クロマチックハーモニカ奏者・ 南里沙さんインタビュー

Fraze Craze
フレーズクレーズ
8 min readSep 1, 2016

クロマチックハーモニカ奏者としてコンサートやライブ、さらにはTV番組などメディアへの楽曲提供や演奏を通じて国内外で注目を集めている、南里沙さん。彼女に、クロマチックハーモニカという楽器の可能性や今後の活動についてうかがった。 (学芸カフェ2014年3月号 より再構成/掲載)

— — — -まずは「クロマチックハーモニカ」についてお尋ねします。どのようなハーモニカなんでしょうか?
南: クロマチックハーモニカは、楽器の右側にスライドレバーがついていて、これを押すとシャープ、つまり半音上の音がでる仕組みになっています。「クロマチック」は半音階という意味で、このハーモニカ1本で ピアノの白鍵・黒鍵全ての音を出す事ができ、1つの穴で4つの音が出ます。たとえば5番の穴を吹くと「ド」、吸うと「レ」の音がなり、それぞれレバーを押して半音上の音がなります。私の使用しているクロマチックハーモニカは音域が広く4オクターブと2音の音域が出す事ができるので、どんな曲でも全部一本で演奏できてしまうのが特徴です。

— — — クロマチックハーモニカで演奏するのに向いている曲などはありますか?
南: ジャンルについてはよく聞かれますが、ジャズはもちろん、クラシック、ロック、ポップス、唱歌、そして演歌まで……!ジャンルを選ばないところがこのハーモニカの魅力でもあります。いろんなジャンルの曲を演奏できるので、あまりジャンルにとらわれずに素敵な曲を演奏していきたいと思っています。

Mint Tea 音楽CD、南里沙
キングレコード (2013/5/22)

— — — メジャーデビューアルバム『Mint Tea』では、表題曲は書き下ろしのオリジナルでしたが、それ以外では、グレン・ミラーからカーペンターズ、さらにはジャニス・ジョプリンまでカバーされています。全体の曲の選定では、どういったことを意識されましたか?
南: 大学ではオーボエを専攻していたので、どうしてもクラシックというジャンルに偏って音楽を聴いていたところもありましたが、このアルバムで、初めてチャレンジしたのがロック、ジャニスジョップリンのMove Overでした。ハーモニカでロック……自分で言うのもおかしいのですが、めちゃかっこいいです(笑)!今回のアルバムのレコーディングを通して、これからも色々なジャンルに挑戦して、ハーモニカそのものの可能性を広げていかなければと改めて思いました。

El Mundo エル・ムンド 音楽CD、南里沙
キングレコード (2015/9/9)

— — — ライブやコンサートなどさまざまな舞台で演奏されていますが、ハーモニカという楽器で苦労されるのはどういう点ですか?
南: ひとつは、クロマチックハーモニカという楽器自体の可能性が、まだそれほど知られていないという部分です。実際に一度聴くと、様々な可能性を感じとって頂けることが多いです。クロマチックハーモニカを広げていくために、自分からどんどんとアクションを起こしていく必要があります。
そして、ハーモニカという楽器は音量の小さい楽器です。会場の広さに関係なく、少人数で聴いていただく時でも音響が大切です。大きな音を出すためでなく、pp(ピアニシモ)の表現をお客様に届ける為に。しかし、他の楽器に比べるとスペース的な問題はなく、私一人、立てる場所があればどんな場所でも演奏が可能です。小さなカフェから何千人という規模のホールでも、マイク一本あれば演奏できてしまうという点では最高の楽器です。

RISA Plays J-songs 音楽CD、南里沙
キングレコード (2014/6/18)

— — — オーケストラと一緒に演奏するとなると、たとえばどういった曲を演奏されますか?ハーモニカの聴かせ所がある楽曲って少ない気がするんですが。
南: クロマチックハーモニカの為のコンチェルトを丸山和範先生に作曲して頂き、2013の1月にブルガリアでブルガリア国立ソフィアフィルハーモニーのオーケストラの皆さんと世界初演させて頂きました。これも私の中では印象深い経験で、ハーモニカが楽器として認められた瞬間と感じました。

— — — 子どもの頃はどんな感じでしたか?
南: 子どもの頃は、ピアノを習い、コンクールや発表会を楽しみながら続けていました。私が小学校1年生のときに阪神淡路大震災が起こり、オーケストラの方たちがボランティアで演奏に来て下さいました。その時、飛びこんできた音色がオーボエでした。甘くとろけるような音色で……私とオーボエとの出会いです。

RISA Plays CINEMA 音楽CD、南里沙
キングレコード (2014/6/18)

— — — 大学時代にはオーボエを専攻されていた南さんが、どのようにしてクロマチックハーモニカと出会ったのかを教えてください。
南: オーボエはダブルリードの楽器で、自分でリードを削らなければなりません。部屋で一人「どう削ったらどんな音色になるのか」と常に研究する日々。インターネットで調べていた所、たまたまハーモニカのリードの削り方にたどり着きました。ハーモニカは一音一音に金属のリードがついていて、それが振動して音がなります。当時はハーモニカがリード楽器ということも知りませんでした。実際の音色は、懐かしいハーモニカの音色に、新しい響きがプラスされ、管楽器のような、弦楽器のような……。私がイメージしていたハーモニカの音色とは違い、衝撃的な出会いでした。

— — — 他の楽器を経験したことは、いまのハーモニカの演奏にも活きていますか?
南: ピアノとオーボエが私の中になければ、クロマチックハーモニカに出会っていなかったと思います。仮に出会っていたとしても、今の私の演奏とは随分と違うものになっていたでしょう。技術的な部分では、オーボエのビブラートのかけ方や、丹田の使い方なども、今のハーモニカに役立っています。オーケストラの中でオーボエを演奏していたという経験は、今、ソリストとしてオーケストラの中心に立つ私にとって大きいです。

— — — 今後、どんな演奏をしていきたいか、どんな曲を届けていきたいか、お聞かせいただけますか。
南: 最近はホールで沢山の人に向けての演奏が増えてきていますが、一人一人の心に届くような演奏をいつも心がけています。クロマチックハーモニカの魅力を一人でも多くの人にお届けできるよう、これからも活動していきたいと思っています。

(学芸カフェ2014年3月号 より再構成/掲載)

(聞き手/牧尾晴喜)

南 里沙
クロマチックハーモニカ奏者。
神戸女学院大学音楽学部音楽学科オーボエ専攻卒業。3歳からピアノを始め、故・秋谷和子氏に師事。兵庫県ピアノ学生コンクール、ヤマハP.T.C.コンクールなど入賞多数。12歳からオーボエを岩永健三氏に師事。
大学在学中にクロマチックハーモニカに出会い、徳永延生氏に師事。2010年F.I.H.日本ハーモニカコンクール総合グランプリ受賞、アジア太平洋ハーモニカ大会にて優勝など入賞多数。
2011年、国・上海音楽庁での演奏、2012年ウクライナINSO新交響楽団に招聘されてウクライナ・リボフで演奏など、海外での演奏も多数。NHKドラマ「希望の花」など多数の劇伴に参加。クロマチックハーモニカの普及に貢献している。

(*プロフィールはインタビュー時のものです。)

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