オードリー・タン 台湾政府デジタル担当大臣特別インタビュー『私が考える働き方の未来』Part 4

『働き方のデジタルシフト — リモートワークからはじめる、しなやかな組織づくりの処方箋』から一部抜粋!

WCIT 2017で発言するオードリー・タン大臣(写真右から2人目)Photo: © WCIT — Open Government: Civic Tech on Government Transparency and Citizen Participation https://flic.kr/p/YSwFuV

2021年10月25日、技術評論社より発売の『働き方のデジタルシフト — リモートワークからはじめる、しなやかな組織づくりの処方箋』から、台湾政府デジタル担当大臣 オードリー・タン大臣のインタビュー及びインタビュー後の対談を全部抜粋してお届けします。対談:石井大輔・真銅正孝
Part 1 / Part 2 / Part 3 / Part 4 / Part 5)

インタビューを終えて

(対談:石井大輔・真銅正孝)

情報収集と能動的行動

石井:
情報収集と自分から行動という考え方は大事ですね。広範囲に情報センサーを張りめぐらせて、ファクトやニュースを能動的に収集し続ける。情報は集めて試して価値を試すという点もポイントかと思います。

テスラのAI自動運転車にはセンサーがたくさん付いていますよね。私が乗ったときは目視で30個は確認できました。リアルタイムにカメラや地図情報を収集して、ドライバーの居眠りや交通渋滞を全部インプットすることができます。

利点は最適なルートと安全運転ができることです。これは効果最大・リスク最小になる理想形です。まさに個人の仕事や人生もそうあるべきだと思いました。

真銅:
人間というのはわかりやすい生き物で、自分が意識したものしか記憶できないんですよね。だから、そもそもアンテナを張らないと何にも情報が入ってこない。たとえば今は我々の視界の中にいろんな情報がありますけど、これ全部覚えてるかって覚えてないですよね。実は瞬間記憶としては全て記憶されているんだけれど、瞬間に捨てられていると。

良質な情報を取りに行こうと思ったら良質な情報に対しての意識を持っていかないと、情報を見ていても記憶されないわけです。そもそもアンテナを意識して張っているのか、これが特に重要だと思います。

石井:
情報は爆発的に増え続けるので、取捨選択つまり自分の考えで選ぶという例を話します。たとえば超一流大学のハーバードの研究レポートでも、自分にとって関係なければ役に立たない場合もあると思うんです。居酒屋のおじさんの仕事観の熱い話のほうが、自分に近くて役に立つなら、ハーバードと並列に考えておじさんの言うことを一生懸命聞いてもいいと思うんです。つまり、権威のフィルターは大事だけど、ブランドだけを信じすぎて実利をみないと、情報をフラットに論理的に評価できていないはずです。

真銅:
情報にも種類が2種類あって、定性的なものと定量的なものとがあると思うんですよ。わかりやすい定量的なものって事実だったりとか数値だったりとかロジック科学みたいな客観視できるものが、いわゆる「情報」と言われているもの。これはそもそも正しいという前提がないといけないよねってのがあるので、ちゃんとしたソースのものを探しましょうと。そしてもう1つは定性的なもので、これには「感情」などがあります。

石井:
音声SNSの「Clubhouse(クラブハウス)」で漫画家の桂正和先生が、「最近の漫画家は漫画を読んで漫画作ってる」と指摘していました。それより映画や音楽や芝居など、異分野のものを参考にしたほうが芸術性が上がるそうです。これは自戒を込めてですが、私を含めた日本のビジネスパーソンは結構他のビジネスパーソンと似ていると安心するという面はあると思います。でも、ビジネスパーソンも独自性があるほうが良い価値を高い単価で提供できるので、Twitterや書籍で情報収集するときもあえて海外や異分野のものを抽象的に参考にするとよいと私は考えています。これはインタビュー後半に出てくる、包括的でオープンマインドな考え方にも通じるかと思います。

真銅:
まさに情報のレイヤーをどこに持っていくのかみたいな話だと思います。
アートについて考えると、他の音楽とか舞台芸術映画とかもそこから要素がとれるものがあるかもしれないみたいに、情報のレイヤーを上げてかつ具体的に分析をかけることで情報の質は何倍にもなるんですよね。それがまさに包括的かつオープンマインドだということになると思います。
たとえば、自分のスキルを「営業」という言葉だけで考えるとそれほど広がりはありませんが、そのスキルを「コミュニケーション」だと拡大して考えた場合(オープンマインドに考えた場合)、より広い視座でスキルを捉えることができます。

自分は、楠木建さんがよく例に挙げる「センスというのは具体的なものと抽象的なものとの往復活動で養われる」という考え方が好きでして。こうなりたいというビジョナリーな、抽象的な方向と、じゃあ実際にやることは何だろうとという具体的な方向にちゃんと往復活動をしてあげる。これを実行すると人のセンスやスキルはものすごく伸びるんですよね。オードリー氏が優秀な理由はそこにあるのかなと感じます。

そして、抽象と具体をつなぐためのツールとしてマインドマップとマンダラートというのは非常に有効に感じます。入口のテーマを抽象的に持ち、それを具体的なものに落としていくことができますから。

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