VCとして見てきた「スタートアップ」と「スタートアップの中の人」になって見える景色の違い

Shuhei Matsubara
14 min readJan 10, 2019

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2018年6月にA1A株式会社を創業して約半年。その前はシード/アーリー期の会社に投資をするVCとして働いていました。

元々のVC仲間だった人たちと会うと、「実際VCとして見てきたスタートアップと中の人になって感じるスタートアップってどう違うの?」と聞かれることも多いので、本ブログでは改めてその辺りを振り返ってみようと思います。

VC時代にはこんなブログを書いていました。

VCとして働く上で見える景色と、スタートアップ中の人になって見える景色はやっぱり変わります。スタートアップ中の人といっても創業初期のフェーズとPMF後のフェーズ、更には上場前フェーズと、それはそれでまた視点や景色も大きく変わるのだと思います。また事業の特徴によっても変わるでしょう。なので、あくまで、「創業6ヶ月、SaaS事業を進めており、プロダクトマーケットフィットの実現に向けて動いているスタートアップ中の人」の視点でしかないのですが、このタイミングで、自分たちの現在を棚卸ししてみたいと思います。

まず『シリーズAに到達するスタートアップの特徴』に書いている主なポイントは、以下の4点です。

・ 提供する価値の本質について仮説が明確

・ 価値を提供するにあたり、介在価値が明確

・ とにかく仮説を検証するペースが早い

・ シリーズAフェーズに到達するために必要最低限の組織サイズ

・ 柔軟かつ早い、組織の揉め事が最低限

加えて、『70社弱の出資先の振り返りの結果見えてきた伸びるスタートアップの共通点』には下記の10点をポイントとして挙げています。

・ 起業家が野心的かつ謙虚である

・ 今及び数年後の市場の需給をしっかりと理解している

・ 自分及び自分の非常に近い人が欲しているものを提供している

・ 腹をくくっている

・ 経歴、バックグラウンド、年齢、学歴は絶対条件ではない

・ 資産を地道に積み上げた会社は強い

・ 「技術が強みの会社」こそ戦略が大事

・ 人員計画(キャッシュフロー計画)は大事

・ リーンスタートアップである(仮説検証を回すスピードが早い)

・ 経営ができるチームである

、、、、冷や汗が出ますね。w

計14点の中で、重複を省き、かつ、自分たちの会社に関連しそうな項目を挙げて振り返りをしていく中で、「あーやっぱり大事だよね、、、」って思うポイントや、「考えていたより難しいっすね、、、」ってポイントを洗いざらい書いていってみたいと思います。

① 提供する価値の本質について仮説が明確 ( 価値を提供するにあたり、介在価値が明確 )

価値の本質に対する仮説を明確にするために、現在進行系で頑張っています。というのが現状かもしれません。シードフェーズはここを検証しつつ、加えて、その提供価値に対してどれぐらいのマーケットがあるのか、を見定めていくフェーズだと思っています。しかし、一方で、「明確になっている価値」だと誰もが感じれるものに関してはすでに提供者がほぼ100%存在するというのもまた一つの事実です。そのプレイヤーに対して明確な差別化ポイントを探しに行くのか、もしくは、「まだまだ潜在的な」価値に刺しにいくのか、の2点だと思っており、それぞれ相応の覚悟が必要だと感じます。

一方で、

  • 対話ベースでのヒアリング
  • プロダクト案をスライドに落として持っていく
  • プロダクトを見てもらう
  • プロダクトを触ってもらう

だと、価値の伝わり方が全く変わり、加えて、得られるフィードバックも格段に変わるということを実感してもいます。
また、「中の人」になると、どうしても目の前のお客さんに目が向きがちになります。それが故に、「価値」を提供する対象が「目の前のお客さん」になりがちになってしまうなぁ、、という反省はあります。常に客観的な視点と、マーケット視点がないと判断がブレブレになってしまう。この辺は、大いなる反省点。

② 起業家が野心的かつ謙虚である

なかなか自分で判断するのは難しいポイント。が、一方で、「野心的」を「夢(ビジョン?)が大きい!」と強引に言い換えるならば、夢自体はどんどん大きくなっていきますね。仮説検証を進めれば進めるほど、お客さんに会えば会うほど自分たちのプロダクトの持つ可能性が膨らんでいく。話せば話すほど、形にしたい世界は大きくなっていく。そんな風に感じます。加えて何も無いスタートアップが人を巻き込もうと考えたら、「ロジカルな説明」だけでは難しい。これは痛いほど実感しました。形と実績がないスタートアップの武器は、本音でビジョンを語れるという点。本音のビジョンを前提にロジックで裏付けをしていくというスタイルに自然と移行してきているように感じます。

謙虚であるかどうかは、、、そもそも創業まもないフェーズで傲慢って、諸々成り立たないと思っています。

③ 今及び数年後の市場の需給をしっかりと理解している

上記の通り、「中の人」になって一番むずかしいなと感じるのは「目の前」を重要視しすぎてしまうところ。意識して長期目線を持つ機会を作らないと、数年先なんて見れなくなります。営業資料と向き合う時間だけでなく、ピッチ用の資料と向き合ってみる、時間を作って自社の現状を客観視してみる、、この辺を意識しつつも、「目の前を見る視点」と「客観的視点」をバランスよく行ったり来たりできるような手法が知りたいところです。

④ 自分及び自分の近い人が欲しているものを提供している

これの意図するところって、今から考えると、

  • 1. その事業に情熱を持ち続けられるか
  • 2. 課題の深いところを知っているか
  • 3. 業界インサイダーとして有利なポジションを取れるか

といったポイントが重要だからなのかと思います。私個人でいうと、「その業界のことは知っていたから(身をおいていたから)実体験ベースで課題を知っていた」一方で、「実務はやったことがないから細部がわからない」という、半分半分みたいな立場。1,2は努力と好奇心の問題のように思います。やればやるほどハマってくるし、わかってくるもの。一方で、3に関してはまだまだ不明瞭。「実務経験がない」という点をコンプレックスに感じるときもあれば、実務経験のなさ故のポジションを取れたりもします。ただ、業界の方々に本当に良くしていただいているし、いつも相談に乗っていただけている。本当にありがたい話です。

⑥ 腹をくくっている

少なくとも事業をやっている時間が一番楽しいですね!
もはや生活の一部というか、むしろ、仕事が「主」で生活が「従」になっている感はあります。

⑦ 資産を地道に積み上げた会社は強い

これは、改めて「その通りですね」って思います。それこそ場当たり的な対処がどうしても多くなってしまう中で、投資対効果を考えて判断するって視点を失ってしまいがちになります。加えて、後述する「仮説検証を回す」って視点と真逆に位置するのが「資産の地道な積み上げ」。
ここ最近は、フロー的な行動をする中で、いかにそれを資産化できるか。その辺を意識できるようにしています。(言うは易く行うは難しですが)。具体的には、日々の仮説検証をコンテンツ化して発信する、ノウハウとして積み上げる、資産として活用することを前提に施策や日々の行動を計画する。もっと体系化していきたいなと思いつつ、そのへんがきれいに回るようになったら、改めてブログにまとめてみたいと思います。

⑧ 人員計画(キャッシュフロー計画)は大事

これも言うは易く行うは難しですね。そもそも採用って変数がめちゃくちゃ多い。採用活動を始めてから、実際にその人が入社するまでには数ヶ月かかる。スタートアップにとって数カ月はだいぶ大きいから環境が思い切り変わっている可能性がある。その時のキャッシュの状況も、調達や売上の伸びによって大きく左右される。加えて、数人のタイミングだと、1人の存在がだいぶでかい。4人の状態から、1人採用すると、たった一人に見えても組織にとっては20%を占める存在になる。そんだけ変数が多いにもかかわらず、数ある転職候補先の中で自分たちを選んでもらうのは超大変。更に相性も、経験もバッチリ合うなんて奇跡に近い。

だからむずかしい。

ただ、一つ学んだことが有るとすれば、「期待役割がはっきり見えたタイミングでない限り人を雇ってはいけない」ということ。ふわっと採用活動をスタートすると、その人がいいのか悪いのか判断がつかない。何を持って決断を下せばいいのかわからないから軸がずれまくる。相手にも迷惑をかけてしまう。「こういう人が必要だ」っていうターゲット像が明確にならない限り採用活動に動くべきではないし、このターゲット像の設定が超重要だと感じています。本当にその役割の人が必要なんだっけ?って問いかけを繰り返しつつ、絶対必要だ、となって、初めていい採用ができるのではないか、というのが今の仮説です。

(ちなみにきれいに明確にして動いた結果、年末にエンジニアの方の採用が決まりました!よかった!)

⑨ リーンスタートアップである(仮説検証を回すスピードが早い)

これも重要ですね。でもこれまた難しい。⑧にも関わると思いますが、人が増えれば増えるほどより難しくなってくるんだと思います。先日バズっていたNetflixの記事にもありましたが、サンクコストをどうしても考えてしまう。

更には、検証すべきテーマはたくさんあるものの、リソースが常に限られているから一度に検証できる数はどうしても限られてしまう。とはいえ、「検証しきった」とどこまでやれば言い切れるのかがわからない。

まだまだ課題が山積みです。

⑩ 経営ができるチームである

シリアルアントレプレナーがいるわけでもないし、経営コンサルをやってた人間がいるわけでもない。加えて、若いチームです。頑張る!

⑪ 柔軟かつかつ早い、組織の揉め事が最低限

⑩を満たしきれていない悔しさもありますが、一方で、だからこそ型にはまらず、チャレンジできているように思います。加えて、今のチームはそれぞれが自分の強みや得意な領域を持っている。それぞれが、補完しあえるようなチームになっている。それぞれの強みや経験をリスペクトできるような空気が有る。全員で体当りしようぜ、という創業チームが形成できている。ここは満たせているというか、強みだなーと思います。

組織の揉め事が最低限かどうかでいうと、まぁあんまり揉め事はない方でしょうね。加えて仲もいい。多分リソースが足りないから、お互いがお互いをちゃんと活かそうってしているんだと思います。投資対効果が良い動きをしないと、リソース不足に悩むことになることを理解できているのかなーというのが今の状態。この状態こそが、「最低限の人員で組織を構成する」副産物的なメリットなのかもですね。

以上が、VCとして働いていた時に抽出したポイントに対する自社の振り返り。

ここから何点か、「中の人」になって気づいたポイントを書いてみたいと思います。

⑫ 短期、中期、長期の目標を全員で共有することが超重要

常々感じていることは、スタートアップが「一枚岩」でいることの重要性。これ、本当に難しいです。毎日一緒にいても、どうしてもずれる。10月?11月?に、「”今やるべき一番大事なことはなんですか?”という質問に対して、成長しているスタートアップは、各メンバーの答えがぶれない」なんて話を聞きました。速攻で、グーグルフォーム作って自分たちでもやってみたところ、答えはバラバラ。w

毎日一緒にいて、毎日議論を続けているのに答えが合わないんです。

そこから先も仕様を決めるタイミングや、諸々の判断を下すタイミングで、それぞれの意見が割れることが正直結構な頻度でありました。

しかし、あるタイミングに、「2019年6月に○○という状態になっていることを目指す」、「2019年末に○○という状態になっていることを目指す」、「2020年○月に、、、」ということを定量目標、定性目標として持ち始めたことをキッカケに、メンバー間の判断軸が揃ってきたというか、定めた目標が「主」となり、それを満たすためにどうすれば良いのか、という議論ができるようになってきました。これはかなり大きな変化だったと思います。人員計画においても「なんの役割を担ってもらうのか」が重要です。これも上述の通り。至極当たり前の話では有るものの、共通認識を持つことが本当に本当に重要であるってことを身にしみて感じたのが6ヶ月で得た大きな学び。

これから組織が大きくなればなるほどこの辺が難しくなってくるんだろうなとは思いつつ、自分たちが得た大きな学びとして、ずっと大事にしていきたい習慣ですね。

⑬ エンジニアは偉大

これまでエンジニアとは一緒に働いたことが正直あまりありませんでした。それが故に、エンジニアのものの考え方やエンジニアの働き方には疎かった。が、一方で、この数ヶ月開発を進めていく中で、エンジニアの「細部にこだわる姿勢」「要件を詰めていく上手さ」、更には、「目の前の要求と、数年先の要求を見据えたバランスのとり方」に加え、「やり切り力」みたいなところには、感服させられています。SaaSとしてスケーラビリティを持ったシステムを作っていくには、「プロダクトがアップセルやさらなる顧客を生み出せる状態を築いていくこと」が重要だと思っています。先述の「資産を積み上げた会社が強い」の通り、プロダクト主導で顧客獲得が進む状態こそ、「資産×成長」を実現できる軸なのではないか。手前味噌な話ではありますが、A1Aのエンジニアは、ビジネス視点に立脚したプロダクト開発を進めることが得意だと思っています。それら故、「エンジニアは偉大」と日々感じさせられているのです。

以上が振り返りと現在の状態。

本製品のリリースに至るまで、日々、腰を据えた開発とトライアル、更には仮説検証を続けているのが今の状態です。
本製品が出てない、また、目に見える数字をベースとした実績が出ていない中、確固たるものが何もない状態で、きついことも有るんかな?とも思いつつ、昨日も何人かのメンバーと話していたところ、「創業からきついなって思ったことあった?」との会話の中で、「なんもないわ、ってかまだ何も始まっていないからきついとかそんなの無いよね」で一致したので、まぁいい感じで前向きに進めているんだと思います。

さて、そんな状態の中、お客さんに価値を提供するために、また、良いプロダクトを作っていくために、エンジニアの方を引き続き募集してきたいと思っています!絶賛0→1フェーズ。圧倒的に大きな市場を目指していく。「価格を透明化していく」というコンセプトで、世に無い新しい価値を問うていくフェーズです。

毎日のようにいろんな変化が起こる今のフェーズ。
生身の状態は上述のとおりです。

メンバーともたくさん話していただきたい、事業内容についても、将来実現していく世界観についても、お話させていただきたいです!
興味をお持ち頂けた方は、是非ご一報いただけると嬉しいです!ランチでも何でも行きましょう。

一応Wantedlyにも掲載しております。

Wantedlyからでも、Facebookからでも、Twitterからでも構いません。ご連絡いただけると嬉しいです。

以上!

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Shuhei Matsubara

新卒ではキーエンスで中部地区の自動車メーカー攻略に従事し、その後、コロプラネクスト社でVC業務を経験。2018年6月にA1A株式会社を創業いたしました。