Kindle Unlimitedとマジックナンバー11
8月3日、いよいよKindle Unlimited:読み放題サービスが、Amazon Kindleストアにてスタートしました。私も早速、利用してみました。
オープン前に、様々なことが言われていたKindle Unlimited。実際の利用により見えてきたことを、お伝えしたいと思います。
■ Amazonランキングの異変
これは、2016年8月4日の、Amazon Kindle本のランキングです。御覧の通り、Kindle本ランキング有料Top100(以下、Top100)の上位すべてが、Kindle Unlimited系で占められました。
読み放題でダウンロードされたKindle本は、有料でダウンロードされたKindle本と同じ扱いになり、有料Top100にランキングされることが見て取れます。
Top100は、Kindle Unlimitedサービスの導入前後で、明らかな変化が生じました。これは、もはや異変と言って差し支えないレベルです。
■ Top100の影響力
Amazonの1日あたりの訪問者数は桁違いに多く、実質的に日本最大の書店です。その書店の中で、最も目に付く書棚がTop100です。
Top100の1桁にランクインすることができれば、発売した電子書籍を効果的にKindleユーザーの目に触れさせることができます。そのため、できるだけ上位にランクインさせることが、新刊のプロモーションでは重視されてきました。
しかし、Top100が読み放題勢に占拠されてしまった今、Top100で上位を獲得するのは相当困難になったと言わねばなりません。
仮に、これからTop100のランキング上位が、少し古めのKindle Unlimited対象本だけが並んでしまう、若しくは対象の電子雑誌だけが並ぶ状況が当たり前になってしまったら……。
その影響力を、出版各社も無視できなくなるでしょう。また、これまで、組織的に順位獲得を目指してきた一部の人たちも、その戦略を根本から見直す必要が出てくることでしょう。
しばらくは、手探りの状態が続くかもしれません。
■ マジックナンバー11 ~Amazonの戦略~
Kindle Unlimitedを使っていくと、必ず次のメッセージが現れます。
これは、利用できる上限は10冊までと決められているため、指示されるものです。したがって、11冊目をダウンロードするには、どれか1冊をやめる(返却する)必要があります。
次の本を借りるために前の本を返却す仕組みは、図書館と同じ考え方です。考えてみれば電子書籍も、もともと電子書籍を購入するのではなく、“読む権利” を入手するだけですから、当然のことかもしれません。
11冊目のルールによって、実質的な読み放題が実現しています。これは、実に上手(うま)いやり方だと、利用してみて実感しました。
Amazonは、実に微妙なバランス感覚で、Kindle Unlimitedにマジックナンバー11を仕込んでいたのです!
■ マジックナンバー11~読者の決断
しかし、考えてみれば、Amazonにとって読み放題サービスだけが利用されていく状況は、決して好ましいとは言えません。果たして、Amazonが読み放題を導入する本当の理由はどこにあるのでしょうか?
Top100に新刊が並ばない状況は、出版社にとってある意味死活問題です。そのためやむを得ず、新刊も早晩Kindle Unlimitedの対象に入れてくるでしょう。すると、
新刊も読み放題になれば
読者は迷わずダウンロードをする
すると新刊がTop100の上位にランク入りし
結果的に多くの人が新刊を目にすることになる
読み放題で新刊を入手し、利用上限の10冊に達してしまった読者は、次の1冊をダウンロードするため、どれか1冊を返却し11冊目と入替えます。
何度か入替えを繰り返すうちに
手元に残しておきたい電子書籍が10冊になる
そうなれば取るべき方法は一つ
今後も残しておきたい1冊を購入して枠をつくる
この流れが物語っているのは、読み放題の先には、本の売上げが増えていく可能性があるということです。読者に新刊を購入する理由ができることは、出版社も、作家も、そしてAmazonにとっても喜ばしいことです。
また、読者にしてみれば、読み放題で新刊を手に入れられることで、立ち読みならぬ家読みで、じっくり作品を吟味できます。何より、今までなら購入をためらっていた作品も、気軽にチャレンジできます。
これは、新たなファンの獲得に繋がる、非常に重要なポイントと言えるでしょう。新たなファンは、いずれ書籍購入の方向へと向かうからです。おぼろげながら、Amazonの狙いが見えてきました。
■ マジックナンバー11~作家の決断
ある作家がツイートで「勝手に読み放題にされた!」と怒っていました。真意の程は分かりませんが、そのような書き込みをした以上、好意的でないのは確かです。
もし、今日お話したマジックナンバー11の意味を知っていたとしたら、むしろ、
「1日でも早く読み放題にしてほしい。それも、最も人気のある作品から」
と考えたとしても何ら不思議ではありません。
せっかく、コアなファンを生み出すチャンスが目の前に広がっているのに、それを止めてほしいなんて、何ともったいない話でしょう! おまけに、プロモーション費用もかからないというのに……。
しかしながら現状は、新刊を積極的にKindle Unlimitedの対象にしている出版社は少数派です。それどころか、参加を見合わせているところもあるのです。
今すぐ、自社の新刊すべてを読み放題の対象にしてしまえば、Kindle Unlimitedバブルがやってくるかもしれないのに!!
百聞は一見にしかず。まずは、自分自身でマジックナンバー11を体験されてみることをおすすめいたします。
実際にKindle Unlimitedを利用してみた結果、“私の読み放題リスト” には、雑誌4冊と単行本6冊の電子書籍が並んでいます。そして、既に12冊の雑誌を利用終了していました。利用上限10冊という設定は、こんな点からも絶妙だと感じます。
あなたの読み放題リストは、どんな感じになりそうでしょうか?
※メールマガジン『電子出版通信』の記事を再編集しMedium版として掲載しています──メールマガジンのサインアップ