シビックテック調査報告:クリストファー・ウィテカー氏へのヒアリング調査

はじめに

こんにちは。北陸先端科学技術大学院大学修士課程2年生の大西翔太です。僕は現在大学院でシビックテックに関する研究をしているのですが、2月10日にCode for America officeにて、Code for Americaのブリゲードマネージャーを務める傍、自身もシカゴ市でシビックテックの活動をしておられるクリストファー・ウィテカー氏とお話をさせていただく機会をいただきました。シビックテックにおける住民参加が進み多くのイノベーションが生まれているシカゴ市において、活動が発展した経緯やシビックテックを進める上で重要な点を探るため頂いたお時間でヒアリング調査を実施させていただきました。たくさんの素晴らしいお話を拝聴することができましたので、質問内容とウィテカー氏の回答を下記にQA方式でまとめさせていただきます。なお、調査は英語で行なったため、僕の語学力やインタビュー力の乏しさから誤訳してしまっている部分があるかもしれません。もしおかしな部分がございましたらご指摘いただけますと幸いです。

調査結果

Q1. シビックテックに参加する人の属性を教えてください

キャリアの初期段階にあるエンジニアが多いですが、シビックテック活動や技術に関心があり学習を目的に来る公務員や非営利団体に所属する人などもいます。また授業で学べないような現場を経験するために地元の大学の学生も来ます。学生の参加者は、活動が広まっていくうちにじわじわと増えてきました。参加者の年齢層としては若い人も多いですが、60代以上の参加者もいます。毎週行うイベントには毎回80~120人の市民が集まります。

Q2. シビックテックイベントに参加する人を増やすために行った取り組みがあれば、その詳細を教えてください

広告に関しては特に際立った活動は行なっていません。ブログやツイッターを使って活動を発信していますが、Web等に特定の広告を出しているわけではありません。これまでは口コミによって参加者が増えてきました。活動の知名度が高くなるにつれ、ジャーナリズムやデータサイエンスを学ぶ学生が多い学校からの参加が増え、地域のエコシステムにシビックテックが溶け込んだことにより、活動が活発になっていきました。シカゴ市では特定の職種を募集することは行なっておらず、参加者が自分のスキルをどう活用するのかを自分で見つけ出しています。シビックテックのように参加者の多様性が高い活動においてはこの方式が適していると思います。

また、初期は「シビックハッキング」という名前で活動していたのですが、名前に敬遠して活動に参加しない市民が多くいました。そこで、活動を「シビックテクノロジー」に変更したところ、参加者が増加しました。

Q3. 市民参加を継続させるために行った取り組みがあれば、その詳細を教えてください

非エンジニアの参加者が、どんなことができるのかについてスピーチする場を作っています。また、新しい人がイベントに来るたびに、1対1でオリエンテーションをして、私自身がエンジニアではないことを話しています。組織を運営する人がエンジニアでない場合は、参加者のハードルが下がります。自分の役割の一つは、コードを書かなくても参加できるということを参加者に伝えることだと考えています。

参加者のモチベーションに関して特に問題意識を感じたことはありません。市民の中からプロジェクトが立ち上がり、その活動を通してシビックテックや技術を学び、新たな仕事を得るという仕組みができています。

Q4. シビックテックのエコシステムを作るために必要なものは何ですか

エコシステムを作るのに不可欠な3つの要素があります。

1つ目は「自治体との協力」です。シカゴ市は市のデータを管理する立場の人間がイベントに参加しているため、市と一緒に仕事をすることができています。市の幹部がイベントでスピーカーとして喋ることもあります。

2つ目は「外部団体のサポート」です。シカゴ市は基金が活動の支援を行なっており、またフェローシップはマイクロソフトの金銭的な支援を受けています。こうした支援が活動の継続的で強固な地盤作りに役立っています。

3つ目は「コミュニティセンター」です。ブリゲード参加者が定期的にコミュニケーションを取り合う場を作り、誰でもいつでも来て活動したり話したりすることができるようにしました。またその発展として、Code for Americaのネットワークを使って小さなコミュニティを大きなコミュニティに結びつけ、全米で知識を共有することができる場を作っています。

Q5. シカゴ市のシビックテックにおいて市民参加を増やす上で発生した問題があれば教えてください

学校との連携には苦労しました。学術機関は現場の変化に対して遅れているため、仕事に取り掛かるのがとても遅かったです。しかし現在では学校のカリキュラムにシビックテックが組み込まれ、コンピュータサイエンスを中心として学生の参加も増えています。

活動のためのオープンスペースを作ることにも苦労しました。そして活動が多様化して来るにつれて、スペースの確保とともに、どのグループをどれくらい稼働させるべきか、またどれだけ私たちが干渉すべきかといったグループ管理の問題も発生しました。

Q6.その他 活動に関して過去に起きた問題や現在抱えている課題があれば教えてください

シカゴで作られた、いつどんな犯罪が起きているのかをマップに表すアプリケーションは、「なぜ」その事件が起きているのかを明らかにしなかったため、地域課題を解決するソリューションになりませんでした。しかしそうしたアプリケーションも、専門家からの指摘を受けて改良を重ね、その地域での犯罪が起きる原因を突き止める一つの材料となりました。こうしてサービスがどんどん進化して使ってもらえるようになるのは、シビックテックにステークホルダーとの対話の場があるためです。

活動を通して、自分たちの見ている世界がとても小さかったことを思い知りました。現在はハックナイトなどの活動を通して、問題をズームアウトして広い視野で見ることに取り組んでいます。

現在抱えている問題点としては、コンピュータサイエンスの知識が無い参加者がシビクテックを通してエンジニアとして仕事を得るところまで活動を発展させることができていません。しかし今後そうした人たちの活躍の場として、政府と民間をつなぐ新たな仕事ができると私は考えています。

また予算が削減されたため、信頼の置けるネットワークが築けない状態に陥り、思うように活動できない状況が続いていました。それを解決するために、ブリゲード1人1人に話を聞き、彼らが求めるものを取り入れるようにプログラムを変更しました。また、サミット開催前に国家訪問委員会を設立し、何をするべきかを話し合いました。昨年はそうした経緯でヒアリングと計画に時間を費やしましたが、今年は計画を実践する方向にシフトしています。誰かが新しい計画を立ち上げる時、私たちはそれを支援するために走り回ります。私たちが取り組んでいることは、形は違っていても中身はいつも同じです。

Q7. 市民始動でのプロジェクトであるChicago User Data Group」が始まった経緯を教えてください

既存の活動に加えて、データにフォーカスした活動がしたいという声が市民から上がったため活動が始まりました。毎回20人近くの市民が参加しています。

Q8. シビックテック参加者のモチベーションは何ですか。

技術を使って社会をよりよくするということにモチベーションがある人が多いです。ボランティアをしているという感覚や、スキルを磨いている感覚、それによって問題を解決できるようになるという思いが人々を駆り立てているように思います。

情報系の学生は自らのスキルを活かした社会問題の解決などの学校では得られない経験ができるため、シビックテックをキャリア形成の場として活用しています。シビックテックに参加することで、政治的な見解や市民の視点を持ったエンジニアになることができます。

またハックナイトなどの活動を通じて実際に仕事を得ることができ、キャリアパスにつながるということも市民のモチベーションに繋がっています。シビックテックの活動を経てホワイトハウスで働くことになったメンバーもいます。オバマ大統領が「民主主義において重要な会社は市民の会社である」と言ったように、ハックナイトから会社ができる仕組みを作りたいです。

ハックナイトは、政治に関わっていない市民が積極的にコミュニティのために行動することができる場を提供することを目的としています。

Q9. 市民はシビックテックにおいてどのような役割を果たしていますか

参加者1人1人が政治と技術両方に精通した人材になることや、活動を通して市民と技術がどのように関わって地域社会を改善していく仕組みとネットワークを作ることは、今後の社会に役立つと考えられます。

また多様な市民が参加することにより今まで見えて来なかった問題や解決策が見えて来る場合があります。これまでテクノロジーは裕福な白人のために使われることが多かったですが、シビックテックによりテクノロジーと地域コミュニティが関わる場ができ、住民の視点が取り入れられたことにより本当にコミュニティの抱える問題を解決するものが多く生まれました。

Q10. 市民がシビックテックへの参加を辞めてしまう原因は何ですか

全ては把握できていませんが、活動を通して新たな仕事を得てそちらに専念するために辞める人が多いです。また結婚や出産といった事情で辞めてしまう人も多いですが、今ではタスク分散などでそうした人でも参加できるような仕組みを作ることに取り組んでいます。

Q11. フェローシップがコミュニティや参加者に与えている影響は何ですか

フェローシップが入りノウハウや専門知識を伝えることにより、その地域に存在するエコシステムが強固になります。また、そうした地域で激しい仕事をこなす中で、フェロー自身のスキルアップにもつながるという相乗効果も生まれています。

Q12. ブリゲード間の繋がりがシビックテックへの市民参加に及ぼす影響について教えてください

ブリゲードの横のつながりがあることによって、市民がより広い範囲で情報共有できるようになり、それが参加者のモチベーション持続につながっています。

Q13. ブリゲード活動によって市民のシビックテックへの理解は向上していますか

活動に参加することで、一般人と比べて政治的な見解や市民視点を持った人材が生まれます。また、活動に参加した市民は非営利団体や政府の活動を潜在的な仕事とみなすようになり、人材の流動が起きます。

Q14. ブリゲードを集める大規模なイベントを開催する目的と、その目的が達成されているのかについて教えてください

参加者同士のリアルなつながりを作ることを目的として行なっています。少なくとも1年に1回同じ場所に集まりお互いに顔を見合わせることで結束を深めています。

また、ブリゲード間のつながりを深めて士気を高めるために「ブリゲードキャンプ」というイベントも企画しています。 コミュニティの士気を高めるためにはできる限り個人的な繋がりを持って結束を高めることが重要です。そして、同じ問題を抱えている人が近くにいないとできないことも多くあります。

Q15. シビックテックにおける「多様性」についてどう考えておられますか

シビックテックにおいては以下の理由から参加者が多様になることに大きな意義があると考えています。

  • 裕福な人がより便利になるためだけにITスキルを使っていてはいけません。この考え方から、貧困地域に住む住民の声を聞き、食糧援助のサービスや少年院入所記録の消し方を知るアプリができました。
  • 多くのコミュニティでは白人が大きな力を持っている。この問題を解決するため、シビックテックでは多国籍の人々を採用しています。
  • 男性優位の文化のため、これまでITが男性に有利なように使われることが多くあった。この問題の解決に向けて、女性参加者の声を聞き、会議中の発言量の男女比を可視化するアプリを作成しました。
  • 私たちの目に見えないコミュニティでの問題は、私たちがその中に入るか、そのコミュニティの人が私たちの元に来なければわかりません。
  • 様々なコミュニティとの繋がりを作っているために、シングルマザーなどの難しい問題に対しても専門的な知識を持った人が支援を行うことができます。

Q16. シビックテックは今後どう変わっていくと思われますか

シビックテックはボランティアではなく、民間のビジネスになっていくと考えられます。自治体の目が届かないところを、ユーザーを念頭に置いて設計したシビックテックテックで補うことで、世の中はもっと良くなります。

全国的にはシビックテックを取り入れる都市が増えていくと考えられますが、最近政権交代があったためどうなるかわからない部分もあります。

しかし、いつか必ず市民と技術者が協力してコミュニティや地域社会の改善に取り組む活動と、それによりできたネットワークが必要とされる時がきます。シビックテックの活動は閉じた地域に収まらず、もっと目に見える形になっていくと思います。

最後に一緒に記念撮影をしてくださいました。一生の宝物です!

調査の感想と学び

今回のヒアリング調査では、活動が上手くいっている部分や発展した経緯だけでなく、活動をする上でぶつかった壁や今後の展望など、実践者の方にしかわからない視点でのお話を、シビックテックと長年先導されてこられたウィテカーさんから拝聴することができ、とても多くの学びがありました。

また、僕はこれまでアメリカのシビックテックが上手くいっているのは参加する市民側のモチベーションが日本よりはるかに高いためだと思っていたのですが、そうした状況の裏にはシビックテックコミュニティ側の試行錯誤の結果生まれた、コミュニティセンターや面談といった市民が参加しやすい環境づくりや、地域を巻き込んだ大規模なネットワークづくりによる結束の強化などの工夫があるということは衝撃的でした。今回学んだことを研究に生かし、日本におけるシビックテックの発展に少しでも貢献できればと思います。

また、今回の調査内容について、3月22–23日に大阪で行われた第6回知識共創フォーラムにてポスター発表を行いました。様々な分野の専門家の方から貴重なご意見を頂き、今後もっと調査や分析を重ねていく必要があるということを痛感しました。こうした記事の形だけでなく、研究の成果として今後もっとアウトプットしていけるよう精進していきます。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。