先日実施されたPolkadot Decoded 2022の講演でPolkadotのファウンダーであるGavin Wood氏から、Polkadotの新しいガバナンスメカニズム「Governance V2」(以下Gov2)について発表がありました。
正直なところ「ガバナンス」はPolkadotに限らず、ブロックチェーン全体を見渡してもあまりホットなテーマとは言えません。しかし、非中央集権化(権力/所有権/権威の分散化)の名の元に、既存の中央集権的な諸制度のカウンターとして登場したブロックチェーンにとって、「自身のエコシステムがどのようにガバナンス(統治)されているのか」に注目しないわけにはいきません。
そもそもブロックチェーン自身はソフトウェアであり、広く使われていくためには改良をしたり、場合によって新しく登場するアプリケーションの影響によりプロトコルのアップデートが求められます。
つまり、運用を続ける限りにおいて、長期に渡りメンテナンスをし続けなければいけません。そういった技術的更新を特定の管理者が担うのではなく、アップデートの採用条件はなにか、採用方式にどのような設計をするのかという議論をコミュニティ内で行い、議決するという手順を踏むのがブロックチェーンのガバナンスモデルなのです。
現在様々なプロジェクトにおいて非中央集権的なガバナンス制度の取り組み(実験と言っていいかもしれません)が行われていますが、Polkadotは早期からオンチェーンガバナンス(議論、提案、投票をプロトコル自体に実装された機能を用いて行う仕組みで、経緯が全てチェーン上に記録されるため透明性が高い)を採用しており、ブロックチェーン業界の中でも先進的な取り組みを進めています。
ガバナンスやPolkadotの詳細な内容については(「初学者のためのPolakdot入門」をお読み下さい)
今回の講演ではGov2によって現在のGov1が抱える課題いかに乗り越えるかの具体的な方法と、Polkadotの目指す非中央集権的ガバナンスについて、非常に示唆に富んだビジョンが語られています。
本記事をご覧いただき、一人でも多くの方がブロックチェーンのガバナンス理解とPolkadotの更なる魅力を発見することに繋がれば、幸いです。
*本記事をお読み頂く前に
本記事の内容は私(KumaGorow)が講演内容をまとめ、Polkadotに馴染みのない方でも理解していただけるように加筆・編集しています。講演内容等に関する質問はPolkadotのDiscordやGavin Wood氏のHPなどへお尋ね下さい。翻訳の著しい不備や事実と異なる記載があれば、Twitterアカウントまでご連絡いただけると幸いです。また、記載している情報は全て記事公開時の情報です。最新情報については各種SNS、HPからご確認ください。
そして本記事はあくまで情報のシェアであり、投資助言ではありませんので、実際に利用される際にはDYOR(自分で調べて判断)にてお願いします!
目次
・Gov1の課題
・Gov2のビジョン
・提案の属性を決める「Origin」と「Track」
・投票の評価基準「Support」と「Approval」
・如何にしてガバナンス参加者を増やすか
・フェローシップ制度の導入
・Gov 2の導入時期
・まとめ
Gov1の課題
本講演はブロックチェーン上の意思決定方法という範疇に留まらず、新しい非中央集権化したガバナンスのあり方を模索する上で非常に刺激的な内容でした。
講演はGavin氏の問題提起から始まります。
<現在のGov1の問題点>
・提案開始からレファレンダム(referendum)を通過するまで約2ヶ月以上と、時間がかかる
・レファレンダムの投票は1つずつ実施され、評議会(Council)とコミュニティの案を交互に議決する
・提案してもレファレンダムによる議決まで到達でき無いケースも
実際のガバナンスの場面において、投票の対象は様々です。
あるものは各パラチェーン間のHRMPチャネルの開通についてであったり、あるものはランタイムアップデートに関するものであったり、またあるものはエコシステムのTreasuryを流動性供給に使用する案であったりと、多岐に渡ります(実際にどのような提案がされているか気になる方はこちら)。
全ての提案が可決されるわけではなく、もちろん最終的には投票によって決まります。ですが、もし提案の中に悪意を持ったものやエコシステムに悪影響を及ぼすものが含まれていた場合、どのようにして防ぐことができるのでしょうか?
提案から議決、実行までは全てオンチェーンで実施され、議決を通過した場合には誰にも止めることはできません。
ここでガバナンスに潜むリスクについて考えた場合、直近の事例としてBeanstalkのオンチェーン投票とフラッシュローンの悪用がされたケースについて思い出す方もおられると思います(詳細はこちらをご覧ください)。
ガバナンスにはこのような提案をどのようにして防ぐか、という課題がつきものです。言い換えるなら、発展のために意思決定を早めることとリスク管理のバランスをどのようにとればいいのでしょうか?
現在のPolkadotのGov1はこのような課題意識から、評議会や技術委員会を設置し、提案から実行までのプロセスに時間をかけ、時には悪影響を及ぼす提案は取消ができる権限を持つなど、なるべく熟慮する機会と安全性を担保する機関を設けることでガバナンスのセキュリティを高めようとしています。
しかし、それを踏まえた上で「現行の制度下では提案から実行までに時間がかかりすぎており、一度に一つずつしか扱うことができず、提案によっては最終的なレファレンダムへ到達することができないものもある」として、更なる非中央集権化、開かれたガバナンスへと作り替えようというのがGavin氏の提案なのです。痺れますよね。
では具体的にどのような解決策なのでしょうか?続けて見ていきましょう。
Gov2のビジョン
・あらゆる提案のために、レファレンダムを開かれたものに、投票する人々の意思を尊重ために。ガバナンス参加への障害を取り除く
・レファレンダムの実施には制限を設けず、必要があれば同時に全ての投票を可能に
・評議会と技術委員会の解散により更なる非中央集権化へ
過去にも「評議会や技術委員会のような組織があることは中央集権的ではないか」との批判を受けることもありました。
個人的にはプロジェクトの立ち上げからいきなり完全な非中央集権的組織を運営するのは不可能(できてもエコシステムの開発が遅々として進まないので発展しない)だと考えており、ある時点まで評議会という形の代議員制度を用いるのは避けられないと考えています。
しかし、Gov2ではこの評議会と技術委員会を解散し、全ての参加者が全ての提案のプロセスに関わることとなります。
また、これまで評議員が承認を行なっていたTreasury(Plkadotのエコシステムに貢献する活動に対して財源を支出する機能を持ち、コミュニティの代表者である評議会=councilの投票によって提案が採択され、残額は定期的に焼却される)の管理についても、全てのDOTホルダーによる投票=レファレンダム形式で採択を行うことになります。
ですが、一度に全員から無制限の提案ができるようになり、それを今まで通りの方法で対応するとなると、エコシステムに害を及ぼすものばかりが寄せられる可能性が高まります。それはまるで空から降ってくる無数のミサイルを防ぐようなものだとGavin氏は述べます。
ではどのようにして非中央集権的で、スピーディーでありながら、セキュリティの高いガバナンスを実現できるのでしょうか?
Gavin氏はここで投票のメカニズムに「柔軟性」を持たせる仕組みについて説明します。
これまでのレファレンダム投票はどの提案に対しても同じ期間、同じサイクル、同じ可決基準を設けてきました。
提案内容が何であれ、重要度に差があっても、一律の基準で議決されてきたのです。
これに対し、Gov2では
・提案の重要度は様々であり、比較的影響の少ないものは短い期間での意思決定を行い、可決に必要な投票の基準値を低くする
・重要であったりエコシステムに与える影響が大きいと予想されるものに対しては慎重な検討期間を設け、可決に必要な投票の基準値は高くする
という柔軟な仕組みを構築しています。
例えば、「エコシステムへの貢献を評価し、TipsとしてAさんにTreasuryから10DOT送る」
このような提案は重要度が高いとは言えず、エコシステムに対する影響は大きいとは言えません。この場合、検討期間は短く、可決のための基準値は低く設定されます。
一方で、「ランタイムアップデートを行い、ブロック生成時間を変更する」という提案はどうでしょうか。このような提案に対しては議論にかける時間も、投票を受付ける時間も、可決のための基準値も先ほどの提案とは比べ物にならないでしょう。
このように、提案が同時多発的に発生したとしても個別の重要度に応じて対処することができるのです。
提案の属性を決める「Origin」と「Track」
投票メカニズムに柔軟性をもたらすことで、高いセキュリティと素早い意思決定の両立ができることはわかりました。ですが、どのようにして一つ一つの提案が重要であるかを判断し、オンチェーンガバナンスに反映するのでしょうか?
ガバナンス参加者の代表者とも言える評議会はGov2ではおらず、キュレーターのように提案の重要度をランク付けしてくれる人は誰もいません。
そこで登場するのが、「Origin」と「Track」です。
まず、全ての提案の重要度は決して均一ではない、という事実に注目しましょう。Gov2における提案の内容は様々です。
提案の属性を決める「Origin」
ガバナンス参加者が提案を作成する際、提案で何を実行したいのか、TreasuryのProposalを使用したいのならばどれほどの資金が必要なのか等、様々な情報を記載をします。
その際に、提案者は最も適切なOriginを選択する必要があり、このOriginが提案の性質(属性と言ってもいいかもしれません)を決めるのです。
例えるなら、OriginはUNIXのパーミッションに似ています。提案にはroot権限のような強い権限を要求するものから、Treasuryの資金から10ドル送金するといったものまで様々なものがあります。提案者は内容に応じてOriginを選択することにより、プログラム上でその提案の重要度が判断される仕組みになっているのです。
Originを乗せる「Track」
Originを選択すると、その提案は個別の「Track」に乗ります。
Trackは様々な性質があり、どのTrackに乗るかによって下記のパラメーターが選択されます。
・Lead-in期間
提案を宣言してから実際に投票を開始するまでにどれだけ時間をかけるか
・Conformation(計測)期間
レファレンダムの投票開始後、連続して基準値を超え続けなければいけない計測期間(後述)
・同時に投票できるreferendumの数
エコシステムへの影響が大きい提案は同時に投票できる他の提案の数を制限することができる
つまり、提案の属性=Originを選択することで、提案は各Trackへ振り分けられ、それぞれの性質に基づいた投票プロセスへと進んでいくのです。
投票の評価基準「Approval」と「Support」
提案の重要度がどのように決まるかわかったところで、次は提案が投稿されてから可決されるまでのプロセスについて見ていきましょう。
*そろそろ読むのに疲れてきたかもしれませんね。でもOriginから連なる一連のデザインこそが「Gov2の真髄」と言ってもいい程、素晴らしいメカニズムなのです。もうちょっとだけ、お付き合いください。
1). レファレンダムの作成
提案者が提案を開始する期間。誰でもいつでも何度でも提案ができ、spamを防ぐ程度の少額な保証金を支払うだけで、提案することができます。
提案後に、実際に投票に入る前の3つの準備段階を経る必要があります。
・追加の補償金の支払い(提案者だけで無く、誰が支払っても良い)
・TrackのLead-in期間の終了
・Trackに基づいた計測期間の決定
この3つが完了すると次のプロセスへと移ります。
2).Deciding期間
実際に投票されるプロセスです。単純な過半数投票ではなく、特殊な計算方法に基づいて計測されます。
提案が可決されるには、投票が行われる28日間のうち
①ApprovalとSupprtという設定された基準値を
②Trackに基づいて定められた指定の計測期間を連続してクリア
しなければなりません。
例えば、ある提案の計測期間が2日間であれば、投票を行っている28日間のうち基準値を2日間クリアし続ける必要があり、もし計測期間のうちに一度でも基準値を下回ると再度やり直しになります。なので、提案によっては可決するまでに計測期間のカウントをスタートしてはやり直しになり、またカウントを始めてはやり直しになったりと、何度も行ったり来たりすることもあるでしょう。
繰り返しますが、投票で計測するのは総投票DOT数に占める賛成DOT数という単純なものではなく、また過半数の賛成票を獲得すれば可決する訳ではありません。
では、一体何を、どのように計測するのでしょうか?
ここで登場するのが「Approval」と「Support」という評価基準で、レファレンダムを通過するにはこの2つの基準を同時に満たす必要があります。
①Approval(=支持率)
・投票に使用されたDOTの総数のうち、賛成に使用されたDOTの比率
・conviction *を反映して計算される
(現在のPolkadotにおける投票の計測方法と同じ)
*Convictionとは
投票時にDOTのロック期間を増減すること。Convictionが多いほどロックしたDOTの実際の「投票力」は大きくなり、Polkadotでは最大で896日(KSMでは256日)ロックすると実際に投票したDOTの6倍の「投票力」を持つ。
例1)50DOT×28日ロック(1倍)=投票力 50DOT
例2) 10DOT×896日ロック(6倍)=投票力 60DOT
②Support(≒投票率)
・流通しているDOT総数のうち、投票に使用されたDOT数の比率
・Convictionは無視して測定される
これらApprovalとSupportにはそれぞれ閾値=達成すべき基準値が設けられており、その値は時間と共に変化します。
この機能により、誰もが賛成し、議論の余地がない議題についてはすぐに通過させ、一方で議論が巻き起こるような提案で投票率は高くても支持を得ることができない、または支持は得ているが投票率が低い提案に対してはより熟慮の期間がもたらされます。
つまり、基準値が変化することでガバナンスに柔軟性をもたらし、スピーディーでありながら高いセキュリティを維持した投票制度を構築することができるのです。
ここで、実際にどのような基準値が設けられているのか、実例を見てみましょう。
こちらがSupportの基準値の一例です。Supportは投票開始時点では50%と非常に高い数値に設定されています。
その後、時間が経過すると共に必要なラインは下降していき、より達成しやすくなるのです。とは言えSupportは「投票に使用されたDOT/流通しているDOT」の計算式となっており、投票に参加者がそれほど多くない現状で早期に基準値をクリアするのは至難の技です。
ほとんどのTrackにおいて基準値は0へと収束するため、どのような提案もいずれは可決されるでしょうが、緊急性の高い重要な案件でない限り、ある程度の日数は必要そうです。
続いて、Approvalについても見ていきましょう。
こちらも時間の経過と共に基準値が低下していく曲線モデルですが、こちらは開始時点で基準値が100%と非常に高い初期値になっています。
どのような曲線を描くかは提案のTrackにより決定されており、もっと緩やかな曲線であったり高止まりした曲線になる場合もあります。
ここで、言葉だけではイメージしづらいので、この図を使って実際の投票を想定してみましょう。
白い線が実際の投票で計測されたApprovalの値だと思ってください。通過に必要な計測期間は5日間と仮定します。
(1). この提案は投票開始から3日目にApprovalが基準値を超えました。しかし、全体の投票に占める賛成票の割合が減少=反対票が多く投じられたことにより低下してしまい、基準値を割ってしまいます。この場合、計測はリセットされます。
(2).8日目に再度計測期間を超えました。しかし、再び基準値を割ってしまい、またもややり直しとなってしまいます。
(3). 20日目に再度基準値を超えました。今度は無事にTrackで指定された計測期間の5日間を継続することができましたので、これでApprovalに関してはクリア、となります。
ここで注目すべきは、(3)で達成したApprovalの値は(1)で記録した値よりも低いものである、ということに注目してください。
Gov2においては一般的な投票形式のような「期間終了時に投票数に対する賛成数が過半数を超えているか」を可決基準に設けているわけではなく「時間軸に応じて継続的な支援を得られているか」を基準にしています。
これはつまり「本当に広く支持されていて、時間をかける必要のある提案なのかどうか」を、人の手ではなくプロトコルによって管理しているのです。痺れますよね。
このようにDeciding期間が開始してから、28日が経過するまでにApprovalとSupportの基準値をtrackの定める計測期間の間、同時にクリアした提案が承認され、次の実施準備期間へと進んでいきます。
(28日間で達成できなかった提案はどうなるかというと、もちろん否決されることになります)
3). 実施準備期間
これは現在のGov1でも導入されている機能ですが、投票を無事に通過した提案であっても悪意あるコードが見過ごされていたり、重大なバグが潜んでいる場合もあります。それらの危険が投票での議決後に見つかった時に備えて、この期間が設けられているのです。
Gov2においてはこの期間の長さはTrackにより決まり、場合によっては提案の取り消しや延長が可能となります。
この点についてもTrackという新しい機能を設けることで、スピーディーな意思決定と高いセキュリティという二つの課題を両立させています。
如何にしてガバナンス参加者を増やすか
以上が投票が提案されてから実行までのプロセスでした。
しかし、まだまだGavin氏のGov2への想いは留まるところを知りません。ガバナンスの機能がどんなに優れたものであっても、参加者が全体のごくわずかしかいないのであれば、それは真に優れたガバナンスモデルとはなり得ません。エコシステムの発展とセキュリティを高めるためにはガバナンス参加者の増加が必須なのです。
この課題を解決するための手段として、Delegation=投票の委任モデルについて説明が続きます。
さて、もしあなたが投票に参加したいと思いつつも投票内容について十分な理解ができておらず、正確な判断ができないと感じていればどうすべきでしょうか?
また、投票の有効性については十分理解しつつも、毎回投票に割く時間がない場合にはどうすればいいでしょうか。
このような事態を想定し、Polkadotのガバナンスシステムには「Delegation=投票の委任機能」が備わっており、誰でも信頼できる相手にあなたのDOTを委任して投票を代行してもらうことが可能なのです。
(Gavin氏はこれは非常に先進的な取り組みであり、すべての民主主義国家が導入すべきモデルであるとも述べています)
現行のGov1でも投票の委任は可能でしたが、委任する際には特定の対象(個人または組織)1アカウントに限定されていました。Gov2ではこの委任機能を更にパワーアップさせます。
<Multi Delegation>
v2からは投票の内容(Tipsやアップグレードなど)に応じて、複数の対象に委任が可能になります。
例えばネットワークのアップデートに関する投票はAさん、Treasuryの活用についてはBさん、パラチェーンの拡張に関することはCさんと、それぞれの議題やテーマ、Originに応じて委任する先を変更することができるのです。
<Passive Delegation>
また、Gov2の少し先の開発計画の「Gov2.5」ではPassive Delegationと言って、投票を委任する際に投票者が自分のトークンを使用してガバナンス参加することを認める機能も導入を計画されています。その際のトランザクション費用は「使用した側=委任された側」が持つことになるため、委任する側は委任行為に何の負担も発生しなくなるのです。
このMulti DelegationとPassive Delegationの組み合わせが実現すれば、委任する側は手数料を負担することなくガバナンス参加することができ、投票参加者は自身が信じる提案内容により強い意志表明をすることができます。そしてエコシステム全体を見てみると結果的により多くの意見がガバナンスに反映されることになるのです。
インセンティブ(報酬)の導入
ブロックチェーンでは各Dapps、コンセンサスアルゴリズム、スケーラビリティなど様々なトピックについて議論がされている中で、ガバナンスに対して焦点がなかなか当たらない理由は明確です。
それはガバナンス参加者へ直接的に大きなリターンをもたらすものではないからです。
そこで投票参加者への報酬を導入することについて、明言こそされませんでしたが、何らかのアイディアがあるようです。
Gavin氏自身、この点については賛否両論があり茨の道になるだろうという見解ですが、それでもこの点への言及からガバナンスへの参加者を如何に増やすか?という課題意識を垣間見ることができます。
*補足)
カナリアネットワークであるKusamaでは投票参加者増を目的とした「Gavernance Participation Reword NFT」というプロジェクトがあり、レファレンダム参加者へNFTをエアドロップするという非常にユニークな取り組みを行っています。
私もプロジェクト運営に参加させてもらっていますが、ガバナンス参加に対して報酬を提供するという取り組みが、投票行動やエコシステムのガバナンス意識にどのような影響を及ぼすのか注目しています。
フェローシップ制度の導入
これまでの内容では投票プロセスに柔軟性を持たせることで、高いセキュリティとスピーディーな議決を両立する方法と、ガバナンス参加者を増やす計画について見てきました。
しかし、ネットワークに緊急事態が起きた場合にはGov2はどのように機能するのでしょうか?これはエコシステムに悪影響を与える提案をどの様に防ぐか、という話とはまた別のセキュリティに関する課題です。
まさに緊急事態とも言えるような障害が起きてプロトコルのアップデートが必要になった時、通常の提案と同じ手順を踏んでいては被害はどんどんと拡大してしまいます。
ガバナンスの性質上、最終的にレファレンダム投票は実施されますが、提案から可決までのプロセスをグッと短縮する必要があるのです。
でも具体的にどうやって?
ここでもOriginの出番です。
緊急時の提案に対して、「この提案は安全であり、通常ではない緊急の提案である」という情報を付与することにより、緊急時の提案として扱うことができます。
でも…..どうやって?誰が?
ここで登場するのが本実最後のキーワード、フェローシップ制度の登場です。
フェローシップはネットワークプロトコルについての専門的な知識を持ち、エコシステムに貢献するメンバーによって構成されるオンチェーンのメンバーシップ制度です。
武道の段位のようにランクが設けられており、ランクに応じて必要な要件と達成条件がありますが、誰でも立候補することができます。
立候補者のランク承認もレファレンダムで投票され、オンチェーンに書き込まれます。フェローはKusama/Polkadot兼任で選出され、数百人規模になることが予想されています(ちなみに、Gov1におけるPolkadotの評議会メンバーは最大24名です)。
フェローにはそれまでの評議会や技術委員会と比べて、事前にレファレンダムにかける提案を選んだり、提案を取り消したり、Treasuryの承認を行うと言った権力は一切ありません。
できることはただ一つ。
「特定の提案が安全であり、緊急を要するものである」と宣言し、対象の提案をホワイトリストに登録すること、だけです。
ホワイトリストに登録された提案は独自のTrackに乗り、通常のTrackよりも非常にスピーディーに提案が処理されていくのです。
このように極力権力を持たないフェローシップ制度を導入することにより、評議会と技術委員会は解散してもなお、ネットワークのガバナンスにおけるセキュリティは担保されるのです。これで、最初に挙げたビジョンである、「開かれたガバナンス、非中央集権的でスピーディーな意思決定、高いセキュリティ」を見事に実現しているのです。
Gov2の導入時期
まずはカナリアネットワークであるKusamaに実装されます。開始時期は明言されませんでしたが、「夏の間は深入りしない」とのことなので、恐らく年内の導入を目指しているのではないでしょうか。
Gov2が導入されてしばらくの間はGov1と併存します。稼働に問題ないことが確認され次第、Gov1の停止がレファレンダムにかけられ、コミュニティからの承認が得られれば移行が完了します。
まとめ
以上がGavin Wood氏によるGovernance V2についての講演概要となっています。いかがでしたでしょうか。
まだ明らかでない点も多々あり、実際の挙動を見てみないと分からないこともありますが、個人的には新しいオンチェーンガバナンスの形に興奮しています。
私の中で評議会を解散することはとても衝撃的でしたが、悪意ある投票からコミュニティを守るための手段を評議会(authority)から数学的手法を用いたプロトコル(Technology)に置き換えることにより、非中央集権化/意思決定のスピードアップ/高いセキュリティの共存を目指しているGov2は全く想像したことないガバナンスのあり方を見せてくれそうです。
言い換えるなら、共に「初学者のためのPolkadot入門」を翻訳作業したekさんの言葉を借りれば
「Gov1は現実世界の投票システムを模したものだったが、Gov2は完全にブロックチェーンネイティブなガバナンス制度へと移行した」
と表現できそうです。
今後も各種SNSやWikiなどが登場し、Gov2の全容が見えてくるはずですので、是非一緒にワイワイと今後のPolkadotのいく末について議論ができれば幸いです。
もちろん、ある程度情報がまとまればまたわかりやすい形で(そしてなるべく簡潔に)発信を続けていきますので、どうぞご期待ください。
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
参考資料)
本記事執筆に際して参考にした資料の一部です。ガバナンスもっと知りたい!という方は是非。
・ Governance v2 (Polkadot Decoded 2022): Gavin Wood氏
・Polkadot Wiki(Participate in Democracy)
・Governance (from Messari report): Steve Miller氏
・The Crypto Governance Manifesto: Steven McKie氏
・GOVERNANCE: AGE-OLD PROBLEM IN A NEW TECH ERA: Katherine Wu氏
・Conviction Voting- A Novel Continuous Decision Making Alternative to Governance: Jeff Emmett氏
・初学者のためのPolkadot入門: Kumagorow,yoshida2,ek
・Polkadot for Beginners: gbaci氏(各国語版あり)
・Beanstalkのexploitに感動したので半年ぶりにブログ書く: Vividot氏
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