1.2.4 「地方」に焦点を当てることの意味

オホーツク島
6 min readJan 31, 2017

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「地方」に焦点を当てることの意味について考える。

資本主義に偏った考え方を持つ人々の間では、「地方は見捨てるべきだ」という意見が発せられることも少なくない。その論調の多くは、いわゆる「経済的合理性」に見合わないから、ということを論拠にしている場合が多い。しかし逆に地方においては、あまりに「経済的合理性」を無視した(視野に入っていない)反響が起こったり、行政や企業などによってそのような対応が行われたりすることも少なくない。

具体的な事例を取り上げる。JR北海道が2016年11月に発表したプレスリリースは、JR北海道が経営的に困窮しているという現実を真摯に捉え、経済的合理性とインフラとしての必要性の双方を踏まえた具体的な提案・問題提起であった。にも関わらず、インターネット・SNS上で見られたその反響のほとんどは「JR北海道は潰すべきだ/赤字路線をすべて廃止すべきだ」といった経済的合理性のみに注目したものか、「赤字路線も利用者がいるのだから潰さないでほしい」といった経済的合理性を全く無視したもの、そのどちらかに偏った意見があふれる状況となっていた。

こうした問題に建設的な議論が行われず、具体的に解決されていきにくい状況の背景には、これまで述べてきたように、問題を解決できる優秀な人材が都市に偏りすぎているという状況があると筆者は考えている。これは1.1.2で述べたような地方が抱える問題、特に「新たな活動を行う人は『変な人』とみなされがちである」という問題が、柔軟性高く問題解決に取り組める人にとって非常に高い障壁になる。フロリダが述べるクリエイティブ・クラスが集合する条件の真逆である。世の中全体が資本主義に偏っている現代において、都市で暮らす方が単純に高い収入を得られる可能性が高い、といったことを考えると、こうした状況はごく当然起こりうるものであると考えられる。

しかし、そのように現実的には難しかったとしても、一部の若者は地方における取り組みに関わりたいと思っている。電通総研が2015年3月に電通若者研究部と共同で行った調査において、18~29歳の「社会」という言葉がイメージするものとして、「日本社会」(41.9%)に次いで「会社や所属している集団」(39.2%)、「住んでいたり、関わりのある地域」(34.8%)が挙がっている。こういった集団や地域には、当然「地方」とされるような地域、あるいはそこでのコミュニティも含まれるだろう。また全国大学生活協同組合連合会(2014)の調査においても、「将来は地元で暮らしたい」と考える人が54.8%と半数を超えている(図1)。さらに人々の意識についてNTTアド(2015)の調査では、地域振興施策(ふるさと納税、イベントの開催、PR活動など)について「ほとんど参加したことがない」と回答した人の割合は67.2%にも上っているが、「活動によっては、参加していきたい」と回答した人が61.8%いるとしている(図2)。また筆者が友人を中心にインターネットを通じて行ったアンケートにおいても、地元に貢献する活動をしたいと考えている人が150人中88人(58.7%)おり、「地元」の中にも多く含まれるであろう「地方」における取り組みに関わりたいという人々が多数いる(図3)。その中にも若者は多数存在し、その活動や環境などによっては、例えば都市で暮らす優秀な若者が、何らかの形で地域課題に取り組んでいくことも十分に可能であると考えられる。

図1 大学生の地元志向
(出典:全国大学生活協同組合連合会「2014年大学生の意識調査」4.(3))
図2 地域振興施策への参加について(出典:2015年度NTTアドオリジナル調査「地元意識の把握」p.7)
図3 地元に貢献する活動に関する意識 筆者が友人を中心に行ったアンケート調査をもとに筆者が制作

経済学者の宇沢弘文(2000)は、自身が都会の小・中学校から旧制一高に進学した際、農村出身の友人たちに大いに影響を受けた経験から、一国の社会的、文化的水準を高く維持し続けるためには、農業で生まれ育った若者の人数が常にある一定の水準にあって、都市で生まれ育った若者と絶えず接触することによって、優れた文化的、人間的条件を作り出すことが必要であると述べている。宇沢が指摘している通り、農村は縮小せざるをえない現状があるが、現状に逆らって宇沢の述べる農村、つまり「地方」に着目することは、多様性を維持するという点において、社会的、文化的な観点から価値のあることであると考えている。

また、北海道の片田舎出身で、東京の大手広告会社に勤務した経験のある筆者にとって、一般に広告会社やメディア業界、芸能界や最先端のクリエイティブブティックなど、エンターテイメントに関わる業界、高いクリエイティビティが求められる領域、総じて日本(あるいは世界)における社会的な影響力の高い領域において、地方出身であることがマイノリティであるという現実があり、そこに非常に強い問題意識を感じている。都市で生まれ育ったエリートが、彼らにとっては「ごく普通に」自分たちの価値観で世の中を動かしていくことが、たとえ彼らにその意志がなかったとしても、地方で暮らす人々や社会的な弱者を排斥していくことになりうるということ、そしてそれが実際にすごい速さで進行しつつあるということを身をもって感じた。また現在も友人たちから見聞きする話を通じてその進行を感じ続けており、日本における「地方」に関してこれ以上ない危機感を持っていることも付記しておく。

これらを踏まえて、筆者は現代において「地方」に焦点を当てて活動していくこととしており、それは十分に大きな価値のあることだと考えている。

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