Post Design Thinkingの兆し : Art Interaction (4)

Taishi Kamiya
Art Interaction
Published in
10 min readDec 30, 2017

これまでの記事で、現時点における潮流であるDesign Thinkingについて述べてきましたが、ここでは、Post Design Thinkingについて考えてみたいと思います。

前回の記事ではDesign Thinkingの潜在的な課題について言及しました。

Design Thinkingは、従来の企業視点でのプロダクト開発から、人間中心の視点からのプロダクト開発へシフトするための思考手法として企業において有効に活用されている一方で、これが課題解決のためのフレームワークであるがゆえに、解決されうる事柄以外は課題として扱いにくく、そのため課題解決以外の価値や未知の価値を「価値」として判断することが難しい、といった課題があることを述べました。

そのためこれを解決するようなアプローチが求められますが、現在、明示的・非明示的に上記課題を解決するような考え方やプロセスが提案されていますので、そのいくつかを簡単に紹介していきたいと思います。

この記事では、言及したデザイン思考の潜在的課題を解決しうるプロセスを包括的にPost Design Thinkingとして紹介しますが、これは学際的に定義されたワードではないことはご了承ください。また、紹介するプロセスやアプローチは、必ずしも「Design Thinkingの課題を解決する」ために考えられたものではありませんし、文脈が異なるものを無理やり一元的に扱おうとしているため正確性にも欠けますが、新規事業開発の現場担当者の立場の感覚値から意味上の役割の観点で分類を試みてみました。

Post Design Thinking

まず、ポスト・デザイン・シンキング(Post Design Thinking)を整理するにあたり、ここではBuchanan’s Orders of Designを参照し、デザインの分類を土台にして様々なデザインプロセスを整理してみました。

この図において、一般的にDesign Thinkingの範疇として考えられている領域を含む一番手前のレイヤーは、基本的に人間中心(Human Centered, People Centered, UX)のアプローチをとり、人にとっての課題を発見し解決することを目標とするアプローチです。

Post Design Thinkingとして、大きく2つのアプローチがあると言えます。
1つは、人間中心のアプローチを起点としながらも、デザインする領域や時間領域を広げるアプローチ(図のx軸)。もう1つは、そもそもの起点となる視点をずらすアプローチです(図のz軸)。
以下で、それぞれのアプローチにおける代表的なものを非常にラフではありますが、簡単に紹介します。

人間中心を起点とするアプローチ

サービス・デザイン (Service Design)

これはDesign Thinkingの手法の一つとも言えますが、解決する対象を単一のプロダクトだけではなく、課題に関連するユーザーの一連の体験におけるタッチポイントを起点に、ユーザーの体験全体を包括的に設計するデザイン手法です。いまやAppの設計等ではあたりまえに活用されていますが、ハードウェア製品を開発する多くの製造業ではまだまだこの視点が抜けているように思います。「全てはサービスである」と認識する、という視点のリフレームがサービスデザインの真髄なのだと思います。

これの関連する手法として、千葉工業大学デザイン科学科の山崎先生が提唱されている、ユーザー視点、ビジネス視点、社会環境視点の3つの視点を考慮したSocial Centered Designというものもあります。社会・環境というのは如何様にも解釈できますが、たとえばユーザー同士が作る社会(コミュニティや友人関係)も含まれていると認識しています。つまりある人の個人としての振る舞いと友人関係での振る舞いが異なるというSNS時代の状況を考慮したデザインにおいて必要な視点かもしれません。

環境視点を考慮したデザインプロセスには以下のようなものがあります。

トランジション・デザイン (Transition Design)

2014年にカーネギーメロン大学のキャメロン・トンキンワイズ(Cameron Tonkinwise)によって提唱されたコンセプトで、持続的継続社会への遷移に対応するためのデザイン主導の発展手法。個人的な印象では、より日常的な人の営みの結果として、モノ・コトを適応させていくデザイン手法であるように感じます。ざっくりな意訳ですが、サービスデザインが静的な未来予測なのに対して、トランジションデザインは動的な未来予測であると言えそうです。

サーキュラー・デザイン (Circular Design)

2017年にIDEOによって提唱されたコンセプトで、Design Thinkingを時代に即した形で上記Transition Designの考え方を踏まえて再編したものと言えます。企業活動が人の消費を支える時代から、現在のサーキュラー・エコノミーに代表される、地球環境と共生する持続的継続可能な社会を構築するような企業のサービスを生み出すための手法です。既存の産業構造から見直したエコシステムの設計に力点を置いているように感じます。
Circular Design Guidelineが用意されていますので興味ある方はご参照ください。https://www.circulardesignguide.com

上の2つは、これまでの資本主義経済における行き過ぎた「人間中心」のデザインの反動とも言えるでしょう。この2つにおいては、すべての解は将来への暫定的な解であるという認識が大事なのだと思います。

デザイン・マネジメント (Design Management)

デザインを企業経営に活用するアプローチで、主に企業組織や経営戦略のデザインを指すことが多いと思いますが、プロジェクトマネージメントやサプライチェーンなどのあらゆるシステムレベルのデザインも包括していますので、経営者やマネジメントクラスでなくとも意識する必要があると思います。

デザイン・ドリブンイノベーション (Design Driven Innovation)

ミラノ工科大のロベルト・ベルガンティ(Roberto Verganti)教授が提唱しているアプローチで、これは2つ観点が含まれていると認識しています。1つは、デザインする対象を特徴や機能で見るのではなく、意味の観点で解釈しデザインすることがイノベーションにつながるというもので、視点をずらすアプローチも含んでいます。もう1つは意味のイノベーションを生み出すための、組織レベルのデザインでベルガンティは、デザイン・ディスコースというアプローチで、社外の芸術家、建築家、研究者、デザイナー、教育者などの多様な専門家集団のネットワークにおける議論を通して意味を発見する。http://www.designdriveninnovation.com

上記の2つは、本来デザインプロセスの文脈に並べて書くようなものではありませんが、デザインする対象の領域を組織・経営戦略まで広げることで、結果的にアウトプットにも影響を与えるため、広義のプロセスと解釈して無理やり加えています。

その他、有名なものとしてGoogleが推進するDesign Sprintがありますが、これは企業活動の中で現実的なリソース制約の中で効率よくDesign Thinkingを推進するためのプロセスです。ここでは省略しますが興味ある人はこちらに詳細とツールキットなどがありますのでご参照ください。
https://designsprintkit.withgoogle.com

視点をずらすアプローチ

スペキュラティブ・デザイン (Speculative Design)

ロンドンのRoyal College of Artのデザイン・インタラクションの教授だったアンソニー・ダン(Anthony Dunne)が提唱していた手法で、「ありうる」「望ましい」未来を提示することで見る人の思索を誘発し問いを生み出す方法である。表現的にも機能的にもアートに近しい領域であるが、デザインの文脈から生まれているがゆえにビジネス上の価値創出との親和性も高く、プロトタイプによりありそうな未来を実際に提示することで、現実社会を批判的に捉え直すきっかけとなる問いを生み出し、結果としてドラスティックな価値の変化を生み出しうる手法として近年注目されている。

シング・センタード・デザイン (Thing-Centered Design)

Human Centeredに対してIoTデバイスなどのモノを中心に考えるアプローチで、先日デルフト工科大に行った時に@kihapperさんに存在を教えてもらったのですが、Thing-Centered Design自体はデルフト工科大ローカルな ワードのようです。

この名称はさておき、シンギュラリティが来ると言われている時代において、常に人間が中心であるデザインアプローチは不自然であると言えます。AIやインターネットが介在したモノ自体が周りの環境や他のプロダクトとインタラクトする状況は現在すでに顕在化してきているので、今後確実に重要な視点の一つになってくる概念であると言えそうです。

アート・シンキング (Art Thinking)

課題解決の視点ではなく、問題提起の視点を用いて既存の概念や枠組みを越えた発想を促す思考のこと。ここ数年の間に様々なところから同時発生的に同名称のコンセプトが提唱されていますが、代表的なのはArs Electronica Futurelabの取り組みで、日本では今年春に企業のイノベーション支援プログラムとして「アートシンキング・プログラム」を提供する旨を、博報堂と共同で発表しています。

アートインタラクション・デザイン (Art Interaction Design)

手前味噌ですが、私が取り組んでいるアート・インタラクション・デザインは、Art Thinkingと同様に、課題解決の視点ではなく、問題提起の視点を用いて既存の概念や枠組みを越えた発想を促すアプローチをプロセス化したものです。このプロセスでは、アーティストの視点や制作プロセスをモデル化しているため、必ずしもアーティストが関与する必要はありません。Art Interaction Designについては、次回以降書いていきます。

以上、Post Design Thinkingをざっくりとまとめてみました。乱筆気味であまり整理できていませんし誤解を招く可能性があることは承知していますが、大まかにDesign Thinking以外のアプローチを把握するには有効ではないでしょうか。

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Taishi Kamiya
Art Interaction

Concept Designer / Art Interaction Designer / Sound Artist / 某メーカーでデザイン思考の取組みを導入する活動やアーティストとしての活動を通してArtの視点によるデザインプロセスの可能性を模索中https://medium.com/art-interaction