SalesTechの進化から読み解くSaaS進化の系譜

Masayuki Minato
8 min readMay 25, 2017

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heinzmarketing.comより

CRMを中心としたSalesTechは、企業のトップライン向上に直接効く領域のため、古くから企業での導入が進んでおり、レガシーなマーケットに見られがちだ。しかし実際は、二ケタ成長を続ける高成長マーケットだ。

この成長をドライブするのは、Salesforceを中心とした SaaSの普及はもちろんのこと、現場が使いやすくサービスが進化し続けていることに尽きる。その点でSalesTechは、SaaS普及後でも、どのようにサービスを進化させられるのか、を考える上で非常に面白い材料だ。前回の寄稿に近いが、今回はSalesTechを実例に、SaaSの進化の系譜を考えてみたい。

成長を続けるSalesTechマーケット

まずは、CRMを中心としたSalesTechの市場を簡単におらさらいしてみよう。米Gartner社の予測では、SalesTechは過去5年間で+15%で成長し、2017年に約4兆円(365億ドル)に到達すると見られている。

この成長の中で大きく変化したのが、言わずもがなオンプレ→SaaSへのシフトだ。下図の通り、2008年では12%足らずだったSaaSの普及率は、2016年には87%まで広がり、既にSaaSは業界のスタンダードと言っても過言ではない状況になった。

未だ活況を呈するSalesTechスタートアップ投資

この巨大×高成長のマクロ環境にあって、スタートアップ業界にも未だに投資が集まっている。2012年には約200件に対し、4億ドル足らずの投資額は、2016年では400件超、約50億ドルまで投資が膨らんでいる。特に、シード/アーリーステージのスタートアップも案件ベースで70%近くを占めており、未だにSalesTech領域の起業が多いことが判る。

では、どのようなサブ領域で投資が集まっているのだろうか?以下のCBInsights社のカオスマップをベースに見てみよう。

各サブ領域での累計投資額で見てみると、以下の通りだ。

投資が集まる領域は、CRM、営業の効率化/セールスサイクルの短縮にフォーカスしたSales enablement & acceleration(営業効率系) 、カスタマージャーニーを起点にサービス設計しているCustomer Experience(顧客体験向上系) がトップ3の領域だ。しかしここで注意が必要なのは、CRMの調達が押し上げており、特に活況な領域は、営業効率系、顧客体験向上系に絞られる。続いて、データ分析とBIを提供するIntelligence&Analytics(解析系) 、コミュニケーションに特化したContact&Communication(顧客接点系) $と投資が集まっている。

各領域を見ていく中で、どのようなSaaSの進化をしているか?ざっくり言うと、以下の4つがキーワードになっている。(各サブ領域の主なスタートアップ企業の概要はこちら

#1 モバイル・ファースト
SalesTechの場合、情報のインプットをするのは現場営業のことが多い。その点では、特にモバイルにフィットしたUI/UXとフィット感がある
例) CRMではBASE社,やInstantly社、フィールドセールスの営業効率系の中国Fxiaoke社

#2 複数のCRM連携(いわゆるバンドリング系)
USではSaaSを使うのが当たり前になっている中、1企業内で様々なSaaSを導入しているケースが多い。その中で、バンドリングするサービス提供も機会が多い。
例) 800社以上のソフトのオンライントレーニングを行う顧客体験向上系のWalkme社や、CRM上でのセールスコーチングをするCafeX社

#3 業界特化
営業プロセス/サイクルは業界によって異なるので、汎用では現場が使いにくい→使われない→結果が出ない、とうまく浸透しないケースも出てくる。そこで業界に特化したプロダクトのニーズも出てくる。
例) コールセンター改善のGenesys社や、インフラ/保険業界に特化したVlocity社

#4 AI活用
最後は、SaaSで情報がたまってくると、見える化だけでなく、今後どの顧客が、いつ、何の製品のニーズが高まるか、など未来予測を機械学習を活用して営業の最適化するサービスも多くなる。
例) 営業効率系で販売予測・セールスの行動レコメンドをするInsidesales.comや、大手戦略コンサルのマッキンゼーが投資している営業/代理店の行動分析をする解析系のafiniti社

(参考)SalesTechにおけるモバイルSaaSの効果

SalesTechの領域では、モバイル活用の効果が売上アップに直結することが実証されている。下図の通り、未だPCベースでのSalesTechの活用が主流だが、モバイル活用も約半数まで増えている。Gartner社の調査結果によると、モバイル利用の営業のノルマ達成率は65%と、PC利用の場合に比べて圧倒的に高い。

SalesTechから読み解くSaaS進化の系譜(仮説)

上記のSalesTechのスタートアップへの投資動向やプレイヤー特性から、SaaS進化の系譜を考えてみたい。仮説も多分に含まれているし、出現の順序は並行して起こっていると推察されるが、私の考えは以下のステップで進むと思う。

Step 1: 紙/エクセルから汎用オンプレによるデジタル化
・フロントが属人的に管理していた情報を、同じフォーマットにデジタルでの販売管理が進む

Step 2: Horizontalな汎用SaaSへのリプレイス
・オンプレCRMに見るような、業界共通の最大公約数的なSaaSが広がる
・行指標となる営業行動と結果指標となる売上の見える化が進む
・結果、(使いこなせる)ユーザーでは、適切な打ち手が打て、売上増の効果が出る

Step 3: 汎用SaaSの課題を解くSaaS/サービスの出現
・汎用SaaSは、特定のユーザー業界の行動特性に合ってなかったり、
ITリテラシーが低い業界では進みにくかったり、といった課題が出てくる
・ そこで、顧客特性に合わせて、以下3タイプのサービスの出現する

― 業界特化型SaaS

― 複数のCRM連携:汎用SaaSと連携したサービス/MicroSaaS

― モバイル-ファーストSaaS

Step 4: “見える化”から、より深い顧客課題の解決を促進するSaaSの出現
・営業実態が”見える化”が進む中で、より売上を増やすには、どのような行動をとるべきか、打ち手の構築がユーザー側のチャレンジとなる
・そこで、より踏み込んで、フロント、または顧客視点で打ち手につながりやすいSaaSが出現する

― 営業効率化系SaaS

― 顧客体験向上系SaaS

Step 5: 未来を予測し、行動をレコメンドするAI活用型サービスの出現
・SaaSが普及すると、蓄積された過去の行動/販売データから、未来を予測するニーズが出てくる
・そこで、機械学習を活用した未来予測と行動のレコメンドによる、積極的なソリューション提供が進む

実際には、上記のステップ通りではなく、SalesTechが急速に広がる中で、同時並行的に出てきている(特にStep 3と4)。こと日本においては、CRMも含め、SaaSの普及もまだまだで周回遅れであり、まだまだスタートアップが闘う予知が大きい。そのため先を見越して、日本のB2Bに向けてSaaSをどういう進化をさせるか、考えるべきトピックではないだろうか。

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Masayuki Minato

Venture capitalist@Salesforce Ventures. Focus on investing and empowering B2B startups. Worked for GREE Ventures, BCG and BASF. Carnegie Mellon MBA