ブロックチェーン技術の電力取引への応用(その3)

需要家間取引システムと既存の情報システムの連携

(2018/08/5 プロシューマーの調整に関して文章を微調整しました)

需要家間取引システム(前回のまとめ)

前回の記事ではブロックチェーン技術を使用した需要家間取引システムを想定し、その機能と要件について議論を行いました。ポイントをまとめますと以下の通りとなります。

  1. 需要家間の取引はpeer to peer取引ではあるが、供給を需要にマッチングする確度を高めるため、あらかじめ取引相手を決めて相対取引するのは現実的ではなく、需要家間取引市場を通じた取引が適当と考える。
  2. 各プロシューマおよび需要家の市場への入札および市場での買い注文と売り注文のマッチング・約定はブロックチェーン(分散システム)外の中央処理型のシステムで行われるのがよいと考える。
  3. 売りと買いのマッチング・約定の後に決済が行われるべきであるが、ブロックチェーンであれば中央集中型のシステムを介さず効率的に行うことができるという主張がある。しかし、通常電気料金の課金・請求は1ヶ月に1回もしくはそれより長く、需要家にとってリアルタイムに近いスピードと頻度で決済を行う必要性とメリットは明らかでない。(事業者にとっては資金繰りが有利になるため意味がある)

今回の記事では、需要家間取引システムと既存の電力の情報システムの連携に関して議論します。

電力情報・通信システム

各電力会社が持つ既存の情報・通信システムでは各需要家の電力使用量データは以下の流れで処理されます。

(1)需要家の建物・敷地に設置されたスマートメータが電力使用量を30分間隔で計測する。(従来のアナログの電力量計の場合はおよそ1ヶ月に1回一般送配電事業者の検針員が検針するが、以下スマートメータを前提とする)太陽光発電および余剰電力を逆潮流する契約を持つ需要家(プロシューマ)は、余剰電力分のみ計測するスマートメータを持ち、これが電力消費量と同様に30分間隔で計測を行う。

(2)FAN (Field Area Network), WAN (Wide Area Network) などの一般送配電事業者の通信インフラを経由して電力使用量は一般送配電事業者のデータベースに格納される

(3)「広域機関システム」を通じて、(2)で集められた電力使用量データは各需要家が契約する小売事業者に送られる

(4)小売事業者は需要家の電力使用量データを受領し、需要家が選択した料金メニューに基いて課金・請求を行う

需要家間取引が行われた場合はどうなるでしょうか。

需要家間取引が行われたときの処理

前回の需要家間取引システムの記事で議論したように、太陽光発電設備を持つプロシューマが余剰電力を地域に融通する場合を想定します(図1)。

図1 需要家間の取引(例示)

このときの電力データ(太陽光発電の余剰分および電力消費量)は図2の通りとなります。(太陽光発電を持つ需要家のメータはスマートメータの場合1つに統合されますが、分かりやすくするため分けて書きます。)

図2 電力消費量と発電量データの流れ

上記の図1で示した需要家間のやり取りは、電力データで示すと下記の図3のようになります。(ここでは、議論を簡単にするため計測間隔を1時間としています。)前回の記事で議論した通り、このやりとりは市場取引が行われた結果とします。図3の需要家Aは図2の左上の需要家(プロシューマ)、需要家Bと需要家Cは図の左下の需要家に対応します。

図3 需要家間の電力のやりとり

前々回の電力ネットワークの分散化に関する記事で議論したように、需要家間の取引を行う分散ネットワークが従来の中央管理型ネットワークの上に形成されると仮定します(図4)。

図4 DERが普及したときの電力ネットワーク情報層(再掲)

すべての電力の取引が本分散ネットワークで行われる訳ではなく、図3の「融通」分については本分散ネットワークで、その他の取引は従来の中央管理型ネットワークで行われます。この「2本立て」の取引を処理するためには以下のような調整が必要と考えます。

図3の需要家間取引の例を使用します。需要家Bは8:00–9:00に0.9kWhを消費し、「買い」のメータには0.9kWhが記録されました。この内訳は、契約する小売事業者から0.7kWhの購入、需要家Aから需要家間取引システムを通じて0.2kWhの購入でした。

このとき、小売事業者から購入した0.7kWhは直接計測できる訳ではなく、メータの計測値0.9kWhから需要家間取引分の0.2kWhを差し引いて求める必要があります。仮に電力量計を2台設置したとしても需要家間取引の0.2kWhは論理的マッチングによるものであるため、直接計測することはできません。

つまり、小売事業者が所有する中央管理型システムでは需要家Bが需要家間取引システムで取引した0.2kWhという値の入力を受け、差し引いた0.7kWhという値で課金請求を行う必要があります。そうでなければ、需要家Bは需要家間取引システムを通じて0.2kWh分の料金を払い、小売事業者に0.9kWh払うという「二重支払い」となってしまいます。

プロシューマである需要家Aに関しても同様で、もし需要家Aが小売電気事業者と電力売買契約を持つ場合(P2Pで売れなかったときの契約)、「売り」メータの値から需要家間電力取引システムを通じて売電した分を差し引いて支払いを行う必要があります。

まとめ:電力情報連携の必要性

以下の3点を前提とします。

(1)需要家間電力取引に参加する需要家は、一部の電力を需要家間電力取引システムを通じて調達し、残りの電力は小売事業者から購入する。同様に、需要家間電力取引に参加するプロシューマは一部の電力を需要家間電力取引システムを通じて他の需要家に販売し、残りの電力は小売事業者に販売する。

(2)需要家間の取引が論理的マッチングにより行われ、取引される電力を直接計測することはできない

(3)需要家間取引システムでは需要家間で取引した分の電力の決済が行われる。

これらの前提では、需要家間取引システムで取引した電力を重複して計上しないために、小売事業者が課金請求を行う際に需要家間取引システムの結果で調整する必要があります。前々回の記事で書いたように電力システムの情報層は中央管理型と分散型の併存となりますが、電力情報の連携が必要ということになります。

2016~2017年には世界中で需要家間電力取引プラットフォームを手がける会社が雨後のタケノコのように出現しておりますが、既存の中央管理型システムとの連携を行った事業者がいるかは確かでありません。みなさんどうやっているのでしょうか。システム構築に関して今後の大きな課題ではないかと考えます。

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