生物学 第2版 — 第39章 呼吸器系 —

Japanese translation of “Biology 2e”

Better Late Than Never
62 min readOct 21, 2019

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39 | 呼吸器系

図39.1 | イヌのこのX線写真(左)では、肺は心臓を囲むほぼ透明な組織として見えます。肺は、呼吸器系の中心器官です。心臓のためのスペースを確保するために、左肺は右肺よりも小さいです。イヌの鼻(右)は、それぞれの鼻孔の側面にスリットがあります。匂いを追跡するとき、このスリットは開き、鼻孔の前面を塞ぎます。これは、イヌが追跡している匂いを失うことなく、鼻孔の横に開いた領域を介して息を吐き出すことを可能にします。(credit a: modification of work by Geoff Stearns; credit b: modification of work by Cory Zanker)

この章の概要

39.1:ガス交換のシステム
39.2:呼吸面を横切るガス交換
39.3:呼吸
39.4:人間の体液中におけるガスの輸送

はじめに

呼吸は不随意的な出来事です。どのくらいの頻度で呼吸をするか、そしてどのくらいの量の空気を吸い込んだり吐き出したりするかは、脳の呼吸中枢によって厳密に調節されています。人間は、自分たちが何の努力もしていないときには、平均して毎分約15回呼吸します。図39.1のイヌのような、イヌ科の呼吸数は毎分約15~30回です。吸気のたびに空気が肺を満たし、呼気のたびに空気が押し出されます。その空気は、胸腔内の肺を膨張させ収縮させるだけではありません。空気は酸素を含んでおり、酸素は肺組織を通過して血流に入り、そして器官や組織に移動します。酸素(O₂)は細胞内に入り、そこで高エネルギー化合物であるATPを生成する代謝反応に使用されます。同時に、これらの反応は副生成物として二酸化炭素(CO₂)を放出します。CO₂は有毒であり、排出しなければなりません。二酸化炭素は細胞から出て血流に入り、肺に戻り、呼気の間に体外に排出されます。

39.1 | ガス交換のシステム

この節が終わるまでに、あなたは次のことができるようになります:
•外部環境から肺への空気の通過について記述する
•肺がどのようにして粒子状物質から保護されているかを説明する

呼吸器系の主な機能は、体の組織の細胞に酸素を供給し、細胞の廃棄物である二酸化炭素を除去することです。人間の呼吸器系の主な構造は、鼻腔、気管、そして肺です。

すべての好気性生物は、その代謝機能を実行するために酸素を必要とします。進化の樹に沿って、さまざまな生物が周囲の大気から酸素を得るためのさまざまな方法を考案してきました。動物が住んでいる環境は、動物がどのように呼吸するかを大きく左右します。呼吸器系の複雑さは生物の大きさと相関しています。動物の大きさが増加するにつれて、拡散距離は増加し、表面積対体積の比率は低下します。単細胞生物では、細胞膜を横切る拡散で細胞に酸素が十分に供給されます(図39.2)。拡散はゆっくりとした受動的な輸送プロセスです。拡散が細胞に酸素を供給するための実行可能な手段であるためには、酸素の取り込み速度は膜を横切る拡散速度と一致しなければなりません。言い換えれば、もし細胞が非常に大きいかまたは厚い場合、拡散は細胞の内側へ至るほど迅速に酸素を供給することができないでしょう。それゆえ、酸素を獲得し、二酸化炭素を除去する手段として拡散に依存することは、小さい生物、または多くの扁形動物(扁形動物門)のような非常に扁平な体を有するものにとってのみ、実行可能なものです。より大型の生物は、体全体に酸素を輸送するために、えら、肺、複雑な循環器系を伴う呼吸経路などの特殊化された呼吸組織を進化させなければなりませんでした。

図39.2 | 単細胞藻類のオオバロニア(Ventricaria ventricosa)の細胞は、既知の細胞の中で最大のものの1つであり、直径1~5センチメートルに達します。すべての単細胞生物と同様に、オオバロニアは細胞膜を横切ってガスを交換します。

直接拡散

小さな多細胞生物にとっては、それらの酸素のニーズを満たすには外膜を横切る拡散で十分です。表面膜を横切る直接拡散によるガス交換は、直径1mm未満の生物にとって有効です。刺胞動物や扁形動物などの単純な生物では、体内のすべての細胞が外部環境の近くにあります。それらの細胞は湿った状態に保たれ、ガスは直接拡散によって素早く拡散します。扁形動物(フラットワーム)は、小さくて、文字通り扁平(フラット)な動物で、外膜を横切る拡散によって「呼吸」します(図39.3)。これらの生物の平らな形状は、拡散のための表面積を増加させ、体内のそれぞれの細胞が外膜表面の近くにあり、酸素に対するアクセスを持つことを確実にします。もし扁形動物が円筒形の胴体を持っていたならば、中心の細胞は酸素を得ることができないでしょう。

図39.3 | この扁形動物の呼吸プロセスは、外膜を横切る拡散によって機能します。(credit: Stephen Childs)

皮膚とえら

ミミズや両生類は、それらの皮膚(外皮)を呼吸器官として使います。毛細血管の密なネットワークが皮膚のすぐ下にあり、外部環境と循環器系の間のガス交換を促進します。ガスが溶解して細胞膜を横切って拡散するためには、呼吸面は湿った状態に保たれていなければなりません。

水中に生息する生物は水から酸素を得る必要があります。酸素は水に溶けますが、大気中よりも低濃度です。大気は約21%の酸素を有します。水中では、酸素濃度はそれよりはるかに低いです。魚や他の多くの水生生物は、水から溶解酸素を取り込むためにえらを進化させてきました(図39.4)。えらは、高度に分岐して折り畳まれた薄い組織のフィラメントです。水がえらを通過すると、水中の溶解酸素がえらを横切って血流へと急速に拡散します。循環器系は酸素が送り込まれた血液を体の他の部分に運ぶことができます。血液の代わりに体腔液を含む動物では、酸素がえらの表面を横切って体腔液に拡散します。えらは軟体動物、環形動物、および甲殻類に見られます。

図39.4 | この一般的なコイは、他の多くの水生生物と同様に、水から酸素を得ることを可能にするえらを持っています。(credit: “Guitardude012”/Wikimedia Commons)

えらの折り畳まれた表面は、魚が十分な酸素を得られるような大きな表面積を提供します。拡散とは、物質が平衡に達するまで高濃度の領域から低濃度の領域へと移動するプロセスです。この場合では、低濃度の酸素分子を含む血液がえらを通って循環します。水の中の酸素分子の濃度は、えらの中の酸素分子の濃度よりも高いです。その結果、図39.5に示されるように、酸素分子が水(高濃度)から血液(低濃度)へと拡散します。同様に、血液中の二酸化炭素分子は、血液(高濃度)から水(低濃度)へと拡散します。

図39.5 | えらの上を水が流れると、酸素が静脈を介して血液に移動します。(credit “fish”: modification of work by Duane Raver, NOAA)

気管系

昆虫の呼吸は、その循環器系からは独立しています。したがって、血液は酸素輸送に直接的な役割を果たしません。昆虫は気管系と呼ばれる高度に特殊化されたタイプの呼吸器系を持っています。それは体全体に酸素を運ぶ小さな管のネットワークからなります。気管系は活発な動物の中で最も直接的かつ効率的な呼吸器系です。気管系の管はキチンと呼ばれる高分子材料でできています。

昆虫の体は、胸部と腹部に沿って気門と呼ばれる開口部を持っています。これらの開口部は管のネットワークにつながっていて、酸素を体内に受け渡すことを可能にするとともに(図39.6)、CO₂と水蒸気の拡散を調節します。空気は、気門を通って気管系に出入りします。一部の昆虫は体の動きで気管系を換気することができます。

図39.6 | 昆虫は気管系を介して呼吸を行います。

哺乳類の系

哺乳動物では、肺換気は吸気(呼吸)によって起こります。吸気の間、空気は鼻のすぐ内側に位置する鼻腔から体に入ります(図39.7)。空気が鼻腔を通過する際に、空気は体温まで温められ、加湿されます。気道は粘液で覆われており、組織が空気と直接接触しないようにしています。粘液は水分を多く含みます。空気が粘膜のこれらの表面を通過するとき、それは水分を取り込みます。これらのプロセスは、空気を体の状態に平衡させるのを助け、冷たく乾燥した空気が引き起こす可能性のある損傷を減らします。空気中に浮遊している粒子状物質は、鼻腔内で粘液や繊毛によって除去されます。加温、加湿、粒子の除去のプロセスは、気管や肺の損傷を防ぐ重要な保護メカニズムです。したがって、吸入は酸素を呼吸器系に取り込むことに加えて、いくつかの目的に役立ちます。

ビジュアルコネクション

図39.7 | 空気は鼻腔と咽頭を通って呼吸器系に入り、気管を通過して気管支に入ります。これにより空気が肺に入ります。(credit: modification of work by NCI)

哺乳動物の呼吸器系についての次の記述のうち、間違っているものはどれですか?
a.私たちが呼吸をするとき、空気は咽頭から気管へと移動する。
b.細気管支は気管支に分岐する。
c.肺胞管は肺胞嚢につながっている。
d.肺と血液の間のガス交換は肺胞で行われる。

空気は、鼻腔から咽頭(のど)と喉頭(発声器)を通って、気管へと到達します(図39.7)。気管の主な機能は、吸入した空気を肺に送り込み、吐き出された空気を体外に排出することです。人間の気管は、長さ約10~12cm、直径2cmの円筒です。気管は食道の前に位置し、喉頭から胸腔内へと広がり、胸部の中央で2つの一次気管支に分かれます。それは、硝子軟骨と平滑筋の不完全な輪でできています(図39.8)。気管は粘液を産生する杯細胞と繊毛を持つ上皮で裏打ちされています。繊毛は、粘液に閉じ込められた異物を咽頭に向かって推進します。軟骨は気道に強度と支持を提供して通路を開放状態に保ちます。平滑筋は収縮することができ、気管の直径を減少させ、それにより吐き出された空気が大きな力で肺から上向きに流れます。私たちが咳をするとき、強制的な呼気は粘液を排出するのを助けます。平滑筋は、外部環境からの刺激または体の神経系に応じて収縮または弛緩することができます。

図39.8 | 気管と気管支は軟骨の不完全な輪でできています。(credit: modification of work by Gray’s Anatomy)

肺:気管支および肺胞

気管の末端は左肺と右肺に二分岐して(二手に分かれて)います。この2つの肺は同一ではありません。右肺はより大きく、3つの葉を含みますが、左肺はより小さく2つの葉を含みます(図39.9)。呼吸を促進する筋肉性の横隔膜は、肺よりも下方(下)にあり、胸腔の端部のしるしとなります。

図39.9 | 気管は肺の左右の気管支に二分岐しています。右肺は3つの葉でできており、より大きいです。左肺は、心臓を収容するためにより小さく、2つの葉しかありません。

肺では、空気はどんどんと小さな通路、すなわち気管支へと流れていきます。空気は2つの一次気管支(主気管支)を通って肺に入ります。それぞれの気管支は、二次気管支に、次に三次気管支へと枝分かれしていき、それらが肺を通じて分裂し広がるにつれて、ますます小さな直径の細気管支を作り出します。気管支は、気管と同様に軟骨と平滑筋でできています。細気管支では、軟骨は弾性繊維によって置き換えられます。気管支は、神経系の合図に応じて気管支および細気管支における筋肉の収縮(副交感神経)または弛緩(交感神経)を制御する、副交感神経系および交感神経系の両方の神経によって神経支配されています。人間では、直径0.5mmより小さい細気管支が呼吸細気管支です。それらは軟骨を欠いており、従ってそれらの形状を支持するために吸い込まれた空気に頼っています。通路の直径が減少するにつれて、平滑筋の相対量が増加します。

終末細気管支は、呼吸細気管支と呼ばれる微細な枝に細分されます。呼吸細気管支はいくつかの肺胞管に細分されます。多数の肺胞と肺胞嚢が肺胞管を囲んでいます。肺胞嚢は細気管支の端につながれたブドウの房に似ています(図39.10)。腺房領域では、肺胞管はそれぞれの細気管支の末端に接続しています。それぞれの管の端部には約100個の肺胞嚢があり、それぞれ20~30個の直径200~300ミクロンの肺胞を含んでいます。ガス交換は肺胞でのみ起こります。肺胞は、嚢の中の小さな泡のように見える、薄壁(典型的には細胞1つの厚さ)の実質細胞でできています。肺胞は、循環器系の毛細血管(細胞1つの厚さ)と直接接触しています。そのような密接な接触は、酸素が肺胞から血液中に拡散し、そして体の細胞に分配されることを確実にします。さらに、細胞によって廃棄物として生成された二酸化炭素は、血液から肺胞に拡散して吐き出されます。毛細血管および肺胞の解剖学的配置は、呼吸器系と循環器系の構造的および機能的関係を強調しています。それぞれの肺胞嚢内には非常に多くの肺胞(肺あたり約3億個)があり、それぞれの肺胞管の末端には非常に多くの嚢があるため、肺はスポンジのような硬さを持ちます。この構成は、ガス交換に利用可能な非常に大きな表面積を生み出します。肺の中の肺胞の表面積は約75m²です。この大きな表面積は、肺胞の実質細胞の薄壁の性質と組み合わさって、ガスが細胞を横切って容易に拡散することを可能にします。

図39.10 | 終末細気管支は呼吸細気管支によって肺胞管と肺胞嚢につながっています。それぞれの肺胞嚢は、20~30個の球状の肺胞を含み、ブドウの房のような外観をしています。空気は肺胞嚢の房に流れ込み、次に肺胞へと循環し、そこで毛細血管との間でガス交換が起こります。粘液腺は気道に粘液を分泌し、湿気と柔軟性を保ちます。(credit: modification of work by Mariana Ruiz Villareal)

学習へのリンク

次のビデオを見て呼吸器系を確認してください。(http://cnx.org/content/m66645/1.3/#eip-id1171744721747)

保護メカニズム

生物が吸い込む空気には、ほこり、ちり、ウイルス粒子、細菌などの粒子状物質が含まれており、これらは肺に損傷を与えたり、アレルギー免疫反応を引き起こしたりすることがあります。呼吸器系には、これらの問題や組織の損傷を防ぐための保護メカニズムがいくつか含まれています。鼻腔内では、毛や粘液が小さな粒子、ウイルス、細菌、ほこり、ちりを捕らえて侵入を防ぎます。

微粒子が鼻よりも先に侵入するか、または口から入った時に備えて、肺の気管支と細気管支もまたいくつかの保護装置を含んでいます。肺は、粘液(ムチン(複雑な糖タンパク質)および塩分と水分でできている粘性物質)を作り出します。これが微粒子を捕らえます。気管支と細気管支には繊毛という細い毛髪のような突起があり、気管支と細気管支の内壁を覆っています(図39.11)。これらの繊毛は一斉に拍動し、粘液や粒子を気管支や細気管支から喉に戻し、そこでそれらは嚥下されて食道を介して排出されます。

たとえば、人間では、タバコの煙の中のタールや他の物質が繊毛を破壊または麻痺させ、粒子の除去をより困難にします。さらに、喫煙は肺により多くの粘液を産生させますが、損傷した繊毛はそれを動かすことができません。肺が粒子状物質を取り除こうとすると、これは持続的な咳を引き起こし、喫煙者を呼吸器系の病気にかかりやすくします。

図39.11 | 気管支と細気管支には、粘液や他の粒子を肺の外に出すのを助ける繊毛が含まれています。(credit: Louisa Howard, modification of work by Dartmouth Electron Microscope Facility)

39.2 | 呼吸面を横切るガス交換

この節が終わるまでに、あなたは次のことができるようになります:
•肺の各種の容量(ボリュームとキャパシティー)の名前を挙げて記述する
•ガスが体の内外に移動する方法に対して、ガス圧がどのようにして影響を与えるかを理解する

肺の構造はその表面積を最大にしてガスの拡散を増大させます。膨大な数の肺胞(人間のそれぞれの肺で約3億個)のために、肺の表面積は非常に大きいです(75m²)。そのような大きな表面積を有することは、肺で出入りすることができるガスの量を増加させます。

ガス交換の基本原理

呼吸中のガス交換は、主に拡散によって起こります。拡散は、輸送が濃度勾配によって促進されるプロセスです。ガス分子は高濃度の領域から低濃度の領域に移動します。酸素濃度が低く、二酸化炭素濃度が高い血液は、肺の中の空気とガス交換します。肺の中の空気は、酸素が枯渇した血液よりも酸素濃度が高く、二酸化炭素濃度が低くなっています。この濃度勾配が呼吸中のガス交換を可能にします。

分圧は、ガスの混合物における個々の成分の濃度の尺度です。混合物によって加えられる全圧は、混合物中の成分の分圧の合計です。ガスの拡散速度は、ガスの全ての混合物内でのその分圧に比例します。この概念は以下でさらに詳細に議論します。

肺の容量(ボリュームとキャパシティー)

異なる動物はそれらの活動に基づいて異なる肺容量を有します。チーターは人間よりはるかに高い肺容量を進化させてきました。それは体内のすべての筋肉に酸素を供給するのを助け、そしてチーターが非常に速く走ることを可能にします。ゾウもまた高い肺容量を持っています。この場合、それはゾウが速く走るからではなく、それらが大きな体を持ち、その体の大きさに従って酸素を取り込むことができなければならないからです。

人間の肺の大きさは遺伝、性別、身長によって決まります。最大容量では、平均的な肺はほぼ6リットルの空気を保持できますが、肺は通常は最大容量で動作していません。肺の中の空気は、肺のボリュームと肺のキャパシティーの観点から測定されます(図39.12と表39.1)。ボリュームは、1つの機能(吸気や呼気など)の空気量を測定します。キャパシティーは、2つかそれ以上の任意のボリュームのことです(たとえば、最大呼気の終わりからどれくらい吸い込むことができるかなど)。

図39.12 | 人間の肺のボリュームとキャパシティーが示されています。成人男性の全肺気量は6リットルです。1回換気量は、単一の通常の呼吸で吸入される空気の量です。深吸気量は深呼吸の間に取り込まれる空気の量です。そして、残留量は強制的な呼吸の後に肺に残された空気の量です。
表39.1

肺のボリュームは、1回換気量、予備呼気量、予備吸気量、残留量の4つの単位に分けることができます。1回換気量(TV:tidal volume)は、通常の呼吸の間に吸入され吐き出される空気の量を測定します。平均して、この体積はおよそ0.5リットルであり、それは20オンスの飲み物ボトルの容量より少し少ない量です。予備呼気量(ERV:expiratory reserve volume)は、通常の呼気の後に吐き出すことができる追加の空気の量です。通常の量を超えて吐き出すことができるものが、この予備量です。逆に、予備吸気量(IRV:inspiratory reserve volume)は、通常の吸気の後に吸入することができる追加の空気の量です。残留量(RV:residual volume)は、予備呼気量が吐き出された後に残っている空気の量です。肺が完全に空になることはありません。最大限の呼気の後にも、肺には常にある程度の空気が残っています。もしこの残留量が存在せず、肺が完全に空になった場合、肺組織は互いにくっついてしまい、肺を再膨張させるのに必要なエネルギーが大きすぎて乗り越えることができないかもしれません。したがって、肺には常にいくらかの空気が残っています。残留量は、呼吸ガス(O₂およびCO₂)の大きな変動を防ぐためにも重要です。肺の空気を完全に空にすることは不可能であるため、残留量は直接測定できない唯一の肺のボリュームです。この量は測定ではなく計算によってのみ決定可能です。

キャパシティーは、2つかそれ以上のボリュームの測定値です。肺活量(VC:vital capacity)は、1回の呼吸サイクルの間に吸入または吐き出すことができる空気の最大量を測定します。それは予備呼気量、1回換気量、および予備吸気量の合計です。深吸気量(IC:inspiratory capacity)は、通常の呼気の終了後に吸入することができる空気の量です。したがって、それは1回換気量と予備吸気量の合計です。機能的残気量(FRC:functional residual capacity)は、予備呼気量と残留量を含みます。FRCは、通常の呼気の後に吐き出すことができる追加の空気の量を測定します。最後に、全肺気量(TLC:total lung capacity)は、肺が保持できる空気の総量の測定値です。それは残留量、予備呼気量、1回換気量、および予備吸気量の合計です。

肺のボリュームは肺活量測定と呼ばれる技術によって測定されます。肺活量測定中に行われる重要な測定は努力呼気肺活量(FEV:forced expiratory volume)であり、これは特定の期間(通常は1秒)の間に肺からどれだけの量の空気を強制的に排出することができるか(FEV1)を測定します。さらに、強制的に吐き出すことができる空気の総量である努力肺活量(FVC:forced vital capacity)が測定されます。これらの値の比(FEV1/FVC比)は、喘息、肺気腫、および線維症を含む肺疾患を診断するために使用されます。もしFEV1/FVC比が高い場合、肺は伸展性がなく(肺が堅く、適切に曲がることができないことを意味します)、そして患者は肺線維症に罹患している可能性が最も高いです。患者はほとんどの肺のボリュームを非常に早く吐き出します。逆に、FEV1/FVC比が低いとき、肺には抵抗がありますが、これは喘息の特徴です。この場合、患者が自分の肺から空気を排出するのが困難になり、最大呼気量に達するのに長い時間がかかります。いずれの場合も、呼吸は困難であり、そして合併症が生じます。

キャリアへのつながり

呼吸療法士

呼吸療法士または呼吸器科の開業医は、肺疾患および心血管疾患を有する患者を診断および治療します。彼らは、医療チームの一員として患者の治療計画を立てるために働いています。呼吸療法士は、未発達の肺を持つ早産児、喘息などの慢性疾患のある患者、または肺気腫や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの肺疾患を患っている高齢の患者を治療することがあります。彼らは、圧縮ガス供給システム、人工呼吸器、血液ガス分析装置、人工蘇生装置などの高度な装置を操作することがあります。呼吸療法士になるための特別プログラムによって、通常は、呼吸療法士を専門とする学士号が取得できます。高齢者人口が増加しているため、呼吸療法士としてのキャリアの機会は引き続き堅調に推移すると予想されます。

ガス圧と呼吸

呼吸プロセスは、ガスの特性を調べることによってよりよく理解することができます。ガスは自由に動きますが、ガス粒子は常に容器の壁に当たっているため、ガス圧が発生しています。

空気は、主として窒素(N₂;78.6%)、酸素(O₂;20.9%)、水蒸気(H₂O;0.5%)、および二酸化炭素(CO₂;0.04%)の混合ガスです。その混合物の各ガス成分は圧力を及ぼします。混合物中の個々のガスの圧力が、そのガスの分圧です。大気ガスの約21%が酸素です。しかしながら、二酸化炭素は、比較的少量(0.04%)が見出されます。酸素の分圧は二酸化炭素の分圧よりはるかに大きいです。ガスの分圧は次のように計算できます:
P = (Pₐₜₘ)×(混合物中の%含有量)

大気圧であるPₐₜₘは、一緒に加えられた大気ガスの全ての分圧の合計です:
Pₐₜₘ = PN₂ + PO₂ + PH₂O + PCO₂ = 760mmHg

海面の大気圧は760mmHgです。したがって、酸素の分圧は次のようになります:
PO₂ = (760mmHg)(0.21) = 160mmHg
そして二酸化炭素の場合は:
PCO₂ = (760mmHg)(0.0004) = 0.3mmHg

高度が高い場所では、Pₐₜₘは減少しますが、濃度は変化しません。分圧の減少はPₐₜₘの減少によるものです。

空気の混合物が肺に到達するときには、それは加湿されています。肺の中の水蒸気の圧力は空気の圧力を変えませんが、分圧の方程式に含まれていなければなりません。これを計算するためには、大気圧から水の圧力(47mmHg)を引きます:
760mmHg — 47mmHg = 713mmHg
そして酸素分圧は:
(760mmHg − 47mmHg) × 0.21 = 150mmHg

これらの圧力は、系内のガス交換、つまりガスの流れを決定します。酸素と二酸化炭素は、高圧から低圧への圧力勾配に従って流れます。したがって、それぞれのガスの分圧を理解することは、ガスが呼吸器系をどのように移動するかを理解するのに役立ちます。

肺胞を横切るガス交換

体内では、酸素は体の組織の細胞によって使用され、廃棄物として二酸化炭素が生成されます。酸素消費に対する二酸化炭素産生の比率が呼吸商(RQ)です。RQは0.7から1.0の間で変化します。もし体に燃料を供給するためにグルコースだけを使用した場合、RQは1になります。消費される酸素1モルにつき1モルの二酸化炭素が生成されるでしょう。しかしながら、グルコースは体のための唯一の燃料ではありません。タンパク質と脂肪も体の燃料として使われます。このため、酸素が消費されるよりも少ない二酸化炭素が生産されます。RQは、平均して、脂肪については約0.7、そしてタンパク質については約0.8です。

RQは、肺内の肺胞空間における酸素分圧、すなわち肺胞PO₂を計算するために使用されます。上記では、肺での酸素分圧は150mmHgと計算されました。しかしながら、肺が呼気で完全に収縮することはありません。したがって、吸い込まれた空気はこの残留空気と混合し、肺胞内での酸素分圧を低下させます。これは、肺内の酸素濃度が体外の空気中よりも低いことを意味します。RQを知ることで、肺胞内の酸素分圧を計算することができます:
肺胞PO₂ = 吸気PO₂ — (肺胞PCO₂/RQ)
RQが0.8、肺胞内のPCO₂が40mmHgの場合、肺胞PO₂は以下に等しいです:
肺胞PO₂ = 150mmHg — (40mmHg/0.8) = 100mmHg

この圧力は外部の空気より低いことに注意してください。したがって、酸素は肺の吸気(PO₂ = 150mmHg)から血流(PO₂ = 100mmHg)へと流れ込みます(図39.13)。

肺では、酸素が肺胞から肺胞を取り囲む毛細血管へと拡散します。酸素(約98%)は赤血球(RBC)に見られる呼吸色素のヘモグロビンに可逆的に結合します。RBCは酸素を組織に運び、そこで酸素はヘモグロビンから解離し組織の細胞へと拡散します。より具体的には、肺胞PO₂は、毛細血管中の血液PO₂(40mmHg)よりも肺胞において高い(肺胞PO₂ = 100mmHg)です。この圧力勾配が存在するため、酸素はその圧力勾配を下るように拡散し、肺胞から出て毛細血管の血液に入り、そこでO₂はヘモグロビンに結合します。同時に、肺胞PCO₂は、血液PCO₂ = 45mmHgよりも低い(肺胞PCO₂ = 40mmHg)です。CO₂はその圧力勾配を下るように拡散し、毛細血管から出て肺胞に入ります。

酸素と二酸化炭素は互いに独立して移動します。それらは自身の圧力勾配にしたがって拡散します。血液が肺静脈を通って肺を出る際には、静脈PO₂ = 100mmHgであるのに対して、静脈PCO₂ = 40mmHgです。血液が全身の毛細血管に入ると、組織と血液の圧力差のために血液は酸素を失い、二酸化炭素を獲得します。全身の毛細血管では、PO₂ = 100mmHgですが、組織細胞では、PO₂ = 40mmHgです。この圧力勾配は、毛細血管から組織細胞への酸素の拡散を促進します。同時に、血液PCO₂ = 40mmHgであり、全身組織PCO₂ = 45mmHgです。この圧力勾配は、CO₂を組織細胞から毛細血管へと追い出します。肺動脈を通って肺に戻ってきた血液は、静脈PO₂ = 40mmHgおよびPCO₂ = 45mmHgを有します。この血液は肺の毛細血管に入り、そこで毛細血管と肺胞の間でガスを交換するプロセスが再び始まります(図39.13)。

ビジュアルコネクション

図39.13 | 血液が体内を移動するにつれて、酸素と二酸化炭素の分圧が変化します。

次の記述のうち、間違っているものはどれですか?
a.組織内では、血液が動脈から静脈へと通過するにつれてPO₂が低下し、PCO₂が増加する。
b.血液は肺から心臓、体組織、心臓、そして肺へと流れる。
c.血液は肺から心臓、体組織、肺、そして心臓へと流れる。
d.PO₂は肺の中よりも空気の中の方が高い。

要するに、肺胞から毛細血管への分圧の変化は、酸素を組織に、そして二酸化炭素を組織から血液に動かします。その後、血液は肺に運ばれ、そこでは肺胞内の圧力の差によって、二酸化炭素が血液から肺へ、そして酸素が血液へと移動します。

学習へのリンク

肺活量測定を実行する方法を学ぶためにこのビデオを見てください。(http://cnx.org/content/m66646/1.3/#eip-id1166886382710)

39.3 | 呼吸

この節が終わるまでに、あなたは次のことができるようになります:
•肺や胸腔の構造が呼吸のメカニズムをどのように制御しているかを記述する
•肺における伸展性と抵抗の重要性を説明する
•V/Qのミスマッチが原因で発生することがある問題について議論する

哺乳類の肺は胸腔内に位置しており、そこでは肺は胸郭、肋間筋で包まれて保護され、胸壁で囲まれています。肺の底部は横隔膜(呼吸を促進する骨格筋)で抑えられています。呼吸には、肺、胸壁、そして最も重要なこととして横隔膜の調整が必要とされます。

呼吸の種類

両生類は複数の呼吸方法を進化させてきました。オタマジャクシのような幼若の両生類は、呼吸するためにえらを使い、そしてそれらは水から離れません。両生類の中には、えらを生涯保持するものもいます。オタマジャクシが成長するにつれて、えらが消え、肺が成長します。これらの肺は原始的なものであり、哺乳類の肺ほど進化していません。成体の両生類は横隔膜がないか、削減された横隔膜を有しているため、肺を介した呼吸は見せかけのものです。両生類のための他の呼吸手段は、皮膚を横切る拡散です。この拡散を助けるために、両生類の皮膚は湿ったままでなければなりません。

鳥類は呼吸に関して独特な困難に直面しています:鳥類は飛行します。飛行は大量のエネルギーを消費します。したがって、鳥類はその代謝プロセスを助けるために多くの酸素を必要とします。鳥類は飛ぶことを可能にするのに必要な酸素を供給する呼吸器系を進化させてきました。哺乳類と同様に、鳥類はガス交換に特化した器官である肺を持っています。吸入の間に取り込まれた酸素化された空気は肺の表面を横切って血流へと拡散し、そして二酸化炭素は血液から肺の中に拡散し、そして呼気の間に排出されます。鳥類と哺乳類の間の呼吸の詳細はかなり異なります。

肺に加えて、鳥類はその体の中に気嚢を持っています。空気は後部の気嚢から肺へ、そして前部の気嚢から外へと一方向に流れます。空気の流れは血流と反対方向であり、ガス交換ははるかに効率的に行われます。このタイプの呼吸は、鳥類が高い高度の酸素濃度が低い場所にいたとしても必要な酸素を得ることを可能にします。この気流の方向性は、肺から空気を完全に出すために2サイクルの空気の吸気および呼気を必要とします。

進化へのつながり

鳥類の呼吸

鳥類はそれらが飛ぶことを可能にするような呼吸器系を進化させてきました。飛行は高エネルギープロセスであり、多くの酸素を必要とします。さらに、多くの鳥類は酸素濃度が低い高高度を飛びます。鳥類はどのようにして非常に独特な呼吸器系を進化させたのでしょうか?

古生物学者による何十年にもわたる研究では、鳥類が肉食の恐竜である獣脚類から進化したことが示されています(図39.14)。事実、化石の証拠は、1億年以上前に生きていた肉食の恐竜が、肺や気嚢を伴う同様の貫通流式の呼吸器系を持っていたことを示しています。たとえば、始祖鳥とシャオティンギアは飛行する恐竜であって、鳥類の初期の先駆者であると考えられています。

図39.14 | 鳥類の先祖である恐竜は、同様の中空骨を持ち、同様の呼吸器系を持っていたと考えられています。(credit b: modification of work by Zina Deretsky, National Science Foundation)

私たちのほとんどは、恐竜は絶滅していると考えています。しかしながら、現代の鳥類は飛行する恐竜の子孫です。現代の鳥類の呼吸器系は何億年もの間に進化してきています。

すべての哺乳動物は呼吸のための主要な器官である肺を持っています。肺の容量はこの動物の活動を支えるために進化してきました。吸入の間、肺は空気とともに膨張し、そして酸素は肺の表面を横切って拡散し血流に入ります。呼気の間、肺は空気を排出し、肺の容量は減少します。次のいくつかの節では、人間の呼吸のプロセスについて説明します。

人間の呼吸のしくみ

ボイルの法則は、閉じた空間では圧力と体積が反比例の関係にあることを述べる気体の法則です。体積が減少すると圧力が増加し、逆も同様です(図39.15)。ガス圧と体積の関係は呼吸のメカニズムを説明するのに役立ちます。

図39.15 | このグラフは、1662年のボイルのオリジナルの実験からのデータを示しています。これは圧力と体積が反比例の関係にあることを示しています。ボイルが彼の実験で任意の単位を使ったので、単位は与えられていません。

胸腔内には常にわずかに負圧があり、肺の気道を開いたままにするのに役立ちます。吸入の間、横隔膜の収縮の結果として体積が増加し、そして(ボイルの法則に従って)圧力が減少します。この環境に対する胸腔内の圧力の減少によって、空洞の圧力は大気よりも小さくなります(図39.16a)。この圧力低下のために、空気が呼吸経路に入り込みます。肺の体積を増やすために、胸壁が拡張します。これは肋間筋(胸郭に接続されている筋肉)の収縮から生じます。横隔膜が収縮し肋間筋が収縮するため、肺の体積が拡張し、胸腔が拡張します。この胸腔の体積の増加は、大気と比較して圧力を低下させるので、空気が肺に流れ込み、したがってその体積を増加させます。細気管支および気管支は大きさが変化しない堅い構造であるため、結果として生じる体積の増加は、肺胞腔の増大に大きく起因します。

図39.16 | 肺、胸壁、および横隔膜はすべて、(a)吸気と(b)呼気の両方の呼吸に関与しています。(credit: modification of work by Mariana Ruiz Villareal)

胸壁は拡張して肺から離れます。肺は弾力性があります。それゆえ、空気が肺を満たすときには、肺の組織内の弾性的な反動が肺の内部に向かって圧力をかけ返します。これらの外向きの力および内向きの力は、呼吸するたびに肺を膨張および収縮させるために競合します。呼気の際には、肺は反動して空気を肺から追い出し、肋間筋は弛緩して胸壁を元の位置に戻します(図39.16b)。横隔膜もまた弛緩して胸腔内のより高い場所へ移動します。これは、環境に対して胸腔内の圧力を増加させ、そして空気が肺から押し出されます。肺から外へ出る空気の移動は受動的な出来事です。空気を排出するために筋肉が収縮することはありません。

それぞれの肺は陥没した嚢に囲まれています。肺を覆い、空間に入り込ませる組織の層は、臓側胸膜と呼ばれます。壁側胸膜という第2の層が胸郭の内側を覆っています(図39.17)。これらの層の間の空間(胸膜内空間)は、組織を保護するとともに、肺が収縮・弛緩するときに組織層が互いに擦れることから生じる摩擦を減らすような少量の流体を含みます。胸膜炎は、これらの組織層が炎症を起こしたときに起こります。炎症は胸腔内の圧力を上昇させ、肺の体積を減少させるため、痛みを伴います。

図39.17 | 胸膜と呼ばれる組織層が肺と胸腔の内部を囲んでいます。(credit: modification of work by NCI)

学習へのリンク

ボイルの法則に関するビデオ(https://www.openstaxcollege.org/l/boyles_law)を見て、ボイルの法則が呼吸とどのように関連しているかを観察してください。(http://cnx.org/content/m66647/1.3/#eip-id1169422250553)

呼吸における仕事

1分あたりの呼吸の数が、呼吸数です。平均では、運動していない条件下において、人間の呼吸数は12~15呼吸/分です。呼吸数は、肺胞換気量、すなわちどれだけの空気が肺胞に入って出るかに寄与します。肺胞換気量は肺胞内の二酸化炭素の蓄積を防ぎます。肺胞換気量を一定に保つには、2つの方法があります:1呼吸あたりの1回換気量を減らしながら呼吸数を増やすか(浅い呼吸)、または1呼吸あたりの1回換気量を増やしながら呼吸数を減らすか、です。どちらの場合でも、換気量は変わりませんが、行われる仕事と必要な仕事の種類はまったく異なります。酸素要求量が増加すると、1回換気量と呼吸数の両方が厳密に調節されます。

呼吸中に行われる仕事には、流動抵抗性の仕事と弾性の仕事の2種類があります。流動抵抗性の仕事とは肺の中の肺胞と組織の仕事を指し、弾性の仕事とは肋間筋、胸壁、横隔膜の仕事を指します。呼吸数が増えると、気道の流動抵抗性の仕事が増し、筋肉の弾性の仕事が減ります。呼吸数が減ると、必要な仕事の種類が逆になります。

サーファクタント

肺胞の空気-組織/水界面は高い表面張力を有します。この表面張力は、水分子を互いに結合させるような、水滴の液体-空気界面における水の表面張力に類似しています。サーファクタント(界面活性剤)は、肺胞組織と肺胞内に見られる空気との間に存在する表面張力を低下させるように作用するリン脂質とリポタンパク質の複雑な混合物です。それは、肺胞液の表面張力を下げることによって、肺胞がつぶれる傾向を減らします。

サーファクタントは洗剤のように作用して表面張力を低下させ、気道の膨張を容易にします。風船を最初に膨らませるとき、プラスチックを引き伸ばして風船を膨張させ始めるのには多大な努力を要します。もし風船の内部に少量の洗剤が塗布してあれば、風船を膨らませ始めるのに必要な労力や仕事が減り、風船を膨らませ始めるのがはるかに簡単になるでしょう。これと同じ原則が気道にも当てはまります。気道組織への少量のサーファクタントは、その気道を膨張させるのに必要な労力または仕事を減らします。早産児は時に十分なサーファクタントを産生しないことがあります。その結果、彼らは呼吸窮迫症候群に苦しみます。なぜなら、彼らの肺を膨らませるためにより多くの労力を必要とするからです。サーファクタントはまた、大きな肺胞と比べて小さな肺胞の崩壊を防ぐためにも重要です。

肺の抵抗と伸展性

肺疾患は、肺に出入りするガス交換の速度を低下させます。ガス交換の減少の2つの主な原因は、伸展性(肺がどれほど弾力的であるか)と抵抗(気道にどれだけの閉塞があるか)です。どちらかにおける変化は、呼吸と酸素を取り入れて二酸化炭素を放出する能力を劇的に変えることがあります。

拘束性疾患の例は呼吸窮迫症候群および肺線維症です。両方の疾患において、気道は伸展性が低く、それらは硬直しているかまたは線維性となっています。肺組織が曲がったり動いたりできないために、伸展性が低下しています。これらの種類の拘束性疾患では、胸膜内圧はより正圧となっており、呼気によって気道がつぶれ、肺の中に空気が閉じ込められます。可能な限り深呼吸をした後に強制的に吐き出すことができる空気の量である努力肺活量(または機能的肺活量)(FVC)は、通常の患者よりはるかに少なく、ほとんどの空気を吐き出すのにかかる時間は非常に長くなります(図39.18)これらの病気にかかっている患者は、通常の量の空気を吐き出すことができません。

閉塞性疾患および症状には、肺気腫、喘息、および肺水腫が含まれます。主としてタバコの喫煙から生じる肺気腫では、肺胞の壁が破壊され、ガス交換のための表面積が減少します。肺胞壁が損傷すると、弾性繊維の喪失により肺の弾性的な反動が減少するため、肺の全体的な伸展性は増加し、そして、呼気の終わりにはより多くの空気が肺に閉じ込められるようになります。喘息は、環境要因によって炎症が引き起こされる疾患です。炎症は気道を塞ぎます。閉塞は、浮腫(体液の貯留)、細気管支壁の平滑筋痙攣、粘液分泌の増加、気道上皮の損傷、またはこれらの事象の組み合わせが原因であることがあります。喘息または浮腫のある人は、気道の炎症の増加による閉塞の増加を経験します。これは気道を塞ぐ傾向があり、ガスの適切な移動を妨げます(図39.18)。閉塞性疾患を有する人は、呼気後に大量の空気が閉じ込められており、気道のリクルートメントの欠如を補うために非常に高い肺容量で呼吸します。

図39.18 | FEV1(深呼吸をしてから1秒間に強制的に吐き出すことができる空気の量)とFVC(強制的に吐き出すことができる空気の総量)の比率を使用して、ある人に拘束性肺疾患または閉塞性肺疾患があるかどうかを診断することができます。拘束性肺疾患では、FVCは減少しますが、気道は塞がれないため、人は適度に速く空気を排出することができます。閉塞性肺疾患では、気道閉塞によって、FVCの低下ととともにゆっくりした呼気につながります。したがって、FEV1/FVC比率は、閉塞性肺疾患のある人(69%未満)のほうが、拘束性肺疾患のある人(88~90%)よりも低くなります。

死腔:V/Qミスマッチ

肺循環圧は体循環の圧力と比較して非常に低いです。それはまた、心拍出量から独立しています。これは、リクルートメントと呼ばれる現象のためです。リクルートメントとは、心拍出量が増加したときに、通常は閉じたままの気道を開くプロセスです。心拍出量が増加するにつれて、灌流される(血液で満たされる)毛細血管および動脈の数が増加します。これらの毛細血管および動脈は常に使用されているわけではありませんが、必要な時のために準備ができています。しかしながら、時には、肺の中の空気量(換気量、V)と血液量(灌流量、Q)との間に不一致があります。これは換気/血流(V/Q)ミスマッチと呼ばれます。

V/Qミスマッチには2つのタイプがあります。どちらも死腔(壊れた、または遮断された肺組織の領域)を作り出します。死腔はガス拡散に利用可能な表面積を減少させるため、呼吸に深刻な影響を及ぼすことがあります。結果として、血液中の酸素量が減少する一方で、二酸化炭素レベルは増加します。換気および/または灌流が行われていないときに、死腔が作られます。解剖学的死腔または解剖学的シャントは、解剖学的障害から生じますが、生理学的死腔または生理学的シャントは肺または動脈の機能障害から生じます。

解剖学的シャントの例は、肺への重力の影響です。肺は重力の大きさと方向の変化に特に敏感です。ある人が直立しているとき、または背筋を伸ばして座っているとき、胸膜内圧の勾配は肺の下方での換気の増加をもたらします。その結果、胸腔内圧は肺の上部よりも底部で負になり、肺の上部よりも下部が多くの空気で満たされます。同様に、腹臥位(うつぶせ)にあるときには、血液を肺の底部に送るのは肺の上部に送るよりもエネルギーが少なくてすみます。立っているかまたは座っている間には、肺の灌流は均一ではありません。これは、静水圧力と気道内圧の効果との組み合わせによるものです。解剖学的シャントが発生するのは、気道の換気がそれらの気道を囲む動脈の灌流と一致しないためです。その結果、ガス交換の速度が低下します。これは横に寝ているときには発生しません。なぜなら、この姿勢では、重力が優先的に肺の底部を引き下げることはないためです。

もし肺の中のある領域を塞ぐような感染症や浮腫があると、生理的シャントが発生することがあります。これは換気を減少させますが、灌流には影響しません。したがって、V/Q比率が変わり、ガス交換が影響を受けます。

肺は換気と灌流のこれらのミスマッチを補うことができます。もし換気が灌流よりも大きい場合は、細動脈が拡張し、細気管支が収縮します。これは潅流を高め、換気を減らします。同様に、もし換気が灌流より少ない場合、細動脈は収縮し、細気管支は不均衡を矯正するために拡張します。

学習へのリンク

呼吸のしくみを見てください。(http://cnx.org/content/m66647/1.3/#eip-id1166285291346)

39.4 | 人間の体液中におけるガスの輸送

この節が終わるまでに、あなたは次のことができるようになります:
•酸素がどのようにしてヘモグロビンに結合し、体組織に輸送されるのかを記述する
•二酸化炭素がどのようにして体組織から肺へと輸送されるのかを説明する

酸素が肺胞を横切って拡散すると、それは血流に入り、組織に輸送されてそこで荷降ろしされます。そして、二酸化炭素は血液から肺胞へと拡散して体から排出されます。ガス交換は連続的なプロセスですが、酸素と二酸化炭素は異なるメカニズムで輸送されます。

血液中における酸素の輸送

酸素は血に溶けますが、この方法で運ばれるのは少量の酸素だけです。血液中の酸素のわずか1.5%だけが血液自体に直接溶け込んでいます。ほとんどの酸素(98.5%)は、ヘモグロビンと呼ばれるタンパク質に結合して組織に運ばれます。

ヘモグロビン

ヘモグロビン(Hb)は、4つのサブユニット(2つのαサブユニットと2つのβサブユニット)からなる、赤血球に見られるタンパク質分子です(図39.19)。それぞれのサブユニットは、鉄を含むとともに1つの酸素分子と結合するような中央のヘム基を囲んでおり、それぞれのヘモグロビン分子が4つの酸素分子と結合することを可能にします。より多くの酸素がヘム基に結合している分子はより明るい赤色をしています。結果として、Hbが4つの酸素分子を運んでいる酸素化された動脈血は明るい赤色であり、一方、脱酸素化された静脈血はより暗い赤色をしています。

図39.19 | 酸素を細胞に、そして二酸化炭素を肺に運搬する(a)赤血球内のタンパク質が、(b)ヘモグロビンです。ヘモグロビンは、4つの対称的なサブユニットと4つのヘム基から構成されています。ヘム基に付随する鉄は酸素と結合します。血液に赤い色を与えるのはヘモグロビンの中の鉄です。

2番目や3番目の酸素分子をHbに結合するのは、最初の分子よりも容易です。これは、酸素が結合するにつれて、ヘモグロビン分子がその形状または立体構造を変化させるためです。その後では、4番目の酸素は結合しにくくなります。酸素のヘモグロビンへの結合は、相対的なHb−酸素飽和度(y軸)に対する血液中の酸素分圧(x軸)の関数としてプロットすることができます。得られたグラフ — 酸素解離曲線 — はS字型です(図39.20)。酸素分圧が上昇するにつれて、ヘモグロビンは酸素で次第に飽和するようになります。

ビジュアルコネクション

図39.20 | 酸素解離曲線は、酸素分圧が増加するにつれて、より多くの酸素がヘモグロビンに結合することを示しています。しかしながら、酸素に対するヘモグロビンの親和性は、環境条件に応じて左または右にシフトすることがあります。

腎臓は血液から過剰のH⁺イオンを除去する役割を担っています。もし腎臓が機能しなくなった場合、血液のpHとヘモグロビンの酸素への親和性はどうなるでしょうか?

酸素結合に影響を与える要因

ヘモグロビンの酸素運搬能力は、血液中で運ばれる酸素の量を決定します。PO₂に加えて、他の環境要因および疾患が酸素運搬能力と送達に影響を及ぼすことがあります。

二酸化炭素レベル、血中pH、および体温は、酸素運搬能力に影響を与えます(図39.20)。二酸化炭素が血中にあるとき、それは水と反応して炭酸水素イオン(HCO₃⁻)と水素イオン(H⁺)を形成します。血液中の二酸化炭素レベルが上がると、より多くのH⁺が生成され、pHが下がります。この二酸化炭素の増加およびそれに続くpHの減少は、酸素に対するヘモグロビンの親和性を低下させます。酸素はHb分子から解離し、酸素解離曲線を右にシフトさせます。したがって、pHがより高いときと同じヘモグロビン飽和レベルに達するためには、より多くの酸素が必要とされます。また、体温の上昇からも、曲線における同様のシフトが生じます。骨格筋の活動の増加などによる温度の上昇は、酸素に対するヘモグロビンの親和性の低下を引き起こします。

鎌状赤血球貧血およびサラセミアのような疾患は、血液が組織に対して酸素を届ける能力およびその酸素運搬能力を低下させます。鎌状赤血球貧血では、赤血球の形状は三日月形で、細長く、そして硬くなり、酸素を運搬する能力が低下します(図39.21)。この形態では、赤血球は毛細血管を通過できません。それが起こる時には痛みが伴います。サラセミアは、Hbのαサブユニットまたはβサブユニットのいずれかの欠陥によって引き起こされる、まれな遺伝病です。サラセミア患者は多数の赤血球を産生しますが、これらの細胞は通常より低いレベルのヘモグロビンを持っています。したがって、酸素運搬能力は減少します。

図39.21 | 鎌状赤血球貧血の人は、三日月形の赤血球を持っています。(credit: modification of work by Ed Uthman; scale-bar data from Matt Russell)

血液中における二酸化炭素の輸送

二酸化炭素分子は、3つの方法(血液中に直接溶解するか、ヘモグロビンに結合するか、または炭酸水素イオンとして運ばれるか)のうちの1つによって、体組織から肺へと血液中で輸送されます。血液中の二酸化炭素のいくつかの特性はその輸送に影響を与えます。第1に、二酸化炭素は酸素よりも血中に溶けやすいです。全二酸化炭素の約5~7%が血漿に溶解しています。第2に、二酸化炭素は血漿タンパク質に結合することができるか、あるいは赤血球に入りヘモグロビンに結合することができます。この形態は二酸化炭素の約10%を輸送します。二酸化炭素がヘモグロビンに結合すると、カルバミノヘモグロビンと呼ばれる分子が形成されます。二酸化炭素のヘモグロビンへの結合は可逆的です。したがって、それが肺に到達すると、二酸化炭素はヘモグロビンから自由に解離し、そして体から排出されます。

第3に、大部分の二酸化炭素分子(85%)は重炭酸緩衝系の一部として運ばれます。この系では、二酸化炭素が赤血球に拡散します。赤血球内の炭酸脱水酵素(CA)は、二酸化炭素を炭酸(H₂CO₃)に素早く変換します。炭酸は不安定な中間体分子で、直ちに炭酸水素イオン(HCO₃⁻)と水素(H⁺)イオンに解離します。二酸化炭素が急速に炭酸水素イオンに変換されるため、この反応は濃度勾配を下るように血液中への二酸化炭素の継続的な取り込みを可能にします。それはまたH⁺イオンの生成をもたらします。もし生成されるH⁺が多すぎると、血液のpHが変化することがあります。しかしながら、ヘモグロビンは遊離H⁺イオンに結合し、従ってpHのシフトを制限します。新たに合成された炭酸水素イオンは、塩化物イオン(Cl⁻)と引き換えに赤血球から血液の液体成分へと輸送されます。これは塩化物シフトと呼ばれます。血液が肺に到達すると、炭酸水素イオンは塩化物イオンと引き換えに赤血球へと戻されます。H⁺イオンはヘモグロビンから解離し、炭酸水素イオンに結合します。これは炭酸の中間体を生成し、それはCAの酵素作用にを通じて二酸化炭素に変換されます。生成された二酸化炭素は呼気の間に肺を通して排出されます。
CO₂ + H₂O ↔ H₂CO₃(炭酸) ↔ HCO₃⁻ + H⁺(重炭酸)

重炭酸緩衝系の利点は、二酸化炭素が系のpHをほとんど変化させずに血液に「染み込む」ことです。体の全体的なpHのほんのわずかな変化が重度の障害や死亡を引き起こすため、これは重要です。この重炭酸緩衝系の存在はまた、人々が高地を移動したり、そこに住んだりすることを可能にします:高い高度において酸素と二酸化炭素の分圧が変化するとき、重炭酸緩衝系は体内の正しいpHを維持しながら二酸化炭素を調節するように調整してくれます。

一酸化炭素中毒

二酸化炭素はヘモグロビンに対して容易に会合したり解離したりすることができますが、一酸化炭素(CO)のような他の分子はそうすることができません。一酸化炭素は、ヘモグロビンに対して酸素よりも高い親和性を有します。したがって、一酸化炭素が存在する場合、それは酸素よりも優先的にヘモグロビンに結合します。その結果、酸素はヘモグロビンに結合することができなくなり、体内に運ばれる酸素はごくわずかになります(図39.22)。一酸化炭素は無色無臭の気体であるため、検出が困難です。一酸化炭素はガソリンを使う乗り物や道具で作られます。一酸化炭素は頭痛、混乱、および吐き気を引き起こします。長時間の暴露は脳の損傷や死を引き起こすことがあります。一酸化炭素中毒の通常の治療法は、100%(純粋)酸素を投与することです。純粋な酸素の投与は、ヘモグロビンからの一酸化炭素の分離を速めます。

図39.22 | COの割合が増加すると、ヘモグロビンの酸素飽和度が低下します。

重要用語

肺胞PO₂:肺胞内の酸素分圧(通常は約100mmHg)

肺胞管:終末細気管支から肺胞嚢まで延びる管

肺胞嚢:共通の開口部を共有する2つかそれ以上の肺胞からなる構造

肺胞換気量:肺胞内にどれだけ空気があるか

肺胞(または、気嚢):ガス交換が起こる肺の末端領域

解剖学的死腔(または、解剖学的シャント):解剖学的な閉鎖のために適切な換気/灌流を欠く肺の領域

炭酸水素(HCO₃⁻)イオン:炭酸がH⁺と(HCO₃⁻)に解離するときに生成されるイオン

重炭酸緩衝系:二酸化炭素を吸収し、pHレベルを調節する血液中の系

細気管支:主要な三次気管支から肺胞嚢まで延びる気道

気管支:気管から出ている軟骨組織の小さな枝。空気は気管支を通して肺胞内でガス交換が起こる領域に送り込まれる

カルバミノヘモグロビン:二酸化炭素がヘモグロビンに結合するときに形成される分子

炭酸脱水酵素(CA):二酸化炭素と水を炭酸に触媒する酵素

塩化物シフト:赤血球の内外へ出入りするような塩化物と重炭酸塩との交換

伸展性:肺の弾力性の尺度

死腔:適切な換気または灌流を欠く肺の中の領域

横隔膜:肺の下に位置し、胸腔と腹腔を隔てるドーム型の骨格筋

弾性的な反動:肺組織を内側に駆動するような肺の性質

弾性の仕事:肋間筋、胸壁、および横隔膜によって行われる仕事

予備呼気量(ERV):通常の呼気の後に吐き出すことができる追加の空気の量

FEV1/FVC比率:肺から排出される総量に対する、1秒間に肺から排出される空気の量の比率。病状の検出に使用できる肺機能の尺度

流動抵抗性の仕事:肺の中の肺胞と組織によって行われる呼吸の仕事

努力呼気肺活量(FEV):最大の吸気量から特定の時間にわたって肺からどれだけの量の空気を排出させることができるかの尺度

機能的残気量(FRC):予備呼気量と残留量

機能的肺活量(FVC)(または、努力肺活量):可能な限り深呼吸をした後に強制的に吐き出すことができる空気の量

ヘム基:ヘモグロビンのαサブユニットおよびβサブユニットに囲まれた、中心にある鉄を含有する基

ヘモグロビン:赤血球中にある、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素と結合することができる分子

深吸気量(IC):1回換気量と予備吸気量

予備吸気量(IRV):通常の吸入の後に吸い込むことのできる追加の空気の量

肋間筋:吸気の際に収縮する、胸郭に接続された筋肉

胸膜内空間:胸膜の層の間の空間

喉頭:咽頭と気管を結ぶ短い通路、発声器

肺のキャパシティー:2つかそれ以上の肺のボリュームの尺度(呼気の終わりから最大容量までにどれだけの空気を吸い込むことができるか)

肺のボリューム:1つの肺機能についての空気の尺度(通常の吸入または呼気)

ムチン:粘液に見られる複雑な糖タンパク質

粘液:肺における粘着性でタンパク質を含む液体の分泌物であって、粒子状物質を捕えて体内から排出する

鼻腔:呼吸器系の外部環境への開口部

閉塞性疾患:気道の閉塞から生じる疾患(肺気腫や喘息など)。これらの疾患においては伸展性が増加している

酸素解離曲線:ヘモグロビンに対する酸素の親和性を表す曲線

酸素運搬能力:血液中で運ばれる酸素の量

分圧:ガスの混合物内の1つのガスによって加えられる圧力の量

粒子状物質:空気中にあるほこり、ちり、ウイルス粒子、細菌などの小さな粒子

咽頭:のど。内鼻孔から始まり、食道と喉頭に通じている首の途中まで伸びる管

生理学的死腔(または、生理学的シャント):肺の生理学的変化(炎症または浮腫のような)のために適切な換気/灌流を欠く肺の領域

胸膜:肺を囲み、胸腔の内側を覆う組織の層

胸膜炎:痛みを伴う胸膜組織層の炎症

一次気管支(または、主気管支):気管に接続する肺内の気道の領域であって、それぞれの肺へと二分岐し、そこで二次気管支に分岐する

リクルートメント:心拍出量が増加したときに、通常は閉じたままの気道を開くプロセス

残留量(RV):最大の呼気の後に肺に残っている空気の量

抵抗:肺の閉塞の尺度

呼吸細気管支:終末細気管支と肺胞管、肺胞嚢、および肺胞に接続している細気管支の木の末端部分

呼吸窮迫症候群:サーファクタントの量が不十分であることから生じる病気

呼吸商(RQ):消費されたそれぞれの酸素分子に対する二酸化炭素生成の比率

呼吸数:1分あたりの呼吸の数

拘束性疾患:肺胞の拘束および伸展性の低下から生じる疾患。呼吸窮迫症候群および肺線維症がその例である

鎌状赤血球貧血:赤血球の形状、および酸素を運搬して毛細血管を移動する能力に影響を与える遺伝性疾患

肺活量測定:肺容量の測定および肺疾患の診断方法

サーファクタント:気道内の洗剤のような液体で、肺胞の表面張力を下げて拡張を可能にする

終末細気管支:呼吸細気管支に接続する細気管支の領域

サラセミア:ヘモグロビンのαサブユニットおよびβサブユニットの突然変異を引き起こし、ヘモグロビンの少ない小さな赤血球を作り出す、まれな遺伝性疾患

1回換気量(TV):通常の呼吸中に吸入され吐き出される空気の量

全肺気量(TLC):残留量、予備呼気量、1回換気量、および予備吸気量の合計

気管:喉頭から一次気管支に空気を輸送する軟骨性の管

静脈PCO₂:静脈内の二酸化炭素分圧(肺静脈内で40mmHg)

静脈PO₂:静脈内の酸素分圧(肺静脈内で100mmHg)

換気/血流(V/Q)ミスマッチ:適切な肺胞の換気(V)および/または動脈の灌流(Q)を欠く肺の領域

肺活量(VC):予備呼気量、1回換気量、および予備吸気量の合計

この章のまとめ

39.1 | ガス交換のシステム

動物の呼吸器系はガス交換を促進するように設計されています。哺乳動物では、空気は鼻腔内で温められ、加湿されます。その後、空気は咽頭から気管を通って肺に入ります。肺では、空気が分岐する気管支を通り抜けて呼吸細気管支に到達します。そこはガス交換の最初の場所です。呼吸細気管支は、肺胞管、肺胞嚢、および肺胞に通じています。肺には非常に多くの肺胞および肺胞嚢があるので、ガス交換のための表面積は非常に大きいです。損傷や感染を防ぐためにいくつかの保護メカニズムが備えられています。これらには、鼻腔内の毛や粘液が含まれています。これらは、ほこり、ちり、その他の粒子状物質が系に入る前に捕らえます。肺では、粒子は粘液層に捕らえられ、繊毛を介して気管上部の食道の開口部まで運ばれて飲み込まれます。

39.2 | 呼吸面を横切るガス交換

肺は大量の空気を保持することができますが、通常は最大容量まで満たされてはいません。肺のボリュームの測定値は、1回換気量、予備呼気量、予備吸気量、および残留量を含みます。これらの合計が全肺気量に等しいです。肺へのまたは肺からのガスの移動は、ガスの圧力に依存します。空気は気体の混合物です。したがって、それぞれのガスの分圧を計算して、ガスが肺をどのように流れるかを決定することができます。空気中のガスの分圧の差によって、酸素が組織に送り込まれ、二酸化炭素が体外に送り出されます。

39.3 | 呼吸

肺の構造と胸腔が呼吸のメカニズムを制御します。吸気があると、横隔膜は収縮して下がります。肋間筋は収縮し、胸壁を外側に広げます。胸膜内圧は低下して、肺が拡張し、空気が気道に引き込まれます。吐き出すときには、肋間筋と横隔膜は弛緩し、胸膜内圧を安静時の状態に戻します。肺が反発して気道が閉じます。空気は受動的に肺から出ていきます。肺のなかにおいて、空気と気道の界面には高い表面張力があります。サーファクタント(リン脂質とリポタンパク質の混合物)は、気道内で洗剤のように作用して表面張力を低下させ、肺胞を広げることを可能にします。

呼吸とガス交換はどちらも肺の伸展性と抵抗の変化によって変化します。肺線維症などの拘束性疾患で起こるように、もし肺の伸展性が低下すると、気道は硬くなり、呼気時につぶれます。空気が肺に閉じ込められ、呼吸がより困難になります。喘息や肺気腫のときに起こるように抵抗が増えると、気道が閉塞し、肺の中に空気が閉じ込められて呼吸が困難になります。気道の換気量や動脈の灌流量の変化はガス交換に影響を与えることがあります。V/Qミスマッチと呼ばれるこれらの換気量および灌流量の変化は、解剖学的または生理学的変化から生じます。

39.4 | 人間の体液中におけるガスの輸送

ヘモグロビンは赤血球に見られるタンパク質で、鉄を含むヘム基を囲む2つのαサブユニットと2つのβサブユニットで構成されています。酸素はこのヘム基と容易に結合します。より多くの酸素分子がヘム基に結合するにつれて、酸素が結合する能力が増加します。病気の症状および身体の変化した状態は、酸素の結合能力に影響を及ぼし、そして酸素がヘモグロビンから解離する能力を増減することがあります。

二酸化炭素は3つの方法で血液を通じて輸送されます。それは、血中に直接溶解するか、血漿タンパク質またはヘモグロビンに結合するか、または、重炭酸塩に変換されるか、です。二酸化炭素の大部分は重炭酸緩衝系の一部として輸送されます。二酸化炭素は赤血球に拡散します。内部では、炭酸脱水酵素が二酸化炭素を炭酸(H₂CO₃)に変換し、続いてそれが炭酸水素イオン(HCO₃⁻)とH⁺に加水分解されます。H⁺イオンは赤血球のヘモグロビンに結合し、炭酸水素イオンは塩化物イオンと引き換えに赤血球の外に運ばれます。これは塩化物シフトと呼ばれます。

重炭酸塩は赤血球を離れて血漿に入ります。肺では、塩化物と引き換えに重炭酸塩が赤血球に運び戻されます。H⁺はヘモグロビンから解離し、炭酸脱水酵素の助けを借りて重炭酸塩と結合して炭酸を生成します。炭酸脱水酵素はさらに炭酸を二酸化炭素と水に変換する反応を触媒します。その後、二酸化炭素が肺から排出されます。

ビジュアルコネクション問題

1.図39.7 | 哺乳動物の呼吸器系についての次の記述のうち、間違っているものはどれですか?
a.私たちが呼吸をするとき、空気は咽頭から気管へと移動する。
b.細気管支は気管支に分岐する。
c.肺胞管は肺胞嚢につながっている。
d.肺と血液の間のガス交換は肺胞で行われる。

2.図39.13 | 次の記述のうち、間違っているものはどれですか?
a.組織内では、血液が動脈から静脈へと通過するにつれてPO₂が低下し、PCO₂が増加する。
b.血液は肺から心臓、体組織、心臓、そして肺へと流れる。
c.血液は肺から心臓、体組織、肺、そして心臓へと流れる。
d.PO₂は肺の中よりも空気の中の方が高い。

3.図39.20 | 腎臓は血液から過剰のH⁺イオンを除去する役割を担っています。もし腎臓が機能しなくなった場合、血液のpHとヘモグロビンの酸素への親和性はどうなるでしょうか?

レビュー問題

4.呼吸器系は、________。
a.体組織に酸素を供給する
b.体組織に酸素と二酸化炭素を供給する
c.1分間に何回呼吸するかを設定する
d.体に二酸化炭素を供給する

5.空気は鼻腔内で温められ、加湿されます。これは________に役立ちます。
a.感染を防ぐこと
b.呼吸中の感受性を下げること
c.肺への損傷を防ぐこと
d.上記のすべて

6.吸入中の空気の流れの順序はどれですか?
a.鼻腔、気管、喉頭、気管支、細気管支、肺胞
b.鼻腔、喉頭、気管、気管支、細気管支、肺胞
c.鼻腔、喉頭、気管、細気管支、気管支、肺胞
d.鼻腔、気管、喉頭、細気管支、気管支、肺胞

7.予備吸気量は、________を測定します。
a.最大呼気後に肺に残っている空気の量
b.肺が保持する空気の量
c.通常の呼吸の後にさらに吐き出すことができる空気の量
d.通常の呼吸の後にさらに吸い込むことができる空気の量

8.次のうち、肺の中の酸素分圧が外部の空気の酸素分圧より低い理由を説明しないものはどれですか?
a.肺の空気は加湿されている。したがって、水蒸気圧によって圧力が変化する。
b.二酸化炭素が酸素と混合している。
c.酸素は血中に移動し、組織に向かう。
d.肺は空気に圧力をかけて酸素圧を下げる。

9.全肺気量は次の式のどれを使って計算されますか?
a.残留量 + 1回換気量 + 予備吸気量
b.残留量 + 予備呼気量 + 予備吸気量
c.予備呼気量 + 1回換気量 + 予備吸気量
d.残留量 + 予備呼気量 + 1回換気量 + 予備吸気量

10.横隔膜の麻痺はどのようにして吸気を変えるでしょうか?
a.それは肋間筋の収縮を妨げるだろう。
b.胸膜内圧が変化しないため、それは吸入を妨げるだろう。
c.それは胸膜内圧を低下させ、より多くの空気が肺に入ることを可能にするだろう。
d.肺が弛緩しないため、それは呼気を遅くするだろう。

11.拘束性気道疾患は、________。
a.肺の伸展性を高める
b.肺の伸展性を低下させる
c.肺容量を増やす
d.呼吸の仕事を減らす

12.________のとき、肺胞換気量は一定のままです。
a.1呼吸あたりの空気の量を減らしながら呼吸数を増加させる
b.呼吸数と1呼吸あたりの空気の量を増加させる
c.1呼吸あたりの空気の量を増やしながら呼吸数を減少させる
d.aとcの両方

13.次のうち、組織への酸素の移動を促進しないものはどれですか?
a.体温の低下
b.血液のpHの低下
c.二酸化炭素の増加
d.運動量の増加

14.血液中の二酸化炭素の大部分は________によって輸送されます。
a.ヘモグロビンへの結合
b.血中への溶解
c.重炭酸塩への変換
d.血漿タンパク質への結合

15.血液中の酸素の大部分は________によって輸送されます。
a.血中への溶解
b.炭酸水素イオンとして運ばれること
c.血漿への結合
d.ヘモグロビンへの結合

クリティカルシンキング問題

16.これらの用語の機能を記述するとともに、それらがどこに位置しているかを記述してください:主気管支、気管、肺胞、および腺房。

17.肺胞の構造はどのようにしてガス交換を最大化しますか?

18.FEV1/FVCは何を測定しますか?FEV1/FVCに影響を与えることのある要因は何ですか?

19.肺に残留量がある理由は何ですか?

20.空気中の酸素の割合の低下は、体内の酸素の動きにどのように影響するでしょうか?

21.もし患者の肺の抵抗が高まった場合、医師はこれをどのように検出できますか?これは何を意味するのでしょうか?

22.気道の抵抗の増加は、吸入中の胸膜内圧にどのように影響しますか?

23.胸腔に穴が開くと(たとえば、ナイフの傷によって)、吸入の能力がどのように変わるかを説明してください。

24.ある人が立っているときには、重力によって肺の底部は床の方へと肺の頂部よりも大きく伸張します。これは肺の中の空気の流れにどのような影響を及ぼしますか?肺の中のどこでガス交換が起こりますか?

25.もし赤血球に炭酸脱水酵素が存在しないならば、何が起こるでしょうか?

26.100%酸素を投与することによって、どのようにして患者を一酸化炭素中毒から救うことができますか?なぜ二酸化炭素を投与することは機能しないのでしょうか?

解答のヒント

第39章

1 図39.7 B 3 図39.20 血液のpHが下がり、酸素に対するヘモグロビンの親和性が低下するでしょう。4 A 6 B 8 D 10 B 12 D 14 C 16 主気管支は、ガス交換が行われる気道に空気を送り込む肺の導管です。主気管支は、気管が分岐する部分である気管の最末端と肺とを接続します。気管は咽頭から一次気管支まで伸びる軟骨構造です。それは肺に空気を送るのに役立ちます。肺胞はガス交換の部位です。それらは肺の末端領域に位置し、呼吸細気管支に接続しています。腺房は、ガス交換が起こる肺の中の構造です。18 FEV1/FVCは、努力肺活量(最大の吸入後に肺から吐き出される空気の総量)と比較した際の、1秒間の努力呼気肺活量を測定します。この比率は、肺線維症、喘息、およびCOPDなどの疾患から生じる肺機能の変化とともに変化します。20 酸素は圧力勾配に従って肺から血流、そして組織へと移動します。これは酸素分圧として測定されます。もし酸素の量が吸気の中で下がると、分圧が下がります。これは、酸素を血液中および組織中へと移動させる推進力を減少させるでしょう。PO₂はまた、高地でも減少します。高地でのPO₂は海面でのものより低いです。なぜなら、全大気圧が海面での大気圧より低いからです。22 気道抵抗が増加すると、肺の容積と圧力が増加します。したがって、胸膜内圧はそれほど負ではなくなり、呼吸はより困難になるでしょう。24 肺は重力の大きさと方向の変化に対して特に敏感です。ある人が直立しているとき、または背筋を伸ばして座っているとき、胸膜内圧の勾配は肺の下方での換気の増加をもたらします。26 一酸化炭素はヘモグロビンに対して酸素よりも高い親和性を有します。これは、一酸化炭素が酸素よりもヘモグロビンに優先的に結合することを意味します。100%酸素の投与は有効な治療法です。なぜなら、その濃度では、酸素が一酸化炭素をヘモグロビンから置換するからです。

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