#04 誕生、「パッチ・ワーク地域」論

ユノ
What is the city, region and town?
5 min readFeb 4, 2018

前回までの現地調査から、調査対象地は「個人的手入れが強く、組織的手入れが弱い地域」であることを確認した。つまり、ひとつのまとまった場所=まちの中にあるモノを、個人レベルで出来るような小さな規模で手入れしているように見える。

この特徴を俯瞰してみると、大きな一つのソフトウェア内に存在する小さなバグにパッチをあてるさまに似ている。また同時に、その姿は小さな手入れが組み合わさって一つの作品に仕上がる、手芸のパッチワークにも似ている。そこで、私は調査対象地のような特徴をもつ地域を「パッチ・ワーク地域」と名付けることを提案する。

因みに、本来の意味のパッチワークが小さな端切れを組み合わせ、最終的に統一感のある全体像の完成を目指すのに対し、ここでいう「パッチ・ワーク地域」はもともとインフラ設備等が整えられた街があり、街という全体的な空間へ部分的・個人的に介入していく。すなわち部分の集合により全体を目指すパッチワークと、すでにある全体のうちごく小さないち部分に着目する「パッチ・ワーク地域」は、その志向するベクトルが逆だといえる。

ここから、今まで「中間地域」と仮称してきた地域を「パッチ・ワーク地域」と名付けることができるのではないかという仮説がつくられる。手入れの種類とその強弱によって地域を特徴付けると、現段階では以下のようなボックスダイアグラムが描ける。

図にある通り、「パッチ・ワーク地域」の対極に位置するのは個人的手入れより強力な組織的手入れがはたらく、つまりまち全体の手入れを一括で行うことから「バージョン・アップ地域」と名付けた。
「バージョン・アップ地域」として思いつくのは神奈川県の横浜みなとみらい地区だ。ここでは、いくつかに別れた地区(規模は「まち」)毎に計画が練られており、それに沿った手入れが行われている。象徴的なのは、グランモール公園内円形広場のすぐ上にあるベンチ群だ。一昨年の春から昨年の冬にかけてほぼ毎週この辺を訪れていたが、あるとき突然、ベンチ群が全て木製の傾斜のあるタイプのものに変えられていた。

左:2011年5月に撮影されたgoogleストリートビュー 右:2018年2月に筆者が撮影した同じ場所

そのさまは、手入れというよりむしろ「置換」と呼ぶほうがいいかもしれない。A→A’ではなく、A→Bになるような強烈、かつ面的な広がりを持つ変化、これが強力な組織的手入れの為せるわざなのだろう。

「バージョン・アップ地域」である結果エリア毎の統一感があり小綺麗なみなとみらい地区は、住宅地としても観光地としても人気が高い。その反面、「個々人の力でこのまちがつくられたのだ」と感じる機会はほとんど無く、それが「ちょっと冷たい感じがする」といった印象を人びとに与えることにもなる。「パッチ・ワーク地域」に見られる個人的手入れの人間くささが、「バージョン・アップ地域」ではあまり感じられないのだ。そのため、どちらを好むかは人によって異なるだろう。

未だ研究は途上にあり、「組織的手入れも個人的手入れも強い地域」及び「組織的手入れも個人的手入れも弱い地域」がどう名付けられるべきかは見出せていない。しかし、少なくとも「手入れ」という指標を用いることによって、新たな都市・地域に対する視点を得られるのではないかという感触は得られた。

発展・衰退、都市・地方といった既存の指標とは異なる形で都市・地域を語ろうとするのは、既存の指標では見えてこない新たな都市・地域の価値を見出したいと考えているためだ。

こうした新たな指標をつくり、精査していくことによって、どの程度の「手入れ」であれば人びとが居心地が良いと感じられるようなまちになるのかを明らかにしたい。つまり「組織的手入れ」と「個人的手入れ」の適切な案配、その均衡点はどこにあるのか、またその均衡がとれた、「手入れ」の指標から見た「居心地のよいまち」は具体的にどこなのかといったことを今後考えていきたい。

←#03 「中間地域」の特徴を見出す 現地調査編

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ユノ
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文章を書いたり、写真を撮ったりすることが好きです。