建築家/デザイナー・ 寺田尚樹さんインタビュー

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10 min readJun 9, 2016
1/100建築模型用添景セット No.42 桃太郎編
photo : Kenji MASUNAGA

模型の新たな可能性を切り拓いた『テラダモケイ』やアイスクリーム愛好家のためのプロジェクト『15.0%』などで広く注目を集めている、寺田尚樹さん。彼に、手がけているプロジェクトや創作の現場での話をうかがった。 (学芸カフェ2014年4月号 より再構成/掲載)

1/100建築模型用添景セット No.41 マーキュリー宇宙飛行士編
photo : Kenji MASUNAGA
1/100建築模型用添景セット No.11 お花見編
photo : Kenji MASUNAGA

— — — -まずは『テラダモケイ』についてうかがいます。もともとは「建築模型用添景(人物や樹木・小物等)」としてつくられていますが、建築という枠を越えた大ヒットとなり、「宇宙飛行士」や「桃太郎」「白雪姫」といったシチュエーションも登場しています。このプロダクトをつくられた経緯を教えていただけますでしょうか。
寺田: このプロダクトは「設計事務所の実務で使うアイテム」というイメージでスタートしたんです。たとえば、うちの設計事務所でもよく作っている住宅やオフィスの模型のための添景です。売るためのプロダクトっていう意識はあまりなくて、自分の事務所で使えれば良いし、他の事務所の人にちょっと譲ったりというくらいに考えて始めました。でも、展覧会なんかに出してくうちにいろんな人に興味を持ってもらえるという実感が湧いてきて、シリーズの4番目では冗談半分で、実際に自分で設計したわけでもない「動物園」の添景をやったんです。そうすると、建築の設計に携わってない人もふくめ、かなり反響がありました。それ以降は、わりと自由なテーマでやっていくことにしました。
東京やニューヨーク、アムステルダム、バンコク、といった世界の都市をイメージしたものもあります。建築設計事務所でありながら、実際の建築物を設計せずに都市を表現するようなプロダクトができたら面白いなと。

1/100建築模型用添景セット No.34 バンコク編
photo : Kenji MASUNAGA

— — — 模型の各パーツをつくられる際に気をつけていることは?
寺田: スケールを「1/100」(現実世界を100分の1に縮小したという設定)に決めています。ただ、実際の寸法をそのまま100分の1にしてもそれらしくは見えないんです。ですから、いかにそれらしく見えるようにディフォルメ、つまり形を操作するかということに一番気をつけています。

1/100建築模型用添景セット No.37 ロックスター編
photo : Kenji MASUNAGA

— — — テラダモケイのシリーズでは、なんと「絵本」まで出ています。
寺田: 「桃太郎」とか「白雪姫」っていうのは皆さんご存知のストーリーだと思います。先ほどテラダモケイで100分の1に形をディフォルメするっていう話をさせていただきましたが、今回の絵本では物語のストーリー自体がディフォルメされているというか、オリジナルとは話がちょっと変わっているんです。皆の知っている古典的なストーリーに、テラダモケイ的な解釈を加えてみました。桃太郎や白雪姫の絵本と、100分の1のキットも発売しますので、キットの組み立てのひとつの参考として絵本を見ていただければいいかなと思っています。

絵本『1/100しらゆきひめ』
著者:寺田尚樹
仕様:A6判変型、上製本、カラー、24ページ、日英バイリンガル表記
定価:本体1,500円+税
絵本『1/100ももたろう』
著者:寺田尚樹
仕様:A6判変型、上製本、カラー、24ページ、日英バイリンガル表記
定価:本体1,500円+税

— — — アイスクリーム愛好家のためのプロダクトやライフスタイルの提案である『15.0%』についてうかがいます。アイスクリーム用のスプーンなどをデザインされていますが、このプロジェクトはどのように始まったんでしょうか?

15.0%』のスプーンのデザインは3種類。01の「vanilla」はいちばんオーソドックスな形。02の「chocolate」は角ばっていて、カップの角の部分もすくいやすい几帳面な人向け。03の「strawberry」は先がフォーク状になっていて、ソルベなどを掘削しやすい形。

寺田: 富山の高岡にある鋳造メーカーからの依頼で、工場の技術を活かして何か新しいものを考えて欲しいということでした。当初は、たとえば箸置きやコースター、栓抜き、靴べら、といったものをデザインしてくれないかという話だったんです。ただ、わたし自身はこういったものを普段使わないので、実感が湧きませんでした。やっぱり自分が使う物でないとデザインできないなあということで、お店にあれば自分でも買って使いたい、あるいはそれを誰かにプレゼントしたくなったり人からもらったりして嬉しいもの、そういうものをいろいろと考えていくうちに、アイスクリームにたどりつきました。アイスクリームが嫌いな人って世の中にあまりいないと思うんですよね(笑)。アイスクリームっていうのは皆に愛されてる。

I’m Only Sleeping
アイム オンリー スリーピング
種類:モビール
メーカー:mother tool
オフィシャルサイト:tempo

— — — 『I’m Only Sleeping(アイム オンリー スリーピング)』などのモビールもデザインされています。
寺田: 元々は友人のデザイナーの企画で、世の中にはないプロダクトシリーズを、何人かのデザイナーが集まってつくりたいよねっていうところからはじまったんです。モビールをやりたいという風な話になって、その企画に参加させてもらいました。
世の中のモビールって紙でできているものがほとんどで、メーカーも数えるほどしかありません。なので、今回は紙以外でモビールをつくろうということになりました。

— — — モビールのように「機能がないモノ」をデザインする機会というのはあまりないですよね。
寺田: そうですね、モビールを選んだ理由のひとつは、まさにその「機能がないモノ」をデザインしてみたいということでした。プロダクトデザイナーや建築家と呼ばれる人たちは、普段は何かの機能があるモノをデザインしています。たとえば家には住むための機能があるし、先ほどのスプーンであればアイスを食べるっていう機能が備わっています。でも、モビールには機能がないと言える。
ある意味、機能があるものをデザインする方が簡単です。機能があるっていうのは、特定の性能を満たせれば、ひとまずはそのモノの存在理由となります。でも機能がない場合には、それが良いかどうかっていうのはかなり主観的・情緒的で、いわゆるスペックでは表せません。普段は機能があるモノばかりをデザインしているので、モビールのデザインはリフレッシュになりました。でもまあ、大変でしたね。

— — — 寺田さんはイギリスのAAスクールに留学されていましたが、こういった海外での経験は、今のお仕事でどのように役立っていますか?
寺田: あまり特別に意識はしない方がいいと思っていますが、いろいろと役立っていると感じます。やっぱり日本人はどこまでいっても日本人なので、たとえば外国に行ったときに日本の文化から離れて外国人になろうとするようなことには無理があると思うし、どうやってもなれないし、なる必要もないと思うんです。それと反対に、外国に行ったときに自分が日本人であるということを無理にアピールする必要もないと思うんですね。海外での仕事では、日本人の感覚とかはやっぱり自然に出てくるとおもいます。あまり意識しすぎずに素直にやれば、その方がいい結果が出せるかなと。
テラダモケイについても、日本人だっていうことを意識してやってたわけではないんですけれども、海外では「こんなものをつくるのは日本人以外には考えられない」とか「日本人のプロダクトの典型的なものだ」みたいなことを随分と言われるんですよ(笑)。

紙でつくる1/100の物語 テラダモケイ完全読本、寺田尚樹 (著)、テラダモケイ (監修)
グラフィック社(2015/8/7)

— — — 寺田さんの子どもの頃や建築の道に進まれたきっかけについて教えてください。
寺田: テラダモケイにまさに表れているんですけれども、子どもの頃から、プラモデルをつくるのが大好きでした。手を動かして立体のモノをつくるっていうのが好きなんです。小学校から高校まで模型ばっかりつくっていて、進路を考える時期に大学見学に行ったら、教室に建築の模型がいっぱい積まれている建築学科にたまたま出会いました。

— — — 今後、どういったデザインをしていきたいですか?
寺田: デザインは一人でするものっていうか、誰かが最終的に物事を決めて進めるっていうのが普通のやり方だと思うんですけれど、今後は他のジャンルの人と組んで、今風に言えばコラボレーションをして、何か新しいものをつくるといったことをやっていきたいですね。デザインって自分の個性や才能を掘り下げてくっていう作業なんですけども、自分一人で穴を掘ってても仕方がないなっていうところもあって、自分一人での穴の掘り方が分かってきたので、次は誰かと一緒に違う穴を掘ってみると、これまで想像できなかったことが起こるなと感じています。ファッションの人かもしれないし、映画の人かもしれないし、具体的にどういったジャンルかは分からないですけれど、違うジャンルの人たちとデザインをしてみたいという気持ちがあります。

あなたのアイデアをテラダモケイにします キャンペ〜ン
応募受付期間
2016年6月1日から2016年7月31日

(学芸カフェ2014年4月号 より再構成/掲載)

(聞き手/牧尾晴喜)

寺田尚樹
建築家/デザイナー
1967年大阪生まれ。明治大学建築学科卒業。オーストラリア、イタリアなどでデザイン事務所に勤め、AAスクール(イギリス・ロンドン)ディプロマコース修了。2003年にテラダデザイン一級建築士事務所を設立し、2011年にテラダモケイを設立。

(*プロフィールはインタビュー時のものです。)

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