「すべての企業活動はビジョンにつながる。」中川政七商店のブランディング戦略
7/14(金)にTO NINEが開催したトークイベント「「らしさ」をWebで伝えるには?中川政七商店のデジタルマーケティング戦略」。
今回は、イベントで語られた中川政七商店のブランディング戦略についてレポート形式でご紹介します。
“301年目のスタートアップ” 中川政七商店のブランド哲学
緒方氏:はじめまして。中川政七商店の緒方です。
今回は「『らしさ』をWebで伝えるには?」をテーマにお話させていただこうと思っているのですが、そもそも、「らしさ」というのはブランドを支える方向性の話であり、ブランドというのはビジョンに基いて形作られるものです。
それを踏まえてテーマを見つめ直すと、WEB上でどうらしさを表現するかというのはともすると小手先の話になりかねないので、その話をする前にまず。ビジョンの大切さとブランドの作り方をお話しなければと思っています。よろしくお願いたします。
中川政七商店は今年で301年目を迎える老舗企業ですが、現在の13代目である中川淳が社長に就任してからブランディングを強化して生まれ変わった会社で、社内では「301年目のスタートアップ」と自称しています。
会社の歴史としては、もともと麻布を使った商品を中心にメーカーとしてものづくりをしてきて、1985年に自分たちで店を構え、小売業に進出しました。
そこから2002年にSPA業態へ進出し、2006年には表参道ヒルズに店舗をオープンさせました。
このあたりからブランドとして認知されはじめ、会社の業績も好調だったのですが、対して日本における工芸品の年間生産額は1983年の5,400億円から2012年には1,300億円まで減少しており、日本の工芸品というマーケット自体が縮小していることに危機感をもち、経営再生コンサルティングをはじめたのがこの時期です。
「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げ、中川政七商店の成功体験をノウハウ化し、全国の工芸会社への共有を目指す業界特化型コンサルティングを開始しました。
ちなみに、中川政七商店にとっての「日本の工芸を元気にする」とは
①経営的に自立すること
②ものづくりの誇りを取り戻すこと
の2つを満たすことだと定義しています。
日本の工芸を元気にするためなら、なんでもやる。
これが私たちが都度立ち返るビジョンです。
地域の一番星をつくる!中川政七商店流・ブランド再生のポイント
ここでひとつ、経営コンサルティングの事例をお話ししたいと思います。
長崎県にマルヒロという波佐見焼のメーカーがあります。
波佐見という町は焼き物で有名な有田のすぐ隣にあるのですが、芸術品として評価の高い有田焼と比べても認知度が低く、マルヒロの経営もなかなか危ない状態でした。
コンサルの依頼をいただいたものの、マルヒロ単体では強力な強みが見出だせず、はじめは頭を悩ませました。しかし、「波佐見」という産地全体で考え直すと、日本全国の中でも比較的安価に量産ができかつ陶器も磁器も作れるという強みを見つけることができました。
そしてその上で産地を背負うという目標を立て、「HASAMI」というブランドを立ち上げました。スタッキング出来るマグカップなどヒット商品も出すことができ、コンサルティングを成功に導くことができました。
マルヒロの例では新しくブランドを作りましたが、私たちがコンサルティングを行う際には、まずはじめに決算書と組織図を確認して改善し、業務の効率化を突き詰めます。
生産管理や基本ルーチンの効率化といった業務改善や目標・KPI設定などを行った上で、自社ブランドの作成が必要であればそのブランディング・デザイン・商品制作のお手伝いまで行うという流れで支援します。
また、中川政七商店がコンサルティングを行う上で一番の強みは、販路の提供までできるということです。
地方創生や伝統工芸でよくあるのが、新しいブランドを作って終わりになってしまい、作ったものを売る場所がないという問題です。
中川政七商店では、各店舗やオンラインショップでの取り扱いはもちろん、私たちが開催している展示会にも出展してもらい、新しい取引先の開拓につなげています。
もちろん、成長するにつれて中川政七商店での取り扱いが不要になれば、取り扱いをやめていただいても構いません。
各社が経営的に自立して誇りを取り戻すことが重要だからこそ、中川政七商店を踏み台にして成長していっていただきたいと考えています。
また、こうした経営コンサルティングは一産地につき一社までと決めています。
例えば、奈良県だけでも4つの産地に分かれており、それぞれの産地ごとに会社があるのですが、ひとつをコンサルティングすることで、その会社が同じ産地の別会社にもシェアし、産地全体を盛り上げていってほしいと考えているためです。
こうした考え方を、私たちは「産地の一番星を作る」と表現しています。
さらに言え中川政七商店は日本という産地の一番星として、工芸大国日本を盛り上げていきたいと考えています。
また、2016年からは「さんち」プロジェクトを立ち上げ、メディアからアプリ、販売代行までをひとつのプラットフォームにして、工芸市場全体を盛り上げる活動を行っています。
これらの活動もすべて「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを実現するためであり、すべての企業活動はビジョンにつながっているので、明確なビジョンをもつことはブランディングの第一歩として非常に重要なものです。
ブランドは「建て付け」と「組み立て」が7割。ビジョンを体現するブランドづくりとは?
では、こうしたビジョンをもとにブランディングを行う際の具体的な流れについてご説明したいと思います。
中川政七商店では
①建て付け
②組み立て
③仕上げ
という三工程を意識しています。
まず、私たちはブランドというものを「差異化され、かつ一定の方向性(らしさ)を持ったイメージにより、商品・サービス、あるいは会社にプラスの効果をもたらすもの」と定義しています。
そして、その「ブランドのイメージ」はお客様の頭の中に出来るものなので、そこをいかに意図してつくっていけるか、これが、ブランドを作るための重要なポイントです。
ここで間違ってはいけないのが、ブランドがあるから会社があるわけではないということです。
ブランディングとは伝えるべきものを正しく伝えることであり、会社の思いを実現するためにブランドがあるのです。
また、意味のある「差」を見つけ出すことも重要です。
意味ある差がないものは、ブランドではありません。
こうした意味のある差を見つけるために、3C・4P分析やSWOT分析などの伝統的な手法はもちろん、様々な切り口で考え、分析・調査をします。
さらに、差を見つけるためには「真の敵は誰か」を考えることも有効です。
この場合の真の敵とは、商材軸だけではなく、顧客にとってどの時間と競合しているのかを意識するということなどもあります。
例えば、楽天がプロ野球に参入した時、彼らはプロ野球観戦の真の敵は同じ時間帯に最も人が集まる「居酒屋」だと定義しました。
一見するとプロ野球観戦と居酒屋はまったく別の事業に見えますが、会社終わりに同僚や友人と息抜きに行くという意味では競合となります。
このように真の敵を意識することで、その競合に対抗するための手を打つことができます。
①の「建て付け」のフェーズではこうしたブランディングの種となる要素を集め、②の「組み立て」に着手します。
「組み立て」とは、ブランドの志を実現するための強みや課題を洗い出し、種をつなぎあわせて志に理屈をつけていく作業です。
課題を洗い出して種を繋ぐ例の1つとして、私たちがコンサルティングした着物ブランドの例をご紹介します。
最初にユーザー調査を行ったのですが、着物をなぜ着ないのか・買わないのかなどのアンケートをし、着物が抱える課題を洗い出しました。その結果、着物は「価格が不明瞭なイメージがある」という声が非常に多かったのです。
着てみたいとは思うが、いくらぐらいかかるのかわからない、なんとなく高いイメージがある、などです。この点が、気軽に着物を購入できない要因なのではないかという仮説を立てました。
そこで「組み立て」のひとつとして、メガネブランドによくある3プライス性を導入し、明朗会計の仕組みにしました。
実はブランディングにおいて重要なのはこの「建て付け」と「組み立て」で、この2つの工程がブランディングの7割を占めると思っています。
これはWebサービスにも言えることですが、ブランディングというとかっこいいロゴを作るとか、動画をつくるとか、工程でいうと「仕上げ」に該当するフェーズばかりがフィーチャーされがちです。
しかし本来はその手前にある、どんなビジョンをもつのかを明確にし、そのための強みや課題を整理するという作業こそが重要なのです。
ブランドにとって最も重要な志、どんな世界を目指すのかを、時間をかけて明文化し、強いブランドづくりに役立てていただければと思います。
ありがとうございました。
【START-UPのためのBRANDING×BUSINESSとは】
株式会社 TO NINEが主催する、スタートアップのためのブランディングを軸にしたトークイベントです。
時間と手間がかかるイメージの強い「ブランディング」ですが、Webを活用することで短期間で成長を遂げた企業も数多く存在しています。
ファッションはもちろん、食やインテリア、雑貨など様々な企業のブランディングのコツを知り、お客様に選ばれるブランドを増やすことを目的として2ヶ月に1度開催しています。
[過去実績]
・START-UPのためのBRANDING × BUSINESS #1
・START-UPのためのBRANDING×BUSINESS #特別編
【株式会社 TO NINE について】
世界に通じるブランドをつくる仕組みの体系化を目指し、2014年に設立。株式会社KnotのWebサポートをはじめ、様々な企業のブランディング×マーケティングを手掛ける。自社事業として2016年8月にリリースしたオーダシャツ「KEI」は、クラウドファンディングで目標金額の5倍を達成。