「あんたたち、耳を澄ますなんてこと、しないでしょ」と断定口調で言われたことを覚えている。大学生の頃、スペイン語の講師から言われた言葉だ。京都の私立大学の1コマを教える彼女は、齢五十を過ぎた白髪の日本人で、どこか変わった人だった。
何回目かの授業で、僕が辞書を持っていないことを告白すると、「あんた、辞書を持たずにどうやって今までスペイン語の授業を切り抜けてたわけ?」と驚いて問いただしてきた。…
仕事柄、通勤には電車を使います。基本的に毎日、同じ駅を利用します。
不思議なもので同じ駅を毎日利用しても、景色は毎日違うのですね。道行く人々の服装も、茹だるような熱気と呼応するように移ろいを見せます。
「D判定じゃないか」と学生服の少年は興奮気味に言いました。すれ違う女性の胸のサイズです。
仕事柄、道行く人々をよく観察します。