生物学 第2版 — 第20章 系統発生と生命の歴史 —

Japanese translation of “Biology 2e”

Better Late Than Never
49 min readOct 11, 2019

OpenStax のサイトで公開されている教科書“ Biology 2e”の翻訳です。こちらのページから各章へ移動できます。

20 | 系統発生と生命の歴史

図20.1 | 蜂という生命は花という生命とは非常に異なりますが、2つの生物は関係しています。どちらも真核生物のドメインのメンバーであり、そして多くの類似した細胞小器官、遺伝子およびタンパク質を含む細胞を有しています。(credit: modification of work by John Beetham)

この章の概要

20.1:地球上の生命を整理する
20.2:進化的関係を決定する
20.3:系統樹についての展望

はじめに

この蜂とムラサキバレンギクの花(図20.1)はこれ以上ないほど違って見えますが、それでもそれらは、地球上のすべての生物と同様に、関連しています。科学者たちは、目に見えるものや遺伝的な類似性と変化の経路をたどることによって、単細胞生物から、この惑星の上で発芽し、はいつくばり、浮かび上がり、泳ぎ回り、飛び回り、そして歩き回るようになった生き物の膨大なコレクションへと生命が発展してきた進化的な過去をマッピングしようとしています。

20.1 | 地球上の生命を整理する

この節が終わるまでに、あなたは次のことができるようになります:
•包括的な分類システムの必要性について議論する
•分類学的分類システムのさまざまなレベルを列挙する
•系統分類学と分類学が系統発生とどのように関連しているかを記述する
•系統樹の構成要素と目的について議論する

科学的な言葉では、系統発生とは、ある生物または生物のグループの進化の歴史と関係のことです。系統発生は、どの生物から進化した可能性があるか、またはどの種に最も密接に関連しているかといった、生物の関係性を記述します。系統発生的関係は、共有する祖先についての情報を提供しますが、それは必ずしも生物がどのように似ているかや異なるかについての情報ではありません。

系統樹

科学者は系統樹と呼ばれる道具を使って、進化の経路と生物間のつながりを示しています。系統樹とは、生物の間または生物のグループの間の進化的関係を反映するために使用される図です。科学者たちは、系統樹が進化的な過去の仮説であると考えています。なぜなら、誰も提案された関係を確認するために過去に戻ることはできないからです。言い換えれば、私たちはさまざまな生物がいつ進化したかを説明し、異なる生物間の関係を示すために「生命の樹」を構築することができます(図20.2)。

分類学的分類図とは異なり、私たちは系統樹のことを進化的な歴史の地図のように読むことができます。多くの系統樹は、共通の祖先を表す基点に単一の系統を持ちます。科学者たちは、そのような樹を有根と呼びます。それは、図に表されているすべての生物が関係する、単一の祖先の系統(通常は下または左に描かれたもの)があることを意味しています。有根系統樹では、細菌、古細菌、真核生物の3つのドメインが一点から発出して分岐していることがわかります。この図で植物と動物(人間を含む)が占める小さな枝は、他の生物と比較したときこれらのグループの分岐がいかに最近で非常に小さいものであるかを示しています。無根な樹は共通の祖先を示しませんが種の間の関係性を示します。

図20.2 | これらの系統樹は両方とも、細菌、古細菌、真核生物の3つの生命のドメインの関係を示していますが、(a)有根の樹は共通の祖先からさまざまな種がいつ分岐したのかを特定しようと試みているのに対し、(b)無根の樹はそうではありません。(credit a: modification of work by Eric Gaba)

有根の樹では、分岐は進化的関係を示しています(図20.3)。分割が発生する点、すなわち分岐点は、単一の系統が明確な新しい系統に進化した場所を表します。私たちは根から早く進化し、分岐しないまま残っている系統のことを基底分類群と呼びます。私たちは同じ分岐点から生じる2つの系統を姉妹分類群と呼びます。3つ以上の系統を持つ分岐は多分岐であり、科学者がすべての関係をまだ確定的に決定していない場所を表示するのに役立ちます。姉妹分類群と多分岐は祖先を共有していますが、それはこの生物のグループがお互いから分裂や進化をしたという意味ではないということに注意してください。2つの分類群の生物は特定の分岐点で分裂したかもしれませんが、どちらの分類群も他の分類群を生じさせてはいません。

図20.3 | 系統樹の根は、祖先の系統が樹上のすべての生物を生み出したことを示しています。分岐点は、2つの系統が分岐した場所を示します。初期に進化し、分岐しないまま残っている系統は、基底分類群です。2つの系統が同じ分岐点に由来する場合、それらは姉妹分類群です。3つ以上の系統を持つ分岐は多分岐です。

上の図は、進化的な歴史を理解するための道筋として役立ちます。私たちは、2つの点の間の進化的な分岐を通じて進むことによって、生命の起源からあらゆる個々の種への経路をたどることができます。また、単一の種から始めて、樹の「幹」に向かってさかのぼることで、種の祖先、そして系統が共通の祖先を共有する場所を発見することができます。さらに、私たちはこの樹を使って生物のグループ全体を研究することができます。

系統樹の構造に関するもう1つの言及しておくべき点は、分岐点における回転によって情報が変わることはないということです。たとえば、もしある分岐点が回転して分類群の順序が変更されても、その分岐点からの各分類群の進化は互いに独立しているため、情報が変更されることはありません。

生物学の研究に含まれる多くの分野は、過去と現在の生命が時間とともにどのように進化したかを理解するのに貢献します。これらの分野は一緒になって「生命の樹」の構築、更新、維持に貢献します。系統分類学は、科学者が進化的関係に基づいて生物を整理し分類するために使用する分野です。研究者は、化石からのデータ、体の一部の構造の研究から得たデータ、または生物が使用する分子、およびDNA分析を使用することができます。多くの情報源からのデータを組み合わせることによって、科学者は生物の系統発生を構築することができます。系統樹は仮説であるため、研究者が新しいタイプの生命を発見し、新しい情報を学ぶにつれて変化し続けます。

系統樹の限界

より密接に関連した生物が見た目もよりよく似ていると仮定するのは簡単かもしれません。そして、それはしばしばその通りですが、常に真であるというわけではありません。もし2つの密接に関連した系統が著しく異なる環境下で進化した場合、その2つのグループはそれほど密接に関連していない他のグループよりも外見が異なるように見える可能性があります。たとえば、図20.4の系統樹は、トカゲとウサギの両方が羊膜を持つ卵を産むことを示しています。一方、カエルはそうしません。それでもトカゲとカエルはトカゲとウサギよりも似ているように見えます。

図20.4 | 脊柱を欠く生物は、この脊椎動物のはしごのような系統樹の根となっています。科学者は、それぞれの分岐点で、共通の特性に基づいて、異なる特性を持つ生物をさまざまなグループへと配置します。

系統樹のもう1つの側面は、特に表示されていない限り、枝は時間の長さを説明するものではなく、進化的な順序だけを説明しているということです。言い換えれば、長い枝は通常、より長い時間が経過したことを意味するわけではなく、短い枝もより短い時間が経過したことを意味するわけではありません(図で指定されていない限り)。たとえば、図20.4では、この樹は羊膜を持つ卵と毛の進化の間にどれだけの時間が経過したかを示していません。この樹が示すのは物事が起こった順番です。図20.4を再び使用すると、この樹は最も古い形質が脊柱であり、その後に蝶番状のあごなどが続くことを示しています。どんな系統樹も、より大きな全体の一部であり、そして本物の樹のように、それは新しい枝が発達した後に一方向にのみ成長するわけではないことを覚えておいてください。したがって、図20.4の生物にとって、脊柱が進化したからといって、それは無脊椎動物の進化が止まったことを意味するわけではありません。それは新しい枝が形成されたことを意味するだけです。また、密接に関連してはいないが類似した条件下で進化するグループは、近しいものよりも表現型的に互いに類似しているように見えるかもしれません。

学習へのリンク

このウェブサイト(http://openstaxcollege.org/l/tree_of_life)にアクセスして、種の間の進化的関係を探ることができるインタラクティブな演習を見てください。

分類レベル

分類学(タクソノミー:文字通りには「配置法則」を意味します)は、それぞれの生物が次第により包括的なグループに配置されるような、国際的に共有される分類システムを構築するために生物を分類する科学です。食料品店の構成について考えてみましょう。1つの広い空間は、農産物、乳製品、肉などの部門に分けられます。その後、各部門はさらに通路へと分割され、次にそれぞれの通路はカテゴリーとブランドに分割され、そして最後は1つの製品へと分割されます。私たちは、より大きなものからより小さな、より特定的なカテゴリーまでのこの構成のことを、階層システムと呼んでいます。

分類学的分類システム(発明者であるスウェーデンの植物学者・動物学者・医師のカール・リンネの名前から、リンネ式システムとも呼ばれます)は階層モデルを使用します。起点から移動して、1つの枝が単一の種として終わるまで、グループはだんだんと具体的になります。たとえば、すべての生命の共通の始まりの後ろでは、科学者は生物をドメインと呼ばれる3つの大きなカテゴリーに分けます:細菌、古細菌、そして真核生物です。それぞれのドメイン内には、界と呼ばれる2番目のカテゴリーがあります。界の後の特異性が上がっていく続きのカテゴリーは、門、綱、目、科、属、および種です(図20.5)。

図20.5 | 分類学的分類システムは、階層モデルを使用して生物を次第に特定のカテゴリへと整理していきます。一般的な犬(Canis lupus familiaris)は、オオカミとディンゴを含むタイリクオオカミ(Canis lupus)の亜種です。(credit “dog”: modification of work by Janneke Vreugdenhil)

動物界という界は真核生物のドメインに端を発します。上の図20.5は一般的な犬の分類を示しています。したがって、ある生物のフルネームには技術的に8つの用語があります。犬にとってのそれは:真核生物、動物界、脊索動物門、哺乳綱、食肉目、イヌ科、イヌ属、タイリクオオカミ種(Eukarya, Animalia, Chordata, Mammalia, Carnivora, Canidae, Canis, and lupus)です。それぞれの名前は種を除いて大文字で表記され、属と種の名前はイタリック体で表記されることに注意してください。科学者は一般的にある生物のことを、その属と種だけによって言及します。それはその生物の2語による科学名、または二名式命名法です。したがって、犬の学名はCanis lupusとなります。それぞれのレベルでの名前もまた分類群です。言い換えれば、犬は食肉目という目の中にいます。食肉目は、目レベルでの分類群の名前です。イヌ科は科レベルでの分類群であり、以下同様です。生物はまた、人々が一般的に使用する一般名、この場合は犬という語も持っています。イエイヌはさらに亜種であることに注意してください:Canis lupus familiarisの「familiaris」の部分です。亜種とは、交配し生存可能な子孫を生み出すことができる同一種のメンバーですが、地理的または行動上の孤立や他の要因のために、別々の亜種に分けられたものです。

図20.6は、それぞれのレベルが他の生物との特異性に向かってどのように移動していくかを示しています。犬が、どのようにして植物や蝶を含む最も広い多様性を持つ生物と1つのドメインを共有しているかに注意してください。それぞれの下位のレベルに行くごとに、生物はより密接に関連しているため、それらはより類似するようになります。歴史的に、科学者たちは特徴を使って生物を分類してきましたが、DNA技術が発展するにつれて、彼らはより正確な系統発生を決定しています。

ビジュアルコネクション

図20.6 | 分類学的分類システムの下位レベルのそれぞれでは、生物はより類似したものになります。犬とオオカミは交配して生存可能な子孫を産むことができるので同じ種ですが、それらは異なる亜種として分類されるのに十分なほど異なります。(credit “plant”: modification of work by “berduchwal”/Flickr; credit “insect”: modification of work by Jon Sullivan; credit “fish”: modification of work by Christian Mehlführer; credit “rabbit”: modification of work by Aidan Wojtas; credit “cat”: modification of work by Jonathan Lidbeck; credit “fox”: modification of work by Kevin Bacher, NPS; credit “jackal”: modification of work by Thomas A. Hermann, NBII, USGS; credit “wolf”: modification of work by Robert Dewar; credit “dog”: modification of work by “digital_image_fan”/Flickr)

猫と犬はどのレベルで同じグループに属していますか?

学習へのリンク

このウェブサイト(http://openstaxcollege.org/l/classify_life)にアクセスして、熊、ラン、ナマコの3つの生物を界から種まで分類してください。ゲームを起動するには、Classifying Lifeの下の熊の写真またはLaunch Interactiveボタンをクリックします。

最近の遺伝的分析および他の進歩は、いくつかの以前の系統発生的分類が進化的な過去と一致しないことを見出しました。そのため、研究者は新しい発見があるたびに変更と更新を行わなければなりません。系統樹は仮説であり、データが入手可能になると修正されるものであることを思い出してください。さらに、分類は歴史的には主として共通の特徴によって生物をグループ分けすることに焦点を合わせており、進化の観点からさまざまなグループがお互いにどのように関連するかを必ずしも示していません。たとえば、カバはクジラよりブタに似ているという事実にもかかわらず、カバはクジラに最も近い生きている親戚かもしれません。

20.2 | 進化的関係を決定する

この節が終わるまでに、あなたは次のことができるようになります:
•相同形質と相似形質を比較する
•分岐分類学の目的について議論する
•最大節約法を記述する

科学者は、彼らが生物の間で進化的なつながりを作ることを可能にしてくれる正確な情報を集めなければなりません。探偵の仕事と同様に、科学者たちは事実を明らかにするために証拠を使わなければなりません。系統発生の場合、進化的な調査は2つのタイプの証拠、すなわち形態学的(形態および機能)なもの、および遺伝的なものに焦点を当てています。

類似性についての2つの選択肢

一般に、類似の身体的特徴およびゲノムを共有する生物は、そうでないものよりも密接に関連しています。私たちは、形態学的に(形態において)も遺伝的にも重なるような特徴のことを、相同構造として言及します。それらは進化に基づいている発達上の類似性から生じます。たとえば、コウモリと鳥の羽の骨は相同な構造をしています(図20.7)。

図20.7 | コウモリと鳥の羽は相同構造であり、コウモリと鳥は共通の進化的過去を共有していることを示しています。(credit a: modification of work by Steve Hillebrand, USFWS; credit b: modification of work by U.S. DOI BLM)

それは単なる1つの骨ではなく、同じように配置された複数の骨のグループであることに注意してください。特徴が複雑になればなるほど、なんらかの種類の重複が共通の進化的過去によるものである可能性が高くなります。異なる国の2人の人が、過去の知識も共有された知識もないまま、まったく同じ部品を使用し、まったく同じ配置で車を発明したところを想像してみてください。そのような結果は非常にありそうもないでしょう。しかしながら、もし2人の人が両方ともハンマーを発明した場合、どちらもオリジナルなアイデアを他の人の助けを借りずに得たのだろうと私たちは合理的に結論付けることができます。複雑さと共有される進化的な歴史との間の同じ関係は、生物の相同構造にも当てはまります。

誤解を招く外観

いくつかの生物は、たとえ小さな遺伝的変化がそれらを全く異なった姿で見せるような大きな形態学的な違いを引き起こしたとしても、非常に密接に関連しているかもしれません。同様に、無関係な生物は遠い関係にあるものの、非常によく似ているかもしれません。これは通常、両方の生物が同じような環境条件の中で進化する共通の適応を持つために起こります。密接な進化的関係によるものではなく、環境的な制約のために同様の特徴が生じる場合、それは相似または同形です。たとえば、昆虫はコウモリや鳥のように羽を使って飛びますが、羽の構造と胚の起源は完全に異なります。これらは相似構造です(図20.8)。

類似した形質は、相同または相似のいずれかとなります。相同構造は、同様の胚起源を共有します。相似器官も同様の機能を持っています。たとえば、クジラの前ヒレの骨は人間の腕の骨と相同です。これらの構造は相似ではありません。蝶や鳥の羽は相似ですが、相同ではありません。いくつかの構造は相似でも相同でもあります。鳥とコウモリの羽は相似かつ相同です。科学者は、生物の系統発生を解読するために、特徴がどのタイプの類似性を示すかを決定しなければなりません。

図20.8 | ミツバチの(c)羽の形状は、(b)鳥の羽および(a)コウモリの羽と似ており、同じ機能を果たします。しかしながら、ミツバチの羽は骨で構成されておらず、はっきりと異なる構造と胚の起源を持っています。これらの羽の種類(昆虫に対するコウモリと鳥)は、進化の歴史を共有しない類似の構造、すなわち相似を例証しています。(credit a: modification of work by U.S. DOI BLM; credit b: modification of work by Steve Hillebrand, USFWS; credit c: modification of work by Jon Sullivan)

学習へのリンク

このウェブサイト(http://openstaxcollege.org/l/relationships)には、生物の系統発生関係を理解する上で外観が誤解を招く可能性があることを示すいくつかの例があります。

分子比較

DNA技術の進歩は、分類学および生物学的地理学(生物地理学)における分子データの使用である分子系統分類学をもたらしました。新しいコンピュータプログラムは、以前に分類された多くの生物を裏付けるだけでなく、以前になされた誤りも明らかにします。物理的特性と同様に、DNA配列でも読むのが難しい場合があります。いくつかの状況では、2つの非常に密接に関連した生物は、突然変異が発生して遺伝コードのシフトを引き起こした場合、無関係に見える可能性があります。1つの突然変異が挿入または削除されると、各ヌクレオチド塩基が1つずつ移動し、2つの類似したコードが無関係に見えるようになるかもしれません。

時には、遠く離れた関係の生物のDNAコードの2つのセグメントが無作為に同じ場所で高い割合の塩基を共有しているため、実際には密接に関係していない場合でも密接に関連しているように見えてしまいます。これらの状況の両方に対して、コンピュータ技術は実際の関係を識別するのを助けてくれますが、結局のところ、形態学的情報と分子的情報の両方を組み合わせて使用​​することが系統発生を決定するのにより効果的です。

進化へのつながり

系統発生はなぜ重要なのでしょうか

進化生物学者は、系統発生を理解することが人間社会の日常生活にとって重要である多くの理由を挙げることができます。植物学者にとって、系統発生は人々に利益をもたらすために用いることができる新しい植物を発見するためのガイドとして機能します。人間が植物を使うあらゆる方法を考えてみてください。食物、医薬、そして衣服はそのほんの一例です。もしある植物にがんの治療に効果的な化合物が含まれている場合、科学者は他の有用な薬のためにその化合物のすべてを調べたいと思うでしょう。

中国のある研究チームは、彼らがマメ科のいくつかの薬用植物に共通していると考えているDNAセグメントを同定しました。彼らはどの種がこのセグメントを持っているかを特定するために作業しました(図20.9)。この科の植物種をテストした後、このチームはDNAマーカー(彼らが種を識別することを可能にする染色体上の既知の場所)が存在することを発見しました。次に、DNAを使用して系統発生関係を明らかにすることで、このチームは新しく発見された植物がこの科に属しているかどうかを識別し、その潜在的な薬効特性を評価することができるようになりました。

図20.9 | シッソノキ(Dalbergia sissoo)は、マメ科に属します。科学者たちは、シッソノキが、抗菌特性を有するマメ科の種とDNAマーカーを共有していることを発見しました。その後、研究者らはシッソノキが殺菌活性を有することを見出し、DNAマーカーは潜在的な薬効成分を有する植物をスクリーニングするのに有用であるという考えを支持することになりました。

系統樹の構築

科学者はどのようにして系統樹を構築するのでしょうか?相同形質と相似形質を分類した後、科学者はしばしば分岐分類学を使用して相同形質を整理します。このシステムでは、生物をクレードへと分類します。クレードとは、単一の祖先に由来する生物のグループです。たとえば、図20.10では、オレンジ色の領域の中のすべての生物は、羊膜を持つ卵を産む単一の祖先から進化しました。その結果、これらの生物もまた羊膜を持つ卵を産み、単一のクレード、または単系統群を作ります。クレードには分岐点からのすべての子孫を含めなければなりません。

ビジュアルコネクション

図20.10 | トカゲ、ウサギ、そして人間はすべて、羊膜を持つ卵を産む共通の祖先に由来しています。このように、トカゲ、ウサギ、そして人間はすべて有羊膜類のクレードに属します。脊椎動物は魚やヤツメウナギも含むより大きなクレードです。

この図の中のどの動物が、毛を持つ動物を含むクレードに属していますか?毛と羊膜を持つ卵のどちらが先に進化したのでしょうか?

クレードは、人がどの分岐点を参照するかに応じてサイズが異なります。重要な要素は、クレードまたは単系統群の中のすべての生物が樹の単一の点から発生することです。あなたは、単系統(モノファイレティック)という語を、1を意味する「モノ」と、進化的関係を意味する「ファイレティック」に分けることで、これを覚えることができます。図20.11は、さまざまなクレードの例を示しています。それぞれのクレードがどのようにして単一の点から来ているかに注意してください。一方、非クレードのグループは単一の点を共有していない枝を示しています。

ビジュアルコネクション

図20.11 | 1つのクレード内のすべての生物は樹の単一の点から生じています。1つのクレードは、動物、菌類および植物の場合のように複数のグループを含むこともあれば、鞭毛虫の場合のように単一のグループを含むこともあります。異なる分岐点で分岐するグループ、または単一の分岐点から生じたすべてのグループが含まれていないグループはクレードではありません。

この図の中で一番大きいクレードは何ですか?

共有特性

生物は共通の祖先から進化し、それから多様化します。たとえ関連した生物が同じ特性や遺伝コードを多く持っていても変化は起こるため、科学者は「変化を伴う系統」というフレーズを使用します。このパターンは、生命の系統樹をたどるにつれて繰り返されます:
1.生物の遺伝的構成の変化は、新しい形質をもたらし、それはグループの中で広まります。
2.この点から多くの生物が派生して、この特徴を持ちます。
3.新しい変動が起こり続けます:いくつかは適応的で持続的であり、新しい形質につながります。
4.新しい形質を伴って、新しい分岐点が決定されます(ステップ1に戻って繰り返します)。

ある1つの特性がある1つのグループの祖先に見つかった場合、分類群またはクレード内のすべての生物がその形質を持っているため、それは共有祖先特性と見なされます。図20.10の脊椎動物は共有祖先特性です。今度は同じ図の羊膜を持つ卵という特性を考えてみましょう。この特性を持つのは図20.10の生物のうちのいくつかだけであり、それを持つものにとってはそれは共有派生特性と呼ばれます。なぜならこの形質はある時点で派生したものではありますが、樹のすべての祖先を含むものではないないからです。

共有祖先特性と共有派生特性のややこしい面は、これらの用語が相対的であることです。私たちは、使用する特定の図に応じて、同じ形質のことをどちらか一方と見なすことができます。図20.10に戻ると、羊膜を持つ卵は羊膜クレードの共有祖先特性である一方、毛を持つことはこのグループの一部の生物にとって共有派生特性です。これらの用語は、科学者が系統樹の構築においてクレードを区別するのに役立ちます。

正しい関係性を選ぶ

デパートのすべての商品を適切に整理する責任がある人を想像してみてください — 圧倒的な仕事量です。地球上のすべての生命の進化的関係を体系化することは、明らかにはるかに困難です。科学者は膨大な時間をかけるとともに、はるか昔に絶滅した生物からの情報に取り組まなければなりません。適切なつながりを解読しよう試みることは、特に相同と相似の存在を考えると、正確な生命の樹を構築する仕事を非常に困難にします。加えて、進歩したDNA技術は、いまや研究者が使って分析するための大量の遺伝子配列を提供しています。分類学は主観的な学問分野です。多くの生物は互いに複数のつながりを持っているため、それぞれの分類学者がつながりの順序を決定することになるでしょう。

系統発生を正確に記述することの途方もない仕事を助けるために、科学者はしばしば最大節減の概念を使用します。それは、出来事が最も単純で、最も明白な方法で起こったことを意味します。たとえば、最大節約の原理に基づくと、もしある一群の人々がハイキングのために森林保護区に入った場合、大部分の人は新しい道を築き上げるよりもむしろすでに設置された道をハイキングすると予測できます。

進化の経路を解読する科学者は、同じ考え方を使用します。進化の経路には、おそらく手元にある証拠と一致するような、最も少ない主な出来事が含まれています。生物のグループの中のすべての相同形質から始めることで、科学者はそれらの形質の発生につながった進化の出来事の最も明白で単純な順序を探します。

学習へのリンク

このウェブサイト(http://openstaxcollege.org/l/using_parsimony)にアクセスして、研究者が系統樹を作成するために最大節約法をどのように使用するかを学んでください。

これらの道具と概念は地球上の生命の進化の歴史を明らかにするという課題に取り組むために科学者が使用する戦略のうちの、ほんのわずかなものです。最近では、より新しい技術によって、菌類と植物よりも、菌類と人間との関係のほうが密接に関連しているように見えるという事実のような、予想外の関係性を有する驚くべき発見が明らかにされています。信じられないように聞こえますか?DNA配列についての情報が増えるにつれて、科学者たちは地球上の全生命の進化の歴史をマッピングすることにより近づくようになるでしょう。

20.3 | 系統樹についての展望

この節が終わるまでに、あなたは次のことができるようになります:
•遺伝子の水平伝播について記述する
•原核生物と真核生物が遺伝子を水平的に伝播させる方法を説明する
•系統発生関係の網状モデルと環状モデルを特定し、それらが元の系統樹の概念とどのように異なるかを記述する

系統発生モデリングの概念は常に変化しています。それはすべての生物学の中でも最も動的な研究分野の1つです。過去数十年の間に、新しい研究が、生物がどのように関連しているかについての科学者の考え方に挑戦してきました。科学界はこれらの関係性の新しいモデルを提案しています。

多くの系統樹は、種の間の進化的関係のモデルです。系統樹は、1837年に最初の系統樹をスケッチしたチャールズ・ダーウィンに起源を持ちます(図20.12a)。これは1世紀以上にわたるその後の研究の原型となりました。単一の幹が共通の祖先を表し、枝がこの祖先からの種の分岐を表すという系統樹の概念は、オークなどの多くの一般的な木の構造とよく一致します(図20.12b)。しかしながら、現代のDNA配列分析と新しく開発されたコンピュータアルゴリズムからの証拠は、科学界の中で標準的な木モデルの妥当性についての疑念を引き起こしています。

図20.12 | (a)「生命の樹」の概念は、1837年のチャールズ・ダーウィンのスケッチにさかのぼります。(b)オークの木のように、「生命の樹」は1つの幹とたくさんの枝を持っています。(credit b: modification of work by “Amada44”/Wikimedia Commons)

古典的モデルの限界

古典的な樹のモデルに含まれる原核生物の進化についての古典的な考え方は、種がクローン的に進化するということです。すなわち、それらは、科学的に知られている現代の種そして絶滅した種の多様性への系統を引き起こすようなランダムな突然変異だけを伴って、自身の子孫を生み出します。この見解は、有性的に生殖する真核生物ではいくぶん複雑になりますが、メンデル遺伝学の法則は、やはり、種内の突然変異の結果であるとして子孫の中の変動を説明します。科学者たちは、比較的最近まで、無関係な種の間で遺伝子が伝播するという概念を可能性として検討していませんでした。遺伝子の水平伝播(HGT)、または遺伝子の横方向伝播は、無関係な種の間の遺伝子の伝達のことです。HGTは常に存在する現象であり、多くの進化論者が進化におけるこのプロセスの主要な役割を仮定しているため、単純な樹モデルを複雑にしています。遺伝子は、標準的な系統発生を使用するとはるかに遠い関係の種の間で受け渡されるため、系統発生的関係を理解する際の複雑さが積み重ねられます。

原核生物でHGTが発生するさまざまな方法は、系統発生を理解するのに重要です。現在のところ、HGTは真核生物の進化にとって重要でないとみなしている人もいますが、HGTはこのドメインでも発生しています。最後に、一部の科学者は、究極の遺伝子伝播の例として、共生生物あるいは内部共生生物の間のゲノム融合理論を提案し、最初の真核細胞(それがなければ人間は存在することができなかったでしょう)の進化という非常に重要な出来事を説明しています。

遺伝子の水平伝播

遺伝子の水平伝播(HGT)とは、親から子への垂直伝播以外のメカニズムによる、ある種から別の種への遺伝物質の導入のことです。これらの伝播は、遠く離れた関係の種でさえ遺伝子を共有し、それらの表現型に影響を与えることを可能にします。科学者たちはHGTが原核生物においてより一般的であると信じていますが、このプロセスは原核生物のゲノムの約2%しか伝播しないと考えています。そのような見積もりは時期尚早であると考える研究者もいます。私たちは、進化の過程に対するHGTの実際の重要性のことを、現在も進行中の作業として見なければなりません。科学者がこの現象をより徹底的に調査するにつれて、彼らはHGTの伝達についてより多くのことを明らかにするかもしれません。多くの科学者は、HGTと突然変異が(特に原核生物において)遺伝的変動の重要な原因であると信じています。それは自然選択プロセスの原材料です。これらの伝播は、親密な関係を共有する2つの種の間で起こるかもしれません(表20.1)。

表20.1

原核生物におけるHGT

HGTのメカニズムは細菌と古細菌のドメインでは非常に一般的であり、科学者たちの進化の見方を大きく変えています。内部共生理論のような進化的モデルの大多数は、真核生物が複数の原核生物から派生したものであることを提案しており、それはすべての現存種と絶滅種の系統発生関係を理解するためにHGTをいっそう重要なものとします。内部共生理論は、真核生物のミトコンドリアと緑色植物の葉緑体と鞭毛虫が自由生活性の原核生物に起源をもち、それらは原始真核細胞に侵入し、細胞質で恒久的な共生生物として確立されるようになったと主張しています。

微生物学の学生は、遺伝子が一般的な細菌の間で移動することをよく知っています。種の間のこれらの遺伝子伝播は、細菌が抗生物質に対する耐性を獲得する主要なメカニズムです。古典的には、科学者たちは3つの異なるメカニズムがそのような伝播を推進すると考えています。
1.形質転換:細菌が裸のDNAを取り込む
2.形質導入:ウイルスが遺伝子を伝達する
3.接合:中空管、または性繊毛が生物間で遺伝子を伝達する

より最近には、科学者たちは原核生物間の4番目の遺伝子伝播メカニズムを発見しました。小さなウイルス様粒子、または遺伝子導入物質(GTA)は、ある原核生物の種から別の原核生物の種にランダムなゲノムセグメントを移転します。GTAは、時には他の進化プロセスと比較して非常に高い頻度で、遺伝的変化に関与しています。科学者たちは、1974年に最初のGTAを紫色非硫黄細菌を使って特徴付けました。これらのGTAは、自分自身で複製する能力を失ったバクテリオファージである可能性が最も高く、ある生物から別の生物へとランダムなDNA断片を運びます。海洋細菌を用いた対照研究により、GTAが高頻度で作用する能力が実証されています。科学者たちは、GTAまたはウイルスのいずれかによる海洋原核生物における遺伝子伝播の出来事は、地中海だけでも年間10¹³回ほど起きていると推定しています。GTAとウイルスは、原核生物の進化に大きな影響を与える効率的なHGT媒体です。

この現代のDNA分析の結果として、真核生物が古細菌から直接進化したという考え方は人気を失いました。真核生物は、(多くの遺伝子のプロモーター領域に位置する)TATAボックスのような、細菌には存在しない多くの特徴を共有していますが、いくつかの真核生物遺伝子は古細菌DNAよりも細菌DNAのほうと相同性が高いという発見は、その考え方への支持を弱めました。さらに、科学者たちは、真核生物の進化における究極の出来事として、内部共生による古細菌と細菌からのゲノム融合を提案しています。

真核生物におけるHGT

原核生物がHGTによって遺伝物質を交換する方法は容易に理解できますが、科学者たちは当初、このプロセスは真核生物には存在しないと考えていました。結局のところ、原核生物はそれらの環境に直接さらされた単一の細胞にすぎません。一方、多細胞生物の生殖細胞は、通常は体の保護された部分に隔離されています。この考え方から、多細胞の真核生物間の遺伝子伝播はより困難であるはずなことがわかります。科学者は、このプロセスは真核生物では稀であり、原核生物に与えるよりもはるかに小さい進化的影響を有すると考えています。それにもかかわらず、遠く離れた関係の生物の間でのHGTはいくつかの真核生物の種で明らかにされており、将来科学者がより多くの例を発見する可能性があります。

植物では、研究者らは通常の方法では異花受粉できない種における遺伝子伝播を観察してきました。トランスポゾン、または「ジャンピング遺伝子」は、イネとキビの植物種間の伝播を示しています。さらに、抗がん剤TAXOL®はイチイの木の樹皮由来のものですが、イチイの木を食べている菌類の種は自身でタキソールを作り出す能力を獲得しており、これは遺伝子伝播の明確な例です。

動物では、HGTの特に興味深い例がアブラムシの種の中で起きています(図20.13)。アブラムシはカロテノイド含有量に基づいて色が異なる昆虫です。カロテノイドは、さまざまな植物、菌類、および微生物が産生する色素であり、それらは動物においてさまざまな機能を果たしています。動物はこれらの化学物質を自身の食物から得ています。人間はビタミンAを合成するためにカロテノイドを必要とします。そして私たちは、ニンジン、アプリコット、マンゴー、サツマイモといったオレンジ色の果物と野菜を食べることによってそれらを得ます。アブラムシは逆に、カロテノイドを自分自身で作る能力を獲得しました。DNA分析によると、この能力は、おそらくこの昆虫が食物として菌類を消費したために、HGTによってこの昆虫へと伝播した菌類の遺伝子によるものです。カロテノイド酵素、またはデサチュラーゼは、ある種のアブラムシの赤色に対して役割をもっており、突然変異がこの遺伝子を活性化すると、アブラムシはより一般的な緑色へと戻ります(図20.13)。

図20.13 | (a)赤いアブラムシは赤いカロテノイド色素からその色を得ます。この色素を作るのに必要な遺伝子はある種の菌類に存在し、そして科学者はアブラムシが食物として菌類を消費した後にHGTを通してこれらの遺伝子を獲得したと推測しています。もし突然変異がカロテノイドを作るための遺伝子を不活性化するならば、アブラムシは(b)その緑色に戻ります。赤い着色はアブラムシを捕食者に対してかなり目立つようにします。しかし、証拠によれば赤いアブラムシは緑のものより殺虫剤に対して抵抗力があることを示唆しています。したがって、赤いアブラムシは、緑色のものよりも環境によっては生き残るのにより適応しているのかもしれません。(credit a: modification of work by Benny Mazur; credit b: modification of work by Mick Talbot)

ゲノム融合と真核生物の進化

科学者たちは、2つの共生生物が内部共生となるとき、異なる原核生物の種の間のゲノム融合を通じてHGTの究極のものが起こると考えています。これは、ある種が別の種の細胞質の中に取り込まれたときに起こり、それが最終的には内部共生生物と宿主の両方からの遺伝子からなるゲノムをもたらします。このメカニズムは、真核細胞がミトコンドリアと葉緑体を獲得したメカニズムとしてほとんどの生物学者によって受け入れられている内部共生理論の1つの側面です。しかしながら、核の発達における内部共生の役割はもっと物議を醸しています。科学者たちは、核のDNAとミトコンドリアのDNAは異なる(別々の)進化の起源を持ち、ミトコンドリアのDNAは古代の原核細胞が飲み込んだ細菌の環状ゲノムに由来していると考えています。私たちは、ミトコンドリアDNAを最小の染色体と見なすことができます。大変興味深いことに、ミトコンドリアDNAは母親からしか受け継がれていません。ミトコンドリアDNAは、受精卵の中で精子が分解するとき、または他の場合には、精子の鞭毛に位置するミトコンドリアが卵子に侵入できないときに、精子内で分解します。

ここ10年の間に、UCLA/NASA宇宙生物学研究所のジェームズ・レイクは、ゲノム融​​合プロセスが最初の真核細胞の進化の原因であると提案しました(図20.14a)。DNA分析と新しい数学的アルゴリズムである条件付き再構成(CR)を使用して、彼の研究室は、真核細胞が2つの種(1つは古細菌でもう1つは細菌)の間の内部共生的な遺伝子融合から発達したことを提案しました。すでに述べたように、いくつかの真核生物の遺伝子は古細菌のものに似ています。一方、他の遺伝子は細菌のものに似ています。レイクが提案したような内部共生的な融合事象は、この観察を明確に説明するでしょう。逆に、この研究は新しく、CRアルゴリズムは比較的立証されていないものであり、多くの科学者がこの仮説に抵抗しています。

レイクのより最近の研究(図20.14b)は、2つの脂質二重層膜を含むという点でそのドメイン内で独特であるグラム陰性菌は、古細菌と細菌の種の内部共生的な融合に起因することを提案しています。二重膜は内部共生の直接の結果であり、内部に取り込まれる際に内部共生体が宿主から第2の膜を拾い上げたのかもしれません。科学者たちはまた、ミトコンドリアと葉緑体の二重膜を説明するためにこのメカニズムを使いました。レイクの研究に懐疑的な声がないわけではなく、生物科学界はまだ彼のアイデアについて議論しています。レイクの仮説に加えて、真核生物の起源に関して他のいくつかの競合する理論があります。真核生物の核はどのようにして進化したのでしょうか?1つの理論は、原核細胞が細菌の染色体を取り囲む追加の膜を生成したということです。いくつかの細菌は2つの膜で囲まれたDNAを持っています。しかしながら、核小体または核膜孔の証拠はありません。他のプロテオバクテリアもまた膜に包まれた染色体を有します。もし真核生物の核がこのように進化したならば、私たちは2つのタイプの原核生物のうちの1つが真核生物により密接に関連していると予想するでしょう。

図20.14 | 科学界は現在、ミトコンドリアと葉緑体が内部共生的な起源を持つという理論を広く受け入れています。もっと議論を呼んでいるのは、(a)真核細胞の核が古細菌と細菌のゲノムの融合から生じたというものと、(b)2つの膜を持つグラム陰性菌がそれぞれ単一の膜を持つ古細菌とグラム陽性菌の融合から生じたというものです。

核優先仮説は、核が最初に原核生物で進化し(図20.15a)、続いて新しい真核生物とミトコンドリアとなる細菌との融合が後に続くことを提案しています。ミトコンドリア優先仮説は、ミトコンドリアが最初に原核生物の宿主の中で確立され(図20.15b)、その後、融合または他のメカニズムによって核を獲得して最初の真核細胞になったということを提案しています。最も興味深いものでは、真核生物優先仮説は、原核生物が実際には真核生物から遺伝子と複雑さを失うことによって進化したことを提案しています(図20.15c)。これらの仮説はすべて検証可能です。データがどの仮説を最も支持するかは、時間とより多くの実験によってのみ決定されます。

図20.15 | 真核生物および原核生物の進化の3つの代替的な仮説は、(a)核優先仮説、(b)ミトコンドリア優先仮説、および(c)真核生物優先仮説です。

網モデルとネットワークモデル

HGTの重要性(特に原核生物の進化において)を認識することによって、古典的な「生命の樹」モデルを放棄することを提案する人もいます。1999年に、W・フォード・ドゥーリトルは、樹というよりも網やネットワークに似た系統発生モデルを提案しました。この仮説は、真核生物が単一の原核生物の祖先からではなく、HGTメカニズムによって遺伝子を共有していた多くの種のプールから進化したというものです。図20.16aが示すように、いくつかの個々の原核生物は、ミトコンドリアの発生を引き起こす細菌を新しい真核生物へと移転させる原因となりました。一方、他の種は葉緑体を生じさせる細菌を移転させました。科学者は、しばしばこのモデルを「生命の網」と呼びます。樹の類推を残しておこうとするために、イチジクの樹(図20.16b)を使用することを提案している人もいます。これは、その複数の幹のことを、HGTの縮小した進化的役割を表す系統発生的方法として見るものです。

図20.16 | W・フォード・ドゥーリトルの(a)系統発生モデルでは、「生命の樹」は祖先の細胞の集団から生じ、複数の幹を持ち、遺伝子の水平伝播が起こった枝の間につながりがあります。視覚的には、この概念は、図20.12のダーウィンの樹に似たオークの単一の幹というよりも、(b)複数の幹を持つイチジクによってよりよく表現されています。(credit b: modification of work by “psyberartist”/Flickr)

生命の環モデル

他の人たちは、環状構造、いわゆる「生命の環」を支持して、系統発生のどんな樹のようなモデルも放棄することを提案しました(図20.17)。これは、生命の3つのドメインすべてが原始的な原核生物のプールから進化したという系統発生モデルです。レイクは、やはり条件付き再構成アルゴリズムを使用して、3つのドメインすべて(古細菌、細菌、真核生物)の種が遺伝子交換する原核生物の単一のプールから進化したという、環状モデルを提案しています。彼の研究室は、この構造が彼の研究室で行われた広範なDNA分析からのデータに最もフィットしていること、そして環状モデルがHGTとゲノム融合を適切に考慮に入れる唯一のものであることを提唱しています。しかしながら、他の系統発生学者はこのモデルに対して非常に懐疑的なままです。

図20.17 | 「生命の環」系統発生モデルによると、生命の3つのドメインは原始的な原核生物のプールから進化しました。

要約すると、私たちはダーウィンの「生命の樹」モデルを修正してHGTを含めなければなりません。これは樹モデルを完全に放棄することを意味するのでしょうか?レイクでさえ、科学者は樹のモデルが彼のデータに正確にフィットするように修正しようと試みるべきであると主張し、そうすることができないときにだけ、人々は彼の環状モデル提案に向かうだろうと主張しています。

これは樹、網、または環が生命の系統発生的関係の正確な説明と完全に相関することを意味するのではありません。系統発生モデルについての新しい思想の結果は、ダーウィンの元の系統樹の概念は単純すぎるものの、科学者たちがその時に知っていたことに基づけば理にかなっていたという考え方です。しかしながら、より有用なモデルの探求は進んでいます。それぞれのモデルは、新しいモデルを発展させる可能性を検証するための仮説として役立ちます。これが科学が進歩するやり方です。研究者はこれらのモデルを視覚的に使用して、仮説の進化的関係を構築し、分析を必要とする大量のデータを理解する助けとします。

重要用語

相似(または、同形):同じ進化経路によるものではなく、収斂進化によって生物間で類似している特性

基底分類群:根の祖先から大きく分岐してはいない系統樹上の枝

二名式命名法:ある生物のための2つの部分からなる学名の体系であって、属と種の名前を含む

分岐点:単一系統が別個の新しい系統に分かれる系統樹上の結節点(ノード)

分岐分類学:系統発生を記述するために相同形質を整理する体系

綱:分類学的分類システムにおける門の中の区分

真核生物優先仮説:原核生物が真核生物から進化したという提案

科:分類学的分類システムにおける目の中の区分

遺伝子導入物質(GTA):ある種の原核生物から別の種の原核生物へランダムなゲノムセグメントを移転するバクテリオファージ様粒子

ゲノム融合:2つの原核生物ゲノムの融合であって、おそらく内部共生によるもの

属:分類学的分類システムにおける科の中の区分。二名式学名の最初の部分

遺伝子の水平伝播(HGT)(または、遺伝子の横方向伝播):無関係な種の間での遺伝子の伝播

界:分類学分類システムにおけるドメインの中の区分

最大節約法:最小の数の段階を伴う、最も単純で最も明白な方法を適用すること

ミトコンドリア優先仮説:原核生物がまずミトコンドリアを獲得し、続いて核が発達したという提案

分子系統分類学:系統発生関係を同定するために分子的な証拠を用いる技術

単系統群(または、クレード):単一の祖先を共有する生物

核優先仮説:原核生物がまず核を獲得し、次にミトコンドリアを獲得したという提案

目:分類学的分類システムにおける綱の中の区分

系統樹:生物の間または生物のグループ間の進化的関係を反映する図

系統発生:生物または生物のグループについての進化的な歴史と関係

門:分類学的分類システムにおける界の中の区分

多分岐:3つ以上のグループまたは分類群を持つ系統樹上の枝

生命の環:生命の3つのドメインすべてが原始的な原核生物のプールから進化したという系統発生モデル

有根:系統樹上の単一の祖先の系譜であって、図の中に表されているすべての生物がそこに関係しているもの

共有祖先特性:系統樹上のすべての生物が共有する系統樹上の特性を表す

共有派生特性:特定のクレードの生物のみが共有する系統樹上の特性を表す

姉妹分類群:同じ分岐点から分岐した2つの系統

系統分類学:進化的関係に基づいて生物を整理し分類する分野

分類群:分類学的分類システムにおける単一のレベル

分類学:生物を分類する科学

生命の網:遺伝子の水平伝播が進化に及ぼす影響を組み込もうとする系統発生モデル

この章のまとめ

20.1 | 地球上の生命を整理する

科学者は絶えず地球上の生命の進化的な歴史を理解するのを助けるような新しい情報を得ています。生物のそれぞれのグループは、独自の進化の旅、すなわちその系統発生を通過してきました。それぞれの生物は他の生物と関連性を共有しており、科学者は、形態学的および遺伝学的証拠に基づいて、地球上のすべての生命の進化的な経路をマッピングしようと試みています。歴史的に、科学者たちは生物を分類学的分類システムに整理しました。しかしながら、今日、多くの科学者は進化的な関係を説明するために系統樹を構築しています。

20.2 | 進化的関係を決定する

科学者は、系統樹を構築するために、彼らが生物の間で進化的なつながりを作ることを可能にしてくれる正確な情報を集めなければなりません。形態学的および分子的データを使用して、科学者は相同的な特性および遺伝子を同定するために作業しています。生物間の類似性は、共有された進化的な歴史(相同性)から生じることもありますし、または別々の進化の経路(相似性)から生じることもあります。科学者は相同性と相似性の区別を助けるためにより新しい技術を使用することができます。相同情報を特定した後、科学者たちは進化のタイムラインを決定するための手段としてこれらの事象を整理するために分岐分類学を使用します。それから、彼らは最大節約の概念を適用します。これは、出来事の順序が、おそらく最も少ない段階を伴って最も明白で単純な方法で起こったと述べるものです。進化的な事象の場合、これは証拠と相関する主要な分岐の数が最も少ない経路となるでしょう。

20.3 | 系統樹についての展望

ダーウィンが最初に使用した系統樹は、種の間の系統発生関係を記述する古典的な「生命の樹」モデルであり、科学者が今日使用している最も一般的なモデルです。HGTとゲノム融合についての新しい考え方によって、一部の人は、網や環に似るようにこのモデルを修正することを提案するようになりました。

ビジュアルコネクション問題

1.図20.6 | 猫と犬はどのレベルで同じグループに属していますか?

2.図20.10 | この図の中のどの動物が、毛を持つ動物を含むクレードに属していますか?毛と羊膜を持つ卵のどちらが先に進化したのでしょうか?

3.図20.11 | この図の中で一番大きいクレードは何ですか?

レビュー問題

4.系統発生を決定するために何が使われますか?
a.突然変異
b.DNA
c.進化的な歴史
d.地球上の生物

5.系統分類学の分野の科学者は何をしていますか?
a.新しい化石発掘現場の発見
b.生物を整理し分類する
c.新種に名前をつける
d.野外生物学者の間で連絡を取る

6.分類学的分類システムについての正しい記述はどれですか?
a.界よりも多くのドメインがある。
b.界は分類の最上位のカテゴリーである。
c.綱は目の区分である。
d.亜種は分類の最も具体的なカテゴリーである。

7.系統樹上で、同じ場所から分岐した系統を指すのはどの用語ですか?
a.姉妹分類群
b.基底分類群
c.有根分類群
d.二分法分類群

8.相似性についての正しい記述はどれですか?
a.それらはエラーとしてのみ発生する。
b.それらは相同形質と同義である。
c.それらは類似の環境上の制約から派生している。
d.それらは突然変異の一形態である。

9.科学者は分岐分類学を適用するために何を使いますか?
a.相同形質
b.同形
c.相似形質
d.単系統群

10.同じクレードの一部である生物について、正しいものはどれですか?
a.それらはすべて同じ基本特性を共有している。
b.それらは共通の祖先から進化した。
c.それらは通常同じ分類群に分類される。
d.それらは同じ系統発生を有する。

11.科学者はなぜ最大節約の概念を適用するのですか?
a.正確な系統発生を解読するため
b.相似形質を排除するため
c.DNAコードの変異を同定するため
d.同形を見つけるため

12.無性生殖が関与しないメカニズムによる遺伝子の移転は、次のように呼ばれます。
a.減数分裂
b.生命の網
c.遺伝子の水平伝播
d.遺伝子融合

13.特に海洋の原核生物において、遺伝物質をある種から別の種に移す粒子:
a.遺伝子の水平伝播
b.遺伝子の横方向伝播
c.ゲノム融合装置
d.遺伝子導入物質

14.古典的な系統樹の幹は何を表していますか?
a.単一の共通の祖先
b.祖先の生物のプール
c.新しい種
d.古い種

15.生命の3つのドメインのすべてが原始的な原核生物のプールから進化したことを提案しているのは、どの系統発生モデルですか?
a.生命の樹
b.生命の網
c.生命の環
d.ネットワークモデル

クリティカルシンキング問題

16.系統樹は時間の経過とどのように関連していますか?

17.系統樹上で非常に密接に関連しているように見えるいくつかの生物は、実際には密接に関連していないかもしれません。なぜそうなのでしょうか?

18.分類学的分類システムのさまざまなレベルを列挙してください。

19.イルカと魚は似たような体型をしています。この特徴は、相同形質または相似形質のどちらのほうがありえそうでしょうか?

20.科学者が系統樹を構築する前に相同特性と相似特性を区別することが、なぜ非常に重要なのでしょうか?

21.最大節約法を記述してください。

22.真核細胞が進化したかもしれない3つの異なる方法を比較してください。

23.アブラムシがどのように色を変える能力を獲得したかを記述してください。

解答のヒント

第20章

1 図20.6 猫と犬は、5つのレベルで同じグループの一部となっています。両方とも、真核生物ドメイン、動物界、脊索動物門、哺乳綱、食肉目に属します。3 図20.11 最大のクレードはツリー全体を包むものです。4 C 6 D 8 C 10 B 12 C 14 A 16 系統樹は、進化的事象が起こった順序、および特定の特性と生物が他のものと比較して進化した順序を示しています。それは時間とは関係がありません。18 ドメイン、界、門、綱、目、科、属、および種です。20 系統樹は進化のつながりに基づいています。もし相似的な類似性が樹で使用されたならば、これは誤ったものになり、さらに後続の分岐が不正確になるでしょう。22 ある仮説は、ミトコンドリアがまず獲得され、続いて核の発達が起こったことを提案しています。他のものは、核が最初に進化し、そしてこの新しい真核細胞が後にミトコンドリアを獲得したことを提案しています。さらに他のものは、原核生物が真核生物から遺伝子と複雑さを喪失することによって派生したと仮定しています。

この訳文は元の本のCreative Commons BY 4.0ライセンスに従って同ライセンスにて公開します。 問題がありましたら、可能な限り早く対応いたしますので、ご連絡ください。また、誤訳・不適切な表現等ありましたらご指摘ください。この本は、https://openstax.org/details/books/biology-2e で無料でダウンロードできます。

--

--

Better Late Than Never

オープン教育リソース(OER : Open Educational Resources)の教科書と、その他の教育資料の翻訳を公開しています。