同時通訳者・ 関谷英里子さんインタビュー

撮影:豪田トモ
アル・ゴア元米国副大統領やノーベル平和賞受賞ダライ・ラマ14世など一流講演家の同時通訳者、関谷英里子さん。彼女に、同時通訳の現場や言葉の扱い方の問題、ラジオやテレビ番組での講師としての姿勢についてうかがった。(学芸カフェ2012年3月号より再構成/掲載)

— — — 多くの一流の講演家の通訳をされています。語学などの技術はもちろんですが、それぞれのキャラクターに合った日本語を選ぶ、「言葉のデザイン」も難しそうです。どういうことを心がけておられますか?

関谷: 通訳のなかでもとくに同時通訳をする機会が多いのですが、「声優」を心がけています。つまり、言葉ひとつひとつを変換するよりは、全体の文脈を捉えて、「その人が日本語を喋ったらこうなるだろう」ということを考えるんです。
たとえば自分のことを指す一人称にしても、日本語では一人称を入れるか入れないか、入れる場合にも、わたし、オレ、僕、わたくし、など様々な選択肢があります。あと、その人の話す「間」なんかもなるべく再現したいですね。同時通訳はどうしても半歩遅れますが、文章の終わりは同じにしたいと意識しています。

その英語、こう言いかえればササるのに! 関谷英里子著 青春新書インテリジェンス

— — — 固有の文化的な話題やユーモアなどを通訳するのはとくに難しそうです。

関谷: 難しいですね。たとえば、投資家のジム・ロジャーズ氏は日本にもよく来られて、その際に通訳をさせていただくのですが、あるとき彼が日本の未来について尋ねられました。人口減少や少子化対策が課題だと答えたのですが、そのときに「この講演が終わったらすぐに家に帰って子づくりに励んでください」と言って皆を笑わせたのです。これをオブラートに包んだ表現にしたり、真面目に言ってしまうと笑えませんよね。彼はユーモアをこめて、敢えてダイレクトに「今すぐ」と言っているんです(笑)。

— — — 話者が発言してその通訳、また話者の発言のあとで通訳、というように少しずつ順番に訳していく逐次通訳はイメージしやすいですが、同時通訳はどんな感じの作業なのか、ご説明いただけますか?

関谷: 私が最近思っているのは、話をされている方の言語を瞬間的に頭の中で絵にして、私がそれを別の言語で出している、というイメージです。言葉が文字として見えるというよりは、イメージが浮かんでくる感じです。どちらの言葉で言うかだけの問題ですね。

— — — 関谷さんは子どもの頃にイギリス滞在のご経験がありますが、その頃から通訳者を志されたのでしょうか。

関谷: 子どもの頃から通訳者を目指したわけではないですね。結果的に得意だったのかなとおもいます。

— — — 海外を深く経験していることで日本に対する向き合い方も変わっていると思いますが、いかがでしょうか。

関谷: ひとつは、日本が大好きなんです。日本にいるとすべてが当たり前に見えてしまって、日本のよさが分からなくなることがあります。ですが海外に行ってみると、日本の街の清潔さや安全さ、便利さが身にしみます。接客などサービス業のレベルも高いですよね。ほかにはパッケージのデザインなどでも、作る側が使う側のことを考えている。ちょっとしたパッケージでも、なんて開けやすいんだろうと感動してしまいます(笑)。日本では、そういう気配りが自然なかたちで徹底されていますよね。 もうひとつは、英語はフラットな言語で、それを使うひとびとの態度もフラットなことです。もちろん英語でも丁寧な表現や敬語はありますが、上下関係というのは強くありません。ですから、たとえば褒められたときもへりくだり過ぎず、褒めてくれてありがとう、という感じになりますね。私は日本で日本語を喋っているときも、へりくだりすぎず、いいものはいいと、なるべくオープンに言うように心がけています。

えいごのつぼ (まなびのつぼ) 関谷英里子著 中経出版

— — — 著書『えいごのつぼ』は語学的な内容だけでなく、英語のある人生や可能性の広がりについて書かれてあり、英語を専門にしないひとにとっても面白い内容だとおもいます。

関谷: 語学的な話というよりは、ツールとしての英語で自分の可能性を広げたい方々向けに、その心構えについて書いています。英語の説明はあまりなく、縦書きです。読者の方にちょっとでもやる気を出していただければとおもいます。

— — — 今後の予定とビジョンを教えてください。

関谷: 書籍『関谷英里子のビジネスに効く!ポジティブ英語』では、学校で習ったように訳しているだけではなかなか思いつかない表現を取りあげます。NHK Eテレ(教育テレビ)『英語でしゃべらナイト』での一ヶ月分を中心にして、新しい形でまとめた書籍です。 これから先のビジョンについては、いただける仕事をひとつずつこなし、あまり先のことを考えないようにしています。今のことを一所懸命にしていくと、自分が想像していない次のステージに行けるのではないかと思うからです。『英語でしゃべらナイト』やNHKラジオ番組の講師なども、1年前の自分だとまったく想像していなかったですね。

関谷英里子のビジネスに効く!ポジティブ英語 関谷英里子著 NHK出版

(学芸カフェ2012年3月号より再構成/掲載)

(聞き手/牧尾晴喜)


関谷英里子
同時通訳者。幼少期をイギリスで過ごす。慶応義塾大学経済学部卒業後、伊藤忠商事、日本ロレアルを経て独立。アル・ゴア元米国副大統領、ノーベル平和賞受賞ダライ・ラマ14世、ヴァージン・グループ創設者リチャード・ブランソン氏など一流講演家の同時通訳者。
NHKラジオ『入門ビジネス英語』やNHK Eテレ(教育テレビ)『英語でしゃべらナイト』などで講師を務める。
主な著書に『えいごのつぼ』『カリスマ同時通訳者が教えるビジネスパーソンの英単語帳』などがある。

(*プロフィールはインタビュー当時のものです。)