持続性のあるテクノロジーはどのように生み出せるのか?

mui Lab from Kyoto, Japan
26 min readDec 31, 2019

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テクノロジーと人類について研究する“サイボーグ人類学者” アンバー・ケースが語る、イノベーションのためのレシピ

Amber Case

インタビュートピック
・未来のCalm Technology*(穏やかなテクノロジー)像
・未来の世代に継承すること
・新しいモノ・コトを世に産み出すには?
・スタートアップへのアドバイス
・気候変動など差し迫った環境課題下でのテクノロジーの役割とは
・Amberの理想のライフスタイル
・先人の技術と現代の技術の融合点(和解から統合への道)

語り手:Amber Case (アンバー・ケース)
聞き手:mui Lab 森口明子

10月23日 サンフランシスコ — Institute for the Future 主催の41回目の10年後の未来を予測するサミット(The Institute for the Future’s Ten-Year Forecast Summit)にてインタビューは行われました。カンファレンスの様子はこちらの記事でご覧いただけます

アンバー・ケースは、TEDトークや、文化とテクノロジーの関係性についての著書で知られるサイボーグアンソロポロジスト*(サイボーグ人類学者)と称するアメリカ出身の女性です。

彼女は、一見詰まらないように見えるテクノロジーが大好きです。例えば電気のスウィッチ。目立たないし、詰まらないものだけど、現代生活には欠かせないツールとして数世紀にわたり使われてきました。「あって当たり前のように扱われがちな照明スウィッチですが、実は偉大な発明だ。」と話します。

「グループで何かを議論している時にみんなが興奮するような解決策はほとんどが間違ったアイデアです。」IFTFサミットにて、アンバーはこう話しました。

「私はより多くの人が、一見詰まらなくても長期的視野を持っているアイデアにワクワクするようになることを期待しているわ。」

アンバーは、デジタル世代のリーダーとして認知されています。位置情報ソフトウェアで知られるGeoloqiの共同創立者で、彼女が23才の時にErsiに買収されました。2010年にFast Companyのテクノロジー業界で最も影響力のある女性の一人として選ばれ、Inc. Magazine’s 30では30才以下の注目すべき人物、2012年にはNational Geographicでフィーチャーされています。MITのCivic Media and Harvard’s Berkman Klein Center for Internet & Societyにて研究員を行ったあと、IFTFに移り研究を続けています。アンバーは、“calm technology”のコンセプトを提唱し、ユーザーの意識を独占するようなデジタルデバイスのデザインに対して注意喚起しています。

mui Labは、この“calm technology”を実用的なプロダクトに落とし込んでいます。このコンセプトを社会で実現するため、木製のスマートホームインターフェースのmuiボードは生まれました。「テクノロジーを使うということは努力を要さない自然な振る舞いであるべき。スプーンで食べるとか好きな椅子に座るといった行為のように、意識的に気づきもしないような存在であるべきだ。」と信じ、日々デザインと開発を行っております。https://mui.jp/

アンバーは、2019年4月、京都のmui Labオフィスを訪問し、ワークショップを行いました。その折、「muiは今年見たデジタルデバイスの中で一番良かった。」と賞賛し、彼女の提唱する「calm technology」の称号を与えてくれました。

このような流れから、アンバー本人より今回のIFTFのサミットへの声がけがあり、「power of calm technology」についてのパネルディスカッションと、独占インタビューを行う運びになりました。

注釈
※Calm Technologyとは
Calm Technologyという言葉は1995年にPARC ResearchersのMark WeiserとJohn Seely Brownによって造られた造語。インフォメーションテクノロジーの複雑性に対するリアクションで、元々のコンピューティングシステムへの期待は、複雑性を簡素化するためであり新しいものを追加することではなかった。これを踏まえて、Weiserは、次の時代は、人間をパニックさせるのではなく我々にとって本当に重要な物事に集中することを促す「Calm Technology」の時代が来ると提唱した。Mark Weiser、Rich Gold 、John Seeley Brown の3人の提言はAmber Caseのインスピレーションの素であり、増幅する世界の複雑性に対して解決への道を照らしてくれています。https://calmtech.com/index.html

※Cyborg Anthropologist(サイボーグ人類学者)とは、人間とテクノロジーの関係性を研究する個人。特にテクノロジーが人間のライフスタイルをどのように形作るかを観察する。この言葉は、1993年にアメリカの人類学研究会で生まれた。テクノロジーの発展と共に人間はスマートフォンやスマートウォッチなどを手にし、体の延長機能として利用しながらテクノロジーに人間の行動習慣などを適応させている(つまり、テクノロジーに制御されている)。一方で、これまでに人間のみではできなかった多様なタスクを同時に行ったり、遠くの誰かと通信したりなど可能性も同時に広げ、人間の生活を変えている、といった議論がされている。
参照ウェブ&ビデオ(英語のみ):
https://searchcompliance.techtarget.com/definition/cyborg-anthropologist

インタビュー

イントロが長くなりましたが、いよいよここから興味深い彼女の思考にLet’s dive in!

左からmui LabのCTO佐藤、CEO大木、アンバー

未来のCalm Technology(穏やかなテクノロジー)像

森口:初めから肝に行きますが、「Calm Technology」の未来像は、どのようなものだと考えていますか?

アンバー:Calm Technology(穏やかなテクノロジー)の未来像ね、今明確に表現できたら素敵なんだけど・・・。今のテクノロジー分野に問題があるとすれば、多くの人がいまだに短絡的な答えを求めがちで、「これは目に見えないようにした方がいいね、これはこうで、あれはああで。」と簡単に言う。電気のスイッチみたいに長年使ってきて良いと実証されているものが側にあるにも関わらず。例えば昨日行ったレストランは美しい木製の棚の中にipadの会計機器を隠してて、会計の際に開け閉めして、醜いテクノロジーを見せずにお店の品格を保っていましたね。新潟にあるジェームズ・タレルの家でも、デバイスは全て木製パネルの後ろに隠してあります。大切なことは、デザインを学ぶ大卒の学生達に(良い)テクノロジーをデザインするにはどれだけ時間がかかるのか、どれだけいろいろな事を配慮しなければいけないのかを教えることが重要で、そこは自分の仕事の喜びを感じる点です。私自身もどちらかというと低所得者の家庭に生まれて不安や恐れから短期的な答えに飛びつきがちでした。例えばグループで議論していて答えが見つかった!と興奮した時の答えは大体間違っていて、もっと多くの人が長期的な視点は時に平凡でつまらないけどそこに興奮するようになってほしいです。私達は長期的視野を忘れがち。例えばsnapchatは当時はとても重要だったけど今はもうそうではない。生活の中で可視化されてないけど長期的にあることとは何か、といった時間軸を考慮できるようになることが大切です。例えば照明スウィッチは誰も気づかないけど機能的です。私は5年以内に本を出版し、デザイン協会か会社を設立し、例えば現在所属しているInstitute for the Futureと協業してツールやツールキットを開発し、現実的なcalm technologyのワークショップを開催したいですね。先見性を持って長期的で持続可能なプロダクトを製作できる教育を提供したいと思ってます。その過程で多くの失敗をすることも大切です。元Googleのデザイン倫理学者のTristan Harrisが起こしてるムーブメントについて良く話題に出ますが、人々を啓蒙することはとても良いことで、同時にソフトウェアデザイナーやハードウェアデザイナー達自身が長期的な世界観(ワールドビュー)を持ち、テクノロジーはあくまでツールであって、長い歴史の一部分であること、”今だけ”のことではないことを認識することが大切です。

未来の世代に継承すること

森口:それでは未来のテクノロジーについて若い人たちは何を理解しなければならないと考えていますか?

アンバー:時間の概念です。ほとんどのテクノロジーは周期的で同じことの繰り返し。新しいことを創造した時、多くの人がそれを良く思わないのが世の常です。私が初めてcalm technologyについてのトークをした時、そのイベントで史上最悪のトークだったという評価を得ました。多くの人がサイボーグ文化人類学についての話をすると期待していたので。そうこうしてアラートやノーティフケーションの話を面白くするまでには時間がかかったけど、今はこの話をすることが習慣になって多くの人が気にかけるようになったわ。誰も気にかけなかったことでもやり通すことが大切ね。そのうちに誰も気を止めなくなったら好きなようにやればいい。「僕たちがこの会社を影響力あるものにしたんだ!」といってエゴを持ち始めたら終わりだけど。世界のためになることをするというのが本当の目的なんですよね。
粗悪なプロダクトをどのように手放すか。「ARは解決策ではなかった。」と言い放つ勇気をどうしたら持てるかも大切です。既に結果が出ていて実証されているものに飛びつくのではなく、いかにコツコツリサーチを繰り返すか、それが大切です。すぐに興奮して感情的にならずに落ち着いて大きな視野を持つ必要があります。先見性を磨くトレーニングをしたり、長期的な視野を持つこと、あるいは研究をすることも大切です。誰も気に入ってくれないようなものを思いついても、興味を持ってくれる人たちと作り上げていけば良いわけです。ここで必要になってくるのは開発を陰で進めていくことです。表では一般受けするようなオフィシャルのものを作り、影では自分の好きなことをやっていくわけです。将来的には企業や研究機関が変わり者達を受け入れるようになることを願ってます。テクノロジストだけを雇用するのではなく、アーティストや文化人類学者、歴史学者などを雇用するようになれば面白いですね。特にアーティストは分解することが得意だから。

新しいモノ・コトを世に生み出すには?

森口:面と影を使い分けるというご意見は、現代の経済システム下では得策だから、もしくは仕方ないから」という意味でしょうか?

アンバー:企業では何か新しいものを作ろうとした瞬間に必ずマネジャーが関与してくる。マネージャーはリスクを回避したいので、ひたすら同じものを生産したい。別のことをして収益を得られなかったら彼らの面目が立たないから。彼らはパターンを繰り返したい。だって投資家は最大のリターンを求めているから。100%の保障とはいわずとも投資額の10~100倍を求めているわけですから。でも自分の夢をものにしたいなら、秘密裏にやるしかない。あり得ない話に聞こえるかもしれないけど、Wrigleyガムの誕生秘話を知ってる?創始者はランドリーを運営していたんだけど石鹸バーをタダであげてるうちにたくさんの人が石鹸バーを買うようになって、今度はガムを作り始めたらみんながガムを買うようになって、最終的にはガムの大手企業にまでなってしまった。歴史を振り返ってみると、どのようにイノベーション(革新)が起こったかがわかる。意外とほとんどのケースが、最初から特別なシステムを狙っていたわけではないわけ。

つまらない業界で、誰も覚えてないような製品を生産してる人達にありがちなのが、大金を稼げる代わりに物足りなさを感じてるといったケース。いずれ彼らは、イノベーションを起こせる会社にしたいのか、それとも同じことを繰り返す会社にしたいのか、といった問いを突きつけられる日が来ます。前者を選ぶなら、場合によってはこれまでに開発したプロダクトをすべて捨てざるを得ないかもしれない。それは辛いですね。だから「この部分は据え置きで、この部分はアートプロジェクトにしよう。」といったように切り分ければいい。アートプロジェクトにするのがというのが会社にとって恐らく最も安全ですね。そうすれば利益を生み出さないことをとやかく言われる筋合いもない。「これは世界に問いを投げかけるアートプロジェクトだ!」と言い切れば良い。もしかしたら美術館をつくることもできるかもしれない。

一方で、後者の同じものを創り続けることを選ぶ場合でも、例えば、次の5年の間にクラウドの安全性が低くなったり、料金が高くなったりしたとしたら、クラウドを使わなくても機能する製品を考える必要があるわけです。クラウドを接続しなくてもローカルで機能するとか、階層型でサーバーがウェブにつながった時に天気予報を見られるとか。オフラインで機能するプロダクトだったらデモもしやすいですね。サーバーを作っている人というのは少ないわけで、ほとんどの人がそれと接続するモノを作っている。サーバーをコントロールしているわけではない、つまりクラウドをコントロールしてるわけではない。だからクラウドが落ちたら終わりですよね。そのソフトウェアがなくても機能するものをどうつくれるか、まさに持続可能なプロダクトをつくることが問われているのです。

スタートアップへのアドバイス

森口:なるほど。この流れで、スタートアップとして頑張っているmui Labに期待することがあれば教えてください。

アンバー:5年後にはもっと明確に話せるようになっていたいけど、その時にmuiがまだ頑張ってることを願っています(笑)。 muiが柔軟に形を変えながら自分達のやってることのコアに行き着くのが楽しみです。今の形にこだわる必要もない。あまりに現在の形にこだわりすぎては駄目ですよ。大切な要素を見逃してしまう可能性があるから。PayPalが初めて出てきた時のことを覚えてる?あれは確かマイクロソフトWindows phoneか、Palm Pilotか何かの携帯をタップするだけで支払いができるシステムとして2001年あたりに出たものだけど成功してなかった。PayPalは「なぜなんだ?」と不思議がっていた。そうこうしているうちにeBayが出てきて、誰もがeBayの取引にPayPalを使うようになった。その時Paypalの創立者は、「こんなガラクタな市場にPaypalが使われて!」とカンカンに怒ってたけど、paypalはeBayのおかげで巨大企業に成長したのよね。もしeBayの取引の利用を止めてたら今のPayPalはなかったかもしれない。スタートアップの重要な事は柔軟性です。環境が変わった時にオリジナルのアイデアに固執しないこと。muiは美しいものを作ったけど、その形でなくてもOKと思えること。形を変えることは出来る。大企業はそれができない。大企業は永久に一つのモードにはまってしまう。インテルはこの先もずっとチップを作っていくわけで、チップを作らなくなるなんてあり得ない。彼らはソフトウェアを作ると必ず失敗してる。彼らはソフトウェアに2千万ドルも投資したなどと宣伝するわけですが、3年後にはそのソフトウェアプログラムを切り落とす羽目になる。彼らは一つのことをするDNAしかないから。自分たちが最も得意とすることを見つけることが企業にとって大切なことです。もしかしたらそれはとても奇妙なものだったりするかもしれないけれど、とにかくそれを常に探すこと。それが何かを自分達に真剣に問いかけること、そしていつもビックピクチャーを描いておくことが大切ですね。

気候変動など差し迫った環境課題下でのテクノロジーの役割

森口:このシンポジウムでもホットなトピックですが、現在私達は喫緊の気候変動の課題に窮していながら、多くの企業や個人が大量の電力を要し、CO2を排出するテクノロジーを開発し利用促進していますが、そんな現状をどう思いますか?もちろんテクノロジーの進化によって気候変動を解決できる多様な可能性もあるわけですが、現実には多くの利害関係が重層的に存在していて多くの矛盾を孕んでいますね。こういった現状について何か意見はありますか?

アンバー:みんな環境を心配しているけど環境は大丈夫。それより人間を心配したほうがいい。いまだに多くの人が気候変動の行動に参加してないのは人類のことを考えてないからね。あるカンファレンスで素晴らしい食べ物が出されいて、食用の虫とかバンブーでできたフォークまで出してるのだけど、水はボトル詰め。飛行機で旅をするのは環境に悪いと言う割には世界の二酸化炭素の2%を排出しているファストファッションを利用してる。最近洋服の売り上げが確か400%上昇したと聞いたけど、とにかく「モノ」が大量に溢れいている。これはウェブが出現してそこで販売するようになってクリックを促す文化が醸成されて、、、たくさんの物を所有しているけど人々は幸せを感じてない。むしろ逆ですね。昔は一つのスーツを重宝して多様なハンカチで気分を変えてました。今は個人が一体どれくらいの洋服を持ってるでしょう?その中でお気に入りものはあるのかしら?自分が持っている者の中で最良のものって何でしょう?何か一つ大事な物を手に入れてそれを大切に使うことの方が豊かですよね。私は900ドルの靴を買ってこの金額をはるかに超える対価を得てます。この一つを使い続けてます。 一つか二つくらい良いものに投資して他の洋服は忘れてもいいわけで。
ところで、質問は何だったかしら?
「あ、環境のことね。」
クラウドは多くの電力を使うのでクラウドを介さないものか、もしくは最小限の電力でも機能する物をつくることが大切ね。そしてどのようにその製品が作られているかを理解することが大切。サーキットボードを使ってるなら水も使うし電気も使うし、クリーンルームも必要なわけだから環境に影響する。例えばスウェーデン人によって開発されたティーネイジエンジニアリングシンセサイザーのような物を作れるか?あれはアナログで、バッテリーパワーが備わっている。フィジカルなボタンで操作できる。なぜこれを話しているかと言うと、最初に開発されたテクノロジーは結局最後まで使われるということ。分解できて維持したり付け足しながら30年でも使える。どんな状態でも機能する。「これは30年経っても使えるか?」と自問する必要がある。それだけ長く使えるならどの時代にも活かせるしその価値を再発見してもらえるような歴史的な開発になるでしょう。開発者や開発企業が無くなってもまだ使い続けられるかもしれません。そしたら面白いですよね。今はインターネットがないと何もできない。これは問題です。インターネットが永久に存在するわけではありません。どのようにして機能させる?どうしたら機能すると保証できる?自分のサーバーをひく?大変な挑戦ですよね。根本的に必要とされる機能は何か?人々は使えるものを求めます。人々が家で本当に必要としているものは何か?例えばシンクがどういう時に漏れるのか?どういう時に凍るのか?テキストメッセージは一つの解決策かもしれない。だってテキストメッセージはブルーテュースを必要としないから。テキストメッセージなら長期的だし誰でもできるしこのテクノロジーは将来的にもずっと続くはず。

理想のライフスタイル

森口:話は少し逸れますが、アンバーさんがつくりたい未来のライフスタイルはどんなものですか?

アンバー:それは面白い質問ですね。私は歩きやすい町に住みたいです(アメリカでは歩道などのインフラが整ってなかったり、歩くのが危険な郊外の町も多々ある中、歩ける町に変えようという運動があり、歩道や公共交通機関が整備された「歩ける町」をwalkable community とか pedestrian community と言います。)。地元の新鮮な食材が手に入り、向こう三軒両隣みんな知り合いで、誰もが家族経営を継続できるくらいに十分インフラが安い。それがハイテクとローテクのミックスだろうと、なかろうと。子供の視点からすると、私は自分の母親が社会の一参画者として価値ある存在であって欲しい。私は現代の建築にも飽きたし、道にも飽きたし、もっと違うものを見たい。ある一つの形のテクノロジーや、ある一定の形のビルの構造に縛られていることが寂しい。だってツマラナイもの!感受性が鈍くなると思うんです。日本の茶室では感受性が衰えないように繰り返すモノを置かないという習慣があるんでしょう?季節ごとに変化を加える理由は外の景色を中に入れるという意図があるのかしら? だったらそれは人間がやらないとダメよね。現代は多くの人が自動で自分のニーズに合わせて見繕ってくれるテクノロジーを欲しがっているけど、本当に必要なのはそれを人同士で行えるような時間的ゆとりですよね。例えば私が外に咲いている花を摘むとしたら、どの花を摘むべきかと考えるそのプロセス、その儀式は人間がなすべきもので、テクノロジーによる自動化に代替えされるべきものではない。

いずれにしても私はまだ33歳で研究も十分でないし、満足できる視点を持ててないの。でも75歳くらいには明確な視点を持って怖気ずに主張できる人間になっていたいわ。でも恐らく多くの人が同じフラストレーションを抱えていると思う。何かを明確にしようとしているんだけどうまく出来ない。頑張ってるけど十分に表現できないし観念づけも出来ていない。私達は人生の経験を積んだ年配者が尊重するものを理解しようとしている。でも一方で彼らは時代に追いつけないという問題があります。私の未来研究所のボスも高齢者に当たり、例外ではありません。
私は歳を重ねることが美しい社会に住みたいし、学びを重ねることがより尊敬される社会であって欲しい。スペインならそれは可能ね。日本でも少しは可能なのかしら?
賢い人がいることはとても大切です。社会が若い人達によってリードされている今はどこに向かっているのか、どのように叡智を溜められるのか疑問です。若いと賢くないと言ってるわけではないけれど、しっかりとした観念を持って先導していくことは困難です。
大切なことは失敗しながらも停滞することなく学び続け前進し続けること。集団社会に住んでいる私達にとっては、変わったことをやることは困難ですね。みんな同じように見られたいし、間違っていると言われたくないから。それでもその独自性を続けることが大切。いずれはその独自性が評価されるようになるはずだから。今は全てが過小評価されて何もかもが金太郎飴化している。やがてとてもツマラナイ世界になり、全く心躍らないひどい世の中になるでしょう。なぜ何でもかんでも同じ色にしてしまったのか?どうして自然を排除してしまったのか?どうして同じようなコンドミニアムを立て続けたのか? — 生きることの意味は何?どうしたら取り戻せるの?どうしたらまた個性的なアプローチを取り込んで、風変わりなものを作り始めるの?
建築家のスキルは人間だからこそのスキルであって、家を建てるのも、その何かを変えるのも、カスタマイズするのも、人間であってコンピューターであるべきではないでしょ。

先人の技術と現代の技術の融合点(和解から統合への道)

森口:現代は多くの年配の方がテクノロジーに対して論理では説明できない抵抗感を持っていたり、若い人でもアンチテクノロジーを表明してアナログな生活を求めている時代ですね。私個人的にはテクノロジーというのはいつの時代も人間に備わった好奇心や熱量が動機となって生み落とされる挑戦や実験の結果だと思っています。若くても意識の高い人達は先人の技術や知恵を深く尊重し継承しながら新たなものを開発しています。いつの時代も新旧の対立といった難しいテーマはあると思いますが、この点について一体どのような融合点があると思いますか?

アンバー:それは素晴らしい質問ですね。私は年配の方がテクノロジーを好まないのは理由があると思ってます。新しいテクノロジーは古いテクノロジーと比べてデザイン的に優れたものが少ない。年配者は自分達が使ってきたテクノロジーの方が優れているとわかっているんですよね。実際に大抵はその通りです。長期的に重宝されて来たテクノロジーは何千年にもわたり人間の生活に寄り添って生み出されたことがわかります。例えば米を脱穀するために生まれたものとか、地産の食品を保存するために生まれたものとか発酵食品とかね。(アメリカ人は発酵食品がないので胃腸の問題が大きいわ。)つまり、先人は役立つものをつくってきたのです。だから漆器とかそれを作るノウハウとか陶芸とか4世代に渡り育てられてきた盆栽とか襖や畳など、それらは全て歴史を通じて環境に合わせて生まれた技術ですね。それなのに今のテクノロジスト達は年配者に向かって「私達が作ったものの方がずっといい!」と言うわけです。当然ながら「冗談でしょ?!」となるわけですよね。良くなるわけがない。
良くするには融合するしかないと私は思っています。伝統的なものをしっかり残しながらもその裏にはタッチパネルがあったり何か特別で驚きが隠されているといったように。もし電気が落ちても機能するようなものとか邪魔に感じずに生活の中に浸透し使い続けられるもの。例えばクレジットカードを読み込むスクエアリーダーですが、あのおかげで誰でもフードカートを開くことができるようになった。フードカートはポートランドの文化の一部ですが、不景気でビジネスの資金を用意できなかった時代、フードカートとスクエアがあった。あれはまさに美しいCalm Technologyでしたね。最良のカームテクノロジーのひとつと言える。というのも、スクエアのおかげで突然何処でもクレジットカードを受け入れることが出来るようになったのですから。将来的にはインターネットを介さなくてもローカルでデータを蓄積できるものを開発する必要があると思うけど。wifiの接続が悪いと収入に影響があるだろうしデバイスの盗難などもよくあるだろうから。

世に新しいものが出てきた時に誰もがイイね!と思うモノもあります。例えばipadは高齢者にも人気です。それでは高齢者にとってiPadはどのように役立っているのか?それは遠隔の家族とのコミュニケーションです。孫たちは皆忙しくて家に来られないとか遠くで働かなければいけないとかいった理由があり、唯一繋がりを感じられる方法といったらiPad。もっとも、それは哀しいことですが。

私は家具職人を最も尊敬しています。道具と共に生き、道具によって彼らの体や生活が造られていく。家具を作る人にしても映画を作る人にしても、そういった職人達は形(なり)を見れば一目瞭然なことが多いですよね。フォトグラファー達はみな同じように眼に映る。大概が細くて黒い服を着てるでしょ。人は道具によって形作られる。ダンサーが一定のルックスをしているのは体を道具として使っているからです。私達はよりスマートなテクノロジーよりも、よりスマートな人間が必要なのです。ハイテクは伝統との共存が必要で、我々はハイテクと同等に伝統をも尊重する必要があります。私がスタートアップを始めた時、デザインチームごと雇ってフォントをデザインし活字をプリントプレスしました。長年手作業で全てをやってきた人達だからこそ、彼らにむしろデジタルを学んで欲しいと思ったんです。それは彼らにとっては大きな挑戦だったけれど、こう言ってくれました。「我々の専門的な知識と技術をデジタルに活かそうと思う。デジタル化したからといって自分たちの匠と誇りが消えるわけではないから。」と。例えばオランダが本社のフィリップスのテクノロジーで一番売れているものを見ると、それは人間の行動習性に合わせて開発されたものです。Facebookが今後も続くかどうかはわからないけど、物理的に遠ざかってしまった我々を繋げ戻してくれる機能では意味を成していますね。都市部では2つの仕事をすることを余儀なくされている人達も多く、家族で過ごす時間がない人も多いわけです。そういった人達にとってはバンドエイドみたいなものです。
昔はコミュニティがあって互いに子供達を監視しあってたから安全だったけど、今は監視カメラを使い、それを見張っているのは子供達に興味もないし、そもそも生活できないような給与で雇われている人たちなわけです。だから結局親御さんは安心できない。コミュニティがより良いと言っているわけではないけれど、かつては子供はコミュニティーによって育てられていた。自分が食べているお肉がどこで作られて、魚がどこで揚がったのかわかる範囲で暮らしてましたよね。
今は健康をハイテクで測れる時代になって、それはそれでとても良いことだけど、一方で良い食料が少なくなった。だから私達は土壌を良くして、農業をする人を増やして本物の食料を生産しなくてはならないでしょ。今は世界のほとんどの人が何も生産してないのだから。

新旧の融合から統合への道、私達は目先のことについ捉われがちですが、過去に倣い、今を観察し、先を見通す。このことが何においても欠かせないことを改めて認識できる機会となりました。

Amber Case著書の“Designing Calm Technology”の本はAmazonで入手可能です。https://calmtech.com/book.html

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mui Lab is an IoT design startup that develops “calm” interfaces for peaceful digital living, whose concept stems from “mui shizen” in Taoism philosophy.