photo by Dennis Skley credit under the CC-BY-ND

KPCB Internet Trends

4niruddha
abt Internet
12 min readJun 9, 2015

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を読もう!第1回

どうも、僕です。突然ですが、皆さんは KPCB Internet Trends というレポートをご存知でしょうか?

毎年、Kleiner Perkins Caufield & Byers という Amazon や Google などの市場を席巻しているような大手インターネット企業に出資してきた米国の老舗ベンチャーキャピタルのゼネラルパートナーである Mary Meeker が毎年公表されている膨大な量のサーベイに基づいて、まとめられたインターネット業界全体のトレンドレポートです。その膨大な量の調査から、インターネット業界に勤める人間は必読と言われています。また、このレポートの歴史は古く1995年から Mary Meeker が Morgan Stanley のアナリスト時代から継続して発表しているため、その影響力も大きいものとなっています。

このレポートの構成は大きく3つに分かれます。市況の例年通りのフォーマットによる報告、その年を代表するようなトレンドの紹介、急成長を遂げているマーケットの紹介の3つを主軸にしています。

トピックをピックアップするだけでも、もともと 200ページ近いボリュームのあるレポートでもあり、記事が必然的に長くなるため、複数回に分けて2015年のレポートからのトピックと共にそれらへの考察などを一緒に紹介していきたいと思います。また、KPCB Internet Trends を読み解くためのコツも合わせて紹介できればと思います。

KPCB Internet Trends 2015 からのトピック

20年の間に起きた変化

レポートでは冒頭のセクションから、この20年におけるインターネットが世の中に与えた影響を紹介しています。

引用スライド:世界のインターネット人口の変化

1995年当時のインターネット人口は地球上の全人口のおよそ0.6%の3千5百万人から、2014年では全人口の39%まで増加しています。注目すべきはアジア、特に中国の利用人口の伸びです。今後、アジアではインドの成長も中国のように見込まれていくでしょう。普及率が5割を超えていない現状を鑑みると、これからのマーケットはインターネット新興国に可能性が拡がっているのが一目瞭然です。そうすると、FacebookやGoogleなどが新興国に投資していく状況とも辻褄があってきます。

引用スライド:世界の携帯電話利用者数の変化

このスライドでも同様の期間で世界の全人口に対する携帯電話の利用者数の変化が語られています。スマートフォンが無かった1995年当時の携帯電話の利用者数は当時の全人口の1%であった8千万人から、2014年では全人口の73%まで普及し、52億人が携帯電話を利用しています。その内訳はいわゆるフィーチャーフォンが6割で、残りの4割はスマートフォンとなっています。人間同士のコミュニケーションの起点となるデバイスをいかに握っていくか、特に通話以外の手段を提供することができるスマートフォンの伸びしろと、その余地がある市場の重要さが分かります。

引用スライド:各セクターへのインターネットの影響

別のこちらのスライドでは米国における各経済セクター毎にインターネットが与えている影響度を示しています。教育や医療、行政などの領域では、まだインターネットが介在する余地が大きい状況のようです。この様子はおそらく日本でも同じような状況と言えるのではないでしょうか。また、インターネットの介在余地が広いこれらのセクターは近年注目を集めているということもありますが、インターネットが介在していったセクターとしなかったセクターを比較し、普及が進まなかった理由を掘り下げてみると、その他のセクターに水平展開するために必要な視座が得られるかもしれません。

引用スライド:インターネット企業の時価総額

このスライドも20年間の変化を示す特徴的な内容となっています。1995年と2015年のインターネット企業の時価総額ランキングの比較となっています。この20年の間で生き残っている企業がAppleだけというのも業界を表していると思いますが、時価総額の規模が数百倍の変化を表しています。唯一生き残っているAppleの時価総額を比較すると、20年前から約140倍となっていますし、ランク15位の企業同士を比較すると約420倍もの開きがあります。このことからも当たり前のように思われているインターネット市場の急成長が客観的にも見てとれます。もう一点、このスライドから読み取れるのは時価総額で1位から15位までの企業が属する国の構成です。米国が20年もの間インターネットの中心で居続けているという事実と、そこに猛追している中国の存在が明らかです。これは先に紹介したインターネット人口のスライドが示す様子と合致した動きとなっています。

この20年の間にいかにインターネットが普及し、世の中に無くてはならないものになっているか、また、20年の間でその構造が大きく変わりつつある様子がこのセクションを通して伝わり、当たり前のように語られ、感じられているであろうインターネット業界の成長も客観的な数字で示されることで、世界を視野に入れた業界全体の大局観を掴むための良い参考になります。

2015年の主要なトレンド

次なるセクションでは、2015年に押さえておくべき市況、トレンドを紹介しています。

引用スライド:インターネット人口と携帯電話契約者数

このスライドでは世界の携帯電話の契約者数、インターネット人口、スマートフォン契約者数の2010年から2014年の推移を示しています。この推移を見るとインターネット人口の成長が鈍化しているのが分かります。他のスライドでも語られていますが、インターネット先進国での成長鈍化は顕著で、日本などでは前年からの成長が見られていません。また、スマートフォンの契約者数の増加は、これまで急成長を見せていましたが、ここに来て翳りを見せ始めています。しかし、中国、インド、ブラジルなどの国においては、まだまだ強力な伸びを示しており、このことから世界のインターネット市場において、伸びしろのある市場、戦い方を変えていかなければならない市場が見てとれます。

さて、話は脱線しますが、この「引用スライド:インターネット人口と携帯電話契約者数」のスライドの数字を見て何か違和感を感じませんでしたか?

そうです、携帯電話の契約者数の数字がおかしいと思いますよね。先に紹介した「引用スライド:世界の携帯電話利用者数の変化」では、2014年時点の世界の携帯電話の利用者数は52億人だったはずです。それに対し、こちらのスライドでは2014年時点の契約者数は70億件となっています。この乖離はなんでしょうか?こういう気になる数字の動きがあった場合は1次ソースにあたるのが定石です。スライドで表記されている引用元を掘り下げて見てみましょう。

スライドの下部に表記されている参照した1次ソースはITUとあります。ITUとは国際電気通信連合(International Telecommunication Union)のことで、世界の加盟国のインターネットや携帯電話の普及率などの各種電気通信関連の統計データを公開している団体です。この団体が公開する統計情報で携帯電話の契約数が70億に及んでおり、携帯電話の契約者数が世界の全人口に対して100%に近い比率を示しています。一方で新興国の契約には大きく余地を残しており、一人当たり複数の携帯端末を契約している場合もカウントしていることが分かります。合わせて「引用スライド:世界の携帯電話利用者数の変化」の参照先も確認すると、Morgan Stanley のリサーチを元に重複を排除したユニークな携帯電話利用者数を出している様子が伺えます。数字に乖離が見られたのはこのためでした。このようにレポートの中で言及されている1次ソースに当たっていくと、理解が深まると同時にこうしたレポートを作成する際の情報の入手先も知ることが出来ます。

引用スライド:米国のデバイス毎の可処分時間消費状況の推移

次に米国に住むの消費者のデバイス毎の可処分時間の消費状況の年単位での推移を示したスライドでは、モバイル端末による可処分時間の消費が増加し、全体的にインターネットに触れている時間が増加しています。また、デスクトップ端末からのインターネットへのアクセスは微減し、横ばいという状態になっています。この傾向がウェアラブル端末の誕生に伴い、どのように変化していくかは興味深いところです。

引用スライド:2015年メディア単位の可処分時間と広告費

また、消費者の可処分時間の構成変化に伴い、従来からの広告費にギャップが生まれています。出版は可処分時間の少なさに対して広告費が多め、テレビは消費者の可処分時間も広告費も低下、デスクトップからのインターネットアクセスによる消費者の可処分時間は少し低下しつつも、広告費はほぼバランスが取れている状態。もっともギャップがあるのがモバイルの領域で、消費者の可処分時間の大きさに対して、投下されている広告費は他のメディアと比較して大きくギャップがあります。このスライドからはモバイル領域での広告効果を高めることができれば、大きな広告費を獲得していく余地があることが分かると思います。このスライドは2015年の状況ですが、毎年 KPCB Internet Trends を見ていると、同種のスライドが目につくことがあります。昨年はどうなっていたのでしょうか?

引用スライド:2014年メディア単位の可処分時間と広告費

こちらが2014年の同じ内容のスライドになっています。2015年のものと比較すると、インターネット以外のメディアは軒並み可処分時間も広告費も下げています。注目のモバイル領域の広告費の伸びの部分を見ると、2014年から2015年で2倍になっています。このことから、モバイルという空白領域をものにしている企業が増えてきていることが分かります。このレポートも年ごとに時系列で眺めることが重要です。

引用スライド:モバイル広告のフォーマット変化
引用スライド:モバイルにおける購買ボタン

また、モバイル広告の形も変わりつつあります。まず、動画広告の増加、また、その動作も速く面白いインタラクティブなものも増えてきています。みなさんもスマートフォンで動画広告を目にすることが増えてきたと思います。

他にもモバイル端末からの購買の敷居を下げるための施策が加速しはじめ、欲しいと思った瞬間に画面上で購買ボタンを表示するようなサービスが増えています。FacebookやTwitterなどで商品が紹介されたタイミングで購買ボタンがすぐ側にあるようなスタイルです。

引用スライド:縦表示のスクリーンの影響

モバイル端末からのメディアへのアクセスが増えたことで消費者の可処分時間の構成に変化が表れています。これまでのテレビやデスクトップ、ノートパソコンといった横画面のデバイスに加えて、モバイル端末が加わり、さらにその利用時間も増えていることから、縦画面での可処分時間消費の影響も考慮していく必要性が高まって来ていると言えます。

ここまで米国での状況が多かったですが、インターネットやデバイスが米国と同様に普及している日本においても、そこまで大きな違いは無い状況だと言えるかと思います。しかし、環境が異なる点は否めませんので、レポートの中で言及されている国と日本の状況の差分を意識しながら読むことが大切です。

Internet Trends を読もう!第1回のまとめ

KPCB Internet Trends は前半がインターネットが取り巻く世界全体の大局観を掴む話がメインとなります。この大局観を掴むことで、世界的な大手インターネット企業が何を目指しているか、その方向が掴めると思います。また、前半は時系列で追う話が多めとなっており、例年の状況と比較した内容であれば、その変化に着目し、例年の数字が語られていないようであれば、前年のレポートで同じようなことに言及しているスライドを探す、あるいは1次ソースにあたって変化を見ることで、今の世の中の動きを知ることができます。KPCB Internet Trends を読む際、前半で気をつけるべき点はそのようなところです。他にもあれば教えていただけると幸いです。

次回予告

KPCB Internet Trends 2015 の中盤の説明から入り、2014年から語られていたデザイン領域の話を別のレポートの話と合わせて紹介しようと思います。

連載

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