「”社会的隔離政策の導入は早ければ早い方が良い”:3月15日までのデータから見える、COVID-19への各国の政策対応の評価と今後の見通し」

Eisuke Suzuki
8 min readMar 17, 2020

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(本稿は、昨日投稿した英語版を日本語版に仕立て直し、若干の追記をしたものです)

3月11日に新型コロナウィルス(COVID-19)は公式に「パンデミック(世界的大流行)」状態となりました。ここ1−2週間の欧米でのメディア報道や株式相場の推移はもはや「パニック状態」とも言えるもので、直近の社会的な「恐怖指数」はかつてないレベルまで来た感があります。

「夜明け前が一番暗い」と言いますが、世界的にお先真っ暗感が極まってきているこのタイミングだからこそ、現状を事実に基づきしっかり分析し、将来のシナリオを考えてみたいと思います。

なお、筆者は、医療従事者でも疫学者でも公衆衛生の専門家でもありませんが、ヘルスケアに特化した戦略コンサルタント/マーケットリサーチャー/起業家として長年仕事をしております。本稿に関して開示すべき利益相反はありません。

<「人口当たりの死亡者数」こそが気にかけるべき数値>

分析に先立ち、私たちのCOVID-19との戦いで最も重要な指標は、「人口当たりのCOVID-19原因の死亡者数」であることを最初に申し上げたいと思います。各国、結局のところトータルの死亡者数を最小化するためどうするかを考えて、政策を実行するわけなので。ただ、死亡者数そのもので比較するのはフェアでないので、人口の大小は加味されるべきでしょう。

日々のニュースでもWHOのレポートでも、「感染者数」が「死亡者数」と同等以上に重要な指標として取り扱われていますが、今回のCOVID-19に関しては、どの程度アグレッシブに検査するか、どのような検査手法を採るかが国毎に異なっているため、その数字をそのまま比較するのは適切ではないですし、そういう意味ではこの数値が分母として計算される「致死率」もあまり信頼できる数値ではありません。

ただし、感染者数の増減を示す「流行曲線」の「カーブの形状」は、その国の中での検査ポリシーを途中で著しく変えることがない限り、参考にすべきと考えます。

今回の分析は、先週の段階で相応に流行が進んでいたと考えられる主要な10か国/地域を取り上げます。中国に関してだけは、湖北省とそれ以外の地域の様相が全く異なることが明白なため、敢えて2つを分けています。

<流行曲線の形状からすると、流行期間は意外に短い>

下記のグラフは、週毎の感染者数の推移を示しています。前述の通り、値の大小というより、曲線の”形”に注目してください。

まず注目すべきは、中国(湖北省)、中国(湖北省以外)、韓国の3か国は、もはや流行は収束しているということです。

しかも、いずれも流行が開始してからピークに至るまでに4週間程度で、そこから収束に向けてもやはり4週間程度です。つまり、全体で2ヶ月程度で一旦の決着がついていると。中国の話だけだと、それは共産国家だからこそ可能な、究極のレベルの封鎖がされたからと考える人もいると思いますが、韓国でも同じストーリーだったとなると、希望も出てくるというものです。

<最重要指標の「人口当たり死亡者数」は国家間で激しくバラつく>

では、最重要の指標である「人口当たり死亡者数」の分析に進みましょう。こちらのグラフは累積の「人口当たり死亡者数」が、先週末まで週次でどのように変化してきたかを示しています。なお、数をイメージしやすいように、「人口1億人当たり」で計算しています。 (日本の場合は、人口1.2億人なので、ほぼそのままの数値を当てはめてイメージできます)

<イランの3/15時点での数値に誤りがあったため、当初のグラフより差替えてます(3/19)>

一目瞭然ですが、ここまで一番酷い数字になっているのが湖北省で、5000人をちょっと超えるレベルです。ただ、もはや感染は収束していますので、この数字が大きく増えることはありません。

イタリアとイランの数字が激増しているのが要注目で、この最初の3週のカーブの立ち上がりは、湖北省のケースよりも更に悪いです。

一方で、湖北省以外の中国、日本は最小限の影響に止めることに成功していますし、韓国も相対的には、まあまあうまく抑えられたと言えそうです。

ではなぜ、こんなに大きな差が生まれてくるのでしょうか?

<決定的に重要なのは、社会的隔離政策を「いつ」始めるか>

私の仮説は、いわゆる「社会的隔離政策」を国としてどの段階でスタートするかが決定的に重要、というものです。検査の数が云々という議論は日本でも海外でも沢山されてますが、この病気の場合、検査して患者を見つけ出してもやれること・やるべきことは変わらないので、関係ありません。結局のところ、人の動きを止める、特にクラスター感染しかねない行動を止めることと手指衛生の徹底でしか、感染拡大をストップする術はないのですから。

下表に、分析対象の国/地域で「いつ」国家レベルでの社会的隔離政策が発されたかと、その日までの累積の人口1億人当たり死亡者数(最下段)を示しています。網掛けしている後者の数字に注目してください

実は、湖北省以外の中国(0人)と日本(3人)は、「社会的隔離」のレベルは異なるものの、極めて初期の段階で政策が導入されていることがわかります。韓国も10人なので、まあ早期の段階と言えるでしょう。湖北省はと言えば、29人です。

これに対し、イランは 79人、そしてイタリアは何と610人 (!!)。大変申し訳ないのですが、この数字を見る限り、イランもイタリアも湖北省のケースを超えるレベルの酷い状況になってしまうのは確実と思えます。

さて、この仮説を信じるならば、先週末に相次いで社会的隔離政策を発動し始めた欧米各国の今後が占えます。

米国、ドイツ: かなり早期に対応したと言えそう。韓国と同等の結果が見込まれる

フランス: 結構遅れてしまった。イランと同等の結果が見込まれる

スペイン: 極めて遅れてしまった。イランとイタリアの間程度の結果が見込まれる

(ちなみに、上記分析に入っていませんが、イギリスは他の欧米諸国が政策導入したタイミングでは、「集団免疫をゆっくりつける」戦略で導入を見送りました。それが、昨日(16日)になって急遽政策転換したのですが、この間、上記の指標が12人→52人と急増しており、3日間の遅れがまさに致命的だった可能性があります)

<考察>

1. 流行曲線の形状からすると、欧米諸国がピークアウトするまで、あと2−3週間と言えそう。ということは、4月に入れば状況が劇的に改善方向に向かうはず

2. 本分析ではあくまでも「初回流行」しか考えておらず、「第2波」までは考えていない。「第2波」があるかどうか、あるとしたらいつ来るか、はここまでのデータからは推定不能

3. 「初回流行」だけを考えた場合、COVID-19による死亡者数は、巷で騒がれているものより桁違いに少なくて済む。特に米国の場合はそうで、100人単位にとどまる可能性が高い。1000人単位になったとしても、せいぜい2–3千人までのレベル。(ということは、インフルエンザの死亡者数より少なくとも一桁少ない)

4. 「社会的隔離政策」が長期間続くことによる経済的損失や、その結果による死亡者増のインパクトの方が高い可能性もかなりあるので、いつまでも続けるわけにはいかない。「社会的隔離政策」をいつどのように緩めるのかの「出口戦略」とその影響に関しては、まだまだ注視が必要。その意味では、まずは中国でどのような結果が得られるのか、が要注目である。

[参照データ]

l 感染者数、死亡者数については、“Coronavirus disease (COVID-2019) situation reports” (World Health Organization)

l 各国の社会的隔離政策の導入タイミングについては、複数のニュースサイト

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Eisuke Suzuki

Strategic consultant / Marketing researcher/ Entrepreneur specialized in Healthcare industry. Founder of Medicalinsight Co. / ISHURAN Inc.