プラットフォームビジネスの未来(前編)|直面する課題を概観する

Megumi Kanno
12 min readJul 10, 2020

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先日、とある講演にて「プラットフォームビジネス」をテーマにお話しする機会を戴きました。

その時用意した資料が、他の誰かの何かに役立つかもと思い、お話しした内容を添えてこちらで公開しようと思います。*全スライドはこちら(SlideShare)

本題に入る前に、前提としてプラットフォームビジネスの一定義を共有しておきたいと思います。

プラットフォームビジネスとは

これまで多くの産業では、例えば材料卸がいて、加工メーカーがいて、消費者に届ける流通がいて、と、直線的なモデルで構成されていました。また、技術や情報は自社内で囲い込むことで他社と差別化する、クローズド戦略が主流となっていました。

しかし近年(特にスマートフォン以降)は、プラットフォームビジネスの登場により、この「線形モデル&情報非対称性」が「中央集権モデル&情報対称性」の構図に置き換わりつつあります。ヒトやモノ、カネ、情報といったビジネス資産が一箇所に集まることで、これまで以上の低コスト化や、それら資産へのアクセスが容易になるといった意味で民主化がもたらされたといった功績も多くありますが、この「中央集権モデル」の構造が故に生まれている課題も多くありそうです。今回はそれらの兆しとも言える事例に目を向け、今後より良いオンラインビジネス環境を構築するための一ユーザとしてのマインドセット、或いは今後プラットフォームビジネス参入を検討する方へのヒントを得られればと思っています。

この前編では、プラットフォーム(中央集権モデル)の特徴を、1. 大きさ、2. 組織的輪郭、3. 資産的境界線の3つに分解し、それぞれを契機とする課題や事例を見ていきたいと思います。

続く後編では、プラットフォームの構造的オルタナティブについて検討します。

1. プラットフォームの大きさ − ガバナンス

一つ目は、プラットフォームの影響範囲とそれが求めるガバナンスです。

Facebookのユーザは26億人と、どの国よりも多い人口を抱えており、その決定が及ぼす影響は国家以上。もはや選挙を経ない行政執行官と呼べるまでの存在になっています。そして、それは同時に「ユーザが無自覚なまま思想や言論を大きく左右され得る」状態になっているとも言えます。

昨年Tiktokの内部文書が漏洩して明らかになったのは、「あざ・斜視を持っている」や「自閉症である」といったいくつかの条件で規定されたユーザに対し、「デフォルトのままではいじめを受ける可能性がある」との判断から、投稿された動画が拡散されないように制限されていたということでした。

無論、これは当事者にもそのフォロワーにも知らされておらず、気付かぬうちに歪められたコンテンツ空間になっていた、と言えます。

さらに言えば、プラットフォーマーは思想的に中立でいることも難しそうです。

先月、トランプ大統領とTwitter社のバトルが話題になりました。トランプ大統領のツイートに対して、「事実確認が必要」というファクトチェックのラベルを付けたり、ミネソタ州のデモに対するツイートに対しては、「暴力に関する規定に反する」として警告ラベルがつけられました。

この処置を受けて、トランプ大統領はTwitter社を反トランプ派だとして激怒していたわけですが、着目すべきは、同じ内容を投稿したにも関わらず削除されなかったFacebook社がトランプ援護派だと世間に位置付けられていることでしょう。Facebook社員も、トップの無干渉な対応を不服とし、オンラインでのストライキを敢行していました。中立的と考える対応をいくら取ったとしても、いずれかの立場を支援することになる。無色透明の言説空間であるという態度を示すことはもはや不可能です。

これらの事例からみても、プラットフォーマーは一国内に留まらないガバナンス構築が求められています。

その先駆的な取り組みとして、2020年5月、Facebookの最高裁とも言える「コンテンツ監視委員会」が誕生しました。

これは、独立機関として138億円を投じられ、ザッカーバーグCEO以上の決定権を持つようになります。民間の多国籍企業が外部機関にその役割を割り当てた初の事例であり、今後多くのテックカンパニーがこの機関の決定に倣っていくようになるのではないかとも言われていますが、次なる問題は、この20名で良いのか?ということ。

この20名は、 27カ国・29言語の地理的ルーツを持つそうですが、プラットフォームのユーザ代表性を担保できているのでしょうか。担保できないのであればどう選出されるべきなのでしょうか。多国籍企業における地球規模のフェアネスはどうあるべきか、その合意・検証プロセスをどう設計するか、が次の争点と言えそうです。

2. プラットフォームの組織的輪郭 − 企業的責任・企業倫理

続いて二つ目の特徴は組織的輪郭、そしてそれが規定する企業的責任や企業倫理についてです。

かつて、20世紀初頭の産業資本主義時代、「工場の歯車」として労働者が喩えられましたが、プラットフォームを介して多く生まれているオンラインワーカー(ギグワーカーやフリーランサーなどの個人事業主)は、今のところ「アルゴリズムの実行プロセス」として扱われていると言えそうです。自由な働き方を可能にした反面、企業的責任や保証の範囲が限定的なのです。

というのも、Uberであれ、Lyftであれ、プラットフォーマーはマッチメイキングを行う「テクノロジーカンパニーである」という立場を取っているからです。それ故、これまでの「運輸業」や「小売業」という法規制の括りから漏れることになり、企業責任の不明瞭さの一因になっています。

コロナ禍ではその責任範囲の狭さがより一層際立ち、セーフティネットの欠如が明らかになる形になりました。

プラットフォーマーの外(責任範囲外)へと押し出されている仕事はドライバーだけではありません。SNSにおける「コンテンツモデレーター」もその一例です。

プラットフォームの健全性維持において、殺人や虐待、薬物使用、違法行為などの投稿の検閲に従事する人がいるわけですが、その人数は世界で10万人を超えるとされています。さらにはその多くが1ドル未満の時給でアジアの国々にアウトソースされています。
この検閲作業では、ショッキングな動画や画像を見続けなくてはならず、中にはトラウマになったり、精神障害を来すケースも多く報告されています。(Facebookは2020年5月その責任を認め、金銭的補償を発表しました。

これらを「プラットフォーマーの外部不経済性」と見るのであれば、AirBnBが引き起こしたジェントリフィケーションも事例の一つにあげられます。

スペイン・バルセロナでは、民泊サービスの上陸と普及に伴い市内住宅の家賃は3倍に、人口は1万人減少。地元住民が排除される現象が起きています。

これらの問題は、一住民、一ワーカーとプラットフォーマー間の問題に閉じるのではなく、政策・法整備という巨視的でシステミックな解決が必要です。

その第一歩として紹介する取り組みは、ドライバーたちが利用するUberPeople.netというプラットフォームです。これが事実上の労働組合の役割を果たし、企業や政府機関と対等に声を上げる素地を作っています。

そういった活動もあり、カリフォルニア州では2020年1月AB5が施行され、Uberなどの事業者に対して、ドライバーを雇用者とみなし、最低賃金等の保証を義務付けることができました。

一方で、Uberにとっては純粋なコスト増加になりますので、早速実質上の運賃値上げとも言える、「独自料金設定の試験導入」を始めています。

この一連の流れに集約されるように、プラットフォーマーが責任範囲を広げた時に、元のままのイノベーション(破壊的な価格とサービス)を維持できない可能性が見えてきます。現ユーザやステークホルダーがそれを許容して利用し続けるのか、あるいは、自動運転技術などさらなる技術革新でこれを乗り越えられるのか、ということが今後の分岐点になります。

3. プラットフォームの資産的境界線 - データ・アルゴリズム

三つ目の特徴は、データという資産的境界線の難しさについてです。

プラットフォームビジネスは、収集したデータの形を変えることで新たな富を生む資本としています。この「データをどう錬金するか」という観点で以下の3つに大別し、それぞれの兆候を見ていきたいと思います。

①データを用いて分析・ターゲティングする広告モデル
②データを用いた価格最適化や、金融商品設計をするモデル
③集まったデータそのものに価値があるコンテンツなどのモデル

一つ目の広告モデルでは、マイクロターゲティングとの密結合が問題になっています。

例えば、2016年アメリカ大統領選でのケンブリッジアナリティカ事件。Facebook社が保有する8,700万の個人データを使って選挙広告のターゲティングが行われていたというもので、データ分析が行き過ぎると世論操作まで及び得ると初めて世界が認識した事件でした。

昨年のオックスフォードの調査によれば、こういった事例はすでに世界70ヶ国で見られています。

続いて二つ目、データを使った価格最適化はインクルーシブを実現しています。

例えば、Ant financialが提供するXiang Hu BaoというP2P保険は、ユーザが診察履歴や支払った医療費のデータを提出し、事後に保険料を全ユーザで割り勘するというもので、これまで以上に格安で保険を提供できるようになりました。特筆すべきは、この加入者のうち10%がXiang Hu Bao以外の保険を持っていなかった(国民保険に加入できていなかった)ということです。これまで行政が想定してきたレンジに乗っていなかった人を掬い上げる、補完的役割を果たしています。

最後に三つ目、データ自体が価値を持つものは、同時にリスクも呼び込んでいます。

Amazon傘下のスマート防犯カメラサービスRingは、アメリカの400以上の州警察と提携し、犯罪の多い地域の見守り強化に一役買っている一方、同時にカメラのハッキングや録画データの流出といった事故も発生しています。現状の問題は、一度提携してしまうと別サービスにデータを移行するシステムや体制がない、硬直的な関係になっているということです。

これらの3つのモデルに共通して求められているのは、「データの流動性」です。社会包摂を実現させるためにも、現状の硬直的なデータ管理が生む行き過ぎたターゲティングや悪用を避けるためにも、データポータビリティの確保が大前提であるということがわかりました。

こういった流れを受けて策定されたのが、GDPRやCCPAです。この中でデータポータビリティ権や忘れられる権利(データ消去権)といった諸権利が認められました。

データは一人ひとりに帰属するという概念が認められ、ようやくスタートラインに立てたわけですが、次はどこまでのデータが持ち運べるのか、その範囲については未だ企業やユーザ間で意見の相違があります。

中でも、広告モデルをとる企業はプライバシー対応を迫られればビジネスそのものが立ち行かなくなります。その反応として、例えばGoogleMapはEU圏で有料化する、という報道が出ています。

今後は、企業がサービスを提供する上で、どこまでのデータ(ひいては利益)が正当とされるのか、データ価値の正しい評価とコンセンサス形成が必要です。

まとめ

現状のプラットフォームビジネスは、その中央集権的構造から、一国内に留まらないグローバルな影響範囲をもち、時に外部不経済をもたらし、データ一極集中によるリスクを抱えていました。

プラットフォームは、そのガバナンスについていかにグローバルな合意形成を取れるか、企業利益と企業倫理・公益のバランスをどこに置くか、が今後の争点になりそうです。

(後編につづく)

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