kindle unlimitedから考える その2

どうやら日本でも「kindle unlimited」がオープンになりそうです。

電子書籍出版 MAGAZINE
8 min readJun 28, 2016

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とうとう、待ちに待った「kindle unlimited」が、この夏頃、正式オープンを迎えそうです。その1でお話したように、作家側にも十分なメリットが期待できる仕組みが用意されています。

そこで今回は、この点について電子書籍作家の視点で、「kindle unlimited」について考えてみたいと思います。

職業作家未満の電子書籍作家たち

執筆で食べていける人たちを職業作家と定義すれば、それ未満の多くの電子書籍作家たちのことを、私は、週末・休日電子書籍作家と呼んでいます。

もちろん、私もその一人です。ウィークデイは本業を行い、週末になると電子出版に取組んでいます。Amazon Kindleストアの開業と同時にはじめたので、そんな生活が、かれこれ4年近くになります。

さて、電子書籍の週末・休日作家たちは、そのほとんどが執筆から出版まで自分の手で行う、セルフ・パブリッシング(自己出版)です。その上、多くの場合販売プロモーションまで手がけなければいけません。トータルの作業は、最初は途方にくれるほどの量だと言ったら、イメージしやすいでしょうか?

貴重な休みの時間を使って、そんな労力をかけてまで、作成する電子書籍です。売れて欲しいと思うのが人情です。しかし、残念ながら、現実は厳しいのです。

どこの誰が書いたのか分からない本が、そう簡単に売れるはずはないのです。

と、ここまで書くと、電子書籍残酷物語ですが、現実は少し違います。なぜなら、Amazonの販売システムおよび報酬制度には、ある工夫があるからです。

週末・休日電子書籍作家の取組み

最初の大きな問題、「どこの誰か」の壁を乗り越える仕組みがあります。それが無料キャンペーン制度です。

たとえ作者のことが分からなくとも、本の内容・タイトル・表紙などに興味がわき、そして、その本が無料だったとしたら……試しにクリックしてしまっても全く不思議ではありません。

電子書籍は現物を手にとって確かめることができません。ですから、このような制度は、週末・休日作家にとって有利に働きます。

「えっ、大変な思いをして作ったのに、なんでタダで配るのが有利なの?」

もっともなご意見です。これは、見方を変えれば、宣伝費用のかからないプロモーションと見ることができるのです。

個人が週末・休日に作った電子書籍を、世の中に知ってもらうには、多くの人の目に触れることが大事です。幸いAmazonは、日本で最大の書店ですから、集客力も絶大です。そんな書店に、無名の新人作家の本を宣伝してもらえるのですから、利用しない手はありません。ぜひ、積極的に活用すべきです。

この無料キャンペーン中(最大5日間)にダウンロードしてくれた人が、将来の愛読者候補です。有料にこだわって、一月に数人の読者からはじめるのか、数百人、千人単位の読者候補からはじめるのか、どちらが有利なのかは、考えるまでもありません。

これを繰り返していけば(もちろん本の内容次第ですが)、愛読者が増えていきます。このように、週末・休日電子書籍作家には、それなりの努力と忍耐が必要になってきます。

これは、米国のKindle作家たちの状況からも明らかです。ベストセラーを出している電子書籍作家の多くは、4~5冊目以降に、注目されて売れ出す傾向があるのいです。もし、1冊目で売れないと諦めていたとしたら……。

週末・休日電子書籍作家からみた、「kindle unlimited」

いつまでも無料では、決して儲かりません。では、どうやって利益をだすのでしょう?

無料キャンペーンを用意したAmazonの解決策は、実にユニークでした。それは、有料販売の印税システムとは異なる、別枠の無料販売用の報酬制度を用意したのです。

Amazonが拠出する、無料販売用の報酬ファンド(2016年6月は、13億152万円)を、全世界で読まれた無料のKindle本の総ページ数を分母とし、各々の実際に読まれたKindle本のページ数を分子として、その割合で分配する方式です。

以下にいくつかの計算例を示します。ここでは、基金の金額を $10,000,000、その月の既読ページ数合計を 100,000,000 ページと考えます。

100 ページの本が 100 回借り出されて完読された場合は、$10,000,000 × その本の既読ページ数 (10,000 ページ) ÷ 全体の既読ページ数 (100,000,000 ページ) という計算になり、その本の著者は $1,000 の分配金を受け取ります。

200 ページの本が 100 回借り出されて完読された場合は、$10,000,000 × その本の既読ページ数 (20,000 ページ) ÷ 全体の既読ページ数 (100,000,000 ページ) という計算になり、その本の著者は $2,000 の分配金を受け取ります。

200 ページの本が 100 回借り出され、平均で半分までしか読まれなかった場合は、$10,000,000 × その本の既読ページ数 (10,000 ページ) ÷ 全体の既読ページ数 (100,000,000 ページ) という計算になり、その本の著者は $1,000 の分配金を受け取ります。

──Amazonのヘルプより引用

ですから、無料でダウンロードされても、実際に読まれたページ分の報酬がきちんと支払われるのです。言い換えれば、読まれれば読まれるほど、作者は利益を受け取ることができる仕組みということです。

この報酬制度は、もちろん「kindle unlimited」にも適用されます。
このメリットを最大に享受するためには(できるだけ単純化します)、

1. 無料キャンペーンで電子書籍と作者を知ってもらう

2. 無料キャンペーンの結果により、Amazonより各種レコメンドがはじまる

3. kindle unlimitedで人気が出る、新作が有料で売れるようになる

この流れが、「kindle unlimited」の導入により、本格的に展開できるようになります。

※上記手法は、Amazonが発表しているものではありません。私の経験上からくる手法ですので、誤解なきように。

「kindle unlimited」の導入で考える

あなたは有名作家でしょうか?

ここで、こんな質問をしても仕方がありませんが、電子書籍の週末・休日作家たちは、ほとんどが無名に近い人たちです。ですから、売れるようになるには、それなりの努力が必要になります。

私は、「kindle unlimited」の仕組みと、その報酬制度を見たとき、Amazonの凄さを肌で感じました。現在、「kindle unlimited」に毎月用意されている10億以上のファンドは、本来なら会社の利益になっているお金です(Amazonは、売上に対して、その利益が非常に少ないことで知られています)。

それでも、世界中から、優良なコンテンツを集める必要が、Amazon側にはあるということになります(これに関しては、こちらで解説しております)。

ともかく、「kindle unlimited」の導入は、電子書籍の週末・休日作家たちの取組みスタイルを変えるほどのインパクトを持っているのです。この流れに、のらない手はありません。「kindle unlimited」は、読み放題に話題が集中します。しかし、読者が読み放題ということは、同時に、作家も読まれ放題ということです。

無料キャンペーンであなたの電子書籍を気に入った読者は、他の本も読みたくなるでしょう。その時、「kindle unlimited」の中に、同じ作家の電子書籍が並んでいたとしたら……あなたなら、どうされますか?

「kindle unlimited」が導入されたら、電子書籍作家として必要なことは、複数冊の電子書籍を出版することです。

Amazonが、Kindleストアを開設した当初から、「kindle unlimited」までの仕組みを考えていたかどうかは分かりません。言えることは、電子書籍の週末・休日作家にとって、また、Amazonにとっても、最適な仕組みであるということです。

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