17世紀からヨーロッパに伝わる伝統工芸「マーブル紙」を復活!世界規模で発展する工房の舞台裏

イタリア・トスカーナより、イタリアの裏話やモノづくりの現場などについてレポートしていきます。今回は、伝統手工芸であるマーブル紙を中心とした工房が、その歴史を守りつつも、変化を恐れず発展し続ける舞台裏に潜入しました。

フィレンツェは美術の町、そして職人の町。私が1994年に初めてフィレンツェを訪れた時も、そんな工芸品を日本に持ち帰りたいと、「マーブル紙」のボールペンやレターセットを購入したことを、今でもよく覚えています。フィレンツェの町を歩くと、マーブル紙の製品を、お土産屋さんや文房具屋さんの一角だけでなく、クラシカルで格式高そうな専門店のウィンドウにも見つけることができます。

フィレンツェ・グイッチャルディーニ通りにあるショップの外観

そのお店は「IL PAPIRO」。フィレンツェ旧市街には8店舗があり、そのいずれもが観光の要となる場所に位置しています。今回は、ピッティ宮殿とヴェッキオ橋の間にある、グイッチャルディーニ通りにある店舗を訪れました。

伝統工芸であるマーブル紙を使った製品、皮製品などが店内いっぱいに並んでいます

IL PAPIROの中心的な製品は、「マーブル紙」。マーブル紙の歴史は古く、中国で発明された後ヨーロッパに渡り、フランスのルイ14世の時代には本の装丁に使用されていたそう。その伝統的な紙製法を再度活性化させたのが1970年代のフィレンツェであり、その中心的な役割を果たしたのが、このIL PAPIROなのです。

マーブル紙の代表的な模様は3種類、左から「クジャク」「大理石」「しずく」

マーブル紙は、海藻を煮たゼラチン質の溶液に絵具を落とし、そこで創作された模様を紙に吸い取らせてできています。絵具の色や混ぜ方で模様は無限に創作できますが、代表的な模様は3つ:幅の違う櫛を数回通す「クジャク」、棒でゆるく混ぜて風合いを出す「大理石」、絵具のついた筆を溶液に振り落としてできる「しずく」。ショップでも店員さんの実演見学やマーブル紙作り体験も行われていますが、実際に製品を作り出している職人さんの作業が見たくて、郊外の本社におじゃましました。フィレンツェ郊外の小さな工場が集まる地区にある本社は、その大部分が倉庫となっており、あとは事務所と2つの作業場があるだけです。

マーブル紙「クジャク」の製作過程、2種の赤・緑・金の4色を落とし、3種違う幅の櫛を通していきます。

作業員のクラウディオさんはこの道34年。職探し中に偶然就いた仕事ですが、今では他の工房では出せない緻密な柄を、ほぼ再生できる熟練の技が体に染みついています。とはいえ、100%同じものは不可能なので、同様の柄でも他には存在しない世界で1枚の紙、世界でたった1つの製品となるのです。5年前に息子のディエゴさんも同じ仕事に就き、親子2人でIL PAPIROの代名詞ともいえる美しいマーブル紙を作り出しています。

完成したマーブル紙はすぐに後ろの棒に吊るされて乾燥させます。1日に1人あたり150~200枚を製作。
13才からお父さんの製本工場とPAPIROで働くラウラさん。糊付け後の製品の重しとなっているのは、お父さんの製本工場から持ってきたアンティークのアイロン。

その向かいにある製品の作業場では、熟練女性作業員4人が活躍しています。製品製作はもちろん、品番シール貼り、袋詰めまで、全ての工程が手作業で行われています。更にIL PAPIROでは、製品にネームを入れるなどのカスタマイズも可能。近年では東京のブルガリ・ホテル&リゾート社など法人の要望にも対応し、それぞれの希望に合う特注品を提案・製作しています。

現在の店舗数はフィレンツェの8店舗を始めとしてイタリア国内で15店、ロンドンやフロリダなどの海外4店も含めると、合計19店までに成長しました。店舗数やこの作業数を考えると、紙の製作から製品加工までの職人がたったの6人、この田舎の小さな作業場からイタリア、そして世界各地に製品を送り込んでいるとは信じられません。

IL PAPIRO第一号店の開店は1976年のクリスマス・イブ。ドゥオモ広場とサン・マルコ広場を結ぶカヴール通りのその店は、開店当時は裏に工房や事務所も全て併設していました。そんな小さな工房が、どうしてここまで発展したのでしょうか?

(左)第一号店の店構えをそのまま本社に移設。(右)第一号店前の創業者の2人。

創業者は職人の町・フィレンツェで育ち、職人の家系で育ったフランチェスコ・ジャンニーニとジャンニ・パレンティ。伝統を守り続ける頑なな職人気質だけではなく、積極的に新しいものを模索する冒険心も持ち合わせていました。直営店舗だけでなくフランチャイジングを導入し、1984年のニューヨーク店を出発に海外進出を開始。更に近年ではソーシャルネットワークをフル活用して発信を行い、従来の職人や工房が用いない独自の経営方法で、40年以上もこの会社を牽引し続けています。

経営者の2人の事務所にある企画デスク。ここからアイディアが生まれ、新商品が誕生する。

ノートや箱などの昔ながらの製品だけでなく、新商品の開発にも熱心な2人。マーブル紙の製法を革に転用したレザー製品や動物型のクリップ、日本の文庫本サイズに合わせたブックカバーもこの部屋から生まれました。そして創業40周年を記念して作られたクリスマス・カードは、マーブル紙が立体アートとなり、送られた人が飾っておける仕掛けになっています。

「変化は伝統をより強くする」とサイトに謳っているように、これからも挑戦を続けるIL PAPIRO。次の40年にはどんな変遷を遂げるのか?さらなる発展が見られるのを、私も楽しみにしています。


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