Snapchatは写真を消すことで写真の価値を上げている

Kaoru Okamoto
4 min readApr 6, 2017

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Snapchatは「受けとった瞬間に写真が消えるチャットアプリ」としてデビューし、ティーンエイジャーのあいだで人気になりました。そしてのちに追加されたStories(友だちとの共有空間に「24時間後に消える写真」を送る機能)にいたってはInstagramやFacebookにも採用されるなど自らのアプリを超えた影響力をもっています。

一般的にものごとを改善するやり方は、コストを下げるかパフォーマンスを上げるかのどちらかに分類されます。写真が消えることに関するコスト面のメリットはわかりやすくて、送り先に写真が残らないと思えば気軽に送ることができますし、「のちのち写真を見返す」という行動を想定しなくていいのでUIを簡略化することができます。それだけでも十分に効果があるのですが今回深掘りしたいのはパフォーマンス面のメリットです。

消えるとリアルタイム性を感じる

Snapchatでは写真を見ることができるのは受け取ったそのときだけです。つまり写真に「リアルタイム性」がうまれるのですが、これがおもしろさを演出していると思われます。

なぜリアルタイムだとおもしろいのか。それは人間に「自らと距離が近いものに共感し、価値を感じる」習性があるからです。不思議なことに「いま、近所で、知人の家でおきたぼや」の方が「1000年前に、地球の裏側で、見知らぬ人の家でおきた大火事」よりも気になるのです。リアルタイム性というのは「時間的距離感」といいかえることもできますが、その価値は「レンタルビデオの料金はおもしろさではなく新しさで決まる」とか「スポーツ観戦はライブでこそ楽しめる」などの例でもわかります。

リアルタイム性があれば、写真そのもののおもしろさはあまり問われなくなります。実際のところ、Snapchatでのやりとりは「コーラを飲んだ」みたいなくだらない内容が多いのですが、それが許されるのはSnapchatだからこそです。同じ内容をInstagramにあげると少し違和感がありますし、Facebookだと「この人大丈夫かな?」と心配になります。さらにそれがメールや手紙だったら……もうやめましょう。

コンテンツ(CTT)とコンテキスト(CXT)

「写真そのもの」のように目に見えるものをコンテンツ(CTT)、「写真が消える」のように目に見えない背景情報をコンテキスト(CXT)とよびます。Snapchatにかぎらず、ITサービスの企画には「CTTの価値を下げることで、CXTの価値を上げる」というやり方があります。

たとえばTwitterは、つぶやきを140文字以下に制限することでCTTの価値を下げています。しかしその分たくさんのつぶやきを消費することができるので、つぶやいた人の性格や心理状態というCXTが浮かび上がります。そのためその人の公式的なプロフィールやブログをみるよりも、Twitterをみた方がその人のことをよりよく知ることができたりします。

CTTとCXTのバランス、という観点で他のサービスもみてみます。

Instagramは「スマホ(=カメラ)時代のTwitter」といえるかもしれませんが、個人的な印象ではややCTTに寄っています。それはPhotoshopコモディティのフィルタを売りにスタートしたこともあり、「綺麗な写真(CTT価値の高いもの)をのせる場所」というブランディングがあるからです。

Facebookはへたすれば親ですらつながっているソーシャルグラフの広さが「パブリック性」を上げ、さらにCTT寄りになっています。またこれはInstagramにもいえることですがSnapchatと比較したときに、「ライク」やコメントが他の友だちにもみえるようになっていること、パブリック情報の検索機能があることなどもパブリック性に寄与しています。

ちなみにSnapchatには「顔を犬にする」機能なんかもあって、あれはCTT寄りですね。さいきんのプロモーションは「消える」よりも「犬」押しで、これは分かりやすさ重視なのかなと思います。CTTは一目で分かりますが、CXTは価値がもやっとしていて分かりにくいのです。

CTTとCXTについてまだまだ語ることがあるのですが、長くなってしまうので今日はこのへんで。

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なぜSnapchatは「カメラの会社」なのか — Kaoru Okamoto — Medium

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