建築家・芦澤竜一さんに聞く、初めて手がけた海外物件

Fraze Craze
フレーズクレーズ
8 min readMay 2, 2017

こんにちは。フレーズクレーズ編集部インターンの樋口瑞希です。
インタビューのシリーズ企画で、グローバルに活躍されている建築家・デザイナーの方々に、初めて手がけた海外物件についてうかがいます。

今回は、早稲田大学卒業後に安藤忠雄建築研究所を経て独立され、現在は建築家としての設計のほか、滋賀県立大学で教授もされている芦澤竜一さんにお話をうかがいました。
今回お聞きする建築は、マレーシア・ジョホールバルの工場です。

外観

―――今日は、初めて海外で手がけられた物件、マレーシアの工場の設計を中心にうかがいます。マレーシアだからこそ良かったこととか、難しかったこと、日本との違いがあればお聞きしたいです。

工場内部空間

芦澤:まず文化性という面で、日本とかなり違っていました。マレーシアの中でも南の方のジョホールで、イスラム信仰の方が非常に多い場所なんです。お祈りも1日に5回しますし、工場の中でもそういう宗教的な要素が求められていました。既存の工場にもあるにはあったんですが、いかにも近代合理主義的で、正直、あまり気持ちいい感じの空間ではなかったんですよ。だから自分なりにマレーシアやイスラムの文化をいろいろリサーチしていきました。自分がそれまで知らなかった世界ですが、突き詰めていったんです。

あと、日本とまったく違う熱帯の環境なので、自然の持ってる力も全然違います。ランドスケープも色々と考えました。植物の植生とかも全然違うんです。こういう部分については、日本のメンバーだけでは考えられないので、現地のサポートも得ながらの作業になります。

現場での打合風景

―――マレーシアが持つ自然の強さについて、マレーシアの方はどのように考えているんでしょうか?

芦澤:現地でも自然の強さはもちろん認識しているんですが、自然との付き合い方が過去あったものとは違う状況になっていってましたね。東南アジアでも、都市化してるところには西洋的な考え方がもう輸入されていて、自然を利用したり共存しようというよりは、どちらかというと征服したり人工的にコントロールするものだと考えるひとがいたり。現地でつくる側のひとと話をしていても、通風のことを考えていなかったり、自然光もやめてくれとか、緑もいらないとか、わりと自然に対して否定的で(笑)。

現場食堂でのモックアップ

―――どうやって進めていったんですか?

芦澤:言葉だけでは伝わらないので、現地でモックアップやサンプルを作ったりしましたね。そういうコミュニケーションに二段階の壁があって、ひとつは施主との間の壁、もうひとつは実際にものをつくってくれる建設会社のメンバーや職人さんたちとの間の壁です。特に施工者に対してはなるべく実際に物をつくりました。環境面だけではなくて、柱や壁の施工でも、当初は難しくて絶対にできないと言われてましたので、ベニヤでモックアップをまず作って、そんなに難しくないよっていうのを説明したんです。

屋上緑化モックアップ

―――モックアップで説明というのは、建築だからこそできるコミュニケーションですよね。

芦澤:そうですね。単に図面を出して頼むだけじゃなくて、職人たちと一緒に勉強会のようなことをしたり、モックアップを見て話し合ったり、なるべく共有しました。

床タイル施工打合

―――実際に竣工した建物で、こう使うだろうなと想定していた使い方と、現地の人による実際の空間の使い方の違いは何かありましたか?

芦澤:想定外の使われ方はいくつかあって、たとえばこの建物では、雨水を貯めるために、2つの大きなため池を作っているんです。貯水だけじゃなくて、近くを歩いている人に涼しさを感じてもらうことと、敷地周辺の環境との調和を考えていました。周辺の沼と同じ環境にしようと水生植物を植えて。するとある時、誰かがここにエビなんかを放したみたいで。しばらく経ったら、工場の仕事を終えた人たちが、そこでエビ漁をして夕飯にするということが起こっていました(笑)。こういうことは、日本では想定できなかったですね。この敷地の裏側は川が流れているジャングルで、皆がそこで晩御飯を獲ってるんです。それと同じ。

ほかには、使い方ではないんですけれど、想定外のこととして、屋上庭園にサルやコブラが出ています。結局ネズミがいるのでそれを狙ってコブラが出るんでしょう。自然循環がここでも起きていますね。人の手によるメンテナンスも必要なんですが。

鳥瞰

―――芦澤さんの建築思想や設計手法はどの国でも変わらないですか?

芦澤:地域の伝統や地域の素材、自然環境などをいかに読み解いて、どうやって固有の建築にするかっていう点は大体変わらずやってる気がします。その時ピックアップするものがあれば、それぞれ違いにはなりますね。フォーカスするものが素材だったりとか。

工場って、日本でつくってもタイでつくってもマレーシアでつくっても近代合理主義的なつくり方をしてることが多いので、この物件では地域性の出るつくり方をしたいなと考えました。

―――現在はアメリカでの物件にも取り組んでおられるということですが、海外での物件で日本らしさを意識されることはありますか?

芦澤:自然との関係性ですかね。自然と人間が敵対するのではなくて同一化するというか。まあ同じではないんですけれど、西洋や欧米の文化では自然と人間というのは別のもので、自然をいかに制御するかっていう意識が強いと感じます。いまのアメリカの物件では、まさにそういう人達を相手に進めているんです。そういう意味では、マレーシアで都市が欧米化したのは最近で、自然と共に暮らしているという面がありますね。

いまアメリカのデトロイトで木造建築をつくっていこうと進めているところなんです。日本の建築のようにちゃんと分解して修復できる工夫が必要になってくるし、もしもその建築が不要になったときには土に還していく必要もあるので、今その工法をすごい探っているんです。日本での一般的な方法が、現地の施工業者にすぐには通じないんですが、建築をつくることが輪を作っていき、調和を作っていくっていう事が大前提のテーマになっている感じですね。

―――では最後に、海外での設計に関心のある学生や若き設計者に何か一言、アドバイスをお願いします!

芦澤:海外にも、どんどん行ったらいいと考えています。ワークショップやインターンでもいいし、日本にしか働く環境や就職の選択肢がないっていう雰囲気でも、海外も見渡すと、まあ色んな設計事務所や企業もあります。海外の人達は、大学を卒業すると他の国に出ていくことが多いですよね。リスクはあるだろうけど恐れずに、外に出て経験を重ねてどんどんどんどん自分をレベルアップさせていくっていう。海外に出て日本を見てみれば、日本の状況ももっと客観的に見られるでしょうし。

芦澤竜一(あしざわりゅういち)さんプロフィール

建築家/滋賀県立大学教授

1971年神奈川県生まれ。94年早稲田大学卒業。94-00年安藤忠雄建築研究所勤務。01年芦澤竜一建築設計事務所設立。2015年より滋賀県立大学教授。

主な受賞歴として、日本建築士会連合会賞、サスティナブル住宅賞、JIA環境建築賞、SDレビューSD賞、渡辺節賞、芦原義信賞、LEAF AWARD,ENERGY GLOBE AWARD、FuturArc Green Leadership Awardなど。

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