキーを買っていたり、牛乳を買うにしても妹1人で買い物に行くときの方が姉妹2人で買いに行くときよりちょっと高いものを買っていたり…。こういった消費行動をもっともっと細かく分析すれば、そこに、その人らしさやその人ときょうだいのつながりが見えてくるはずである。

上にあげた2つの方法は、今年の12月まで、同時並行で実施していき、分析していく。この研究は、これからも集まり続ける膨大なデータを、いかに使いこなせるかが鍵を握るのだ。これから始まる夏休み、ここまでの4ヶ月分の写真やレシートと地道に向き合いながら、2つの姉妹と過ごす時間をたいせつに過ごそう。

これは、慶應義塾大学 加藤文俊研究室学部4年生の「卒業プロジェクト」の成果報告です(2016年7月末の時点での中間報告)。

最終成果は、2017年2月に開かれる「フィールドワーク展XIII:たんぽぽ」に展示されます。

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