趣味としてのモジュラー・シンセ

Part 2: 実際のシステム構築

Keiichiro Ono
38 min readJun 19, 2020

本稿はPart 1の続きです。個人的に引越しや家の改造などの割と負担の大きな作業が重なりなかなかモチベーションが湧かず、前回から一年以上経ってしまいましたが、今はこんな世の中ですので、モジュラーシンセのような趣味に取り組むにはある意味良い時期ですから、前向きに考えましょう。今回も私が趣味で調べたことの個人的なメモですが、入り口で迷っている他の方にも参考になればと、再構成してまとめてみます。

はじめに

前回は、ビンテージ・シンセのカテゴリだったモジュラーシンセ が、ユーロラックという新しいフォーマットを得て、現在進行形の文化として復活していることを述べました。残念ながら結構お金のかかる趣味ですが、素人でも頑張れば出せる金額で遊べる、古くて新しい音の世界ということで、挑戦してみたくなる人は多いと思います。ここからは実際にどう始めて行けばよいのか、つまりまず何を買えば良いのかを考えます。

必要なもの

繰り返しになりますが、この趣味を始めるには以下のものが必要です:

  • 基礎的な英語力(マニュアルから解説動画までほぼ英語ですから、あった方が圧倒的に楽しめます)
  • ある程度のお金
  • 根気
  • 時間
  • 電子音への愛着(恐らく一番大事です)

しかし、ほとんどの趣味とはもともとこういったものです。怯まずいきましょう。この文章は、本業が音楽とは全く関係ない私が、あくまで好事家の余暇として楽しんでいることをまとめただけですから、プロの方々から見るとおかしな点もあるかもしれませんが、そこはご容赦を。ただ、できるだけ英語の資料にあたるようにしてまとめましたので、それほど酷い間違いはないかと思います。基本的スタンスは「アコギでコードをかき鳴らすような、気軽な音楽への接し方をモジュラーで目指す」です。

なお、以下の文章の中では全ての専門用語は説明してありませんので、わからない専門用語があればこちらで調べると便利です。無料ですが、かなりしっかりとした用語辞典になっています。

こちらの動画は英語ですが、パッチングとは何か?という点を本当にゼロから説明していますので、お薦めです。

以下、ほぼ全ての参照先が英語の情報です。語学なんて好きなものを読んだり聞いたりしてればそのうちなんとかなります(たぶん)。モジュラーシンセサイザーは面白い世界なので、入り口だけでも日本語で情報を共有できれば、ハードコアなミュージシャンだけではなく、趣味でやろうとしている日本の方々からも参加者が増えるのでは?という期待でこのメモを公開しています。

実際にシステムを構築する

方向性を決める

動画サイトやModularGridを使って、現在どんなモジュールがあり、どんなものが人気があるのかは把握できました。次は実際に何を買うのかを選ぶ必要があります。しかし、あまりの選択肢の多さに怯む方も多いのではないでしょうか。私も「面白そうだけど、一体何を買えば良いんだろう?」と言う疑問からスタートしました。あくまで楽器なので、最終的にはそれで音を出すのが目的なのですが、様々なサイトや書籍でシステム構築について調べるうち、そこに至るまでのパズルのような過程も一種の趣味として楽しめるのがモジュラーシンセの特徴だと気付きました。プラモデルや盆栽に通じるような楽しさが内包されている楽器だと言えばなんとなく伝わるでしょうか。DIYとの相性とも良い趣味なので、電子工作系の趣味から入られる方もいると思います。

お金が無限にある人以外は、無数に存在する選択肢から自分の目的のものにたどり着くため、実際に買う前に自分がモジュラーシンセで何をしたいのかをある程度絞り込む必要があります。それが決まると自ずと必要なモジュールも限定されて行きます。モジュールの製造に参入するメーカーが増えるにつれ、昔では考えられなかったようなモジュラーシステムを組むことができるようになっているようです。例えば、昔はフルスペックのデジタルシーケンサーモジュールなどなかったため、複雑な展開の曲をモジュラーだけで演奏するのは困難でしたが、今は大きなメモリを持つそういったモジュールがありますし、サンプラーやマルチエフェクターモジュールなども数多く販売されています。この辺りは私は勉強中でまだ全体像はわかっていないのですが、シンセサイザー関連で考えうるありとあらゆる機能がモジュールとして販売されていると言っても良いでしょう。だからこそ、はじめに自分の用途を設定することが重要になります。

よくあるモジュラーシンセの用途としては以下のようなものが考えられます。

  • DJミキサーの横に置く個性的なリズムマシンが欲しい
  • ギターやターンテーブルなど、外部音源に対して複雑なエフェクトが施せるサウンドプロセッサを作りたい
  • 自由なモジュレーションを加えることができるデジタル+アナログのハイブリッドなモノシンセが欲しい
  • DAWと組み合わせて曲にスパイス的な音を加えるアクの強い音が出るシンセが欲しい
  • DAWを使わず、モジュラーのみで一曲完結できるシーケンサーやエフェクターも含めた大規模なシステムが欲しい

このような感じで、ある程度自分がやってみたいことが限定されてゆくと、必要な機能が見えます。例えば、フィルター発振やVCOとEGの組み合わせでキックを作ることはもちろん可能ですが、今ではキック専用のモジュールも大量に出ているので、リズム中心のシステムを組むならばそういった専用モジュールを導入するのも一つの方法です。70年代のアメリカ西海岸の先駆者が行っていたようなアナログでの複雑な音作りを求めるのならば、その頃のモジュールの機能を現代的にアレンジしたオシレーターやゲートもあります。また、DAWとのコンビネーションで考えるならば、MIDI-CV/Gateの変換のみならず、最近はAbleton LiveのCV Toolsをはじめとしたユーティリティー・ソフトウェアを介して、(DC-Coupledな)オーディオ・インターフェイスでCVの入出力を可能にしているものもあり、あるモジュールの機能を適切なインターフェイスを使うことによりソフトウェアで置き換えることも可能です。

こう言った場合は、概ねソフトウェアの方がはるかに高機能で安いですが、モジュラーに求めるのはそこではないので、どこまでソフトウェアで行うか?を考えることも必要だと思います。このように、目的に対応する機能を、具体的なモジュール名に置き換えてゆくのが次の作業です。

…とは言ったものの、自分が思いついた方向性に基づいてゼロからモジュールを選択するのは自分のような素人には難しいので、ここは先人の知恵を借りることにしましょう。

本で調べる

残念ながら私の知る限り、英語の本も含めてユーロラック以降のモジュラーシンセに関するトピックを網羅的にカバーした初心者向けの本というのはそう多く出ていません。ほぼ唯一と言っても良いのがPatch & Tweakという本です。体系的にシステムの組み方が書いてある書籍ではないのですが、各モジュールがどんな機能を持つのかを現行機種と共に紹介されているので、実際にシステムを組むのに役立ちます。例えば、以下は書中のシンセサイザーにおける西海岸スタイルと東海岸の違いを解説したページですが、いわゆる普通の(東海岸系)シンセを触ったことのある人ならば、どのあたりが違うのか、典型的なそっちの音を作るモジュールはどう言ったものがあるのか?と言った点を具体的な機能の集合として把握できます。

西海岸スタイルでよく見られるwave folderやLPGの典型的使用例を把握できる

中には実際のミュージシャンのシステムの紹介やインタビュー、各機能ごとに現行機種の紹介がされていますので、その辺りを参考にしつつ、機能と実際に売っているモジュール名を具体的なものに落とし込んでいくことができます。

ModularGridで人気のラックを参考にする

ModularGridのトップページには、以下のような「話題のラック」コーナーがあります。そこには著名なプロミュージシャンのセットアップや、動画などで話題になった人のセットアップなどを見ることができます。多くの場合、こう言ったセットアップから出る音を動画として見ることもできますので、具体的なモジュール選びでは大変便利です。

MGのHot Racksセクション。多くのユーザーが話題にしている著名なミュージシャンが実際に使っているシステムなどがよく上がってくる

プロのラックは大規模なものが多いので、いきなり同じものを揃えるのは現実的ではないですが、「あの音はこんなシステムから出てるのか」ということが具体的な機種名やコストまで含めて見られますので、機能を絞った後の具体的な機種名まで落とし込むときに参考になります。以下は著名なサウンドデザイナー/ミュージシャンであるRichard Devineのものですが、流石に大規模ですね。実際に見ると、結構デジタルなオシレーターやサンプラーを導入していたりして、あの複雑な音響がここから出てるのかと思うとなかなか興味深いです。

Youtubeでモジュール名を検索する

具体的な機種名がなんとなく決まってきたら、今度はそれらをYoutubeで検索することを強くお勧めします。日本語のYoutube動画は英語で発信している人に比べると圧倒的に数が少ないので、どうしても情報源としては貧弱です。ですが、英語圏では職業としてモジュールのレビューをしている人から、手に入れたモジュールを、タイトルに機種名を入れて試奏しているアマチュアまで、ありとあらゆるデモ動画を上げている人がいますので(玉石混交ですが)実際の音と操作の様子を動画で確認できます。これは本当に便利です。特にモジュラーシンセは、実際に接続してある程度具体的な使用例がないと、どんなものかすら理解しづらい物が多いので、動画は非常に強力な情報源です。例えば、以下は人気のあるMutable InstrumentsのPlaitsというDSPベースの多機能デジタルVCOの説明ですが、プロだけあって非常にわかりやすく音と機能を紹介しています。

メーカー自らが公開している動画ももちろんありますので、これも用意されていれば必ず見てみましょう。この分野では、Make Noise社は非常に動画に力を入れていて、ほぼ全モジュールの機能を独立した動画で解説しているうえ、パッチングの方法も積極的に発信しています。

余談ですが、彼らはインスタグラムのアカウントで、ちょっとしたパッチのアイデアを短い動画にしてよく公開しています。物理的なモノとのインタラクションを大事にしたようなアイデアが多いので、ソフトシンセにはない遊び方を知ることができて、見ていて楽しいです。

残念ながら、東京、ベルリン、ロサンゼルス、NYといった限られた都市にしか実際に触れるモジュラーシンセの専門店というものはありません。その場合、ネット通販で買うことになりますので、こう言った動画を参考にするのがベストだと思います。(そもそも、一人親方でやっているようなメーカーも多いので、その場合は通販のみという場合もありますし)

また、前回も紹介したこのロサンゼルス近郊にあるお店は、非常に積極的に情報発信をしており、基本的な知識を紹介するワークショップ(ケースの選び方なども含めたゼロからの解説)や、メーカーの技術者を招いてのセミナーも頻繁に行っており、それらをほぼ全て録画して公開しています。これらも具体的に買うものを決めるときには非常に役立ちます。

Make Noiseの社長さんによる店内でのワークショップ

以上のような情報源を用いて、自分がやりたいことに合ったモジュールを選択していきましょう。この過程自体もレゴを組むようで楽しいものです。

システムに必用な詳細を考える

以上のような情報源を利用し、中心となるオシレーターなどのモジュールの具体名まである程度決定できたと思います。方向性が決まって実際に組むとき、多くの場合考えなければいけない要素がいくつかあります。それは以下の通りです:

  1. システムのサイズ
  2. コントロール(演奏)の方法
  3. 音の出入り

ここからはこの三点を考えます。

1. システムのサイズ

例えば、「西海岸的なパッチを作るためのシンセが欲しい」と思ったとしても、オシレータ、LPG、function generatorのみといったミニマルなシステムから、アナログとデジタル両方の複数のオシレータにそれぞれ別のフィルタを組み合わせて、いくつものモジュレーションソースを合わせるような大規模なものまで、規模によって必要なもの(と予算)はかなり変わってきます。そのため、音の方向性とシステムのサイズは同時に考える必要があります。そのサイズを規定するのはケースです。

全てのモジュールは、今ではあまり新製品も見かけることのなくなったラックマウントのMIDI音源モジュールと同じ、19インチラックに収まる単位の3Uを基準に考えます。3/6/9/12Uと増えるに従って、だんだん壁のような高さになります。横幅はHP(horizontal pitch. 1HP = 5mm)を単位として標準化されています。概ね人間が指でいじれたり入出力用のジャックをつけるのに必要な幅が2HPなので、それが最小の単位として考えて問題ないです。変則的なサイズのケースも多く出回っていますが、一列(3U)の84/104HPあたりの標準的なものが小さめのサイズのシステムを組むのに人気があります。どの規模のものを組めるかは、いくらお金をかけることができるのかと直結しますが、ある程度大きめのケースを買って徐々に埋めてゆく、という方針でも良いと思います。ハマるとあっという間に埋まってしまう(そして札束が消える)のが恐ろしいところですが…

ちなみに、オーディオインターフェイスや各種エフェクターなどのセットアップで使われている19インチラックにそのまま取り付け可能なサイズは84HPのものです。アウトボード用にラックを持っている人は、そこに組み入れる前提でrack earsがついたものを買うのも一つの手です。基盤と電源ケーブルが剥き出しになってしまいますが、これは安価でラックマウントも可能ということで人気があります。4HP分が電源モジュールに使われますので、実際に使えるスペースは80HPです。

Eurorackはオープンな規格なので、様々なメーカーが参加しているのは先述の通りですが、モジュールを組み込むためのケースも例外ではありません。規格に沿った電源と、ちゃんとネジのはまるレールがあればあとは自由ですから、大手メーカー以外にも個性的なケースを作っている人々が居ます。それらを個人で販売しているサイトにEtsyがあります。日本でも彼らのビジネスをコピーしたwebサービスがありますが、手作り品を売るプラットフォームとしては、一番の老舗で、様々な分野のスキルを持った人々が手作り品を世界中に売っています。

上記の運営者はフランスの方ですが、普通に英語も通じます。シンプルでコンパクトなケースを作られていて、私も一つ実際に買ってみましたが、シンプルで良い感じです。なお、取り付けに必要なレールや電源ユニットは標準化されて部品としても売っていますので、日曜大工好きな方はそれらの部品から自作することも可能です。

サイズの話に戻ります。大は小を兼ねると言っても、机の上で最近よく見かけるコンパクトなデスクトップ型シンセやリズムマシン、ラップトップなどと組み合わせて使いたい場合などは、あまり巨大なケースだと使い勝手が悪くなってしまいますので、比較的小さめのものを組み合わせて使うという方法もあります。最近は、そのような用途に特化したケースも出ています。4msのPodシリーズやIntellijelのPaletteが代表的です。

一つのケースに全部の機能を収めることができなくても、ケーブルでつなぎ合わせれば使えてしまうのもモジュラーシンセの面白いところです。また、こういったケースで顕著ですが、コンパクトなケースは比較的浅い物も多く、低HPに機能を詰め込んだようなものは縦方向に基板が取り付けてあるため、奥行きがあるモジュールも多いので、そういったものを収めることができない場合もあります。そこはきちんと調べてから買いましょう。Modular Gridでは、各モジュールの深さも簡単に調べられます。最初私もここに気がつかなくて、幅だけ見ていたので危うくケースに入らないモジュールを注文しそうになりました。Podsシリーズだと、Xが名前についている物が深めのものなので、欲しいモジュールのサイズを確認して選びましょう。

MGでは各モジュールの深さも含めた情報を確認できる

これらを考慮に入れてケースのサイズと主だったモジュールのリストが決まれば、そこからはMogularGridで、自分の目的に沿ったモジュールをサイズと値段を考えながらパズルのように最適な組み合わせを考えるゲームが始まります。

ケースの選び方入門

最近、持ち運べる大きさのケースに工夫して面白い音の出るシステムを構築し、それに小型シンセ、ギターペダルやミキサー、テープレコーダ(その音質の悪さ故にエフェクターとして使うのが流行っているようです)などを一緒に並べて演奏する人が増えていますね。そういうことをやりたい方はあまり巨大なケースを買うと色々と不便なのでご注意を。

複数のPaletteを組み合わせ
TipTop AudioのMantisを利用した例。なんとか持ち運べる大きさです。

2. コントロール(演奏)の方法

モジュラーシンセは楽器ですから、どんな方向性にしても、どうやって演奏して実際に音を出すかは考えなければなりません。とはいっても、鍵盤以外にもたくさんの演奏方法があるため、まず自分はどうやってコントロールして音を出そうとしているのかを考える必要があります。これによって必用なモジュールの種類も変わります。

(狭義での)演奏をしない
演奏方法を考えるのにいきなり演奏をしないというのも変ですが、これはモジュラーならではの考え方のようです。つまり、音を発生する仕組みをパッチングを通して構築して、そこに鍵盤を弾くことではない人間からの入力というか、機械とのインタラクションによって音楽を奏でようという方向性です。厳密には同一の根源ではないですが、いわゆるgenerativeな音楽も広義では含まれると思います。また、調性のあるものだけが音楽ではないですし、モジュラーシンセは電子ノイズの塊のようなものを作る楽器としても当然利用できます。こう言った方向性で重要になるのは、いかに面白い音をモジュレーションを通じて生成するパッチを作るかということと、偶然性やランダムネスを生み出すソースを何にするか?といったあたりだと思います。人間の行う入力(つまみを回す、ボタンを押す)に対して面白い反応を返せるように仕組みを作るのが演奏の一部と言っていいかもしれません。

オシレータにランダムなCVを生成するモジュールやLFOなどを組み合わせれば、時間と共に変化するノイズ/ドローンマシンのようなものも作れますし、ワンショットのサンプルを再生できるサンプラーモジュールもたくさん出ていますので、それらをグラニュラーシンセモジュールやテープシミュレータに入力して、ミュージック・コンクレートごっこみたいなこともできます。これらは、アナログなモジュールに加えて、DSPベースのデジタルなモジュールがたくさん出たことによって初めてモジュラーだけでできるようになった、ユーロラック以降の楽しみ方のようです。つまみがたくさん付いてアナログメカっぽい印象のあるモジュールも、実際の中身はマイクロチップの塊であったりするので、そう言った新世代のモジュールをうまく使うことにより、「演奏せずに演奏する」タイプのシステムを作ることができると思います。この場合、ランダムネスを生み出すモジュールが重要になってくると思いますが、現在では数多くのものが出ています。一言でランダムネスと言っても、クロマティック・スケール上の音階を生成することを主眼にしたものや、全くのランダムな電圧を生成するもの、音楽用にチューリングマシンをモジュール化したもの、ドラムのフレーズ生成に特化したものなど様々です。この方向性は、これらのランダムネスに加えて様々なモジュレーションを音に加えることにより時間的変化を生み出すのが主眼になると思いますので、それを考えながらオシレータなどを同時に選択してゆくことになります。ある意味これが最もモジュラーらしい演奏の仕方かもしれませんが、同時にセンスのない人がやると(やってる本人以外には)単なる不快な雑音しか出せない可能性もある、難易度の高い演奏方です。

…もっとも、趣味なので本人が楽しければそれで問題ありません。この方法はとても奥が深く私にも未知の世界なので、実際に弄りながら徐々に試してみようと思っています。

鍵盤で弾く
これは(東海岸の)最初期の人たちも使っていた最もオーソドックスな方法です。ピッチなど情報をCV/Gateへ変換できる鍵盤型コントローラーを用いれば良いのですが、かつては非常に特殊な機械だったそういうコンバータも今は比較的安価に手に入ります。特にArturia社はこの辺りの製品を熱心に開発していて、安価でコンパクトなMIDIキーボードにもCV/Gateの出力がついているものがあります。それらを使えば、鍵盤楽器として一般的なシンセと同じような演奏ができます。

これは最近、上位機種が出て、それは一台完結で曲が作れる様なユーロラック世代のワークステーションを目指しているようです。鍵盤を引くのが得意な方は、こういうキーボード型を使うのが一番簡単に始められると思います。CV/Gate出力が搭載されるキーボードが増えたため、コンバータなど無しで直接接続できるためお手軽です。

ハードウェアのシーケンサを使う
電子楽器の面白さの一つには、手で弾かないことによる演奏の幅の広さがあります。その場合使われるのはシーケンサですが、以前はモジュラーシンセのシーケンサと言えば、8~16ステップ程度の、ロータリースイッチを回すタイプのステップシーケンサのことでした。

これは当然プログラムできるステップ数はスイッチの数に制限されるためできることは限られていますが、鍵盤を弾かないことによる偶然性も含めた面白いフレーズができたりと、特殊なハードウェアならではの良さもあります。ですが、今はあらゆるタイプのシーケンサがあるので、ユーロラック内でいわゆる「打ち込み」をするのも十分可能になっています。

  • ステップシーケンサモジュール

ステップシーケンサモジュールにもデジタルの技術が導入されて、かなり複雑なことができる様になっています。その中でもこれは最も人気のあるものの一つです。

英語圏では直交座標系のことをCartesian coordinatesと呼ぶため、モジュール名はデカルトのファーストネームからとってあるんだと思いますが、その名の通り、直線的に流れる従来型のステップシーケンサとは異なり、二次元座標をランダムに動き回るようなシーケンスが組めて、なかなか面白そうです。このカテゴリのシーケンサは、ロータリーエンコーダを使うタイプとフェーダーを使うタイプがあるので、好みで選べば良いのではないでしょうか。

  • 複数のトラックを持つデジタル型

昔のハードウェア型MIDIシーケンサを使ったことのある人ならば馴染み深い、各トラックに音階やゲートタイムを入力していくタイプのものです。往年のQX-3のようなハードウェアに比べると、どうしてもインターフェイスのスペースが限られているので、機能を詰め込んだ分操作性や視認性にやや難ありな印象ですが、ラック内で全てを完結させようという人には魅力的な選択肢だと思います。MIDI/USB経由での同期にも対応している場合が多いです。

  • リズム特化型

モジュラーをリズムマシンとして使いたい人に向くタイプです。ローランドのTRシリーズの様に、左から右に流れるステップをOn/Offしてプログラミングするタイプのものです。リアルタイムでリズムプログラミングしつつパフォーマンスをしたい方向けでしょうか。

一通り調べてみましたが、これらのモジュールは比較的高価なうえ、それにもかかわらず機能的にはDAWと比較になりません。圧倒的にDAWの方が複雑なことができます。しかし、あえてハードウェアを使い制限を課すことにより生まれる操作性の良さや、モジュラーだけで完結させるロマン(?)などもありますので、この辺りは完全に趣味で選べば良いのではないでしょうか。ボタンを押したり、つまみを回すことにより得られる直感性や偶然性等は、マウスクリックではなかなか得られないものです。

もう一つの方法として、単体のCV/Gate出力を持つ専用のシーケンサを使う方法もあります。このタイプでもまたArturiaのこの製品が広く使われています。ラック単体で完結はできませんがDAWを使いたくはない、という人には便利な機械です。値段も先出のユーロラックモジュール方に比べるとずっと安価で多機能です。

DAWと併用する
色々なサイトや動画を見ていると、どうやらモジュラーシンセ の愛好家は、コンピュータと接続することを良しとせず、Eurorackケースの中に入っているものだけで完結させようとするモジュラー完結派と、既存のDAWを含むシステムの一部として組み入れようとするDAW統合派に別れているように見えます。もちろん、どちらが良い悪いというのはありませんが、前者の方が、複雑なことをしようと思った時に、多くのケースでお金も労力もかかりますので、趣味でやる場合には積極的にコンピュータも活用した方が遊びの幅も広がりそうです。ある意味、現在の音楽制作においてもっとも一般的なツールであるDAWですが、そういったソフトウェアの知識がある方は、DAW内の膨大なプラグインやミキサーの機能を活用したいと思うのではないでしょうか。

一方で、たくさんのハードウェア機材を大きな机の上に並べて、あえてAbleton LiveやCubaseを使わず、いわゆるDAWlessな演奏をするのはかっこいいですね。

せっかくモジュラーを使うのならば、全部単機能ハードウェアで行きたいと思う方も多いと思います。この辺りはポリシーの問題だと思いますが、せっかく安価なソフトウェアがあるのでしたら、それを使うことで圧倒的にできることは広がります。特に、高機能なハードウェア・エフェクターは結構な値段がしますので、そこをDAWのプラグインで行うだけでもかなり音作りの幅が広がります。以前は、CV/Gateを送って普通の演奏をする以上のことをモジュラーとDAWでやろうと思った場合は色々とノウハウが必要だったようですが、Ableton Liveユーザーの場合、CV Toolsを使うことによりかなり気軽に複雑な統合(ハードウェアにソフトウェアからモジュレーションをかける、ハードウェアのCVからソフトウェアにモジュレーションをかけるといったこと)が可能になっています。つまりこの方法は、直感性を一部犠牲にすることにより、視認性と多機能を手に入れるアプローチだと言い換えることができます(あとお財布にも優しいです)。

この方向性で行こうと思った場合、重要になるのはどうやってDAWと同期し、音声信号やシーケンスをやり取りするかということになります。具体的には、

  • クロックの入出力(DAW-モジュラー間でテンポを合わせる)
  • ゲート情報の出力(DAWからドラム系のモジュールを演奏する)
  • クオンタイズされたピッチ信号をCVとして送る(西洋音階で音程のあるモジュールを鳴らす)
  • LFOなどのモジュレーションをCVとしてDAWから送る
  • アンプやフィルターへのエンベロープを送る
  • モジュラーからの音声信号を適切なレベルでDAWに入力する
  • DAWから音声信号を送ってモジュラー側で処理する

DAWにはたくさんの選択肢がありますが、個人的に触ったことのあるAbleton LiveのCV Toolsは非常に便利なユーティリティ集です。上記のような点を特別なハードウェアなしに(DC-Coupledのみという制限はありますが)オーディオ・インターフェイスを介してうまく解決してくれます。多数のモジュールからなる多機能なソフトウェアデバイスなので、ここでそれを全て紹介することはできませんが、私も勉強中ですので、いずれその記録をまとめたいと思います。以下の動画を見ていただくと、その機能の豊富さがわかると思います。端的に言えば、DAWをモジュラーをコントロールするシーケンサーとして使うのみならず、ソフトウェア的にEGやLFOと言ったモジュールの代わりをさせることも可能です。

CV Toolsの基本機能の解説
CV ToolsをAbletonと一緒に開発したミュージシャンによる解説
  • Expert Sleepersというメーカーについて

こう言ったDAWとの併用(というかコンピュータとの接続)を考える時、この会社の製品はユーロラックシステムに欠かせないピースになっているようです。DSPを用いたユーティリティーモジュールからMIDI-CVインターフェイス、ユーロラックフォーマットのオーディオインターフェイスなど、特にコンピュータと併用するときに便利なモジュールを多数出しています。以下の多機能ユーティリティーモジュールもベストセラーになっていますが、狭いパネルに多数の機能を詰め込んであるため、便利な反面、直感性は失われています。それを補ってなお便利なので売れているのでしょう。

この会社の販売しているユーロラックモジュール型のオーディオインターフェイスや、ADAT入出力経由でモジュラーと音をやり取りするモジュールは、先のCV Toolsと組み合わせることによりハードウェアが足りない部分をソフトウェアで補うことが容易になります。

ES-8 / ES-9

これらは少々高いですが非常に便利です。要するにEurorack規格に合わせたUSBオーディオインターフェースなのですが、コンピュータ側の各種アプリケーションと組み合わせるのが格段に楽になります。モジュラーレベルの信号を直接パラでコンピュータに入力できますので、DAW側でエフェクトを施したりミキシングするのがUSBケーブル一本で済みます。

3. 音の出入り

モジュラーシンセは楽器ですから、音を外に出せなければ意味がありません。オシレーターやサンプラーなどのモジュールから出るのは音声信号ですが、そのままでは信号のレベルが高すぎるため、扱いやすい一般的なラインレベルまで調節してやる必要があります。逆に、外部の音源をモジュラーでいじる場合はラインレベルでは低すぎるため、今度は信号のレベルを上げて入力する必要があります。これを行うための入出力用モジュールが各社から出ています。

最終的な音をどうやって外に出すのかというのも何種類か方法があります。ラインレベルに調整してオーディオインターフェイスに出力したり、ヘッドフォン出力のあるモジュールを使って、直接音をヘッドフォンで聞いたりするというのがもっとも基本的な方法です。

ヘッドフォン/ライン出力にレベルを調節するモジュール
各社からアウトプットモジュールとかミキサーと一緒になったインターフェイスモジュールと呼ばれるものが多数発売されています。これらを使って、ヘッドフォンやモニタースピーカー、ミキサーやコンピュータのオーディオインターフェイスに接続すれば好みの環境で音を聴いたり、録音することができます。最もシンプルな方法で、ここから出た音は他のシンセやドラムマシンと同じように扱えます。ここに直接フィールドレコーダーを接続して、一発録音したパフォーマンスをYoutubeにアップしている人もよく見かけます。

中には入力と出力を一つにまとめたものもあります。

ユーロラックに組み込めるオーディオインターフェイス
DAWと併用する場合には最も便利な方法です。先に挙げたES8/9などが代表的なモジュールです。この場合、最終的な音はコンピュータ経由で聞くことになります。したがって実際には現在のセットアップに追加するという場合が多いかと思います(普段DAWと一緒に使っているオーディオインターフェイスを出力に、ユーロラック側のインターフェイスを入力に)。ESシリーズを含めた一部のオーディオインターフェイスはCV Toolsと併用できますので、音の出し入れだけでなく、モジュレーションのソースとしてもDAWを活用できますので、複雑さは増しますができることは一気に広がります。もちろんモジュラー側からのパラアウトをDAWの中で個別のチャンネルに立ち上げて、そこでエフェクトを加えることも難なくできますので、小型のMIDIフィジカルコントローラとオーディオインターフェイスモジュールを含むモジュラーを併用すれば、マウスを使わずにプラグインを用いて複雑なエフェクトを施したダブミックスのようなこともできますね。全部ハードでやるとすごくお金がかかってしまうので、妥協点としてはありなのではないでしょうか。

「モジュラーシンセにおける各信号のレベル」という、初心者向けのタイムリーな動画が流れていましたので、興味のある方はどうぞ

まとめ

以上が、実際の購入前に調べた膨大な量の前置きです。コアになるモジュールに加え、以上の三点を考慮に入れてユーティリティー・モジュールやオーディオインターフェイスなどを必要に応じて用意すれば、やっと実際に買って組み上げ、音を出す段階に行けます。長くなりましたが、安くはない買い物ですので、多少リサーチに時間をかけたほうが良いと思いましたので…

また今回触れたようなことは、英語ならば、私の書いた記事よりも優れた動画やまとめ記事が大量に見つかります。並行して読んでいただくとより理解が深まると思います。以下はほんの一例です。

陽気なカナダ人のアンドリューさんによるおすすめモジュール紹介動画。大量に機材関係の動画を公開しているので、他のものもおすすめです。早口ですが彼の英語はシンプルですので、多分わかりやすいと思います。

(長くなってきたので、Part 3に続きます

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Keiichiro Ono

Bioinformatics Software Engineer / Cytoscape Core Developer #visualization #bioinformatics #dataviz