イケてるビジネモデルって、なんなんだ?
ITベンチャー界隈にいると、事業開発サイドのナレッジはあまりシェアされていないように思えます。
仕事柄、新規事業作りに多く携わっていることや、会計ファイナンス領域が元々のバックグラウンドだったりするので、事業開発をする中で見えてきたことを、紹介してみようと思います。
ビジネスモデルは不可逆性が高い
一般的にビジネスモデルは、一度作ると、後になって変えにくい構造になっています。ですので、新規事業を作る際は、こだわりたい/なければない要素を必ず盛り込む必要があります。
新規事業を作りながら、このブログを読みながらチェックしたり、事業を考えるときの参考になると幸いです。
そもそもビジネスの成否って?
あまりこういった表現が好きではありませんが、ビジネスの成否をシンプルにゲームっぽく捉えてみます。
「より短い期間に、より多くのフリーキャッシュフローを確保し続けて、その分野で一番を目指す」
「資金回収ができなくなって、返済できなくなると負け」
要は、短期間にめちゃくちゃ成長して安定性のある事業体を作るということですね。
フリーキャッシュフロー(FCF)にしているのは、利益ではなく自由に扱える現金こそが成長の源泉となる投資資金となるからです。
ビジネスを上記のように捉えた時に、図表にするとこうなります。
創業期のFCF分析(黒字化するまで)
メディアのような黒字化するまで非常に時間のかかるモデルもあれば、人材紹介のように一期目から売上が上がるようなモデルもあります。事業によってカーブの傾きも違いますし、どこまで伸び続けるかも違います。このあたりの見極めによって資金調達を設計すべきです。
クリティカルマス型とストック型の初期はエクイティで資金調達し、受託型、クリティカルマス型とストック型の黒転後はデッドで資金調達が一般的です。
エクイティで調達する場合は、一般的にはExit(IPO,バイアウト,MBO)があるので、その辺りの見極めもしましょう。
成長期のFCF分析(回収フェーズ)
真ん中より波が上に行くと資金調達や売り上げによってFCFが増えている状態を指し、波が真ん中よりも下回るとFCFを投資して減っていることを指します。
良いビジネスモデルは図が下記のようになります。
- FCF-inの波が高い・・・FCF-inが高いことで、投資にかけられるガソリンの量が大きくなります。
- FCF-outに対して、FCF-inの波が大きい・・・FCFのリターン割合が大きいことは連続した投資・回収の繰り返しの中で、高い成長率を維持するのに大事です。
- FCF-inとFCF-outの波の幅が狭い・・・波の幅が狭ければ狭いほど、資金回収と投資の感覚が短く、短期間での成長が実現できます。また、資金回収サイクルが短いと事業にも安定性が生まれる効果もあります。
- FCFの波の高さが安定的・・・FCFの波の高さが一定ではないと、投資を思い切ってできなくなり、長期的にFCFの波の成長率も鈍ります。
つまり、資金回収・投資を短い期間で行える+投資に対して回収の割合が大きくなるようなビジネスモデルが構造として優れていると言えます。
会社の成長の3ステップ
FCF分析による図を見てわかった通り、調達・回収(FCF-in)、投資(FCF-out)の繰り返しによって会社が成長することが分かりました。
調達、投資、回収がどういう指標によって良い状態になっていくか独断と偏見で代表的な指標を紹介します。(自作の指標もあります)
■調達フェーズ
借り入れや出資などの資金調達のステップを指します。
市場期待値
重要度☆☆
一般的に市場やビジネスモデルに期待があるとお金が集まりやすいです。その分、FCF-in,outの山を大きくできます。まだ儲かっている市場ではないが、大きくなりそうな市場の場合、売り上げによるビジネスモデルを構築すべきかバイアウトを目的としたビジネスモデルを構築するかしっかり見極めが必要です。
代表例:VR、インバウンド、ドローン、Bitcoin、ヘルスケアなど
収支の説明可能性
重要度☆☆☆
収支が説明可能な分野・モデルであるほど、いくら投資してくれれば、いくらの売り上げになっていつまでに返せると説明しやすくなります。この要素があると、銀行から借りて、広告や採用、仕入れに当てるなど調達・投資・回収のスピードが格段に高まります。
代表例:SES、不動産投資、中古車売買など
担保性
重要度☆☆
主に、銀行からの借り入れで重要なポイントなのですが、不動産の購入・特許を担保にした借り入れなど投資と同時に担保資産を所有できる投資は、銀行から借り入れをしやすく調達力が高まりやすいです。担保のある資産がグロース要因になるような不動産投資会社などがこれに当てはまります。
■投資フェーズ
実際に、調達や回収した資金を事業投資するステップです。
リスク・リターンの予測可能性
重要度☆☆☆
高いとどんどん調達して投資して、事業を成長させることができます。月額課金などのストックビジネスがベストと言われています。
代表例:人材派遣、会員ビジネスなど
投資機会
重要度☆☆☆
いくらお金があっても投資できる機会がなければ資金がダブついてしまうので、要注意。ニーズがあるのに供給能力に制約があるケースと供給能力はあるのに、ニーズに上限があるというケースがあります。採用によって事業規模が大きく拡大するビジネスモデルなのに求人不人気業界や、人手不足な業界だと高くつくことも。。!
悪い代表例:採用しづらい業界、いい広告出稿枠がない業界
■回収フェーズ
投資した資金を回収するステップです。売り上げのタイミングではなく、売り上げによる入金のタイミングということに要注意。
現金回収サイクル
重要度☆☆☆
現金の回収速度は、事業の安定性と成長速度をもたらします。見過ごされがちな超重要な指標です。例えば新卒紹介は、利益が確定して完全に使える現金になって入ってくるのは、一年に1度しかありません。受託開発も前金で30%と納品した翌月末に70%入金など中々資金に遊びが出ません。
鉄則は、買い掛け金を多く、売掛金を少なくです。
早い代表例:店舗ビジネス、イベントビジネス、一部ECサイトなど
市場規模
重要度☆☆☆ ※ニッチなビジネス作りたい方には関係ありません。
波がどこまで成長するかの鍵になる。利益率が大きくても市場規模が小さくすぐ成長が止まってしまうマーケットには注意です。一度事業をスタートしてから市場を変えることはほとんどできないので、慎重に選びましょう。
ニッチな事業を複数やればいいじゃんという声もありますが、新規事業は滅多にヒットしないのと、横展開・縦展開の新規事業以外は、創業者、起業経験者以外、当たる確率がどうしても低いため、効率性を考えると一つの事業に全力を注ぐのが効率的だと言えます。
代表例:自動車、金融、石油、ソーシャルゲーム
利益率
重要度☆☆☆
投資に対してのリターンの幅が多いと当然会社の成長速度は早くなります。
利益率の高い代表例:CGM系webサービス、ソーシャルゲーム
月間一人当たり利益額
重要度☆☆☆
人の数と売り上げが相関するビジネスモデルでは要注目かなと思います。結局の所、一人の人間が一ヶ月にいくらの利益を作れるかが、収益性・成長性の点でとても大事です。
利益率が高くてもある程度のボリュームがないと「利益額」が上がらないので要注意。逆に利益率が低いが利益額が高いのが、M&Aの仲介業など。
M&A仲介の取引:時価総額1億円の取引×5%×2=1000万円(利益)利益率は10%
利益率の高い代表企業例:リブセンス、じげん、クックパッド
収益逓増構造
重要度☆☆
収益が、逓増し利益率が高まっていくような構造は成長速度と、参入障壁の点で良い。資本集約型の構造が最強だと個人的には思っています。分かりやすく表現すると、人数を増やさずに、投入するお金の量を増やすだけで売り上げが増えるようなモデルです。
代表例:saas、レンタルサーバー、メディア事業、データベースビジネス
在庫リスク
重要度☆☆☆
IT業界では、あまり考えることは少ないかもしれないですが、ECであればここを考えなければなりません。在庫を溜めないようなコントロールは中々ノウハウが要ります。劣化するような在庫であれば、より考える必要があります。
代表例:EC
参入障壁
重要度☆☆☆ ※市場が大きいので、多少シェア奪われても成り立つし、最悪競合にバイアウトすればいいやという方にはあまり重要ではありません。
資金回収リスクや、市場シェアを奪われることなどリスク・リターンの予測可能性に重大な影響を与える指標です。事業開発時にしっかり組み込みましょう。
参入障壁が高い事業の代表例:初期費用の高いビジネス、資格やスキルが必要なビジネス。医療系など。
独占可能性
重要度☆☆☆ ※ニッチな市場とってゆるゆるやれればいいやみたいな起業家にはあまり必要ない指標です。
市場を独占できるかどうか。FCFの波をより大きなものに変えられるチャンスになります。PayPalマフィアのピーターティールは、めちゃくちゃ重要視している指標です。
代表例:特許、ハイテクビジネス。権利ビジネスなど
まとめ
考えの足りない部分もあると思うので、ここはと思う部分があれば、指摘してもらえると嬉しいです。
事業開発好きの人と意見交換などぜひしたいですね。拝読ありがとうございました。