2.1.1 デジタルネイティブに関する世界/日本の議論

オホーツク島
8 min readFeb 1, 2017

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第二章 地域にまつわるクリエイティブ・コミュニティとメディア

第二章においては、第一章の背景と目的を踏まえて、リチャード・フロリダが提唱した「クリエイティブ・クラス」という考え方をベースに議論を進める。提唱から15年、この考え方の中心となる人々や、そのコミュニケーション環境・手段は急速に変化しており、これまでその中心を担ってきた「デジタルネイティブ」と、今後クリエイティブ・クラスの中心を担っていくと筆者が考える「デジタルネイティブ」という言葉では説明しきれない集団について詳説し、「デジタルレジデント」という捉え方を提示する。

ここでデジタルレジデントという集団の捉え方を提示するのは、クリエイティブ・クラスのコミュニケーションにとって非常に重要であると思われるインターネットの捉え方が、クリエイティブ・クラスの中心を担うと思われる若者たちの間で変化してきていることを示すためである。クリエイティブ・クラスが集合する現象について考える上で、情報感度の高いクリエイティブ・クラスが主に情報を収集する場であるインターネットに関して起きつつある変化を詳細に述べるため、従来と異なる世代のある集団から、従来と異なる形のインターネットの捉え方が生まれていることをここで詳説する。またリチャード・フロリダがクリエイティブ・クラスの考え方を提唱した2002年頃にその集合をドライブする存在であった20代〜30代前半の若者は、2017年現在においては既に30代後半〜50代になっているはずである。そのように入れ替わりが発生し、取り巻く環境や志向性などもクリエイティブ・クラスの動向に大きく影響していることから、ここで詳説する。

その上で、従来の地域におけるメディアとコミュニティ、デジタルレジデントがインターネット上でコミュニティを形成してきているメディアとコミュニティの先行事例を探り、本研究で探求する研究課題を立てる。

2.1 新しいデジタルネイティブとインターネット・コミュニティ

ここでは、本論文において核となる、リチャード・フロリダが提唱している「クリエイティブ・クラス」という階層と、これまでその中心を担ってきた「デジタルネイティブ」という集団の捉え方、そして前述のように「デジタルネイティブ」とは少し異なる説明が必要な集団について説明する。さらにそうした集団の傾向、コミュニティに関する考え方と、それらがどのように本論文の主張につながるのかについてまとめる。

2.1.1 デジタルネイティブに関する世界/日本の議論

1.1.4で述べたように、クリエイティブ・クラスとは、フロリダが提唱した創造性の高い人々による社会経済学的な階層を指す言葉である。一方で、その中心にいるような若者を指す際によく使われてきた言葉に「デジタルネイティブ」がある。本項では世界、そして日本における、デジタルネイティブとその周辺の世代を指す言葉・捉え方の整理を行う。

「デジタルネイティブ」という言葉の提唱者、アメリカ人作家のマーク・プレンスキー(2001)は、デジタル言語のネイティブ・スピーカーという比喩で、それまで流通していたN世代やD世代といった言葉を昇華させたものとして「デジタルネイティブ(Digital Native)」という言葉を提唱し、それに相対するものとして「デジタル移民(Digital Immigrants)」という言葉を提唱した。この言葉、特に「デジタルネイティブ」は世界中で使われるようになったが、アメリカの法学者ジョン・ポールフリーとウルス・ガッサー(2011)によると、学術界からはデジタルスキルが先天的なものであると誤解を与えるなどの理由で非難されることも多いようである。

このデジタルネイティブに近い言葉として、アメリカの歴史学者ニール・ホウとウィリアム・ストラウス(1991)は、2000年に高校を卒業する世代(1982年生まれ)以降の世代を「ミレニアル世代(Millennials)」として定義した。これは現在世界的に用いられるマーケティング用語となっている。ほぼ同義に、1985年生まれ前後以降の世代を指して「ジェネレーションY(Generation Y)」と呼ぶことも多い。またオーストラリア人マーケティングストラテジストのダン・パンクラズ(2009)は「C世代(Generation C/Gen C)」という捉え方を提唱した(図6)。パンクラズはこれを「世代ではなく、ソーシャルメディアを産んだ技術の進歩によって興味や行動が露見するようになったクリエイターたちの集団である(p.14)」と述べており、ブーズ&カンパニー(2010/現プライスウォーターハウスクーパース)が発表した論文ではC世代が2020年までに欧米の40%、他の世界の10%を占める集団になるだろう、とまとめている。

図6 C世代の特徴(出典:Pankraz, D. “Gen C:The Connected Collective By Dan Pankraz” p.13 2009)

またポールフリーとガッサー(2011)は、「デジタルネイティブ」という言葉は世代(generation)ではなく集団(population)であると指摘しており、C世代のような指摘と合わせて「デジタルネイティブ」という世代のくくりだけではひとくくりにできない差異がある、という意見もある。なおプレンスキー(2011)は後に「デジタルネイティブ」という言葉を振り返り、誰もがデジタルテクノロジーの時代に生まれ育つ21世紀においては、デジタルネイティブとデジタル移民のような区別よりも、デジタルツールを使いこなす知恵としての「デジタルウィスダム(Digital Wisdom)」が重要であり、こうした知恵を身に着けデジタル的に発達することが、複雑な未来を生き抜く上で不可欠であると述べ、かつて自身が提示した世代的な区別よりも、デジタルスキルに関する知恵に着目していくことが重要であることを補足している。

また日本のデジタルネイティブに関しては、社会学者の高橋利枝(2008)らが、日米のメディア環境の違いを踏まえ、Windows95が発売した1995年時点で12歳以下だった世代と13歳以上だった世代、そして日常的にデジタルを実践するライフスタイルを送っているかどうか、という2軸で4つの分類を行った(図)。つまりここでのデジタル世代は、おおよそ1983年以降の生まれ、という判断になっている。

表1 世代とデジタル利用による四分類(出典:高橋利枝、本田量久、寺島拓幸『デジタル ・ネイティヴとオーディエンス ・エンゲージメントに関する一考察 ――デジタル・メディアに関する大学生調査より――』 2008)

またコミュニケーション論、社会心理学の専門家の橋元良明と電通総研(2010)は、生まれ年に関する統一された定義は存在しないとしながらも、デジタルネイティブを「1970年代半ばから1990年前後くらいまでに生まれた世代」と捉えている。その上で1976年前後生まれの世代を指す「76世代」と、1986年前後生まれの世代を指す「86世代」に分けることを提唱し、追って誕生した1996年前後生まれの世代を指す「96世代」を「ネオ・デジタルネイティブ」と呼ぶことを提唱している。しかし「76世代」という言葉は、世代がIT起業家を多数輩出したことによって生まれた言葉であり、「デジタルネイティブ」のように生活の特徴から生まれた言葉ではない。また橋元らによってこれらが提唱された2010年は1986年前後生まれの世代が社会に出始めた頃であり、その世代のインターネット利用の状況を説明するために便宜的に「86世代」というくくりがなされているものと考えられる。しかし実態はそれから5年で、スマートフォンやSNSの爆発的な普及をはじめとして状況は大きく変化している。そうした中で、日本において若者のインターネット利用に関する議論は一足飛びに「96世代」に向けられたものになりつつある。

このように、日本においてはデジタルネイティブに関する議論が1986年生まれ前後の段階で止まっており、その後は96世代のように、子どもの頃からスマートフォン等が普及した世代まで離れている。もっとも、日本の世代論でこのあたりの年代を指して最もよく取り沙汰されるのは「ゆとり世代」であるので、その議論にまとめられることが少なくないためとも考えられる。

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