ファミリーカメラのおばちゃん(7)

キムラマサヤ
にじだより
Published in
6 min readMar 31, 2020

前回からの続き

目次
・フィールドワーク展を振り返る
・おばちゃんに卒論と『ファミリーカメラ』を渡す
・卒業プロジェクト「ファミリーカメラのおばちゃん」を振り返る
・謝辞

フィールドワーク展を振り返る

2月7日から9日まで成果発表の場として「フィールドワーク展」という展覧会を開催した。フィールドワーク展では、店内再現のポスターと実寸のテーブル、実際に店で使われているイスを配置した。テーブルには実際に店にあるポスターを貼ったり、商品を置いた。来場者の方にも擬似的にファミリーカメラを体感できたのではないかと思う。また、アウトプットとして制作した『ファミリーカメラ』も配置し、来場者の方とコミュニケーションを取る際に利用した。

『ファミリーカメラ』は無事に2月頭に納品された。計220ページを超える厚さで、おばちゃんを語るに欠かせない10名の人物のインタビュー内容だけでなく、おばちゃんが僕について語るサイドストーリー、加藤先生による語り(『ファミリーカメラ』によせて)まで含むことができた。おばちゃんを多面的に描写することで、より立体的に表現できたのではないかと思う。
柿生というまちは再開発によって大きくその景色を変えることになると思うが、ファミリーカメラやおばちゃんという非常にポテンシャルを持った場所や人があったことの証左になれば、このプロジェクトの価値になるだろう。『ファミリーカメラ』はその価値を持ったまま残り続けると僕は確信している。

他方で、懸念していた通り、展覧会で文庫本というメディアを利用するというのは非常に難しかった。当日じっくりと時間をかけ、読める人は極めて少なかった。文庫本を使うにしても、読むためのスペースは、自らのブースにはなかった。その点において、このプロジェクトを十分に伝えられたのかと振り返ると十分ではなかったという思いに至る。最後の最後に悔やまれるポイントがあるのはいささか残念である。文庫本とは別に、説明に適したメディアを用意することや、読書スペースの確保や案内、時間がない人向けの要約などはあってもよかったのかもしれない。

おばちゃんに卒論と『ファミリーカメラ』を渡す

3月14日土曜日、おばちゃんに卒論と『ファミリーカメラ』を渡しに、ファミリーカメラを訪ねた。1年間お世話になった感謝とこのプロジェクトを終えたことの報告も兼ねた。その時の詳細はこちらにまとめたので、お時間のある方には読んでいただきたい。
卒論と本を渡した瞬間の、おばちゃんの歓声は率直に嬉しかった。もちろんおばちゃんを喜ばせるためにやっていた訳ではないが、感謝の想いがあっただけに、それを形にして伝えられたのはよかった。また

いや〜、これが人生かもしれない、私の。

と語っていたのは印象的であった。冥利に尽きる。

コロナ対策で消毒用のアルコールを設置していた。

卒業プロジェクト「ファミリーカメラのおばちゃん」を振り返る

2018年の夏からこのプロジェクトを検討し始め、10月におばちゃんに相談してから1年と半年以上が経過した。写真や動画に対してのおばちゃんの拒否やイベントの中止など、なかなかフィールドワークの難しさを痛感する場面も多かったが、自らの好きなメディアや表現方法を、フィールド先・インタビュー先と調整しながら追求することで、最終的にここまでたどり着くことができた。その一方でさらなる可能性、研究の余地が非常にあることも感じさせられた。
ある研究発表の場でランドスケープやフィールドワーク が専門の教授などからフィードバックを受ける機会があった。3つの観点で、さらに深堀ができそうな点を指摘をもらった。
1つ目はサードプレイス論としてのバーとの違いだ。極めてバーと酷似しているが、店員と客の位置関係は逆転している。つまりバーであれば、バーテンダーの方が高く位置し、客は低く位置する。しかしファミリーカメラの場合、おばちゃんの方が低く位置し、客の方が高く位置する。それでもサードプレイス的な場所が成立しているのはなぜか。
2つ目はファミリーカメラのモノを詳細に観察・描写することだ。このプロジェクトでも度々ファミリーカメラのモノについて触れることはあったが紹介する程度であった。そのため、モノと人、コト、モノ同士の関係性などを調査することはなかった。ファミリーカメラ店内のモノでしか成り立たない事象は多かったはずだ。位置や大きさ、性質など観察・描写の余地がまだまだある。
3つ目は土地の特性だ。つまりいわば“柿生性”は存在するのか、存在するのであればそれは何か。ファミリーカメラやおばちゃんは柿生というまちだから存在することができたのではないかという考えだ。確かにインタビュイーの島田さんも「柿生のまちだから」と言及していた。このプロジェクトでは、柿生のまちを歩き回って調査することなどはなかった。もしくは他のまちにそういった人や店、場所などがあるかどうか調査することもなかった。 こちらも調査の余地がある。

手前味噌ではあるが良い卒業プロジェクトにできたと素直に思う。その一方、さらなる可能性を感じる部分もあり、おばちゃんやファミリーカメラにはポテンシャルが計り知れないほどあったのだと実感する。一部悔やまれるポイントはあったにせよ、このプロジェクトをここまでできたことを嬉しく思っている。

謝辞

ご指導くださった加藤先生、調査にご協力くださったおばちゃん・インタビュイーの皆様、フィードバックやコメントをくれた研究会のメンバーのみんな、支援してくれた家族、皆様方のおかげでこのプロジェクトをこのような形で終えることができました。最後にはなりますが、誠にありがとうございました。

おわり

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