TensorFlowと知的財産でマネタイズするという事

Ayako Shimatani
Fashion-Tech News
Published in
6 min readFeb 5, 2016

Bill Gatesは10年前このような発言をしていた。

アメリカには素晴らしい知的財産システムがあるからこそ、多数の企業や仕事が生まれたのだ。そして競争経済であるためには、インセンティブがなければいけない。知的財産は、未来の製品のためのインセンティブだ。

このようにBill Gatesが発言する事は容易に理解できる。Microsoftはライセンスの販売により世界一のtech企業となったのだ。

しかし、今、多くの企業がオープンソース化による無償で技術を提供している。

TensorFlowのオープンソース化

Google子会社のAlphabetは先週(2015年11月)、自社の機械学習を無償で公開する事を発表した。

TensorFlowは我々が以前使用していたものより素早く、賢く、より柔軟性の高い機械学習システムです。新製品や新たなリサーチにも対応しやすく、スマートフォンからデータセンターでの何千ものコンピューターでも作動可能です。Googleアプリでの音声認識から、InboxのSmart Reply、Google Photosの検索機能までTensorFlowを使っており、TensorFlowの素早い学習能力により、素早く製品を向上する事が可能です。

Googleはこのテクノロジーをオープンソース化する事により、すべての人々 — 研究者、エンジニア、ホビイストたちがアイディアをより早く交換し、コーディングを行えるようにします。そして、それにより機械学習の研究が促進される事になるでしょう。

機械学習はGoogleにとって重要な領域だ。
数週前、CEOのPichaiは

我々は過去数年間、機械学習や人工知能の研究へ投資してきた。我々はその領域で最先端の技術を持っていると思っている。特にここ2年の進歩はめざましく、その進歩をリサーチから広告、Youtube、Google Playなど様々な製品に応用している。

と発言している。

GoogleにとってTensorFlowがそれほど重要ならば、それを無償提供するのは筋が通らない。

PR的側面もあるが、勿論、これはGoogleの戦略のうちだ。

ソフトウェアの差別化

今日のtech企業がどのように差別化されているのか考えてみよう。有名企業の例をあげれば、

・Appleの端末は何よりもソフトウェアが差別化要因だが、同社はハードウェアを販売する事により利益を得ている。

細かく言えば、ソフトウェア、ハードウェアとサービス、デザインと世界中の200以上の工場のサプライチェーン、500の実店舗と膨大な数の代理店を連携し、端末を販売している。

・Amazonは単なるウェブサイトでなく、巨大な物流ネットワークにより北アメリカだけでも数万のベンダーと顧客を繋げている。さらにAWSは100を超えるデータセンターに数百万台のサーバーを持ち、パートナー企業による巨大なネットワークを形成中だ。

・Facebookの価値はソフトウェア自体よりも、同ソーシャルネットワークに15億を超えるアクティブユーザーがおり、そのうち10億のユーザーが毎日サービスを利用しているという所にある。更に同社の他のサービス(WhatsApp, Messenger, Instagram)のアクティブユーザー数を加えれば、プラス数億ユーザーだ。しかも彼らはお互いに繋がっている。

このように多くの企業はソフトウェアをベースにしているが、他社が真似する事ができないような付加価値により差別化している。

そして、これこそがGoogleがTensorFlowをオープンソース化する事に至った理由なのだ。

Googleのアドバンテージ

機械学習にはソフトウェアだけでなく、データやそのデータを処理するインフラが必要となる。そしてそれはGoogleにとって強い領域だ。

データ、インフラそしてTensorFlowはGoogleの現在とこれからのビジネスの根幹となる3つの柱だ。その中でも一番弱い機械学習の分野を、世界中のエキスパート達の知識を集め、向上させるのが効率的だとGoogleは考えたのだ。また、将来の機械学習のエキスパート達がTensorFlowを利用するようになれば、業界のデフォルトがTensorFlowになるというのが、Googleのねらいだ。

Googleは同社が持つ膨大なデータとインフラが他社との差別化に繋がるため、容易に差別化が図れる機械学習によるマネタイズはやめておいたのだろう。

Andoridの前例

Microsoftは頑なにオープンソース化を拒んだが、GoogleはAndroidをオープンソース化する事により容易にOS市場を奪った。Androidがオープンソースでなければ、不可能だった事だろう。そして、Googleのビジネスモデルはそのソフトウェアに付随する広告であり、そのソフトウェアの販売ではないのだ。

勿論、GoogleはAndroidを無償化してしまう事で、Androidの販売により収益を得る事はできなかったが、そもそもAndroidはGoogleが自身の検索ビジネスを守るために作った事を考慮すれば、成功したと言えるだろう。

私が思うに、TensorFlowの無償化はGoogleの収益に良い結果をもたらすだろう。Googleは多くのデータとインフラを持ち、今回のTensorFlowのオープンソース化により、機械学習のクオリティを向上し、既存の強み(データ&インフラ)を最大限に生かし、利益に繋ぐ事ができる。

ここから学べる事

インターネットでマネタイズするという事は、容易に真似する事ができる知的財産を売る事なのだ。エスキモーに氷を売るのと一緒だ。可能だが、それは素晴らしい氷でなければいけないだろう。それでも、市場は限られている。

だからこそ、一番良い方法は、その知的財産の付加要素でマネタイズする事だ。
そうする事で消費者、知的財産の模倣者そして知的財産の所有者、誰もが利益を得られるだろう。

Google made its machine learning TensorFlow, open source. Why? because today, it’s cleverer to sell the complements of the intellectual property than to sell itself.

記事セレクト: Yujiro Numata
翻訳: Ayako Shimatani

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