生物学 第2版 — 第2章 生命の化学的な基盤 —

Japanese translation of “Biology 2e”

Better Late Than Never
77 min readOct 2, 2019

OpenStax のサイトで公開されている教科書“ Biology 2e”の翻訳です。こちらのページから各章へ移動できます。

2 | 生命の化学的な基盤

図2.1 | 原子は宇宙の中にある分子の基礎的要素です — 空気、土、水、岩、…、そして、すべての生物の細胞。この有機分子のモデルでは、炭素(黒色)、水素(白色)、窒素(青色)、酸素(赤色)、硫黄(黄色)の原子は、それぞれ比例した原子サイズとして表されています。銀の棒は化学結合を示しています。(credit: modification of work by Christian Guthier)

この章の概要

2.1:原子、同位体、イオン、分子:基礎的要素
2.2:水
2.3:炭素

はじめに

さまざまな組み合わせの元素が、生き物を含むすべての物質を構成します。生物中の最も豊富な元素の中には、炭素、水素、窒素、酸素、硫黄、およびリンが含まれます。これらは、生体物質の基本成分である核酸、タンパク質、炭水化物、および脂質を形成します。生物学者は、細胞、組織、器官系、および生物全体を形成することを可能にするような、分子を構成する原子という重要な基礎的要素およびその独特な構造を理解しなければなりません。

すべての生物学的プロセスは物理学および化学の法則に従うため、生物学的な系がどのように機能するかを理解するためには、基礎となる物理学および化学を理解することが重要です。たとえば、循環器系内の血液の流れは、流体の流れの態様をつかさどる物理法則に従います。食品の大規模で複雑な分子を小さな分子に分解し、それらをアデノシン三リン酸(ATP)に蓄積されているエネルギーを放出するために変換することは、化学法則に従った一連の化学反応です。水の性質と水素結合の形成は、生きていることのプロセスを理解する上でカギとなります。酸や塩基の性質を認識することは、たとえば、消化プロセスの理解にとって重要です。したがって、物理学と化学の基礎は、生物学的プロセスの洞察を得るために重要です。

2.1 | 原子、同位体、イオン、分子:基礎的要素

この節が終わるまでに、あなたは次のことができるようになります:
•物質と元素を定義する
•陽子、中性子、電子の間の相互関係を記述する
•原子の間で電子が受け渡される、または共有される方法を比較する
•自然に存在する元素が結合して分子、細胞、組織、器官系、および生物が作り出される方法を説明する

最も基本的なレベルでは、生命は物質で構成されています。物質とは、空間を占有し、質量を持つものです。元素とは、特定の化学的および物理的性質を有し、通常の化学反応によってはより小さなものに分解することができないような、物質の独特な形態のことです。118個の元素がありますが、そのうち98個だけが自然に存在します。残りの元素は不安定であり、科学者は実験室でそれらを合成する必要があります。

それぞれの元素は元素記号(化学記号)で指し示されます。元素記号は1つの大文字のアルファベットか、最初の文字がすでに別の元素によって「取得」されている場合は2文字のアルファベットの組み合わせになります。炭素(カーボン)の場合はC、カルシウムの場合はCaなど、いくつかの元素は、その元素の英単語に従います。他の元素の元素記号はラテン語の名前に由来します。たとえば、ナトリウム(英語ではソジウム)の記号はNaであり、これはラテン語の単語であるナトリウムを参照しています。

すべての生物に共通する4つの元素は、酸素(O)、炭素(C)、水素(H)、窒素(N)です。非生物の世界では、元素は異なる割合で見られ、表2.1に示すように、生物に共通の元素のうちいくつかは地球全体では比較的まれです。たとえば、大気は窒素と酸素が豊富ですが、炭素と水素はほとんど含まれていません。一方で、地球の地殻は酸素と少量の水素を含んでいますが、窒素と炭素はほとんどありません。その存在量の違いにもかかわらず、すべての元素とそれらの間の化学反応は、それらが生物の世界の一部であるか非生物の世界の一部であるかに関係なく、同じ化学的法則および物理的法則に従います。

表2.1

原子の構造

元素がどのように結びつくかを理解するために、私たちはまず最初に元素の最小構成要素または基礎的要素である原子について議論しなければなりません。原子は、元素の化学的性質のすべてを保持する、物質の最小単位です。たとえば、1つの金の原子は、それが室温で固体金属である点で金のすべての特性を有します。1枚の金貨は、端的に言えば硬貨の形状に成形された非常に多数の金の原子であり、不純物として知られる少量の他の元素を含みます。私たちは、金の原子を、金の性質を保持しながらさらに小さなものに分解することはできません。

原子は2つの領域から構成されています。1つは、原子の中心にあり、陽子と中性子を含む原子核です。図2.2に示されるように、原子の最も外側の領域は、核の周りの軌道に電子を保持しています。原子とは、原子より小さいサイズの他の粒子のなかでも、とりわけ陽子、電子、中性子を含むものです。唯一の例外は水素(H)であり、これは1つの陽子と1つの電子からなり、中性子がありません。

図2.2 | ここに描かれているヘリウムなどの元素は原子でできています。原子は、原子核内に位置する陽子と中性子、そして原子核を取り巻く軌道に存在する電子で構成されます。

陽子と中性子はほぼ同じ質量を持ち、約1.67×10⁻²⁴グラムです。表2.2に示すように、科学者は、この質量の量を1原子質量単位(amu)または1ダルトンとして任意に定義しています。陽子と中性子は、質量では似ていますがその電荷は異なります。陽子は正に帯電しています。一方、中性子は帯電していません。したがって、原子の中の中性子の数はその質量に大きく寄与しますが、その電荷には寄与しません。電子は陽子より質量がはるかに小さく、重量はわずか9.11×10⁻²⁸グラム、すなわち原子質量単位のおよそ1/1800です。したがって、電子は元素の全体的な原子質量にはほとんど寄与しません。そのため、原子質量を考慮するときには、電子の質量を無視し、陽子と中性子の数のみに基づいて原子の質量を計算するのが通例です。それぞれの電子は質量に対する重要な寄与はありませんが、陽子の正電荷に等しい負の電荷を有するため、電子は原子の電荷に大きく寄与します。非帯電の中性原子では、原子核を周回する電子の数は原子核内の陽子の数に等しいです。これらの原子では、正と負の電荷が互いに打ち消しあい、正味で電荷のない原子へとなります。

表2.2

陽子、中性子、電子の大きさを考えると、原子の体積の大部分(99%以上)は空きスペースです。この空きスペースがありながら、なぜいわゆる固体がお互いにすり抜けてしまわないのか疑問に思うかもしれません。固体がすり抜けない理由は、すべての原子を取り囲む電子が負に帯電しており、負の電荷がお互いに反発するからです。

原子番号と質量

それぞれの元素の原子は、特有の数の陽子と電子を含みます。陽子の数は、元素の原子番号を決定します。原子番号とは、ある元素を別の元素と区別するために科学者が使用するものです。中性子の数は可変であり、同位体をもたらします。同位体とは、同じ原子であってその中性子の数だけが違うといった、同じ原子の異なる形態のものです。図2.3に示されるように、陽子と中性子の数によって元素の質量数が決まります。質量数の計算においては、私たちは電子による質量の小さな寄与は無視するということを覚えておいてください。私たちはこの質量の近似を使用し、質量数から陽子の数を単に引くことによって、元素が有する中性子の数を簡単に計算することができます。また、元素の同位体はわずかに異なる質量数を持つので、科学者は自然に存在する同位体の質量数の平均として計算される原子質量を決定します。しばしば、結果の数値には小数が含まれます。たとえば、塩素の原子質量は35.45です。なぜなら、塩素は原子質量35(17個の陽子と18個の中性子)の同位体(大多数)と、原子質量37(17個の陽子と20個の中性子)の同位体といった、いくつかの同位体で構成されているためです。

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図2.3 | 炭素の原子番号は6、2つの安定同位体の質量数はそれぞれ12と13です。その相対的な原子質量は12.011です。

炭素12と炭素13はそれぞれ中性子をいくつ持っていますか?

同位体

同位体とは、陽子の数は同じであるが中性子の数が違っているような、1つの元素の異なる形態のものです。炭素、カリウム、ウランなどのいくつかの元素は、自然に存在する同位体を持っています。炭素12は、6個の陽子、6個の中性子、および6個の電子を含みます。したがって、それは12の質量数(6個の陽子と6個の中性子)を有します。炭素14は、6個の陽子、8個の中性子、および6個の電子を含みます。その原子質量は14(6個の陽子と8個の中性子)です。炭素のこれらの2つの代替形態は同位体です。いくつかの同位体は、中性子、陽子、電子を放出し、より安定した原子配置(より低いレベルのポテンシャルエネルギー)を得ることができます。これらは放射性同位体または放射性同位元素です。放射性崩壊(炭素14は崩壊して、最終的に窒素14になります)は、不安定な原子核が放射線を放出するときに生じるエネルギー損失を表します。

進化へのつながり

放射性炭素年代測定

炭素は、通常、二酸化炭素やメタンのような気体の化合物の形態で大気中に存在します。炭素14(¹⁴C)は、大気にある¹⁴N(窒素)に対して宇宙線による中性子の追加と陽子の喪失が起こることによって大気中に作り出される、自然に存在する放射性同位体です。これは連続的なプロセスなので、常に多くの¹⁴Cが作り出されています。生物は、光合成過程で固定された二酸化炭素として最初に¹⁴Cを取り込んでいるため、体内の¹⁴Cの相対量は大気中の¹⁴Cの濃度に等しくなります。生物が死ぬと、それはもはや¹⁴Cを摂取しないので、¹⁴Cと¹²Cの比は、ベータ崩壊(電子または陽電子の放射)と呼ばれるプロセスによって、¹⁴Cが徐々に¹⁴Nへと崩壊するにつれて減少します。この崩壊は、ゆっくりとしたプロセスでエネルギーを放出します。

およそ5730年後、開始時の¹⁴Cの濃度のうち半分は元の¹⁴Nへと変換されています。私たちは、ある同位体の元の濃度の半分が、より安定した形へ崩壊して戻るのに要する時間のことを、その半減期と呼んでいます。¹⁴Cの半減期は長いので、科学者はこれを利用して古い骨や木などのかつては生存していた物体の年代を測定します。対象物の中の¹⁴Cの濃度と大気中の¹⁴Cの量との比率を比較すると、科学者はまだ崩壊していない同位体の量を決定することができます。図2.4は、この量に基づいて、ピグミーマンモスのような資料の年代を、約5万年をあまり過ぎない限りにおいて正確に計算できることを示しています。他の元素は、半減期の異なる同位体を有します。たとえば、⁴⁰K(カリウム40)の半減期は12.5億年であり、²³⁵U(ウラン235)の半減期は約7億年です。科学者は放射性年代測定の使用を通じて、生物が以前の種からどのように進化したかを理解するために、化石や他の絶滅生物の遺体の年代を調べることができます。

図2.4 | 科学者は、このピグミーマンモスのような約5万年未満の炭素を含有した遺物の年代を、放射性炭素年代測定を用いて決定することができます。(credit: Bill Faulkner, NPS)

学習へのリンク

原子や同位体、そしてある同位体を他の同位体からどのように識別するかを学ぶには、このシミュレーションを実行してください。 (http://cnx.org/content/m66430/1.3/#eip-id1165071748010)

周期表

周期表はさまざまな元素を整理して表示します。1869年にロシアの化学者ドミトリ・メンデレーエフ(1834–1907)によって考案されたこの表は、独特ではあるものの他の元素とある種の化学的性質を共有している元素をグループ化します。元素の特性は、室温におけるそれらの物理的状態の原因となります。それらは気体、固体、液体のいずれかです。元素はまた、特定の化学反応性、すなわち互いに化合物になったり化学的に結合したりする能力を有します。

図2.5の周期表では、元素はその原子番号に従って整理されて表示され、共有された化学的および物理的特性に基づいて一連の行と列に配列されています。それぞれの元素に原子番号を与えることに加えて、周期表には元素の原子質量も表示されています。たとえば、炭素を見ると、その記号(C)と名前が表示され、原子番号は6(左上隅)で、原子質量は12.11です。

図2.5 | 周期表は、それぞれの元素の原子質量と原子番号を示しています。元素の記号の上に原子番号が表示され、記号の下におおよその原子質量が表示されます。

周期表は、化学的性質に応じて元素をグループ化します。科学者は、原子の中にある電子の数と空間分布に基づいて、元素間の化学反応性の違いを区別しています。互いに化学的に反応して結合する原子は分子を形成します。分子は、単に化学結合した2つかそれ以上の原子です。論理的には、2つの原子が化学的に結合して分子を形成するときには、それぞれの原子の最も外側の領域を形成する電子が最初に一緒になることによって、原子が化学結合を形成します。

電子殻とボーアモデル

元素中の陽子の数、ある元素を別の元素と区別する原子番号、およびそれが有する電子の数の間にはつながりがあることに注意してください。すべての電気的に中性の原子では、電子の数は陽子の数と同じです。したがって、それぞれの元素は、少なくとも電気的に中性の場合には、その原子番号に等しい特有の数の電子を有します。

1913年、デンマークの科学者ニールス・ボーア(1885–1962)が原子の初期モデルを開発しました。図2.6に示すように、ボーアモデルは、中心にある陽子と中性子を含む原子核と、その原子核から特定の距離が離れた円形の軌道にある電子として、原子のことを示しています。これらの軌道は、電子殻またはエネルギー準位を形成します。それは、最外殻にある電子の数を視覚化する方法です。これらのエネルギー準位は、数字と記号「n」によって表示されます。たとえば、1nは、原子核に最も近い最初のエネルギー準位を表します。

図2.6 | 1913年に、ニールス・ボーアは主殻の中に電子が存在するボーアモデルを開発しました。電子は通常、利用可能なもののうち最もエネルギーが低い殻に存在し、それは原子核に最も近いものです。光の光子からのエネルギーは、それをより高いエネルギーの殻に引き上げることができますが、この状況は不安定であり、電子は素早く基底状態に戻ります。この過程で、光の光子が放出されます。

電子は、いくつかの軌道を一貫した順序で満たします。それらはまず、原子核に最も近い軌道を最初に満たし、それから核から遠ざかるにつれてエネルギーが増加する軌道を順番に満たしていきます。等しいエネルギーの複数の軌道がある場合、それぞれのエネルギー準位を1つの電子で満たした後に、それらに2個目の電子を加えていきます。最も外側のエネルギー準位の電子は、原子のエネルギー安定性と、他の原子と化学結合を形成して分子を作り出す傾向とを決定します。

標準的な条件の下では、原子は内側の殻を最初に満たし、しばしば最も外側の殻の電子の数は可変となります。最も内側の殻は最大2個の電子を有しますが、次の2個の電子殻はそれぞれ最大8個の電子を有することができます。これは、オクテット則として知られており、それは、最も内側の殻を除き、原子価殻(最も外側の電子殻)に8個の電子があるときに、その原子がエネルギー的に最も安定するということを述べています。図2.7は、いくつかの中性な原子の例とそれらの電子配置を示しています。図2.7では、ヘリウムは2つの電子がその最初かつ唯一の殻を満たしており、完全に満たされた外側の電子殻を有しているということに注目してください。同様に、ネオンは8個の電子を含む満たされた外殻(2n)を有します。対照的に、塩素とナトリウムは外殻にそれぞれ7個と1個の電子ありますが、理論的には、もしそれらがオクテット則に従って8個の電子を持つならば、それらはエネルギー的に安定するでしょう。

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図2.7 | ボーア図は、それぞれの主殻を満たす電子の数を示しています。18族の元素(ヘリウム、ネオン、アルゴン)は、満たされた外殻(原子価殻)を有します。満たされた原子価殻は、最も安定した電子配置です。他の族の元素は、部分的に満たされた原子価殻を有し、安定した電子配置を達成するために電子を得たり失ったりします。

原子は、最も安定な電子配置である満たされた原子価殻を達成するために、他の原子との間で電子を与えたり、受け取ったり、または共有したりすることができます。この図を見ると、安定した電子配置を達成するためには、1族の元素はいくつの電子を失う必要がありますか?安定した配置を達成するためには、14族と17族の元素はいくつの電子を獲得する必要がありますか?

周期表の構成が陽子(と電子)の総数に基づいていることを理解することは、電子がどのように殻の間で分布するかを知るのに役立ちます。周期表は、電子の数とその位置に基づいて列と行に配列されています。図2.5の表の右端の列のいくつかの元素をより詳しく調べてみましょう。18族の原子のヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)はすべて満たされた外側の電子殻を有しており、安定性を得るために他の原子と電子を共有する必要はありません。それらは単一の原子として非常に安定です。それらは非反応性であるため、科学者はそれらを不活性(または希ガス)として名付けています。これを左側の列の1族の元素と比較しましょう。水素(H)、リチウム(Li)、およびナトリウム(Na)を含むこれらの元素はすべて、それらの最外殻に1つの電子を有します。これは、それらの元素が1つの電子を他の原子や水などの分子に与えたり共有したりすることによって、安定した配置と満たされた外殻を達成できることを意味します。水素はこの配置を達成するために電子を与えたり共有したりする一方で、リチウムとナトリウムは安定になるために電子を与えるでしょう。負に帯電した電子を失う結果、それらは正に帯電したイオンとなります。フッ素や塩素を含む17族の元素は、最外殻に7つの電子を持っているため、他の原子や分子からの電子でこの殻を埋める傾向があり、その結果それらは負に帯電したイオンとなります。14族の元素(そのうちの炭素は、生物のシステムにとって最も重要なものです)は、それらの外殻に4つの電子を持ち、他の原子といくつかの共有結合(後述)を作ることができます。したがって、周期表の列は、これらの元素の類似の化学的特性を担うような、外側の電子殻の潜在的な共有状態を表します。

電子軌道

ボーアモデルは特定の元素の反応性と化学結合を説明するのに有益ではありますが、電子が原子核の周囲にどのように空間的に分布しているかを正確に反映していません。電子は地球が太陽の周りを回るようには原子核を周回してはおらず、私たちは電子を電子軌道の中で見つけます。これらの比較的複雑な形状は、電子が粒子のように振舞うだけでなく、波のようにも振舞うという事実から生じています。科学者が波動関数と呼ぶ量子力学から得られる数学的な方程式は、電子が所与の時間において存在するであろう確率を所定のレベル内で予測することができます。科学者は、ある電子が最も高い確率で見つけられるであろう領域を、その軌道と呼んでいます。

ボーアモデルは、原子の電子殻の配置を描写していることを思い出してください。それぞれの電子殻の中には副殻があり、それぞれの副殻には電子を収容できる特定の数の軌道があります。ある電子の位置を正確に計算することは不可能ですが、科学者は電子がその軌道内に位置する可能性が最も高いと知っています。小文字のs、p、d、およびfは副殻を指定します。副殻sは、球形であり、1つの軌道を有します。主殻1nは単一のs軌道のみを有し、これは2個の電子を保持することができます。主殻2nは、1つの副殻sと1つの副殻pを持ち、合計8個の電子を保持することができます。図2.8に示すように、副殻pには3つのダンベル型の軌道があります。副殻dおよびfは、より複雑な形状を有し、それぞれ5つおよび7つの軌道を含みます。私たちは図中にこれらを示していません。主殻3nは副殻s、p、およびdを有し、18個の電子を保持することができます。主殻4nはs、p、d、f軌道を持ち、32個の電子を保持することができます。原子核から遠ざかるにつれて、そのエネルギー準位における電子および軌道の数が増加します。私たちは周期表で1つの原子から次の原子へと進むにつれて、次の利用可能な軌道に追加の電子を当てはめることによって、電子構造を決定することができます。

図2.8 | 副殻sは球のような形をしています。主殻1nと2nの両方がs軌道を持ちますが、球のサイズは2n軌道でより大きくなっています。それぞれの球は単一の軌道です。3つのダンベル型軌道が副殻pを構成します。主殻2nは副殻pを持ちますが、主殻1nにはありません。

原子核に最も近い軌道である1s軌道は、最大2つの電子を保持することができます。この軌道はボーアモデルの最も内側の電子殻に相当します。科学者たちは、それが原子核の周囲で球状(spherical)であるため、その軌道のことを1s軌道と呼びます。1s軌道は原子核に最も近い軌道であり、他のあらゆる軌道に電子が入る前に、常に最初に満たされます。水素は1個の電子を有します。したがって、その電子は1s軌道内の1つの場所しか占有しません。私たちはこれを1s¹と命名し、上付きの¹は1s軌道内の1つの電子を指します。ヘリウムは2個の電子を有します。したがって、ヘリウムはその2個の電子で1s軌道を完全に満たすことができます。私たちはこれを1s²と命名し、1s軌道内のヘリウムの2つの電子を指します。図2.5の周期表では、水素とヘリウムだけが第1行(第1周期)にある2つの元素です。これは、それらが最初の殻である1s軌道にのみ電子を持つからです。水素とヘリウムは、電気的に中性な状態において、1s軌道だけを持ち他の電子軌道を持たないような、ただ2つの元素です。

第2の電子殻は8個の電子を収容することができます。この殻には、図2.8に示すように、別の球状のs軌道と3つの「ダンベル」形状のp軌道があり、それぞれが2つの電子を保持することができます。1s軌道が満たされた後、最初に2s軌道が満たされ、次に3個のp軌道というようにして、第2の電子殻が満たされていきます。p軌道に電子が入るときには、それぞれの軌道が1個の電子を取ります。ひとたび各p軌道が1個の電子を有するようになると、それにもう1個が追加されていくことになります。リチウム(Li)は、第1および第2の殻を占める3個の電子を含みます。2個の電子が1s軌道を満たし、3番目の電子が2s軌道に入ります。その電子配置は1s²2s¹です。ネオン(Ne)は、それとは異なり、合計10個の電子を持っています。2個はその最も内側の1s軌道にあり、8個は2番目の殻を満たしています(2s軌道と3つのp軌道にそれぞれ2個)。したがって、それは不活性ガスであり、他の原子との化学結合をめったに形成しない単一の原子としてエネルギー的に安定です。より大きい元素は、第3の電子殻を構成する追加の軌道を有します。電子殻と軌道の概念は密接に関連していますが、軌道は原子の中の電子配置のより正確な描写を提供します。なぜなら、軌道モデルは電子が占有する可能性があるすべての場所の異なる形状と特殊な向きを詳細に記述するからです。

学習へのリンク

このビジュアルアニメーションを見て、p軌道とs軌道の空間的配置を把握してください。(http://cnx.org/content/m66430/1.3/#eip-id5846277)

化学反応と分子

オクテット則によれば、すべての元素は、最も外側の殻が電子で満たされたときに最も安定になります。これは、原子がその構成にあることがエネルギー的に好ましく、原子を安定させるためです。しかしながら、すべての元素がその最外殻を満たすのに十分な電子を有するわけではないので、原子は他の原子と化学結合を形成し、安定した電子配置を達成するために必要な電子を得ます。2つかそれ以上の原子が互いに化学的に結合する場合、得られる化学構造は分子です。身近な水の分子H₂Oは、2つの水素原子と1つの酸素原子からなります。図2.9に示すように、これらは結合して水を形成します。原子は、その外殻を満たすために電子を与えたり、受け取ったり、共有したりすることによって分子を形成することができます。

図2.9 | 2つかそれ以上の原子が互いに結合して分子を形成することがあります。2つの水素と1つの酸素が共有結合を介して電子を共有するとき、それは水分子を形成します。

化学反応は、2つかそれ以上の原子が一緒に結合して分子を形成するとき、または結合した原子が分かれるときに生じます。科学者は、化学反応の開始時に使用される物質(通常は化学反応式の左側)を反応物と呼び、反応の最後の物質(通常は化学反応式の右側)を生成物と呼びます。私たちは通常は、化学反応の方向を示すために、反応物と生成物との間に矢印を描きます。この方向は、必ずしも「一方通行」とは限りません。上の水分子を作り出すには、化学反応式は次のようになります:
2H + O → H₂O

単純な化学反応の例は、2つの酸素原子に結合した2つの水素原子からなる過酸化水素分子(H₂O₂)を分解するものです。反応物の過酸化水素は、2つの水素原子に結合した1つの酸素原子からなる水(H₂O)と、2つの結合した酸素原子からなる酸素(O₂)とに分解します。以下の反応式において、反応は2つの過酸化水素分子と2つの水分子を含みます。これはバランスの取れた化学反応式の例であり、そこではそれぞれの元素の原子の数は方程式の両辺で同じです。原子は通常の状況下では生成も破壊もされないため、質量保存の法則によれば、化学反応の前後の原子の数は等しくなければなりません。
2H₂O₂(過酸化水素)→2H₂O(水)+ O₂(酸素)

この反応の反応物および生成物はすべて分子ですが(それぞれの原子は少なくとも1つの他の原子に結合したままです)、この反応では過酸化水素および水のみが化合物を代表するものです。それらは複数のタイプの元素の原子を含みます。図2.10に示すように、酸素分子はこれとは異なり、二重に結合した2つの酸素原子からなり、化合物としてではなく等核分子として分類されます。

図2.10 | 二重結合は1つのO₂分子の中で酸素原子どうしを結合します。

上記のようないくつかの化学反応は、すべての反応物を使い果たすまで一方向に進むことができます。これらの反応を説明する反応式は一方向の矢印を含み、不可逆的です。可逆反応とは、どちらの方向にも進むことのできる反応です。可逆反応でも反応物は生成物に変化しますが、生成物の濃度が(特定の反応に特有な)所定のしきい値を超えると、これらの生成物の一部が反応物へと戻ります。この時点で、生成物および反応物の名称が逆転します。この行ったり来たりは、反応物と生成物との間の一定の相対的なバランスが生じるまで、すなわち平衡と呼ばれる状態が生じるまで続きます。反応物および生成物の両方を指す二重矢印を有する化学反応式は、しばしば、これらの可逆反応の状況を示します。

たとえば、人間の血液では、過剰な水素イオン(H⁺)が炭酸水素イオン(HCO₃⁻)に結合し、炭酸(H₂CO₃)と平衡状態を形成します。もし私たちがこの系に炭酸を添加した場合、その一部は炭酸水素イオンと水素イオンに変換されます。
HCO₃⁻ + H⁺ ↔ H₂CO₃

しかしながら、生物学的反応では、しばしば1つの反応の生成物が別の反応の反応物であることで、反応物または生成物あるいはその両方の濃度が常に変化するため、平衡を得ることはめったにありません。血液中の過剰な水素イオンの例に戻ると、炭酸を生成することが反応の主な方向になるでしょう。しかしながら、炭酸は、炭酸水素イオンに戻る代わりに、二酸化炭素ガスとして(呼気を介して)体を離れることができ、したがって、質量作用の法則によって反応が右へと進みます。これらの反応は、私たちの血液中の恒常性を維持するために重要です。
HCO₃⁻ + H⁺ ↔ H₂CO₃ ↔ CO₂ + H₂O

イオンおよびイオン結合

いくつかの原子は、1つの電子(または2つの可能性もあります)を獲得したり失ったりしてイオンを形成するとき、より安定しています。これは最も外側の電子殻を満たし、それらをエネルギー的により安定にします。電子の数は陽子の数と等しくないので、それぞれのイオンは正味で電荷を有します。カチオンは、電子を失うことによって形成される陽イオンのことです。電子を獲得することによって陰イオンが形成されると、それはアニオンと呼ばれます。私たちは、アニオンのことを元素名の最後を「 — イド(-ide)」に変えた形で指し示します。そのため、塩素(クロリン)のアニオンは塩化物イオン(クロライド)となり、硫黄(サルファー)のアニオンは硫化物イオン(サルファイド)となります。

科学者は、ある元素から別の元素へのこの電子の移動のことを電子移動と言います。図2.11に示すように、ナトリウム(Na)はその外側の電子殻に1つの電子のみを持っています。外側の殻を埋めるために7つの電子を受け入れるよりも、その電子を渡したほうがナトリウムにとって必要なエネルギーが少なくてすみます。もしナトリウムが1つの電子を失うと、それは11個の陽子、11個の中性子、10個の電子しか持たないことになり、全体として+1の電荷を帯びます。私たちはこれをナトリウムイオンと呼​​ぶことにします。最も低いエネルギー状態(基底状態と呼ばれます)の塩素(Cl)は、その外殻に7つの電子を有します。ここでもやはり、7個の電子を失うよりも1個の電子を得るほうが塩素にとってエネルギー効率が高くなります。したがって塩素は、電子を獲得して17個の陽子、17個の中性子、および18個の電子を有するイオンを形成し、正味の負電荷(-1)を持つ傾向があります。私たちはこれを塩化物イオンと呼​​ぶことにします。この例では、ナトリウムは1つの電子を供与してその殻を空にし、塩素はその電子を受け取ってその殻を満たすでしょう。両方のイオンがオクテット則を満たし、完全に満たされた最外殻を持つようになりました。電子の数はもはや陽子の数に等しくないため、それぞれは今やイオンであり、+1(ナトリウムカチオン)または-1(塩素アニオン)の電荷を有します。これらのやり取りは通常、同時にしか起こりえないことに注意してください。ナトリウム原子が電子を失うためには、塩素原子のような適切な受け取り手の存在がなければなりません。

図2.11 | イオン化合物の形成において、金属は電子を失い、非金属は電子を獲得してオクテットを達成します。

イオン結合は反対の電荷を有するイオン間で形成されます。たとえば、正に帯電したナトリウムイオンと負に帯電した塩化物イオンが一緒に結合して塩化ナトリウム(つまり食塩)の結晶を作り、正味でゼロの電荷を有する結晶分子を生成します。

生理学者は、いくつかの特定の塩を電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウムを含む)と呼んでいます。これは、神経インパルス伝導、筋肉収縮、水分平衡に必要なイオンです。多くのスポーツドリンクや栄養補助食品は、運動中に発汗することによって身体から失われたものを置き換えるために、これらのイオンを提供します。

共有結合とその他の結合と相互作用

原子間で電子を共有してオクテット則を満たす別の方法は、共有結合を形成することです。この結合は、イオン結合よりも強く、生体の分子の中ではより一般的です。私たちは一般に、DNAやタンパク質などの炭素系有機分子で共有結合を見つけます。また、H₂O、CO₂、O₂などの無機分子にも共有結合が見られます。これらの結合は、1つ、2つ、または3つの電子対を共有し、それぞれ一重結合、二重結合および三重結合を形成します。2つの原子間の共有結合の数が多いほど、それらの結合は強くなります。したがって、三重結合が最も強いものです。

共有結合の異なるレベルの強さは、窒素分子(N₂)が大気中で最も豊富な気体であるにもかかわらず、生物が分子を構築するのに使用するために窒素を得るのが困難であることの主な理由の1つです。窒素分子は、互いに三重結合した2つの窒素原子からなり、すべての分子と同様に、これらの3つの電子対を2つの窒素原子の間で共有することで、外側の電子殻を満たすことができ、窒素分子を個々の窒素原子よりも安定させることができます。この強力な三重結合は、生物の系がこの窒素をタンパク質やDNAの成分として使用するために分解することを困難にします。

水分子を形成することは、共有結合の例を提供してくれます。図2.9に示すように、共有結合は水素原子と酸素原子を結合して水分子を形成します。水素からの電子は、水素原子の不完全な外殻と酸素原子の不完全な外殻との間で行き来します。酸素の外殻(6個の電子を有するが8個でより安定するでしょう)を完全に満たすためには、2個の電子(それぞれの水素原子から1個)が必要です。したがって、おなじみの式H₂Oとなります。2つの元素は電子を共有してそれぞれの外側の殻を満たし、両方の元素をより安定させます。

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イオン結合と共有結合のアニメーションを見るには、この短いビデオをご覧ください。(http://cnx.org/content/m66430/1.3/#eip-id1166283807593)

極性共有結合

共有結合には、極性と無極性の2種類があります。図2.12は、極性共有結合において、原子が不均一に電子を共有しており、ある1つの原子核に他の原子核よりも引き寄せられることを示しています。異なる元素の原子の間での不均一な電子分布のために、わずかに正の(δ+)またはわずかに負の(δ-)電荷が発生します。この部分的な電荷は水の重要な特性であり、その特徴の多くの主たる原因になっています。

水は極性分子であり、水素原子は部分正電荷を、酸素原子は部分負電荷を帯びます。これは、酸素原子の原子核が水素原子の電子を引き付ける力が、水素原子の原子核が酸素原子の電子を引き付ける力よりも大きいために起こります。したがって、酸素は水素よりも高い電気陰性度を有し、共有された電子は水素原子の原子核よりも酸素原子の原子核の近くでより多くの時間を過ごし、酸素原子および水素原子をそれぞれわずかに負の電荷および正の電荷にします。これを述べるもう1つの方法は、酸素の原子核の近くで共有電子を見つける確率が、水素の原子核の近くで共有電子を見つける確率よりも高いということです。いずれの場合にも、一方の元素が他方の元素よりも著しく高い電気陰性度を持つときにはいつでも、原子の相対的な電気陰性度が部分電荷の発生に寄与し、これらの極性結合が生成する電荷は、逆の部分電荷を引き付ける力に基づいて水素結合を形成するために使用され得ます。(水素結合とは、以下で詳細に議論しますが、他の分子の中のわずかに正に帯電した水素原子とわずかに負に帯電した原子との間の弱い結合のことです。)高分子は電気陰性度が異なる原子をその内部にしばしば有するので、極性結合はしばしば有機分子中に存在します。

無極性共有結合

無極性共有結合は、同じ元素の2つの原子間、または電子を均等に共有する異なる元素間に形成されます。たとえば、酸素分子(O₂)は、電子が2つの酸素原子の間で等しく分布しているため、無極性です。

図2.12はまた、無極性共有結合の別の例 — メタン(CH₄) — も示しています。炭素はその最外殻に4つの電子を持ち、それを満たすためにさらに4つの電子を必要とします。4つの水素原子がそれぞれ1つの電子を炭素に提供することによって、炭素は4つの電子を4つの水素原子から得て、8つの電子を持つ安定した外殻を作ります。炭素と水素は同じ電気陰性度を持つものではありませんが類似しています。したがって、無極性結合が形成されます。水素原子の最外殻は2つの電子を収容するときに満たされるので、それぞれの水素原子は、その最外殻に1つの電子を必要とします。これらの元素は、炭素原子と水素原子の間で均等に電子を共有し、無極性共有結合分子を作り出します。

図2.12 | ある分子が極性であるか無極性であるかは、結合のタイプと分子の形状の両方に依存します。水と二酸化炭素は両方とも極性共有結合を有しますが、二酸化炭素は線形であるため、分子上の部分電荷はそれぞれ相殺されます。

水素結合とファンデルワールス相互作用

元素間のイオン結合や共有結合は、断ち切るためにエネルギーを必要とします。イオン結合は、共有結合ほど強くなく、それは生物学的な系の中でのそれらの挙動を決定します。しかしながら、すべての結合がイオン結合または共有結合であるとは限りません。より弱い結合が分子間に形成されることがあります。頻繁に生じる2つの弱い結合は、水素結合およびファンデルワールス相互作用です。これらの2つのタイプの結合がなければ、私たちが知っているような生命は存在しないでしょう。水素結合は、水において重要で生命を維持するような特性の多くを提供し、また、細胞の基礎的要素であるタンパク質やDNAの構造を安定化させます。

水素を含む極性共有結合が形成されると、その結合中の水素はわずかに正の電荷を帯びます。なぜなら、水素の電子が他の元素に向かってより強く引かれ、水素から離れるためです。水素はわずかに陽性であるため、近くにある負の電荷に引き付けられるでしょう。これが起こると、1つの分子からの水素のδ+と、より電気陰性度の高い原子(通常は酸素または窒素)を持つ別の分子のδ-電荷、あるいは同じ分子内のδ-電荷との間で弱い相互作用が生じます。科学者たちはこの相互作用のことを水素結合と呼んでいます。このタイプの結合は一般的であり、水分子間で規則的に起こります。個々の水素結合は弱く、容易に切れます。しかしながら、それらは水中および有機ポリマー中で非常に多く存在し、組み合わさって大きな力を生じさせます。水素結合はまた、DNAの二重らせんを一緒に締め上げる原因ともなっています。

ファンデルワールス相互作用は、水素結合と同様に、分子間の弱い引力または相互作用です。ファンデルワールス引力は、任意の2つかそれ以上の分子間で起こることがあります。またそれは、電子密度のわずかな変動に依存しており、それは原子の周りで常に対称的というわけではありません。これらの引力が起こるには、分子はお互いに非常に接近している必要があります。これらの結合は、イオン結合、共有結合および水素結合とともに、私たちの細胞内のタンパク質が適切に機能するために必要な三次元構造に寄与しています。

キャリアへのつながり

製薬化学者

製薬化学者(薬剤師)は、新薬を開発したり、既存の薬と新薬の両方の作用機序の決定を試みたりすることに貢献しています。彼らは、薬物開発プロセスのあらゆる段階に関与しています。私たちは自然環境の中に薬を見つけることができますし、研究室で合成することもできます。多くの場合、化学者は自然から得られた潜在的な薬物を研究室で化学的に変化させて、それらをより安全でより効果的にするとともに、時には合成したバージョンの薬物でもって、私たちが自然界で見つけたものを代替したりもします。

ある薬物の最初の発見または合成の後、化学者はその薬物を開発し、恐らくは化学的にそれを改変し、それに毒性があるかどうかを検査し、次いで効率的な大規模生産のための方法を設計します。その後、人間が使用するために薬物を承認するプロセスが始まります。米国では、食品医薬品局(FDA)が医薬品の承認を担当しています。これは、薬物が有害ではなく、意図された症状を効果的に治療することを確実にするために、人間の被験者を用いた一連の大規模な治験をすることを含みます。このプロセスにはしばしば数年がかかり、試験を終えて承認を得るためには、化学者に加えて医師や科学者の参加が必要とされます。

元々は生物の中で発見された薬物の例は、乳がんを治療するために使用される抗がん剤であるパクリタキセル(タキソール)です。この薬はタイヘイヨウイチイの木の樹皮で発見されました。別の例は、元々はヤナギの樹皮から単離されたアスピリンです。薬物を見つけることは、生物学的に活性な化合物が含まれているかどうかを調べるために、数百もの植物、菌類、およびその他の形態の生命の試料を試験することをしばしば意味します。時として、活性化合物がどこで見つかるかに関して、伝統的な薬が現代の薬の手がかりを与えることもあります。たとえば、人類は、古代エジプトまでさかのぼる何千年もの間、薬を作るためにヤナギの樹皮を使用してきました。しかしながら、科学者や製薬企業が人に使用するためにアスピリン分子(アセチルサリチル酸)を精製して販売することができるようになったのは、1800年代後半になってようやくのことでした。

時には、ある用途のために開発された薬物は、他の無関係の方法での使用を可能にする予期せぬ効果を有します。たとえば、科学者はもともと、薬物のミノキシジル(ロゲイン)を高血圧を治療するために開発しました。人間で試験したところ、研究者はこの薬物を服用している人に新しい髪が育っていることに気づきました。最終的に製薬会社は、頭がはげている男性と女性が失われた毛髪を元通りにするためにこの薬剤を販売しました。

製薬化学者のキャリアには、探索活動、実験、薬物開発が含まれており、これらはすべて人間をより健康にするという目的を持っています。

2.2 | 水

この節が終わるまでに、あなたは次のことができるようになります:
•生命を維持するために不可欠な水の特性を記述する
•水が優れた溶媒である理由を説明する
•水の凝集性と接着性の例を提供する
•恒常性における酸、塩基、および緩衝材の役割について議論する

なぜ科学者は他の惑星で水を探すことに時間を費やすのでしょうか?なぜ水がそんなにも重要なのでしょうか?それは、私たちが知っているように、水が生命にとって不可欠であるからです。水は地球上でとても豊富な分子の1つであり、生命にとって最も重要なものの1つです。水は人体の約60~70%を構成します。それがなければ、私たちが知っているような生命は単に存在しないでしょう。

水分子の極性とその結果として生じる水素結合は、水を生命の過程に密接に結びつくような特殊な性質を持つ独特な物質にします。生命は元々は水のある環境で進化し、生物の細胞化学および代謝の大部分はその細胞の細胞質の水分の中で起こります。水の特殊な性質は、その高い熱容量と気化熱、極性分子を溶解する能力、凝集性と接着性、およびpHを生じさせるようなイオンへの電離です。水のこれらの特性を理解することは、生命を維持する際の水の重要性を解明するのに役立ちます。

水の極性

水の重要な特性の1つは、それが極性分子から構成されていることです:水分子(H₂O)内の水素と酸素は極性共有結合を形成します。1つの水分子に正味の電荷は存在しませんが、水の極性が水素にわずかな正の電荷を、酸素にわずかな負の電荷を生じさせ、水の引力の性質に寄与します。酸素が水素よりも電気的に陰性であり、共有された電子が水素の原子核よりも酸素の原子核の近くに存在する可能性が高くなり、酸素の近くに部分的な負電荷が生成されるため、水は電荷を生成します。

水の極性の結果、それぞれの水分子は、水分子間の反対の電荷のために他の水分子を引き付け、水素結合を形成します。水はまた、他の極性分子およびイオンを引き付けるか、または引き付けられます。私たちは、水と容易に相互作用するか、または水に溶解する極性物質を、親水性(ハイドロフィリック:ハイドロ- = 「水」、 -フィリック = 「愛する」)と呼びます。対照的に、図2.13に示されるように、油や脂肪などの無極性分子は水とよく反応しません。これの良い例は、酢と油のサラダドレッシング(酸性水溶液)です。私たちは、このような無極性化合物を疎水性(ハイドロフォビック:ハイドロ- = 「水」、 -フォビック = 「恐れる」)と呼びます。

図2.13 | 油と水は混ざりあいません。この油と水の接写画像が示すように、油は水に溶けず、代わりに小滴を形成します。これは、油が無極性化合物であるためです。(credit: Gautam Dogra)

水の状態:気体、液体、固体

水素結合の形成は、私たちが知っているような生命にとって大切な液体としての水の重要な性質です。水分子は互いに水素結合を形成するので、水は他の液体と比べて独特の化学的な特性を持ちます。生命体は水の含有量が高いため、これらの化学的特徴を理解することが生命を理解する上での鍵となります。液体の水の中では、水分子が互いに近づいたり離れたりするにつれて、水素結合が絶え間なく形成され、断ち切られています。水分子の運動(運動エネルギー)は、その系に含まれる熱によって結合の破壊を引き起こします。熱が上昇して水が沸騰すると、水分子のさらに高くなった運動エネルギーが水素結合を完全に断ち切り、水分子は気体(蒸気または水蒸気)として空気中に放出されます。また、水温が低下して水が凍結すると、水分子は水素結合によって維持される結晶構造を形成します(水素結合を破壊するのに十分なエネルギーがありません)。この水素結合は、氷の密度を液体の水よりも低くします。他の液体が凝固するときには、私たちはこのような現象を見ることはありません。

固体の形での水の密度が低いのは、水が凍結する際の水素結合の向きに起因します。水分子は、液体の水に比べてさらに遠ざかります。ほとんどの他の液体では、温度が低下したときの固体化は分子間の運動エネルギーを低下させることを伴い、液体の形態よりもさらに密に詰め込まれて、固体は液体よりも密度が高くなります。

図2.14に示されるように、氷の密度が低いため、氷山やコップの水の中の氷のような、液体の表面に浮かぶ氷という特異な状況を生じさせます。湖や池では、水面に氷が形成され、池の中の動物や植物の生命を凍結から守るような断熱障壁を作り出します。この断熱できる氷の層がなければ、池に住んでいる植物や動物は氷塊の中で凍ってしまい、生き残ることができなかったでしょう。液体の水に比べた際の氷の膨張は、生物が凍結するときに有害な影響を引き起こします。凍結の際に形成される氷の結晶は、生きた細胞が機能するのに不可欠な繊細な膜を切り裂き、不可逆的に損傷させます。グリセロールのような別の液体が一時的に細胞の中で水に取って代わるときにのみ、細胞は凍結しても生き残ることができます。

図2.14 | 水素結合は、液体の水より氷の密度を低くします。(a)氷の格子構造によって、液体の水での自由に流れる分子よりも氷のほうが密度が低くなり、(b)氷が水に浮くことができます。(credit a: modification of work by Jane Whitney, image created using Visual Molecular Dynamics (VMD) software [1] ; credit b: modification of work by Carlos Ponte)

[1] W. Humphrey W., A. Dalke, and K. Schulten, “VMD — Visual Molecular Dynamics,” Journal of Molecular Graphics 14 (1996): 33–38.

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ここ(http://openstaxcollege.org/l/ice_lattice2)をクリックして、氷の格子構造の3Dアニメーションを見てください。(Image credit: Jane Whitney. Image created using Visual Molecular Dynamics VMD software. [2] )

[2] W. Humphrey W., A. Dalke, and K. Schulten, “VMD — Visual Molecular Dynamics,” Journal of Molecular Graphics 14 (1996): 33–38.

水の高い熱容量

水の高い熱容量は、水分子間の水素結合が引き起こす性質です。水はあらゆる液体の中で比熱容量が最も高いものです。私たちは比熱のことを、1グラムの物質がその温度を摂氏1度だけ変化させる際に吸収したり、失ったりする熱の量として定義します。水の場合、この量は1カロリーです。それゆえ、水は熱するのに長い時間を要し、冷却するのにも長い時間を要します。実際、水の比熱容量は砂の比熱容量の約5倍です。これは、なぜ土地が海よりも速く冷えるのかを説明します。その高い熱容量のために、温血動物は水を使って体内の熱をより均等に分散させます。それは車の冷却システムと同様の方法で働き、暖かい場所から冷たい場所に熱を運び、身体をより均一な温度に保ちます。

水の気化熱

水はまた、高い気化熱を有しています。気化熱とは、1グラムの液体の物質を気体に変化させるのに必要なエネルギーの量です。水がこの変化を達成するには、かなりの量の熱エネルギー(586cal)が必要とされます。このプロセスは水の表面上で生じます。液体の水分子が気相(蒸気)に入るには、水分子を互いに分離することが必要ですが、液体の水が加熱するにつれ、水素結合によって、液体の水分子を互いに分離することが困難になっていきます。結果として、水はヒートシンクまたは熱貯蔵器として働き、沸騰させるためにはエタノール(穀物アルコール)のような液体よりもはるかに多くの熱を必要とします。エタノールは、他のエタノール分子との水素結合が水の水素結合よりも弱いです。最終的に水が摂氏100度(華氏212度)の沸点に達すると、熱は水分子間の水素結合を破壊することができ、水分子間の運動エネルギー(運動)によって水が液体から気体として自由になることができます。たとえ沸点以下であっても、水の個々の分子は、他の水分子から十分なエネルギーを得て、表面上の水分子が自由になり気化することが可能になります。私たちはこのプロセスを蒸発と呼んでいます。

水が蒸発するためには水素結合を切断する必要があるという事実は、結合がそのプロセスにおいて相当な量のエネルギーを使用することを意味します。水が蒸発するにつれて、そのプロセスによってエネルギーが吸収され、蒸発が起こっている環境を冷却します。人間を含む多くの生物では、汗(そのうち90%が水です)の蒸発がその生物を冷却し、そのおかげで体温の恒常性を維持することができます。

水の溶媒特性

水はわずかな正の電荷およびわずかな負の電荷を伴う極性分子であるため、イオンや極性分子はその中に容易に溶解することができます。したがって、私たちは水のことを溶媒、すなわち他の極性分子およびイオン化合物を溶解することができる物質と呼びます。これらの分子に付随する電荷は、水との水素結合を形成し、粒子を水分子で取り囲みます。私たちはこれを水和球または水和殻と呼びます。それは図2.15に示されており、粒子が水中に分離または分散した状態を保つために働きます。

私たちがイオン化合物を水に加えると、個々のイオンは水分子の極性領域と反応し、それらのイオン結合は電離の過程で破壊されます。電離は、原子または原子のグループが分子から離れてイオンを形成するときに生じます。食塩(NaClまたは塩化ナトリウム)を考えてみましょう:私たちがNaCl結晶を水に加えると、NaCl分子はNa⁺イオンとCl⁻イオンに電離し、図2.15に示されるように水和球がイオンの周りに形成されます。水分子の酸素の部分的に負の電荷が、正に帯電したナトリウムイオンを取り囲みます。水分子の水素の部分的に正の電荷が、負に帯電した塩素イオンを取り囲みます。

図2.15 | 水に食塩(NaCl)を混ぜると、イオンの周りに水和球が形成されます。

水の凝集性と接着性

あなたはコップの一番上まで水を満たしてから、もう少しだけ水滴をゆっくりと加えたことがありますか?水がこぼれだす前に、水はコップの縁の上にドーム状の形状を形成します。この水は凝集の性質のためにコップの上に留まることができます。凝集すると、水分子は(水素結合のために)互いに引き寄せられ、コップにそれ以上の空間がないにもかかわらず、液体-気体(水-空気)界面で分子を1つのかたまりに保ちます。

凝集力は表面張力を可能にします。表面張力とは、張力または応力下に置かれたときに破裂に耐えるような物質の能力です。これはまた、水が乾燥した表面上にある時に重力によって平坦化するのではなく、液滴を形成する理由でもあります。私たちが水滴の上に小さな紙片を置くと、紙が水よりも密度が高い(重い)にもかかわらず、その上に浮いてしまいます。凝集力と表面張力は、水分子の水素結合を損なうことなく維持し、上に浮かぶ物体を支えます。図2.16に示されるように、表面張力を壊すことなく静かに置くことができるならば、針を水の上に浮かべることさえ可能です。

図2.16 | 針の重さが表面を下に引っ張ります。同時に、表面張力はそれを上に引き上げ、針を水面上にとどめて水の中に沈むのを防いでいます。針の周りの水に窪みがあることに注目してください。(credit: Cory Zanker)

これらの凝集力は、水の接着特性、または水分子と他の分子との間の引力に関連しています。この引力は水の凝集力より強い場合があり、特に水が毛細管として知られる細いガラス管の内側のような帯電した表面にさらされた場合に強くなります。私たちは、コップの水に差し込まれたこの管の中を水が「登る」ときに接着性を観察することができます。管の側面の水が中央の水よりも高くなっているように見えることに注目してください。これは、水分子がお互いに引き寄せられる力よりも、毛細管の帯電したガラス壁に引き寄せられる力のほうが強く、そのためガラス壁に接着するからです。図2.17に示されるようなこのタイプの接着のことを、私たちは毛細管現象と呼んでいます。

図2.17 | ガラスの内面によって発揮される接着力は、水分子間の凝集力を超え、ガラス管内に毛細管現象を引き起こします。(credit: modification of work by Pearson-Scott Foresman, donated to the Wikimedia Foundation)

なぜ生命にとって凝集力と接着力が重要なのでしょうか?凝集力および接着力は、植物の中で根から葉へと水を輸送するために重要なのです。これらの力は水の柱に「プル」を作ります。このプルは、植物の表面上で蒸発する水分子がその下の水分子と結合したままになり、上の水分子が蒸発すると下の水分子が引っ張られるような傾向を作り出します。植物はこの自然現象を利用して、水をその根から葉へと運ぶのを助けます。これらの水の性質がなければ、植物は必要な水とそこに溶解したミネラルを受け取ることができないでしょう。別の例では、アメンボのような昆虫は、図2.18に示されるように、水の表面張力を利用して水の表面の層に浮かび、そこで交尾することさえできます。

図2.18 | 水の凝集性と接着性により、このアメンボ(Gerris sp.)は浮かんだ状態を保つことができます。(credit: Tim Vickers)

pH、緩衝材、酸および塩基

溶液のpHは、その酸性度またはアルカリ度を示します。
H₂O(I) ↔ H⁺(aq) + OH⁻(aq)

あなたは、リトマス紙やpH紙(pH指示体として使えるように天然の水溶性染料で処理したろ紙)を使用して、溶液中に酸(酸性度)や塩基(アルカリ度)がどれくらいあるかを調べることができます。あなたは、スイミングプールの水が適切に処理されているかどうかをテストするためにこれらを使用するかもしれません。いずれの場合においても、pH試験は、所与の溶液中の水素イオンの濃度を測定します。

水素イオンは、少量の水分子が同じ数の水素イオン(H⁺)と水酸化物イオン(OH⁻)とに解離(イオン化)することにより、純水中で自然に発生します。水酸化物イオンは、他の水分子との水素結合によって溶液中に保持されますが、裸の陽子からなる水素イオンは、直ちにイオン化していない水分子に引き付けられ、ヒドロニウムイオン(H₃O⁺)を形成します。それでも、慣例により、科学者は水素イオンが液体の水の中でその状態で自由であるかのように、水素イオンとその濃度について言及します。

純水から解離する水素イオンの濃度は、水1リットルあたり1×10⁻⁷モルのH⁺イオンです。モル(mol)は物質(原子、分子、イオンなど)の量を表現する方法です。1モルは、グラムで表されたある物質の原子量を表します。それは、12グラムの¹²Cの中に含まれる原子の数と同じ数の単位を含む物質の量に等しいものです。数学的には、1モルは、6.02×10²³個の物質の粒子と等しいです。したがって、1モルの水は6.02×10²³個の水分子に等しいものです。私たちはpHのことを、10を底としたこの濃度の対数の負の値として計算します。1×10⁻⁷のlog 10は-7.0であり、この数の負の数(「pH」の「p」によって示されます)によって7.0のpHが得られ、これはまた中性のpHでもあります。人間の細胞および血液の内部のpHは、中性付近のpHが維持されている2つの身体領域の例です。

酸または塩基を水に溶解させることで中性でないpHの測定値が生じます。正の整数を生成するために対数の負の値を使用しているので、高濃度の水素イオンは低いpH値を生じます。一方で、低いレベルの水素イオンは高いpHをもたらします。酸とは、通常、その水素原子の1つが解離することによって溶液中の水素イオン(H⁺)濃度を増加させる物質です。塩基とは、水素イオンと結合するような水酸化物イオン(OH⁻)や他の負に荷電されたイオンのいずれかを与えて、溶液中の水素イオンの濃度を減少させ、それによってpHを上昇させます。塩基が水酸化物イオンを放出する場合、これらのイオンは自由な水素イオンと結合し、新しい水分子を生成します。

酸が強ければ強いほど、H⁺を与えやすくなります。たとえば、塩酸(HCl)は、水素イオンおよび塩素イオンに完全に解離し、非常に強い酸性です。一方で、トマトジュースまたは酢の中にある酸は完全には解離せず、弱酸です。逆に強塩基は、容易にOH⁻を与える、あるいは水素イオンを取り込む物質です。水酸化ナトリウム(NaOH)や多くの家庭用洗剤は、高いアルカリ性であり、私たちがそれらを水中に入れるとOH⁻を急速に放出し、pHを上昇させます。弱アルカリ性の溶液の例は海水であり、8.0付近のpHを有します。これは、海洋生物が塩分のある環境で生きて繁栄するために適応することができる程度まで十分に中性のpHに近いものです。

前述のようにpHスケールは逆対数であり、0~14の範囲があります(図2.19)。7.0未満(0.0~6.9の範囲)は酸性であり、7.0超(7.1~14.0の範囲)はアルカリ性です。7.0からいずれの方向へ向かっても、pHの極限は通常、生命を寄せ付けません。細胞内のpH(6.8)および血液中のpH(7.4)はどちらも中性に非常に近いです。しかしながら、胃の中の環境は高い酸性で、pHは1~2です。その結果として、このような酸性環境で胃の細胞はどのように生き残っているのでしょうか?その細胞は内部ではどのようにして中性付近のpHを恒常的に維持しているのでしょうか?答えは、それらの細胞はそうすることができず、絶えず死んでいるというものです。胃は絶えず新しい細胞を産み、死んだものを置き換えており、死んだ細胞は胃酸が消化しています。科学者たちは、人体が7~10日ごとに完全に胃の内壁を置き換えていると推定しています。

図2.19 | pHスケールは、溶液中の水素イオン(H⁺)の濃度を測定します。(credit: modification of work by Edward Stevens)

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pHとその対数スケールの簡単な説明については、このビデオをご覧ください。(http://cnx.org/content/m66434/1.3/#eip-id1170503069363)

体が中性に近いpHを必要とする生物は、どのようにして酸性の物質やアルカリ性の物質(たとえば、人間が飲むオレンジジュース)を摂取し、生きていくことができるのでしょうか?緩衝材がその鍵です。緩衝材は過剰なH⁺またはOH⁻を容易に吸収し、体のpHを生存に必要な狭い範囲で注意深く維持してくれます。一定の血液pHを維持することは、人の健康にとって重要です。人間の血液のpHを維持する緩衝材は、炭酸(H₂CO₃)、炭酸水素イオン(HCO₃⁻)、および二酸化炭素(CO₂)を含みます。炭酸水素イオンが自由な水素イオンと結合して炭酸になると、水素イオンが除去されてpHの変化が緩和されます。同様に、図2.20に示されるように、過剰な炭酸は二酸化炭素に変換することができ、私たちは肺を通してそれを吐き出します。これは、過剰に多くの自由な水素イオンが血液中に蓄積し、血液のpHを危険なほどに低下させるのを防ぎます。同様に、もしあまりにも多くのOH⁻が系内に入ると、それが炭酸と組み合わさって、重炭酸塩を作り出し、pHを低下させます。この緩衝系がなければ、体のpHは、生存を危険にさらすのに十分なほど変動してしまうでしょう。

図2.20 | この図は、体の血液のpHレベルの緩衝を示しています。青い矢印は、より多くのCO₂が生成されるにつれてpHを上昇させるプロセスを示しています。紫色の矢印は逆のプロセスを示しています。より多くの重炭酸塩が生成されるにつれてpHが低下します。

緩衝材の他の例は、一部の人が過剰な胃酸に対処するために使用する制酸薬です。これらの市販薬の多くは、血液の緩衝液と同じように作用します。それらは通常、水素を吸収してpHを調節することができる少なくとも1つのイオンを備え、食事後に「胸やけ」に苦しむ人々に安堵をもたらします。 pHのバランスをとるこの能力に貢献する水の独特な特性と水のその他の特性は、地球上の生命を維持する上で不可欠です。

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水の詳細については、米国地質調査所による水科学の学校「All About Water!」のウェブサイト(http://openstaxcollege.org/l/all_about_water)をご覧ください。

2.3 | 炭素

この節が終わるまでに、あなたは次のことができるようになります:
•炭素が生命にとって重要である理由を説明する
•生体分子における官能基の役割を記述する

タンパク質、核酸(RNAおよびDNA)、炭水化物、および脂質などの高分子と呼ばれる多くの複雑な分子が細胞を構成します。高分子は、生命にとって特に重要な有機分子(炭素を含有する液体、固体、または気体)の中の一部分です。これらの高分子のすべてにとって基本的な成分は炭素です。炭素原子は、4つの異なる原子と共有結合を形成することができる独特の性質を有し、その性質は、この汎用性のある元素を高分子の基本的な構造の要素または「骨格」として理想的なものにしています。

個々の炭素原子は不完全な最も外側の電子殻を有します。炭素は6の原子番号を有しており(6個の電子と6個の陽子)、最初の2つの電子が内側の殻を満たし、残りの4個の電子は第2の殻に入ります。したがって炭素原子は、オクテット則を満たすためには他の原子と4つまでの共有結合を形成することができます。メタン分子が、1つの例を提供してくれます:それは化学式CH₄を有します。その4つの水素原子の各々は、一対の電子を共有することによって炭素原子と1つの共有結合を形成します。これにより、一番外側の殻が満たされます。

炭化水素

炭化水素は、完全に炭素と水素からなる有機分子であり、たとえば上記のメタン(CH₄)です。私たちは、ガスコンロのプロパンやライターのブタンのように、日常生活で炭化水素を燃料として使用することがよくあります。炭化水素の中の原子間の多くの共有結合は大量のエネルギーを貯蔵しており、これらの分子が燃焼(酸化)するときに放出されます。優れた燃料であるメタンは、図2.21に示されるように、最も単純な炭化水素の分子であり、中央の炭素原子が4つの異なる水素原子と結合しています。その電子軌道の形状は、原子が三次元的に存在するようなメタン分子の配置の形状を決定します。炭素原子と4つの水素原子は四面体を形成し、4つの三角形の面を持ちます。この理由から、私たちはメタンのことを四面体形状を有すると記述します。

図2.21 | メタンは、4つの水素原子のそれぞれが109.5°の間隔を置いて配置された四面体形状を有します。

生体の巨大な分子の骨格として、炭化水素は、直鎖炭素鎖、炭素環、またはその両方の組み合わせとして存在することができます。さらに、個々の炭素-炭素の結合は、一重、二重または三重共有結合のどれであってもよく、それぞれのタイプの結合は、分子の形状に特定の方法で影響を及ぼします。生命の大型の分子(高分子)のこの三次元形状または立体配置は、それらがどのように機能するかにとって重要です。

炭化水素鎖

炭素原子間の連続した結合は、炭化水素鎖を形成します。これらは分枝状のことも非分枝状のこともあります。さらに、図2.22に示されるように、一重、二重、および三重共有結合の分子の異なる幾何学的構造は、分子全体の形状を変化させます。エタン、エテンおよびエチンという3つの炭化水素は、炭素-炭素の異なる結合がどのようにして分子の形状に影響するかの例として役立ちます。これら3つの分子の名前はすべて、接頭辞「エタ(eth-)」で始まります。これは、2つの炭素を持つ炭化水素の接頭辞です。接尾辞「アン(-ane)」、「エン(-ene)」および「イン(-yne)」は、それぞれ一重、二重または三重の炭素-炭素の結合の存在を意味します。したがって、3つの炭素を持つ分子についてはプロパン、プロペン、およびプロピン、4つの炭素を持つ分子についてはブタン、ブテン、およびブチンといったように、同じパターンに従います。二重結合と三重結合は分子の形状を変化させます。一重の結合は結合軸に沿った回転を可能にします。一方で、二重結合は平面構造になり、三重結合は直鎖状になります。これらの幾何形状は、特定の分子がとると想定される形状に大きな影響を与えます。

図2.22 | 炭素が他の原子と一重結合を形成する場合、その形状は四面体です。2つの炭素原子が二重結合を形成する場合、その形状は平面状または平坦です。エタンのような一重結合は、回転することができます。エテンのような二重結合は回転することができないので、両側の原子はその場で固定されます。

炭化水素環

これまで私たちが議論した炭化水素は、炭素原子の直鎖からなる脂肪族炭化水素でした。別のタイプの炭化水素である芳香族炭化水素は、炭素原子の閉じた環からなります。私たちは、時には二重結合が存在する炭化水素の中で環構造を見つけることができ、それは、図2.23でシクロヘキサンの構造をベンゼンの構造と比較することでわかります。ベンゼン環を組み込んだ生物学的分子の例には、いくつかのアミノ酸およびコレステロールおよびその誘導体が含まれ、ホルモンのエストロゲンおよびテストステロンを含みます。私たちはまた、除草剤2,4-Dの中にもベンゼン環を見つけられます。ベンゼンは原油の天然成分であり、発がん物質として分類されています。いくつかの炭化水素は、脂肪族部分と芳香族部分の両方を有します。ベータカロテンは、そのような炭化水素の一例です。

図2.23 | 炭素は五員環と六員環を形成することができます。一重結合または二重結合は環内の炭素を結合してもよく、窒素が炭素の代わりに用いられることもあります。

異性体

有機分子内の原子および化学結合の三次元配置は、それらの化学を理解する上で中心的なものです。私たちは、同じ化学式を共有するが、それらの原子および/または化学結合の配置(構造)が異なる分子のことを異性体と呼びます。構造異性体(図2.24aのブタンとイソブタンのような)は、それらの共有結合の配置が異なります。両方の分子は4個の炭素と10個の水素(C₄H₁₀)を持っていますが、分子内の異なる原子配列はそれらの化学的な性質の違いにつながります。たとえば、ブタンは、たばこのライターやたいまつの燃料としての使用に適しています。一方、イソブテンは、スプレー缶内の冷媒および高圧ガスとしての使用に適しています。

また幾何異性体は、その共有結合の類似の配置を有するものの、それらの結合が周囲の原子とどのように形成されるか(特に炭素-炭素二重結合で)が異なります。図2.24bに示されるように、ブテン(C₄H₈)の単純な分子では、2つのメチル基(CH₃)は、分子の中心にある二重共有結合のどちらの側にも存在することができます。炭素が二重結合の同じ側に結合する場合、それはシス配置です。それらが二重結合の反対側にある場合、それはトランス配置です。トランス配置では、炭素は多かれ少なかれ線形構造を形成します。一方、シス配置の炭素は、炭素骨格の屈曲(方向の変化)となります。

ビジュアルコネクション

図2.24 | 私たちは同じ数と種類の原子を持っているが配置の異なる分子のことを異性体と呼びます。(a)構造異性体は、原子の異なる共有配置を有します。(b)幾何異性体は、二重結合の周りの原子の配置が異なっています。(c)エナンチオマーは互いの鏡像です。

次の記述のうち、間違っているものはどれですか?
a.式CH₃CH₂COOHおよび式C₃H₆O₂を有する分子は、構造異性体であり得る。
b.分子は、シス-トランス異性体であるためには二重結合を有さなければならない。
c.エナンチオマーであるためには、分子は少なくとも3つの異なる原子または基が中心の炭素に結合していなければならない。
d.エナンチオマーであるためには、分子は少なくとも4つの異なる原子または基が中心の炭素に結合していなければならない。

トリグリセリド(脂肪および油)では、脂肪酸として知られている長い炭素鎖は二重結合を含むことがあり、図2.25に示されるように、シス配置またはトランス配置のいずれの形態にもなりえます。炭素原子間に少なくとも1つの二重結合を有する脂肪は、不飽和脂肪です。これらの結合のいくつかがシス配置にあるとき、鎖状の炭素骨格に結果として生じる屈曲は、トリグリセリド分子が密に詰め込まれることができないことを意味し、したがって、それらは室温で液体(油)のままとなります。あるいは、トランス二重結合を有するトリグリセリド(一般にトランス脂肪と呼ばれます)は、比較的に線形の脂肪酸を有し、室温で密に詰め込まれて固体の脂肪を形成することができます。人間の食生活では、トランス脂肪は心臓血管疾患のリスク増加と結びついているため、近年、多くの食品メーカーがその使用を減らしたり廃止したりしています。不飽和脂肪とは対照的に、私たちは、炭素原子の間に二重結合を有さないトリグリセリドのことを飽和脂肪と呼んでいます。それはすなわち、それらが利用可能なすべての水素原子を含むことを意味しています。飽和脂肪は室温で固体であり、通常は動物起源のものです。

図2.25 | これらの空間充填モデルは、シス脂肪酸(オレイン酸)およびトランス脂肪酸(エライジン酸)を示しています。シス配置によって分子の中に屈曲が生じたことに注目してください。

エナンチオマー

エナンチオマーとは、同じ化学構造および化学結合を共有するが、原子の三次元配置が異なり、それらが重ね合わせることができない鏡像となっているような分子のことです。図2.26はアミノ酸のアラニンの例を示しており、その2つの構造は重ね合わせることができません。自然界では、アミノ酸のL体のみがタンパク質を作ります。いくつかのアミノ酸のD体は細菌の細胞壁に見られますが、それらのタンパク質には見られません。同様に、グルコースのD体は光合成の主要生成物であり、私たちがこの分子のL体を自然界で見ることはほとんどありません。

図2.26 | D-アラニンおよびL-アラニンは、エナンチオマーまたは鏡像の例です。タンパク質の中ではアミノ酸のL体が主です。

官能基

官能基は、分子内に存在し、それらの分子に特定の化学的性質を付与する原子のグループです。私たちはそれらを高分子の「炭素骨格」に沿って見つけます。炭素原子と、時々窒素または酸素のような元素で置き換えられたものからなる鎖および/または環が、この炭素骨格を形成します。炭素骨格の中に他の元素を有する分子は、置換炭化水素です。

高分子中の官能基は、通常、その鎖構造および/または環構造に沿って1つまたはいくつかの異なる場所で炭素骨格に結合されます。タンパク質、脂質、炭水化物、および核酸という4つのタイプの高分子のそれぞれは、その異なる化学的性質および生物におけるその機能に大きく寄与するような、独自の特徴的な官能基のセットを有しています。

官能基は特定の化学反応に関与することができます。図2.27に生物の分子の中の重要な官能基のいくつかを示します。それらには、ヒドロキシル基、メチル基、カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基、リン酸基、およびスルフヒドリル基が含まれます。これらの官能基は、DNA、タンパク質、炭水化物、脂質などの分子を形成する上で重要な役割を果たします。私たちは通常、官能基をそれらの電荷または極性の特性に応じて疎水性または親水性として分類します。疎水基の1つの例は、無極性メチル分子です。親水性官能基の中には、アミノ酸中のカルボキシル基、いくつかのアミノ酸側鎖、およびトリグリセリドやリン脂質を形成する脂肪酸があります。このカルボキシル基はイオン化してCOOH基から水素イオン(H⁺)を放出し、負に帯電したCOO⁻基を生じます。これは、カルボキシル基が見られる分子の親水性に寄与します。カルボニル基のような他の官能基は、部分的に負に帯電した酸素原子を有し、これが水分子と水素結合を形成して、やはり分子を親水性とします。

図2.27 | これらの官能基は、多くの異なる生体分子に含まれています。Rは、R基としても知られ、炭素原子または水素原子が分子の残りに結合している任意の基の略語です。

(同じ分子内または異なる分子間の)官能基の間の水素結合は、多くの高分子の機能にとって重要であり、それらが機能するために適切な形状に折り畳まれて維持されるのに役立ちます。図2.28に示されるように、水素結合は、DNA相補塩基対合や酵素のその基質への結合など、さまざまな認識プロセスにも関与しています。

図2.28 | 水素結合は、二重らせん構造を作り出すためにDNAの2本の鎖をつなぎます。

重要用語

酸:水素イオンを与え、溶液中の水素イオンの濃度を増加させる分子

接着:水分子と他の分子との間の引力

脂肪族炭化水素:炭素原子の直鎖からなる炭化水素

アニオン:1つかそれ以上の電子を獲得する原子によって形成される陰イオン

芳香族炭化水素:炭素原子の閉じた環からなる炭化水素

原子:元素の化学的性質のすべてを保持する物質の最小単位

原子質量:元素の同位体の質量数の計算された平均値

原子番号:原子の中の陽子の総数

バランスの取れた化学反応式:それぞれのタイプの原子について、生成物と反応物の両方で均衡のとれた数だけ用いた化学反応の記述

塩基:水酸化物イオンを与えるか、もしくは過剰な水素イオンと結合して溶液中の水素イオン濃度を減少させる分子

緩衝材:水素イオンまたは水酸化物イオンを吸収または放出することによってpHの変化を妨げる物質

カロリー:水1グラムの温度を摂氏1度変化させるのに必要な熱量

毛細管現象:水分子がガラス管などの細い管状構造物の内面の電荷に引き付けられ、管の側面に水分子が引き付けられるために生じる

カチオン:1つかそれ以上の電子を失った原子によって形成される陽イオン

化学結合:同一または異なる原子の2つかそれ以上の間の相互作用であって、分子を形成するもの

化学反応:分子内の原子を再配列させるプロセス

化学反応性:互いに化合物になったり化学的に結合したりする能力

凝集:水の極性の性質によって引き起こされる水分子間の分子間力。表面張力の原因となる

化合物:少なくとも2つの異なる元素の原子からなる分子でできている物質

共有結合:同一または異なる元素の2つの原子間に形成される強固な結合のタイプ。電子が原子間で共有されるときに形成される

解離:ある分子からのイオンの放出であって、元の分子がイオンと元の分子の帯電した残余物とになるもの。たとえば、水がH⁺およびOH⁻に解離したとき

電解質:神経インパルス伝導、筋肉収縮、水分平衡に必要なイオン

電子:原子核の外側の電子軌道に存在する負に帯電した原子より小さいサイズの粒子。実質的な質量を欠き、-1単位の負電荷を有する

電子配置:原子の電子殻内の電子の配置(たとえば、1s²2s²2p⁶)

電子軌道:電子が原子核を囲んで空間的に分布しているあり方。私たちが電子を見つける可能性が最も高い領域

電子移動:ある元素から別の元素への電子の移動。イオン結合を作り出す上で重要

電気陰性度:いくつかの元素が(しばしば水素原子の)電子を引き付け、分子内に部分的な負の電荷を獲得し、水素原子に部分的な正の電荷を生成する能力

元素:それよりも小さな物質に分解することのできない118の独特な物質のうちの1つ。それぞれの元素は固有の性質と特定の数の陽子を持つ

エナンチオマー:全体的な構造および結合パターンを共有するが、互いの鏡像となるように原子が三次元的に配置されている点で異なる分子

平衡:閉鎖系内の可逆的な化学反応における反応物および生成物の相対濃度の定常状態

蒸発:一定量の水の表面、植物の葉、または生物の皮膚で液体状態から気体状態に変化すること

官能基:炭素骨格に特定の機能を与えるまたは付与するような原子のグループ

幾何異性体:類似の結合パターンを有するが、二重共有結合に沿った原子の配置が異なる異性体

水の蒸発熱:液体の水が水蒸気になるのに必要な高いエネルギー量

炭化水素:炭素と水素のみからなる分子

水素結合:わずかに正に帯電した水素原子と他の分子中のわずかに負に帯電した原子との間の弱い結合

親水性:水などの他の極性分子とよく相互作用する、イオンまたは極性分子を表す

疎水性:水などの極性分子とあまりよく相互作用しない、帯電していない無極性分子を表す

不活性ガス(または、希ガス):満たされた外側の電子殻を持ち、他の原子と反応しない元素

イオン:同数の陽子と電子を含まない原子または化学基

イオン結合:反対の電荷を持つイオン(カチオンとアニオン)の間に形成される化学結合

不可逆的化学反応:一方向に進行して反応物が生成物を形成する化学反応

異性体:同じ化学式を共有していても互いに異なる分子

同位体:異なる数の中性子を有するような、元素の1つかそれ以上の形態

質量作用の法則:反応速度が反応物質の濃度に比例するという化学法則

リトマス紙(または、pH紙):pH指示体として使えるように、環境のpHが変化するとその色が変化する天然の水溶性染料で処理したろ紙

質量数:原子中の陽子と中性子の総数

物質:質量があり空間を占めるもの

分子:化学的に結合した2つかそれ以上の原子

中性子:原子核に存在する帯電していない粒子。1amuの質量を持つ

希ガス:不活性ガスを参照

無極性共有結合:電子が原子の間で等しく共有されるときにその原子間に形成される共有結合のタイプ

原子核:原子の核。陽子と中性子を含む

オクテット則:原子はその最も外側の殻に8個の電子を保持するときに最も安定するという規則

軌道:原子核を囲む領域。電子を収容する

有機分子:炭素を含む分子(二酸化炭素を除く)

周期表:それぞれの元素の原子番号と原子質量を示す元素の組織図。元素の性質についての重要な情報を提供する

pH紙:リトマス紙を参照

pHスケール:溶液中の水素イオンの濃度に反比例するゼロから14の範囲の尺度

極性共有結合:不均一な電子共有の結果として形成される共有結合のタイプであり、わずかに正および負に帯電した分子領域を生成する

生成物:化学反応の結果である分子

陽子:原子核に存在する正に帯電した粒子。1amuの質量と+1の電荷を持つ

放射性同位体:より安定した元素を形成するために、原子より小さいサイズの他の粒子からなる放射線を放射する同位体

反応物:化学反応に関与する分子

可逆的化学反応:双方向に機能する化学反応であり、生成物の濃度が十分に高い場合にそれが反応物に変わることがある

溶媒:他の物質を溶解する物質

比熱容量:1グラムの物質がその温度を摂氏1度だけ変化させる際に吸収したり、失ったりする熱の量

水和球:極性のある水分子が、帯電しているか極性のある分子を取り囲み、それらを溶解して溶液中に保持するときに形成される

構造異性体:化学式を共有するが、それらの化学結合の配置が異なる分子

置換炭化水素:主鎖炭素の1つの代わりに別の元素の原子を含む炭化水素鎖または環

表面張力:分子の分離を防ぐ液体の表面の張力。液体の分子間で引き付けあう凝集力によって生じる

原子価殻:原子の最も外側の殻

ファンデルワールス相互作用:非常に近接している原子を引き付ける一時的な電荷による、分子間の非常に弱い相互作用

この章のまとめ

2.1 | 原子、同位体、イオン、分子:基礎的要素

物質とは、空間を占有し、質量を持つものです。それは元素で構成されています。自然界に存在する98の元素のすべては、分子を作り出すさまざまな方法で組み合わせることができる独特な性質を持っており、そしてその分子が細胞、組織、器官系、および生物を形成するために組み合わされます。陽子、中性子、電子からなる原子は、ある元素のすべての性質を保持するようなその元素の最小単位です。電子は、原子間で移動、共有、または電荷の不均衡を起こして結合を生成することができます。その結合には、イオン結合、共有結合、および水素結合、ならびにファンデルワールス相互作用を含みます。

2.2 | 水

水には、生命を維持するために重要な多くの特性があります。水は水素結合を形成することを可能にする極性分子です。水素結合は、イオンおよび他の極性分子が水に溶解することを可能にします。したがって、水は優れた溶媒です。水分子間の水素結合は、水が高い熱容量を有するようにさせ、それは水の温度を上昇させるためにはかなりの熱を加えることを意味します。温度が上昇するにつれて、水の間の水素結合は絶えず破壊され、新たに形成されます。これにより、エネルギーが系に加えられても、全体の温度が安定したままになります。水は気化熱も高く、これは汗を蒸発させることにより生物を冷やすための鍵となります。水の凝集力は表面張力という性質を可能にします。一方で、私たちは、毛細管内で水が上昇する際に、その接着特性を見ることができます。pH値は、溶液中の水素イオン濃度の尺度であり、恒常性を介して生体内で高度に制御される多くの化学的特性の1つです。酸や塩基はpH値を変えることができますが、緩衝材はpHの変化を緩和する傾向があります。これらの水の性質は、生物によって行われる生化学的および物理的プロセスと密接に関連しており、もしこれらの水の性質が変化した場合、生命は(そもそも存在できたとして)非常に異なったものになるでしょう。

2.3 | 炭素

炭素の独特な特性によって、炭素は生物学的な分子の中心的な部分となっています。炭素は、酸素、水素、および窒素に共有結合して、細胞の機能にとって重要な多くの分子を形成します。炭素はその最外殻に4つの電子を持ち、4つの結合を形成することができます。炭素および水素は、炭化水素鎖または環を形成することができます。官能基は、炭化水素(または置換炭化水素)鎖または環に特定の特性を付与する原子のグループであり、それらの全体的な化学的特性および機能を定義します。

ビジュアルコネクション問題

1.図2.3 | 炭素12と炭素13はそれぞれ中性子をいくつ持っていますか?

2.図2.7 | 原子は、最も安定な電子配置である満たされた原子価殻を達成するために、他の原子との間で電子を与えたり、受け取ったり、または共有したりすることができます。この図を見ると、安定した電子配置を達成するためには、1族の元素はいくつの電子を失う必要がありますか?安定した配置を達成するためには、14族と17族の元素はいくつの電子を獲得する必要がありますか?

3.図2.24 | 次の記述のうち、間違っているものはどれですか?
a.式CH₃CH₂COOHおよび式C₃H₆O₂を有する分子は、構造異性体であり得る。
b.分子は、シス-トランス異性体であるためには二重結合を有さなければならない。
c.エナンチオマーであるためには、分子は少なくとも3つの異なる原子または基が中心の炭素に結合していなければならない。
d.エナンチオマーであるためには、分子は少なくとも4つの異なる原子または基が中心の炭素に結合していなければならない。

レビュー問題

4.キセノンの原子番号が54で、質量数が108の場合、中性子はいくつありますか?
a.54
b.27
c.100
d.108

5.原子核に含まれる中性子の数が異なる原子は________と呼ばれます。
a.イオン
b.中性子
c.中性原子
d.同位体

6.カリウムの原子番号は19です。その電子配置はどれですか?
a.殻1と2は満たされており、殻3は9つの電子を有する
b.殻1、2および3は満たされており、殻4は3つの電子を有する
c.殻1、2および3は満たされており、殻4は1つの電子を有する
d.殻1、2および3は満たされており、他の電子は存在しない

7.弱い化学結合を表す結合の種類はどれですか?
a.水素結合
b.原子結合
c.共有結合
d.無極性共有結合

8.次の記述のうち、正しくないものはどれですか?
a.水は極性である。
b.水は温度を安定させる。
c.水は生命にとって不可欠である。
d.水は地球の大気中で最も豊富な分子である。

9.酸が溶液に添加されるとき、pHは________。
a.減少する
b.増加する
c.そのままである
d.テストなしではわからない

10.私たちは、溶液中の過剰の水素イオンと結合する分子を________と呼びます。
a.酸
b.同位体
c.塩基
d.供与体

11.次の記述のうち、正しいものはどれですか?
a.酸と塩基を混ぜ合わせることはできない。
b.酸と塩基はお互いを中和する。
c.酸は溶液のpHを変えることができるが、塩基はできない。
d.酸は水酸化物イオン(OH⁻)を供与する。塩基は水素イオン(H⁺)を供与する。

12.それぞれの炭素分子は、________個の他の原子または分子と結合することができます。
a.1
b.2
c.6
d.4

13.次の中で、炭素と結合することができる官能基ではないものはどれですか?
a.ナトリウム
b.ヒドロキシル基
c.リン酸基
d.カルボニル基

クリティカルシンキング問題

14.イオン結合と共有結合との違いは何ですか?

15.なぜ細胞には水素結合とファンデルワールス相互作用が必要なのですか?

16.緩衝材がどのようにしてpHの急激な変動を防ぐのかについて議論してください。

17.なぜいくつかの昆虫は水上を歩くことができるのですか?

18.炭素のどのような性質が、有機的な生命にとって不可欠ですか?

19.飽和トリグリセリドおよび不飽和トリグリセリドを比較し、対照してください。

解答のヒント

第2章

1 図2.3 炭素12は6つの中性子を有します。炭素13は7つの中性子を有します。3 図2.24 C 4 A 6 C 8 D 10 C 12 D 14 イオン結合はイオンの間にできます。電子は原子間で共有されるのではなく、むしろ一方のイオンのほうに他方のイオンよりも多く関与しています。イオン結合は強い結合ですが、共有結合よりも弱く、共有結合に比べてイオン結合を破壊するエネルギーは小さくて済みます。16 緩衝材は、化学反応の結果生じる自由な水素イオンと水酸化物イオンを吸収します。緩衝材はこれらのイオンと結合することができるので、pHの増加または減少を防止します。緩衝系の一例は、人体の重炭酸塩系です。この系は、水素イオンおよび水酸化物イオンを吸収してpHの変化を防止し、細胞を適切に機能させ続けることができます。18 炭素は、原子や分子間に最大4つの共有結合を形成することができるため、独特なものであり、すべての生物の中で見つかります。それらは、無極性または極性の共有結合となることができ、結合してタンパク質やDNAを形成するような炭素分子の長い鎖の形成を可能にします。

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