再会の旅路⑹

Mayu Kuji
にじだより
Published in
5 min readJan 31, 2020

2020年2月1日時点で再会を果たしたのは、30人。

当初、74人との再会を目指していたことを考えると、30人というこの数字は評価が分かれるところかもしれない。ただ、この「30」という数字に私は特別な愛着を覚えている。このプロジェクトは、相手の協力ありきで進んでいくプロジェクトだ。一人でも欠けていたら、この数字にも到達できていなかったということを考えると、再会してくれた相手一人ひとりに感謝の気持ちを感じずにはいられない。

このプロジェクトは、会っていた期間、会っていない期間、そして再会時という3つの時間軸から相手を捉え直す試みとして進んできた。彼らと再会することは、話をすることは、知らなかった彼らの過去や近況を知る機会になった。それぞれの時間軸における相手を自分なりに描き出す手法が、私にとっては文章という形態だったのだと思う。昔から文章を書くのが好きで、何かにつけて文章にしたためてきた私にとって、文章は、思うことを自由に素直に表現することができる手法だった。

プレゼンで使った資料

これまでの再会を振り返っていると、人を巡りながら、相手とともに時間を巡る感覚を味わう。幼稚園の頃、小学生の頃、中学・高校の頃、その時々で一緒に過ごしていた人、つまりは自分を縁取る人との再会を果たし、自分自身をも旅するような感覚だ。また、会ってきた30人の顔を思い浮かべたり、再会した人をイラストにして並べたり、会ってしたためた文章を読み返したりすると、今まで“点”でしか描かれなかったことが徐々に輪郭を帯びていくような感覚を味わった。

これまでのにじだよりで、卒業プロジェクトを通して人と再会していることは、卒プロを言い訳にしていることや、卒プロという魔法にかけられている状態であることを記述していた。振り返ると、卒プロの力を借りてこのプロジェクトを進めている一面は確実にあった。けれども今は、卒プロを言い訳に人と再会しているというよりは、人や時間を旅する感覚に惹かれているから進められているのだと思う。

フィールドワーク展を前に、自分のつくっていた成果物に一部変化が表れた。これまで「会いたい人がいますか?」「その人の連絡先を知っていますか?」などと相手に問いかけをするような文体で書いていたフローが、「会いたい人がいる」「その人の連絡先を知っている」というように、自分の感情や行動、状況をベースとした表記に変わった。これは、自分の再会へのスタンスの変化でもある。相手に問う表記にしていたのは、たどったフローが誰かが再会をしたいと思った時の参考になることや、誰かが再会をするきっかけになることを想定していたからだ。しかし、自分が再会を果たしていくうちに、再会をするにも個人それぞれにタイミングがあることに考えが至った。もしかすると、再会をする必要はないと思う人もいるかもしれない。私が再会をしていたからといって、それがどれほど私に影響を与えたからといって、誰かに再会を強要したり、押しつけたりすることはできない。私は、このプロジェクトを通して私が私の思うしかるべきタイミングで再会を果たしただけのこと。この考えの下、フローは自分のたどってきた道筋を示すものとしての位置付けに変化した。フローを自分ベースに書き換えたことで、今までフロー上に表しきることができていなかった細かい状況や感情、矢印の記入が可能となり、分岐がさらに複雑になった。フローを見ながら、再会までの道のりを追体験してもらうこともできるようになると考えている。

作成したフローの一部

フィールドワーク展について
フィールドワーク展は、自分がたどった道筋や成果を報告する場として位置付けている。来場者の方には、展示されているフローをたどりながら、一人ひとりとの再会の様子を描いた冊子もぜひ手にとって読んでいただきたい。

実は、これまで再会した30人を、フィールドワーク展に招待している。そのうちの何人かからはすでに「行きます」という旨の返事をいただいている。アメリカで再会した人は、遠方のため来られる人はいないかもしれない。プロジェクトに関わってきた人に成果を報告するのはとくに緊張する。どんな反応が見られるのか不安半分、ワクワク半分。気を引き締めて走り抜けていきたいと思う。

これは、慶應義塾大学 加藤文俊研究室学部4年生の「卒業プロジェクト」の成果報告です(2019年2月1日時点)。 最終成果は、2020年2月に開かれる「フィールドワーク展XVI :むずむず」に展示されます。

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