オードリー・タン 台湾政府デジタル担当大臣特別インタビュー『私が考える働き方の未来』Part 5

『働き方のデジタルシフト — リモートワークからはじめる、しなやかな組織づくりの処方箋』から一部抜粋!

オンラインカンファレンスに出席し、プロジェクターに映し出されたタン大臣 Photo: © republica GmbH https://bit.ly/3lnOHkR

2021年10月25日、技術評論社より発売の『働き方のデジタルシフト — リモートワークからはじめる、しなやかな組織づくりの処方箋』から、台湾政府デジタル担当大臣 オードリー・タン大臣のインタビュー及びインタビュー後の対談を全部抜粋してお届けします。対談:石井大輔・真銅正孝
Part 1 / Part 2 / Part 3 / Part 4 / Part 5)

インタビューを終えて

(対談:石井大輔・真銅正孝)

オープンマインド

石井:
オープンマインドは、タブーを作らないという言い方もできそうです。非オープンマインドは、自分に近い人の考え方しか信じないということでしょう。自分に近い人しか信じないと行動パターンも固定化し、進化しなくなりますよね。自分の周りの人間が進化しなかったら進化が終わるので。海外出張や長期滞在が勉強になるのはこのためかと思います。自分の真逆の人がうろうろしていますからね。私も45歳なので、脳が老化した頑固じいさんにならないよう気をつけています。小学生でも私の先生になる場合があると思っていて。ちゃんと実行できているかは自信がないですが。

真銅:
補足すると、オープンマインド(open-minded)は英語だといろんな意見を受け入れる、傾聴するみたいな意味がありますよね。色眼鏡で世の中を見ないみたいな。

石井:
真逆の反対意見を受けてもウェルカムとなるみたいなもオープンマインドですよね。

真銅:
その文脈で言うと、たとえば近所の人としかしゃべらないっていうのはアクション面での問題だと思うんですけど、もっと根源的な話で言うと近所の人と話してるんだけど実は話(や意見)を聞いてないケースってよくあると思ってます。

近所の人がすごく示唆のある言葉を言ってたんだけれども、聞いている側の人が「いや俺はこういう意見だからそんなことを言われてもね」と内心で決めつけていると何の意味もないんですよね。実は貴重な意見が何にも活きていないケースは想像以上に多いんじゃないかなと思っています。

100万人に会ったとしても自分が話を聞いていなかったら1ミリも意味ないので、自分の心をちゃんと開いて自分に対しての反省の気持ちを持って人の意見を聞けるというマインド的な部分が超重要になってくると思いますね。その機会とマインドの両方がないと成立しえないと思います。意見を聞く人が少ないのもダメだし、そもそも本人が話を聞かないんだったら何人話しても無駄だよと。

石井:
意見を押しつけるのはオープンマインドではないですよね。オープンだからリスニングもできるはずなので。

真銅:
しかもそれって習慣によって凝り固まっていくものであったりすると思うので、実際に起こりうるケースだと思うんですよね。

石井:
私がならないよう気をつけているマウンティングおじさんは、そういうやつだと思います。“俺の若いときは” みたいなノリで若者だからってナメてかかって昔話するのはオープンマインドじゃないですよね。私もそういうモードになってないかいつもドキドキしながら話しています。私は自分がよくしゃべると自覚しているので。

真銅:
あり得ると思います。アインシュタインは「人間って20歳までに詰め込まれた偏見のコレクションだよ」みたいなことを言ってたりするんですけど、20歳過ぎるとなかなかこう本当の意味でのオープンマインドができている人間って本当に少ないでしょうね。人というのは、放っておくと本当にクローズマインドになっていくと思います。僕も石井さんもそのリスクは常に毎日持ってるんじゃないかなと思っていてすごく感じるところもありますし、だからこそ本当の意味でオープンマインドでいる人っていうのがすごく価値があるんじゃないかなと思いますね。

石井:
たとえ話として、宇宙もビッグバン以来膨張してますよね。ビーカーの水に墨汁を一滴たらす広がっていきますが、その逆はないですよね。エントロピー(カオス度)増大の法則もあるくらいですから、宇宙の一般法則として中央集権が分散する傾向はよくあると思います。

オフィスもしかり。2010年はオフィスワークがありました。2020年はリモートワークがあります。その先のスーパーリモートワークは2030年にありうる世界だと思うんです。

会社が進化して会社じゃない組織が主流になっている可能性はあります。そこでは出社そのもが消滅していますよね。会社に所属しながら、国民の大部分が5種類から10種類ほど掛け持ち仕事(副業)してるのも十分あるかと。

いったん、ワークプレイスが分散しきったエクストリームフューチャー(極端な未来)を10歩先として考え、逆算で予測可能な3年後を3歩先として中期目標とすると計画が立てやすそうです。そこに焦点を当ててライフスタイルやキャリアを構築すると人生が楽しいでしょうし、他の人からは半歩あるいは一歩先を行くおしゃれな人に見られるかもしれません。

また極端な10歩先の実験を、たとえば1か月限定でやってみると面白いと思います。私は業務委託の案件で2014年は6か月間欧州と米国にいたのですが、こんなに楽しい年はなかったですし、年収も増えたんですよ。

真銅:
石井さんも自分も一企業の社長をやってるじゃないですか。でも、ある意味不確実な時代なので明日自分の会社がつぶれちゃう可能性もあると思うんです。仕事と会社が仮に全部なくなりました。じゃあ、とりあえず最低時給のアルバイトから始めましょうみたいになる可能性もあると。

そこで心機一転頑張ろう、みたいにオープンマインドで働ける人はこの変化にも乗り切ることができる人ですよね。けれど、たとえば今までの経歴や年齢でのプライドだったりとか人生のプライドみたいなものが邪魔で、最低時給のアルバイトで下っ端から始めるのは辛いぞと。次にいけないってことになっちゃうと、この時代を乗り切れないってなっちゃうわけなんですよね。

石井:
私は大企業でB2B業務を担当していましたが、そこから15人のスタートアップに移って頭痛がしましたね。同時にそれは私のスキルが一気に上がった1年間だと思っています。その苦しい環境には感謝しています。毎日頭痛がおきるというのはまさに脳みその成長痛であって、その瞬間ほど深く新しい環境から学んでるものはないと思いますね。あえてそれに飛び込むのは、実は最大のリスクヘッジかつキャリアチャンスだと思います。その前にいた業界の同僚たちが誰もできないスキルをミックス型で身につけることになるので。私は偶然ですが事業開発(新卒の総合商社)+数学(大学の専攻を生かしたAI起業家)のスキルミックスでご飯を食べられています。この異質なミックスもオープンマインドさがなかったら一生事業開発シングルスキルでやってたはずなので。

真銅:
まさに最後のチャンスであるかみたいなところというのは、かなり重要だなと思ってます。それはビジネス的にちゃんと生きていくっていうことも当然ですし、人間として生きていくみたいな文脈でも非常に重要になってくるんじゃないか。これから、そういう力が求められる時代に入っていくのではないかという気配は感じています。

(おわり)

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