4.5 事例の一般化の可能性の検討

オホーツク島
12 min readFeb 3, 2017

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本研究は「特定の地域に関係する、インターネットを介したクリエイティブ・コミュニティの形成」を目的とし、北海道オホーツク海側に焦点を当てて取り組んだものであったが、これを一般化することが可能か、つまり北海道オホーツク海側地域以外の取り組み、そして筆者以外が主体の取り組みに関しても適応可能なのか、それはどのくらい可能性があるのか考える。

金銭的な負担について

まず、取り組みの対象となる地域と、取り組みの主体が離れた場所に住んでいる場合の金銭的な負担に関して考える。本研究において、筆者は2016年3月、7月、9月、10月と4度、北海道オホーツク海側地域を訪れている。いずれも本研究を進めるため、関係者に調査を行ったり、オホーツクに関係するイベントに参加して交流を深めたりすることが目的であった。そのいずれも、成田空港、関西空港、中部国際空港と新千歳空港を結ぶLCCを利用しており(表5)、そのうち3度はレンタカーを借りている(表6)。またレンタカーで直接札幌まで戻った1度を除き、札幌から筆者の実家がある遠軽町までは高速バス(回数券4枚綴りで14,180円、1回あたり3,545円)を利用しており、新千歳空港〜札幌駅間はJR(片道1,070円)を毎回利用している。総計すると4度の交通費だけで172,192円となる。更にガソリン代などがかかる。

表5 交通費(航空機運賃)
表6 交通費(レンタカー利用代金)

しかしわずか5年ほど前まではLCCがほとんど存在しなかったことを考えると、もしLCCを利用しないとすれば飛行機代だけでも倍近い金額がかかっていたと考えられ、これでもかなり安価に移動ができているものと考えられる。またガソリンスタンドでレンタカーを借りることのできる格安サービス(ワンズレンタカー、イツモレンタカーなど)により、大手レンタカー会社よりもグレードは劣るがかなり安価に車を借りることができるようになっている。これも数年前にはあり得なかったことだろう。

たとえインターネットでコミュニケーションが取れるとはいえ、重要なプロジェクトへの参加を促すほどの信用を得る、などの点で顔を会わせたコミュニケーションは依然不可欠な場合もある。今回のような、飛行機でないと行くことが難しい地域、車がないと活動などが難しい地域においては、こうした安価な交通手段がどれほど整備されているか、そして取り組みの主体となる人がどれほど金銭的な負担が少ない状況で取り組みを行えるか、ということが重要な要素になりうる可能性がある。そう考えると、日本国内でも飛行機での移動が必須ながらLCCがあまり飛んでいないような地域間、例えば関東と山陰、関西と東北(仙台から遠い地域)、地方から地方、そして北海道内の札幌や旭川から遠い地域(北海道オホーツク海側地域を含む)はハードルが比較的高いものと考えられる。しかし交通の面で、日本国内で北海道オホーツク海側地域より金銭的負担、移動時間などを総合的に考慮した移動のハードルが高い地域は、離島を除いてあまり考えにくいので、2016年時点において日本国内の移動のハードルがかなり下がってきていることを示すケースとして、可能性を示すことができているのではないかと考えられる。

人間関係、人脈、人的ネットワークについて

取り組みの対象となる地域に関する人間関係、人脈、ネットワークについて考える。筆者は2012年に、筆者の父親が地元の町(遠軽町)で職探しに難航していることから考えたブログが多くの人に見られた経験から、継続的に地元に関して活動している人を探し続けてきた。そして2014年、2015年にそれぞれ地元の町(遠軽町)の産品を東京のバーで紹介するイベントを実施し、そういったものがどの程度、筆者の知人を始めとする東京の人々に見てもらえるのか、またどうすればそういったイベントに来てもらえるのかを確かめてきた(注:詳細は各開催時の筆者のレポートブログ記事をご参照頂きたい→1回目/ 2回目)。そうした経緯から、今回の取り組みに対してはごく小さい範囲ではあるが多少の人間関係の下地は存在し、筆者の中にも「探せば自分が会いたい人はまだまだいるだろう」という感覚はあった。

とはいえ、それまで筆者が対象としていたのは人口2万人程度の1つの自治体であり、今回の研究で対象としているのは人口約29万人、3市14町1村の「北海道オホーツク海側地域」であるため、これまでよりも更に広い視野が求められ、当然この取り組みを通して初めて出会う人ばかりであり、この1年でこれまでと比較にならないほど人脈が大きく広がった。それはやはり、インタビュー調査や記事制作、インターネット上でのコミュニケーションなどのすべてを含む一連の活動によって生じたものであり、それまで見えていた範囲はあくまでも下地に過ぎなかったということの証左でもある。

また対面でのコミュニケーション能力に関しても、筆者が2年間広告会社で営業として勤務していた経験は非常に役に立っているが、一般的にも筆者の経験を踏まえても、言葉やコミュニケーションの上手さはネガティブな要因を避けるためのものでしかなく、実際にプロジェクトをドライブさせるのは熱意であることのほうが多く、大抵の場合はそちらのほうが重要であると考えられる。また筆者は中学生頃からインターネット上の(非対面の)コミュニケーションに慣れ親しんでおり、どちらかというと対面でのコミュニケーション能力に圧倒的に乏しいほうであると考えているため、同じような熱意を持っており、筆者と同様な経験、または筆者より後に生まれたような幼少期からインターネット上のコミュニケーションを経験してきている場合、筆者ではない人がこのような取り組みを行うほうが、うまくいく可能性は高いのではないかと筆者は考えている。

インターネット上のコミュニケーションに関しては、ウェブサイトのコンテンツなどを通して一方通行の発信を行う技術、SNSを用いて(ある程度)双方向のコミュニケーションを行う技術があると考えられるが、これらはそれぞれのコミュニケーションにどれだけ慣れ親しんでいるか、という部分が重要であると考えられるため、現時点ではいずれもある程度慣れ親しんでいる筆者はそれなりに得意とする部分ではあるが、同世代にも筆者より卓越したインターネット上のコミュニケーションを行う人は多数いるうえに、今後は筆者よりも下の世代のほうがより新しいコミュニケーションに長けてくるものと考えられる。具体的には、筆者よりも3歳ほど年下の大学院の後輩の方が、フォロワー数が同程度であるにも関わらずInstagramのいいね数が多く、それぞれの閲覧者の世代やコミュニケーションの違いなどもあるだろうが、筆者は後輩よりもInstagramを使いこなせていないと感じている。そうした部分は、その道具を使いこなせるようになるスキルよりも、そうした道具を使いこなしている人と協力体制をとるコミュニケーションスキルのほうが重要になってくるものと考えられる。

地域に根付く特殊な考え方について

地域の特殊性について、3.3でも述べているが、北海道オホーツク海側地域に住む人々は、自分で商売をしてお金を稼ぐ、ということが頭にない人が多く、お金を稼ぐこと=悪、とみなされがちである。これはこの地域の所得の低さ、モデルケースの少なさ、過去長く自立することなく都市からの援助を受け続けてきたこと、そして都市から騙され続けてきたことにあると考えられる。筆者の故郷である北海道遠軽町の郷土史や、それをもとにして制作されたウェブサイトには、明治・大正時代にこの地域の基幹産業であった薄荷を、本州の商人が協定を結んで価格操作をしていたり、果てには逆に訴えられたりしたことを受け、この地域の産業が大打撃を受けたこと、大正時代に国鉄の工事がストップしたことによる政府への団体陳情が(半ば冷笑され奇異の目を向けられたことにより)実ったこと、一方で国鉄民営化の際の廃線には街を挙げた大規模なデモ活動が実らなかったことなどが記されている。これらはオホーツクの一自治体の話であるが、この町周辺の地域に同様の思いがあっても不思議ではない。

この「お金を稼ぐこと=悪」という考え方・捉え方については、地方の中でも地域差があるようである。岐阜県出身の人に話を聞くと、この辺ではお金を稼がない、お金で対価を要求しないのは逆に何か下心があると思われるのでは、と話していた。そのため、「オホーツク島」のスタンスである「お金を稼がない」ということが逆効果である地域も少なくないと考えられる。

「クリエイティブ・クラス」のボリュームについて

北海道オホーツク海側地域は、その出身者も含めて、全国でも「クリエイティブ・クラス」に属する若者が少ない地域であると考えられる。フロリダはクリエイティブ・クラスの多さと大学進学率に相関があることを見出しているが、この観点で見ると、北海道は総務省の平成28年(2016)度調査において47都道府県中43位(43.3%)であり、北海道オホーツク海側地域に限って見ると市区町村別の統計発表が最後に行われている平成27年(2015)の調査では、3.2で述べた通り37.2%と全国的にも圧倒的に低い。またオホーツクに限らず、家庭教師トライの公表によると北海道内の進学校上位14校のうち11校が札幌に集中していることを踏まえると、北海道の札幌以外の地域の大学進学率は、筆者の実感値の通り惨憺たる状況であると考えられる。もちろんクリエイティブ・クラスの数は一概に大学進学率のみで判断できることではないが、そうした状況に比べると、首都圏・関西圏以外で上位に入る広島(6位)、愛知(8位)、山梨(10位)、福井(11位)、岐阜(13位)、石川(15位)などは、クリエイティブ・クラスを中心にクリエイティブ・クラスを集めていくとすれば、他の地方に比べると比較的優位な状況にあるのではないかと考えられる。

「第三の柱」形成の難度について

「第三の柱」形成に関して考える。ミンツバーグは「第三の柱」としての多元セクターが民間セクター(企業)、政府セクター(行政)と同等の影響力を持つようになることが、世の中がバランスを保っていくために重要である、と述べている。これを目標とするのであれば、民間セクター、および政府セクターの力が弱いほうが、バランスが取りやすくなるものと考えられる。

北海道オホーツク海側地域は非常に閉鎖的であり、我々にとって上の世代は地域で成功している会社もなく、政治的に力のある人が辣腕を振るっているわけでもないため、他の地域と比べても成功者が少なく、「第三の柱」が力を持ってバランスを取るようになるのは比較的容易であると考えられる。しかし筆者の主観であるが、現在筆者が住む大垣市のような東海地方においては、経済的に成功している上場企業なども多数あり、また行政も比較的強い影響力を持っているように見受けられるので、第三の柱たる集団が同程度の影響力を持つようになるには比較的ハードルが高いものと考えられる。

以上をまとめると、地域性等により細かい差異はあれど、基本的には「筆者だからできたこと」「北海道オホーツク海側地域だからできたこと」というものはほとんどなく、むしろ「筆者でもできた」「北海道オホーツク海側地域でもできた」ということのほうが重要であり、この取り組みがこの先も更に可能性を産んでいくことができれば、ここ以外の日本のあらゆる地域で、誰もが実践可能なものになるのではないかと筆者は考えている。

また日本以外の地域での適用可能性については、まずある程度の前提条件として、オンラインのコミュニティがオフラインのコミュニティに影響を与えうるために、インターネットに自由に接続できる人が人口の多くを占める地域であることが必要である。その上で必要な社会・文化的な条件などについて、筆者は国外の在住経験がないため、日本国内外でのコミュニティの違いを実感を持って語ることはできないが、ニューヨーク在住の台湾人や、トロント在住の香港系カナダ人の友人などから話を聞くに、日本国内においては(ほぼ)単一民族国家であるからこそ気にする必要のない様々な問題がある。逆に言えば、日本国外の多民族国家でこうしたことを実践する場合は、民族間に発生しうるバイアスなども考慮に入れて実践を行う必要があるものと考えられる。しかしそもそもフロリダやミンツバーグは多民族国家の学者であり、当然そうした国家・地域においても機能しうる理論・考え方を展開しているため、そうしたものに立脚した本研究は、国や地域ごとに多分に適合させる必要があれど、十分に導入などの検討が可能なものではないかと考えられる。

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