シビックテックの歩き方(ガイド)

Miley Takesada
Code for Japan
15 min readOct 16, 2020

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Code for Japan Summit 2020が10/17,18に開催されます。サミットに初めて参加する方にも活用いただきたく、Code for Allが掲載していたガイドをCode for Japan有志コントリビューターで日本語版に翻訳させていただきました。

この文章は、 Code for All Medium の記事の日本語版です。

私たちが時間をかけて集めてきたいくつかのアドバイスや、グローバルなシビックテックコミュニティで活動している人々の意見を参考にして作った、この分野で活動を始めようとしている人たちを助けるためのアドバイスをご紹介します。

Why now? - なぜ今か?

2017年9月、壊滅的な地震がメキシコの複数の州を震撼させた後、メキシコのシビックテックコミュニティには、災害対応を改善するための活動に協力したいというボランティアがたくさん集まりました。

今日、COVID-19に対するシビックテックの対応への貢献に興味を持った人々が、同様に、このボランティア活動に流入してきています。

また、私たちが皆、同じような葛藤に直面している時期に、これだけ多くの、自分たちの地域社会と世界中のコミュニティの両方を改善することに興味を持っている多くの新しい人々と(オンラインで)出会うことができ、大変嬉しく思っています。

この記事は、シビックテックの領域に飛び込む人のための役に立つガイドであると同時に、参加するすべての人(それがCOVID-19のためであるかどうかには関係なく)をひろく歓迎するためのものです。

それでは、始めましょう。

What exactly is civic tech? - シビックテックって具体的に何なの?

私は人から、「何をしているの?」と聞かれるたびに、「シビックテックとは何かを、どうしたら上手く説明できるだろうか?」といつも考えています。

これまでのところ、私が会ったシビックテックが何かを知っている人は、すでにシビックテックに触れたことのある人でした。私たちコミュニティは、言葉を定義することだけでも、多くの時間を費やしてきました。ここで私は、まずシビックテックとは何かを説明するために最善を尽くしたいと思います。
シビックテックとは、簡単に言えば、社会にポジティブな影響を与える技術のことですが、それだけには留まりません。
シビック・テックとは、シビック・イノベーション・ツール(より民主的で透明性の高い、人々を中心とした政府を作るのに役立つツール)を作ることで、ツールそのものだけではなく、そのツールが作られるまでのプロセスにも関係しています。

その重要な要素の一つは、例えばそのツールを使うことになる人が、そのツールの作成に関わることです。もう一つ重要な事は、それに関わる人が技術者である必要はなく、テクノロジーの知識がなくても参加できるということです。
私たちのグローバルなシビックテックコミュニティは、ソフトウェア開発者、ユーザーエクスペリエンスデザイナー、政府職員など、さまざまな職業や経験を持つ人々で構成されており、誰もが参加することができます。
すべての人を助けるツールを作るためには、多様な能力や視点が必要なため、異なるバックグラウンドや能力を持つ貢献者のつながりを持つことは、非常に貴重なことなのです。

では、ガイドに移りましょう。

Another one bites the dust.

How will this guide help? - このガイドはどのように役立つか?

シビックテックプロジェクトの多くは失敗しますが、これは必ずしも悪いことではありません — 例えば、この記事の洞察のほとんどは、失敗したプロジェクトから学んだ教訓から生まれたものです。
失敗には常にポジティブな面もありますが、あなたが既に私達が遭遇したような落とし穴を避けるためのお手伝いをして、シビックテックの取り組みをゼロからやり始める必要がないようにしたいと思います。
すべてを知っているわけではありませんが、私たちが時間をかけて学んできたことをいくつかご紹介します。

Common challenges - 共通課題

1. 政府と技術の間の壁

  • テクノロジー分野で働く人と、政府や市民社会組織(CSOs)で働く人の間には、断絶があります
  • テクノロジー企業には政府や市民社会組織の文脈を理解するのに困難がありますし、政府や市民社会組織は、テクノロジーに対する理解度は高くありません。
  • 幸いなことに、シビックテック関係者の間では、この誤解を和らげようとする努力がなされていますが、まだ長い道のりがあります。

2. 技術が全ての答えであるという思い込み

  • プロジェクトが技術的な要素だけに頼っており、政治的/社会的/経済的な文脈を理解していない場合、そのプロジェクトは対象となる人々に採用されたり、使用される可能性は低いと言えます。
  • このような複雑な問題を解決するには技術以上のものが必要であり、テクノロジーが複雑な社会問題に対する完全な答えになることはありません。
  • 社会的課題は高度に政治化され、複数の利害関係者が関与する傾向があります。これらの問題は非常に複雑であり、動きまわる標的のように振る舞います。問題の一部を解決したからといって、それだけで問題の全てを解決できるわけではありません。

3. プロセスではなく製品に焦点を当ててしまう

4. 役に立たない製品を作ってしまう

  • 役に立たない製品とは、何の問題も解決していない、あるいは全く必要とされていないものです。
  • 大抵の場合、意図は素晴らしいのですが、そのコミュニティに対して役に立たないツールを作ってしまうことがよくあります。たいていコミュニティが開発プロセスに関与していない場合に起こります。
  • 調査によると、技術ツールを選ぶ前にユーザーリサーチを行っているシビックテック組織は少数派で、潜在的なユーザーへのユーザーテストを実施している組織はさらに少数派でした。

5. コミュニケーション不足

  • 透明性と明確なコミュニケーションが欠如していると、ツールが公開された後に混乱を招く可能性があります。
  • エンドユーザーがツールが何をするのかを実際に知らなかったり、ツールの目的や人々の生活にどのような影響を与えるのかが明確でなかったりすると、ユーザーを巻き込み、ツールによって本当の意味での影響を与えることが難しくなります。

6. 山積する資金調達課題

  • シビックテックツールの資金調達構造は、しばしば柔軟性に欠けたり、非現実的、あるいは持続不可能なものになりがちです。
  • プロジェクト実施中にも発生する不確定な要素が多く、プロジェクトを設計する際に明確な予算を確保するのは容易ではありません。
  • また、一般的に政府の技術調達は開始日と終了日が決まっている「案件」として資金提供されることにも注意しなければなりません。これは、バグを修正したり、ユーザーからのフィードバックに応じて改善したりするためには、技術的な資金提供を継続的に受ける必要があるという現実とは一致しません。

7. 連携の弱さや不明確さ

  • 明確なコミュニケーションや期待値、相互理解がないパートナーシップや協働は、期待値のずれや、協働の崩壊につながる可能性があります。

8. ボランティア支援の限界

  • シビックテックプロジェクトでは、プロジェクトに完全にコミット(責任を持って深く関わる)しないボランティアが多く見られます。多くの場合、外部の事情(普段フルタイムの仕事をしておりそちらを優先しなければならない場合など)でプロジェクトが中止されてしまいます。そのため、長期的にプロジェクトを成長させ、維持していくことが難しくなっています。
  • 所得水準の低い国では、ボランティア活動には大きな機会費用(ボランティアに関わることで生活費を稼ぐ時間を失ってしまう)がかかります。

9. 活動の重複

  • 既存のプロジェクトを見つけたり、参加したり、複製したりするよりも、新しいプロジェクトを始める方が簡単です。そのため、市民技術では「車輪の再発明」が多く行われています。
  • また、政府の手法では通常、コンポーネントの再利用や再利用のための構築は見向きもされませんので、政府との共同作業を行う場合、適切な再利用を実現するには相当な努力を要するでしょう。

私たちが勧めること

1. シンプルにしよう

  • 手順やメッセージはできる限りシンプルにしましょう。
  • できるかぎり専門用語を避けましょう。それができないときは、なじみのない用語を説明するようにしてください。
  • できる限り多くの人々があなたのやっていることを理解し、参加できるように、物事をシンプルにしましょう。

2. 誰かのためにではなく、一緒に作ること

  • 人々に何が必要か尋ね、デザインに参加してもらい、テクノロジーを使う能力を評価しましょう。
  • ツールを異なるグループで何度もテストしましょう。ユーザーが直面する可能性のある問題を特定するために、一般公開する前の早い段階でテストを行いましょう。
  • 現場で活動している組織やコミュニティグループに焦点を当て、取り組んでいる問題の事情や背景、複雑さを理解しましょう(詳しくはこちら)。
  • しばしば抑圧されたり無視されたりする人々と関わるために特別な努力をしましょう。もっとも声を聞いてもらう必要があるのはそういった人々です。
  • あなたがツールを使うことができるからといって、他の人々が同じようにできると思い込まないようにしましょう。

3. 明確なパートナーシップとコラボレーション戦略を持とう

  • すべてのパートナーがプロジェクトに対する自分の役割、責任、貢献を最初から明確にするよう、提携の方法をを定義し、または形式化しましょう。
  • どのようなコラボレーションにおいても、すべての関係者が期待されていることを理解することが重要です。共同作業を始める前に、契約書や共同作業文書に期待することを記載しておくと良いでしょう。
  • これはコラボレーションドキュメントの例であり、Code for Australiaが(私たち)Code for Allとのコラボレーションに関して作成したものです。

4. 他者から学ぼう

  • 開発された同様のツールを探索し、過去の経験と現場でコラボレーションした人々から新しく学んだことを統合しましょう。
  • プロセスを繰り返し、適応させることが鍵です。できる限り既製のツールを使って製品を構築しましょう。
  • Code for All Slackにアクセスし、アドバイスやリソースを提供してくれるかもしれない世界中の人や国内の人を見つけましょう。

5. 誰も見捨てないこと

  • ツールを作成する間に取り残される可能性のあるすべての異なるグループのことを考えましょう。認識が鍵です。
  • すべての市民(および外国人や滞在者)を会話に参加させるための強力な戦略を開発しましょう。コミュニケーションが鍵です。
  • ツールとテクノロジーの社会化とリテラシーが必要です。
  • 人々がいる場所で出会い、コミュニティのレベルに合わせて手を差し伸べることが重要です(例えば、コミュニティのメンバーにGitHubのような技術的プラットフォームを使って話をするように求めないこと)。
  • すべての人々がデジタル空間にいるわけではないことを忘れないようにしましょう。オンラインでの取り組みをオフラインの戦略で補完し、人々がプロセスに参加できるようにしましょう。

6. 資金調達は長期的に考え柔軟に対応しよう

  • 予算を作るときには、長期的に起こりうるすべての要素、外部要因や追加的な変化を考慮しましょう。
  • 柔軟な資金調達戦略を作り、常に資金提供者と交渉できるようにしましょう。
  • 持続的で十分な資金がない場合は、新しいツールを使い始めないようにしましょう。

7. 誰にどんなことをしてもらいたいのか明確にしよう

  • そのプロジェクトであなたが果たすべき役割を把握・定義し、参加者は流動的であることを理解しておきましょう。
  • 「だれもが技術的視点を持つ」という前提に立ちましょうーコラボレーション、ユーザーエンゲージメント、小規模で定期的にテスト可能な環境をつくる事が、スキルや経験よりも重要だという考え方を持ちましょう。

8. 常に適用していくこと

  • 多くのシビックテックツールは、ローカルな市場向けに作られた新しいアプリケーションであるため、一般の人々がどのように反応するかを予測するのは難しいです。
  • 創造的にユーザーのフィードバックを収集し、定期的に収集し、それに耳を傾ける方法を考え、必要な変更を行いましょう。

さらに前へ

シビックテックの世界の素晴らしさでもあり、時にフラストレーションでもあることの一つは、仕事に終わりがないことです。複雑な社会問題に取り組むことになると、常に学ぶべきことややるべきことが増えていきます。上記の情報は、始めるための足がかりに過ぎず、今後も継続して取り組んでいき、追加し、適応させていきます。
シビックテックを始めようとしている人たちに何かアイデアやアドバイスがあれば、ぜひCode for All Slack の議論や このドキュメントの編集 を通じて教えてください。その他の参考情報は、この記事こちら、またはこちらをチェックしてください。
そして、もしあなたが女性でシビックテックの世界に飛び込んでいるのであれば、とても素晴らしいGrace O’Haraの洞察を読んでみてください。ここで挙げたコンセプトに対し、時間をかけて貢献してくれた人たちに感謝の意を表します:

Lina Patel, Alvaro Maz, Lia Milito, Christopher Whitaker, Khairil Yusof, Sheba Najmi, Micah Sifry, Krzysztof Madejski, Laurenellen McCann, Grace O’Hara, Carl V. Lewis, Adriana Spulber, Lynn Fine, Greg Bloom, Matt Sawkill, Sofía Corona, Kelly Halseth

いかがでしたか?

10月はCode for Japan Summit(1年に1度)が、12月には台湾のg0v Summit(2年に1度)が開催されます。7月には台湾のg0v、韓国のCode for Korea、私たちCode for JapanのメンバーもいくつかのセッションでCode for All summit 2020のセッションでも私たちの取り組みについて話しました。

実際にここに書いてあることは、わかっていても実践が難しいことや、困難に直面したときに余裕がなくなるとできなくなってしまいそうなことも掲げられています。

それを諦めず、みんなで少しずつ、前を向いてチャレンジし続けていくこと、失敗してもまたそれを互いに共有しながら励まし合って取り組んでいくこと、お互いに敬意を持って接しながらコミュニティを枯らさず大切にしていくことが、まず一歩私たちができることでもあります。

Code for JapanのSlackには現在4,000人近い参加者(コントリビューター)が入ってくれています。みんなで挑めばできることは沢山あるはず。まず参加して、自分の関心ごとに近いプロジェクトや、それに興味を持って取り組んでいる仲間との出会いを体験してみてください。

あなたの参加を楽しみにお待ちしています!

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Miley Takesada
Code for Japan

I’m a PhD student of child development and community manager of Code for Japan. ex-LITALICO https://www.code4japan.org/ https://litalico.co