現代の都市に溶け込むスター・ウォーズの世界『ダーク・レンズ』が日本で出版されるまで 〜エクスナレッジ〜
連載「素敵な本が生まれる時」Vol.4 その1
ウェブマガジン『フレーズクレーズ』の連載「素敵な本が生まれる時」では、海外の建築・デザインを日本に伝えたり、日本の建築・デザインを海外に発信している出版社さんで素敵な本が生まれる瞬間のストーリーを、“建てたがらない建築士”いしまるあきこが伝えます。
建築を軸に視覚に強く訴えるビジュアル本を多く扱うエクスナレッジでは、どのように企画がされ、本が生まれているのでしょうか。3回に分けてお送りする1回目は、スター・ウォーズをテーマとした写真集『ダーク・レンズ』について伺いました。
文・写真:いしまるあきこ
いしまるあきこ(以後、いしまる):エクスナレッジさんというと『建築知識』からスタートしている建築系の出版社さんですが、今日はビジュアルが印象深い3冊の本についてお話しを伺いに参りました。よろしくお願い致します。
関根千秋さん(以後、関根):よろしくお願い致します。
いしまる:まずは、『ダーク・レンズ』です。
こちらはフランスの写真家セドリック・デルソーさんの写真集で、映画『スター・ウォーズ』シリーズの登場人物や乗り物がパリやドバイといった実在するまちの中に登場する写真です。
なぜ、この写真集を2013年に日本で出版しようと思ったのでしょうか?
関根:これは、私がエクスナレッジに入社したばかりの頃に手がけたものです。偶然、海外の出版社のカタログ本の中で見つけて。
いしまる:関根さんご自身がスター・ウォーズ好きだったのですか?
関根:私は最初、表紙を見ても何かわかりませんでした。
写真自体がかっこいいなと思って中を見て、ようやくコンセプトを理解したたくらいです。リアルな風景とポップカルチャーとの融合がおもしろいなと思って。
いしまる:セドリック・デルソーさんの他のシリーズの写真を見ても、工場や廃墟や集合住宅、何かの台に立つ人物などを撮っていて、場所性を大事にされている方なのかなと感じました。
『ダーク・レンズ』には、リカルド・ボフィル設計のパリの「アブラクサス」とか出ていますね。これは、映画『未来世紀ブラジル』(1985年公開)にも登場しますが、実在するけれども劇的な場所で撮っていたり、当たり前にある風景に物語の中の人たちがいるのがおもしろいですね。
関根:日常の中にフィクションが入り込むというのはおもしろいですよね。最近のアメコミ映画など観ていると、フィクションの方がシリアスな世界に近づいているというか、スター・ウォーズの新作もこの写真集のような雰囲気になっていて。
いしまる:最新作の映画『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015年12月公開)を見ましたが、実際にある風景の中で撮ったのだろうなというシーンがいくつもあったので、写真集側の世界観に寄ってきているかもしれないですね。
この写真集は、どういう方に見てもらいたいと思って出されたのでしょうか。
関根:スター・ウォーズが好きな人や写真が好きな人でしょうか。いわゆる現代写真ではありますが、ポップカルチャーを扱っているので、とっつきやすいのではと思います。
いしまる:2013年にでた『ダーク・レンズ』は、2015年に映画が始まってまた売れるようになりましたか?
関根:それのおかげで売れたという感じですね(笑)
なかなか書店には置いてもらえなくて。刊行当初は書評もたくさん出たのですが、全然売れなかったですね。値段が5,000円で高いというのもありますけれども。
新作映画の公開と、それに合わせて展覧会が開催されたので広がりましたね。
いしまる:出版にあたって苦労したことは何ですか?
関根:写真集なので翻訳や編集の手間はほとんどなかったのですが、権利関係が厳しいので、いろいろ気を使いました。
たとえば本のタイトルに「スター・ウォーズ」と付けてはいけないのです。
だから、見てすぐにピンとくる人にはいいのですけれども、分からない人にはなかなか伝わらないですね。
いしまる:「スター・ウォーズ」と謳えないのは辛いですね。表紙の「ファルコン号」も知っている人は分かるでしょうけれど。
関根:そうですね。
でも、序文にジョージ・ルーカスのコメントもありますし、ご本人はセドリック・デルソーさんのこのシリーズの写真作品をたくさん持っているみたいですよ。この原書の出版社に行った時に聞きました。
いしまる:先ほど、買い付けで「海外の出版社のカタログで見て」とおっしゃっていましたが、どういう仕組みなのか教えていただけますか?
関根:企画を探す方法はいろいろありますが、年に何回か国際ブックフェアという本の版権を売り買いする場所がありまして、そこでゲラとか見本を探すことも多いです。
複数の会社が興味をもった場合は、オークションになることもあります。版権を獲得後、制作に入ります。
いしまる:年に何本くらい買い付けをするのですか?
関根:2015年は22本でした。
いしまる:毎年それくらいですか?
関根:私はエクスナレッジに入ってから数年ですが、だいたいその前後ですね。会社としては、もう少し翻訳書を増やす方向のようです。
いしまる:エクスナレッジに入る前は?
関根:著作権を仲介する会社や、出版社の版権部署にいました。
(2016年3月4日、エクスナレッジにて)