子どもたちが彩る、ルネサンス建築の新しいファサードとは?
連載「トスカーナ見聞録」Vol.2
イタリア・トスカーナより、有名観光地に隠れたちょっと面白いイタリアの裏話や、モノづくりの現場などについてレポートしていく連載です。
第二回目となる今回は、フィレンツェのクリスマス・イベントの1つ、光のフェスティバル・F-Lightの舞台裏を覗いてみました。
12月に入ると、イタリアはクリスマスムード一色です。11月後半からすでに準備が進み、12月8日の祝日(聖母無原罪の御宿りの日)には本格的にクリスマスシーズンがスタート。この日はフィレンツェでもドゥオモ前のツリーの点灯式が行われ、通りごとに趣向の違うイルミネーションが約1か月の間、人々の目を楽しませくれます。
その他のクリスマスイベントも伝統的なものから新しいものまでいろいろですが、最近できたものの1つに、光のフェスティバル・F-Lightがあります。 世界各地で行われているプロジェクション・マッピングなのですが、歴史的地区が世界遺産に指定されているフィレンツェでは、マッピングする対象となるものもヴェッキオ橋、ピッティ広場、サント・スピリト教会などの全6ヶ所、世界的に有名な場所やモニュメントばかりです。
それぞれにテーマがあり、ヴェッキオ橋は「クリエイティブ・エネルギー」
ピッティ宮殿は、「終わりなき美しいフォルム」
ある日、友人が 「明日はサント・スピリトに息子たちの絵を見にいくんだよ」、と嬉しそうに話してくれました。詳しく聞くと、サント・スピリト教会の場合は ヨーロッパ・デザイン学院(IED) フィレンツェ校と、ビデオデザイン会社・THE FAKE FACTORY が実際の運営を行い、そこで子どもやお年寄りからデザインを募集していたとのこと。彼ら夫婦が働く施設が参加するので、子どもたちも一緒に参加したそうです。
デザインのテーマは四元素(水・火・土・空気)、IEDの募集要項ページより印刷したファサードの輪郭の中にデザインを描き、各団体でスキャンしたデータをIEDに送付したそうですが、「教会の新しいファサードをクリエィティブに表現してください」なんて、きっと子どもたちは心を躍らせてペンを走らせたに違いありません。
サント・スピリト教会があるのは、オルトラルノ(アルノ川の向こう側)と呼ばれる、歴史的地区の中ではまだ庶民の生活感が漂う下町地区。教会前のサント・スピリト広場では週末は市が立ち、子どもたちがサッカーで遊んだりのんびりとした雰囲気ですが、最近はオシャレなバールやレストランも並び、ちょっとしたトレンド地区でもあります。
サント・スピリト教会はルネッサンス初期にブルネレスキが設計した最後の作品であり、聖具室にはミケランジェロの十字架像も所蔵しています。白一色に残された平坦なファサードはまさに絶好の「キャンバス」となり、子どもたちの手によって彩られることになりました。
イベント中のサント・スピリト教会は、友人家族のように子どもたちの絵の投影を楽しみに行った人、たまたま通りかかって見ていた人、そして観光客とさまざまですが、皆それぞれに子どもたちの夢がつまった一大スぺクタクルを楽しんでいました。
イタリアはよく「デザインの国」、「クリエイティブの国」と言われます。ここに暮らして日々感じるのは、長い歴史の中で生まれた建築や美術作品に囲まれているというだけでなく、芸術に触れる機会が幼少の頃から積極的に与えられ、創造する力が自然に育まれているということ。ルネッサンス期の数多くの芸術家をはじめ、現代でも優れた建築家やデザイナーを輩出し続けるパワーの源泉は、こんな所にあるのかもしれません。