Appleの中国戦略 2016~まとめ

kurago
13 min readFeb 3, 2017

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最近「Apple×中国」系なニュースが多かったので、中華圏(主に中国大陸)戦略がどういう状況なのか整理するために書いてみようと思います。

目次

・2017Q1決算おさらい
・iPhone販売の鈍化
・ハードからサービスへ
・ミニプログラムの出現
・中国政府の圧力
・ローカル資源の不足
・App Storeカード専門ストア開店
・Didiへの戦略投資
・研究センターとオフラインストアの設立
・販売チャネルのローカライズ
・いまのAppleに足りないもの

2017Q1決算おさらい

まず、先日発表された決算内容についてポイントだけ書きます。

http://images.apple.com/newsroom/pdfs/Q1FY17ConsolidatedFinancialStatements.pdf

・企業としての売上高は過去最高

https://arstechnica.com/apple/2017/01/apple-sets-revenue-and-iphone-sales-records-in-q1-of-2017/

・2015年同時期に比べ、売上高は3.33%アップ、純利益は2.71%ダウン

https://arstechnica.com/apple/2017/01/apple-sets-revenue-and-iphone-sales-records-in-q1-of-2017/

・売上の69.4%はiphoneから来ている

https://www.macrumors.com/2017/01/31/q1-2017-results/

・iPhoneによるネット販売高は過去最高

・サービス割合が少しずつ増え、Macのネット販売高と同等

http://images.apple.com/newsroom/pdfs/Q1FY17DataSummary.pdf

・地域別売上高の順位は1位アメリカ、2位ヨーロッパ、3位中華圏と続く

https://qz.com/899509/apples-aapl-q1-2017-earnings-were-massive-and-everyone-loves-the-iphone-7/

・中華圏での売上高は2016年からヨーロッパに抜かれ、3位に下落している

http://uk.businessinsider.com/apple-iphone-sales-china-decline-chart-2016-10

・ここ1年で中華圏での売上高減少が1番顕著である

では、なぜ中華圏(特に中国大陸)での売上が減少してきているかの考察をします。

iPhone販売の鈍化

中華圏における、Appleの売上減少の原因として1番に考えられるのはiPhoneが売れなくなってきている、ということでしょう。

決算資料の売上内訳を見てわかるように年間を通じてiPhone販売がもたらす利益は凄まじいです。また裏付けとして、2014年からAlibabaの運営する中国最大ECのTmallでiPhone販売を開始したところ、その年から売上が急激に伸びています。

https://www.apple.com/pr/pdf/q1fy15datasum.pdf

過去5年間の中国大陸スマホシェア推移グラフをWall Street Journalが出していました

https://www.wsj.com/articles/cheaper-rivals-eat-away-at-apple-sales-in-china-1485924305

こちらは2016Q2と2015Q2の中国大陸のスマホシェア比較表ですが、Appleは1年で5位にランクダウンし、約4%もシェアを落としています。

http://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prCHE41676816

OppoとVivoの這い上がりがすごい・・。

その他の理由としては爱回收(Aihuishou)など、スマホ買取の中古プラットフォームの出現も影響しているかと思います。

ただ現地で暮らしていても、最近iPhoneを使ってる人はあまり見かけなくなってきた気がします。

ハードからサービスへ

前回の2016Q4決算では、サービス分野の売上高がiPhoneの次に大きく、全体の24%を占めていました。

サービス分野:デジタルコンテンツ、サービス、AppleCare,、Apple Pay、ライセンスとその他。

またそれは年々増加傾向にあります。

http://marketrealist.com/2017/01/will-apples-services-segment-continue-to-drive-revenue-in-1q17/

以下がMacquarie ResearchのBen Schachterによる予測です。

いまから2021年まで、Appleのサービス売上高の年次成長率は約17%で、ハードは年次成長率約2.4%であると予測する。そのうち、App Storeは約30%の成長率をキープするだろう。

また、先日公開されたApp Annieのレポートには、

(中国は)iOS App Storeの収益で最大の国になっただけでなく、収益の成長率も非常に好調であった2015年の実績を上回りました。

と記載があり、中国でのサービス分野(特にApp Store)は盛り上がっているといえるかもしれません。

しかし、そんなAppleも数々の問題に直面しています。

ミニプログラムの出現

ジョブズが初代iPhoneを発表をしたあの日から、10年後の2017年1月9日にTencentはWeChatプラットフォーム上で使えるウェブアプリ、ミニプログラムを公開しました。

ユーザーはApp Storeやその他アプリストアからダウンロード・インストールをすることなく、タクシー配車やEC買い物、ニュースサービスなどを利用できます。

ミニプログラム選択画面

またミニプログラムというその名前の裏には、Appleがアプリという単語を使わせなかったという理由が噂されています。サービス分野からの売上が減ると危惧したのではないでしょうか。

公開直後はやはり、「TencentがAppleに真っ向勝負」というようなニュースでネット界が盛り上がりました。(Tech in AsiaTech Crunch

ただ公開から3週間たった現時点でも中国人のミニプログラムへの認知度はかなり低く、ほとんど使われていません。(ミニプログラムの現状についてはこちらに書きました)

中国政府の圧力

Appleは2016年4月、中国規制当局からの圧力で書籍および映画のオンラインサービスを停止しているほか、2017年1月にはNYタイムズの中国語・英語アプリも削除しています。

ローカル資源の不足

Appleは中国大陸で会社を構えていないので、現地の習慣に対応できないことが多々あります。

たとえば2015年に中国へ進出したApple Musicではサブスクリプション価格を各国に比べかなり安く設定しているのにも関わらず(10元/月)、77%がTencentのシェアとなっています。(QQ Music、Kugou、KuwoがTencentの傘下サービス)

Tencentによると、勝因は現地ローカル楽曲などの発掘や取り込みにあるといいます。

http://www.businessinsider.com/tencent-holdings-threatens-apple-music-and-spotify-in-china-2017-1

また、2017年1月6日にApple StoreとTmallで同時に開催された、Beatsイヤフォンキャンペーンも「黄牛(転売屋)」対策をしなかったため、無残な結果に終わってしまいました。

http://mt.sohu.com/20170107/n478044271.shtml

では、Appleの中国戦略についてです。

App Storeカード専門ストア開店

中国でiPhoneが売れなくなってきている中、Appleにはサービス市場がとても魅力的に見えているはずで、そこを押さえたい気持ちからか、2017年1月9日にはTmallにApp Storeカード販売の専門ショップをオープンしています。

ミニプログラムの発表と同日なのは偶然なのか、はたまた被せてきたのか、それは定かではありません。

これはニュースとしてあまり取り上げられてなかった気がします。

Didiへの戦略投資

Appleは2016年5月、中国の配車サービスDidi Chuxingに10億ドル(約1,080億円)を出資しました。

Appleにとって中国インターネット企業への投資は初で、ティム・クックは以下のようにコメントしています。

ディディは中国のiOS開発者コミュニティから生まれたイノベーションのお手本、ディディが築いた事業や同社の優れた経営陣に極めて強い印象を受けており、彼らの成長を支援することを楽しみにしている。

またこれに対して世間では、中国での「Apple Pay」の普及促進や、開発中とされる電気自動車の潜在的な顧客獲得、Didi株主であるAlibaba/Tencentと距離を近づけるためではないか、などといった推測がなされています。

ただApple PayはまだDidiに未対応です。

研究センターとApple Storeの設立

現段階で深センと北京で研究センター建設が進んでおり、優秀な中国人材を雇い、Appleのハードウェア・ソフトウェアの研究開発をしてもらう目的のようです。

また、Apple Storeは中華圏に既に55箇所存在しており、アメリカやイギリスに継ぐ規模になります。(中国大陸単体では46箇所)

http://www.weibo.com/timcook

販売チャネルのローカライズ

AppleはTmallにて、中国ECで取引量が最も多い2016年11月11日「独身の日」セールに初参加し、ハイブランドスマホの中でトップの販売量を記録しました。

http://www.southmoney.com/shouji/paihang/201611/870236.html

またApp StoreでもAlipay決済を導入し、ローカルユーザーに寄り添った対応を進めています。

http://jingyan.baidu.com/article/925f8cb8cfd501c0dce0567b.html

いまのAppleに足りないもの

Appleは中国市場を狙うにあたって、分野ごとにパートナーがいます。例えば、制造ではFoxconn、データセンターはInspur、オンライン販売はAlibaba、モバイル分野ではChina Mobileといった名立たるパートナーです。

しかし、研究開発からマーケティング、販売までサポートしてくれる戦略パートナーは存在していません。もしローカルの戦略パートナーを探すとしたら、AlipayやTmallといった事例で提携をしたAlibabaと組む可能性が高いのではないかなと思います。

ジョブズが一度も足を踏み入れることがなかった中国大陸ですが、ティム・クックは昨年だけで3回も来中しています。

またこれで過去来中回数は合計10回に達しており、中国をいかに重要視しているかが分かります。

2017年もAppleの中国戦略に注目したいと思います。

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