「あんたたち、耳を澄ますなんてこと、しないでしょ」と断定口調で言われたことを覚えている。大学生の頃、スペイン語の講師から言われた言葉だ。京都の私立大学の1コマを教える彼女は、齢五十を過ぎた白髪の日本人で、どこか変わった人だった。
何回目かの授業で、僕が辞書を持っていないことを告白すると、「あんた、辞書を持たずにどうやって今までスペイン語の授業を切り抜けてたわけ?」と驚いて問いただしてきた。…