「生産年齢人口」問題をいかにビジネスで解決するか:社会保障制度、働き方改革、生産性

イシケン
12 min readJan 2, 2018

僕は東京オリンピックには1ミリも関心がないどころか、むしろ日本でやらないで頂きたいと思っている派なんですが、周囲の人々の話や各種記事を読んでいると、どうやら「オリンピック後から日本の経済・社会的な脆弱性が加速するのではないか?」と危惧している人が多いみたいです。

その予想が正しければ、2020年は日本にとって明治期以来の大きなターニングポイントになるでしょうし、あと2年に迫ったオリンピック・イヤーに否が応でも注目せざるを得なくなります。

ところで、この「オリンピック後から日本の経済・社会的な脆弱性が加速するのではないか?」という予想の根拠を見ると、

2020年以降、日本への投資が冷え込み、労働人口減=少子高齢化を引き金として、いよいよ経済成長のマイナスが加速して数々の問題につながる

という主張になります。

で、そのことについて考えたエントリーを書こうと思ったんですが、その前にそもそも「人口減=経済成長の低下」の自明性について考えておく必要があるかなーと思い、そこから書きます。

(*)ちなみに中盤長いので、そこらへん興味なくて、ビジネス的な話を読みたい方は、「どのような(ビジネス)アプローチが可能か」という見出しから御覧ください。

人口減=経済成長の低下は自明か

「人口減=経済成長の低下」は直観的に理解できますし、この話に限らず多くの議論で当たり前のように前提とされています。

しかし、このシンプルな話には以下のような指摘があります。

高橋洋一氏は2014年の『現代ビジネス』でも以下のように、上記ツイートと同様の主張をしています。

日本で人気のある「人口減少が経済成長を妨げている」という説は、世界を見る限りまったく説得力がない。下のグラフが示すように、人口減少でも成長している国は多いし、一人当たりGDPの成長率は人口増減率と相関はないのである。

すなわち、

  • GDP全体の低下と1人あたりのGDPが混同されがちだが、
  • 1人あたりGDPであれば人口減少と相関があるとはいえない、

という話です。

ちなみに、高橋氏の指摘に対しては反論も出ています。

こちらの記事では、日本よりも人口増加率が低いが実質成長率が高い国の多くは東欧諸国で、これらを比較対象に含めてしまうのは不適切だと述べてられています。

ということで、(ソ連崩壊後、EU参加によって域内自由化の恩恵を受けた)東欧諸国を含めるべきかという話はあるかもしれませんが、経済成長を問題にするならば、国全体のGDPの数字そのものよりも、1人あたりの豊かさが指標として適切になるはずです。

その意味で、「人口減=経済成長の低下」と言い切るのはミスリーディングかもしれません。

マルサルの罠とか

というか考えてみれば、この話は別に驚きでも何でもないのです。

近代に入るまでの人類が貧しかったのは、幾何級数的に伸びる人口に対して、食料が追いつかなかったという「マルサスの罠」と呼ばれる現象で古くから語られますし、近代以前に何度も飢饉や飢餓が発生して(子供や高齢者が口減らしに殺されていることも)いることも、人口増加率が高いアジア・アフリカ地域には未だ貧困から脱していない国があることも、すぐに思い起こせます。

つまりこれらの話は、「人口減=経済成長の低下」を支持しないどころか、多すぎる人口が足かせになっていることを示しているのです。

労働人口(生産年齢人口)の減少

ただここまでの議論は、シンプルな人口減の話をしており、労働人口(生産年齢人口)の減少とは区別されます。

つまり、人口減=経済成長の低下が自明でなかったとしても、生産年齢人口減=経済成長の低下は別の話になります。

一口に人口減といっても、(物騒な話ですが)例えば原因不明の病気が流行り高齢者だけがバタバタ亡くなっていく場合、生産年齢人口(15~65 歳)の割合は相対的に増えていき、1人あたりの生産性は向上していきます。

しかし子供がどんどん生まれなくなるような社会は、将来的に生産年齢人口が減っていき、社会保障費が増大して、生産性はどんどん下がっていくでしょう。

前者のように、生産年齢人口が多い時期を人口ボーナス期と呼び、後者のように高齢者が多く、生産年齢人口が少ない時期を人口オーナス期と呼び、日本はもちろん後者になります。

すなわち、ここまでの話を整理すると、人口が減少していくことそのものが問題なのではなく、生産年齢人口が少ないことこそが問題だと言えます

(多くの場合、人口減は生産年齢人口の減少とセットでやってくるので、人口減自体も問題だと言われれば、そうなのですが)

さて、この話は政策論点やビジネス機会の観点にも活きていきます。例えばこの前提に立てば、

1)子供を増やして人口減に歯止めをかけよう!

という政策よりも、

2)女性や高齢者を生産年齢人口に転換させよう!

という政策が(短期的には)適切であることがわかります。

どのような(ビジネス)アプローチが可能か

ではここではじめて、冒頭のオリンピック以降の問題と絡めて、人口オーナス期の問題が一気に加速する2020年以降の日本に対して、どのようなビジネス的アプローチが可能かと考えてみましょう。

小室淑恵氏による「人口オーナス期に経済発展するためには」では、人口オーナス期に取り組むべき3つの施策が挙げられています。

  • 社会保障を整備し、世代間格差是正に取り組むこと
  • 女性や高齢者の雇用を促進することで労働力率を高めること
  • 労働投入が減少しても生産性の上昇により成長率を維持していくこと

以上に基いて、それぞれビジネス機会を考えてみましょう。

社会保障制度の再設計

まず最初は、社会保障制度の再設計です。

これは政策レベルでは、福祉国家のあり方を大胆に見直していくことがあげられます。個人的には、19世紀の福祉国家論のアプローチから思想的な変遷・革新が進んでいくという意味で、学術的関心も高い話題です。

ビジネス的なアプローチとしては、米・オバマ政権時代のインシュラ・テックの興隆が参考になるでしょう。

例えば、医療保険を提供するOscarは、オバマ・ケアによって大きな追い風を受けましたが、彼らは単なるネット時代の保険企業という枠組みにとどまらず、個人の健康状態やリスク管理によって全体の保険料を下げるようなアプローチをしており、まさにこの問題に切り込んでいます。

学生時代、イアン・ハッキングやミシェル・フーコーに関心を持っていた身としては、個人の健康や身体データ、リスク管理の領域に私企業が入っていくことの意味を考えさせられますが、トータルで見て彼らの存在意義は大きいと言えます。

(ちなみに先日触れた、ナッジとも関わってきます)

またフリーランサーや新たに就労する女性・高齢者向けの社会保障制度も出てくるでしょう。フリーランサー向け保険などを中心に、いくつかのプレイヤーが出ていますが、保険以外にも融資やクレカ(与信)などの需要は大きくなっていくはずです。

また、社会保障費の財源問題として捉えると、日本の膨大なタンス預金を切り崩していくビジネスが必要になるでしょう。いまでもロボアドバイザーに幾つかのサービスがありますが、より広いリテラシー層に訴求していくビジネスが何か、という観点からも考えられます。

生活保護やベーシックインカム関連は、いまは福祉・政策領域の問題と捉えられたり、実験的な議論が多いですが、5年くらいたてば現実的なビジネスモデルが生まれてくる気もします。

P2PレンディングやCASHなどのマイクロファイナンス領域が注目を集めていますが、セーフティーネットとしての可能性はまだまだあるはずです。

労働力率の向上

2点目の労働力率の向上は、まさにいま国を挙げて進んでおり、ネット業界とも大きく関わる「働き方改革」の問題です。

すでにこれは、時短やフリーランスの活用、クラウドソーシング、女性の労働の後押しなど、様々な動きに結実しているため、今後はエグゼキューションこそが重要となるでしょう。

あえて今、それほど注目が大きくない領域であげるとすれば、高齢者の労働力としての再活用があります。

定年退職後のビジネスパーソンの中には、やりがいや居場所を失い、自分の生き方を見つけられないまま暗中模索に陥っている人も少なくありません。すでに人生7–80年の時代から、日本人の寿命は100歳にまで近づいています。

60歳で退職した場合、それまでとほぼ同じ期間の人生を新たなやりがいを見つけて生きていかなければなりません。それは自分のアイデンティティーと深く関わる問題であり、疾病・健康問題とも関わってきます。

退職したホワイトカラーが、街でボランティアをしたり地域でアルバイトをすることは、それほど簡単ではない筈で、彼らのスキルや経験を活かしつつ、その自己肯定感を高めるような仕事である必要があるでしょう。

そうした視点の特化型転職・就業サイトや、ユーザー目線に立った派遣サービスなどがあるでしょう。

もちろん少しずつ増えているとは言え、時短や女性の活躍にフォーカスした同様のサービスもまだまだ求められています。

また女性や高齢者の社会進出の足かせになる、育児や介護を支援するサービスも今後伸びていく、数少ない領域です。基本的にこうした領域は、テクノロジーの波がまだまだ浸透してない領域ではあります。確実にニーズがあるものの、若いプレイヤーが少ないという意味では、ビジネス的なチャンスも大きいといえるでしょう。

日本ではタブーとなっていますが、移民は労働力の本丸です。そもそもアメリカにおける産業の歴史は移民の歴史といっても過言ではありません。

テック業界だけに絞っても、インテルの伝説アンディ・グローブ氏からはじまり、Googleのセルゲイ・ブリン氏やサンダー・ピチャイCEO、eBayのピエール・オミダイア会長、イーロン・マスク氏まで、多くが他国からの移住です。

移民の問題は政策の問題として捉えられがちですが、例えばビザを簡単にするようなサービスや、外国人専門の就労支援企業、外国へのアウトソースによって移民ならずとも生産を海外でおこなうサービスなど、チャンスは数多くあります。

生産性の向上

3点目の生産性の向上で、すぐに思いつくのは機会化や自動化です。しかし、それによって若者の雇用機会が減っていくリスクが有ることにも注目する必要があります。

すなわち自動化や機械化と同時に、職業訓練や教育の充実を図っていく必要があるのです。その意味では、転職サービスと合わさったプログラミング・スクールのように、教育と就業がセットになったサービスはますます重要になっていくでしょう。

ただ個人的に、生産性の向上に対して直接的なアプローチをすることは難しいような気がしています。

というのは現時点で生産性が低い業種・業態を可視化し、データによって変革していくためには、HRテックのようなものが考えられますが、その導入以前に雇用・経営の非効率が大きすぎる企業が多過ぎる気がしているからです。

そうすると、M&Aや事業継承によって効率的な経営が広まっていく方が手っ取り早いような気もします。

もちろんSaaSによって人事・労務・会計領域に食い込んでいったり、SPAなどのアプローチで古い業界に参入していく方法もある気がしますが、どちらかというと労働力率の向上が、そのまま生産性の向上につながっていくような気もします。

ちなみに、生産性の向上というと、すぐに技術革新やイノベーションの必要性が叫ばれますが、これも端的に厳しい気がしています。

知的生産拠点である大学は、日本の場合ほとんどが学生の授業料によって成り立っています。そのため、少子化の進行に伴って大学経営はますます苦境を向かえると思いますし、アジアの学生はどんどん日本以外の大学が選択肢に入っていくからです。

国としても基礎研究をはじめとした科学技術に投資していくことは、財源の関係から厳しくなるはずで、技術革新・イノベーションに期待することは取らぬ狸のなんちゃらでしょう。

それから生産性の向上のひとつとして、外国資本の呼び込みもポイントになってきます。

このあたりは政策要因が大きい気もしますが、仮想通貨のように数少ないグローバルな大チャンスに日本が良い位置につけていることを考えれば、その分野にビジネスを張ることは意味を持ってくるでしょう。

おわりに

ということで、2020年以降の日本の社会構造の変化を考えつつ、その問題解決に寄与するようなビジネスをおさらいしてみました。

日頃からビジネス機会を考えている方にとっては、当たり前のような内容だったかと思うのですが、改めて概観してみると日本社会が抱える課題は大きすぎるなあと感じつつ、その分だけチャンスもあるといえるので、少しでも自分がそこに関わっていけたらと思います。

いずれの領域にも、個人的に関心を持っている(&より突っ込んだビジネス・アイデアがイメージできるものある)ので、興味ある方は是非ご連絡ください。

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Written by イシケン

マイナースタジオという会社をやってます。

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