This Week’s Insight: FacebookのLibraプロジェクト、公開後の世界の反応
Ginco Researchチームです!Ginco Researchでは、今週も引き続き、話題になっているテーマを深掘りする記事を出していきたいと思います。
先週話題になった記事の一覧は、こちらからぜひ御覧ください。
今週は、Facebookが独自のブロックチェーン「Libra」に関して発表を行い、世界中で大きな話題になりました。
24億人ものユーザー数を抱えるFacebookが、名だたる企業や団体と手を組み、個人間送金の利用を加速させていくようなプロジェクトを発表したため、各国政府や金融業界からも数々の反応が出ています。
今回は、Libraに関する最新情報を集約する目的で、公式ドキュメントから代表的なメディア、各所における反応などを集約し、今後みなさんがLibraについて調査・研究する際の出発点となるような場所として、本記事に各種の情報を集約します。
目次
- はじめに:Libraの概要について
- Libra公式から発表された情報
- メディア掲載
- インフルエンサーの意見
- 近年のFacebookの経営状況・動向等
はじめに:Libraの概要について
そもそもLibraとはどんなプロジェクトなのか、こちらではその概要を簡単に紹介していきます。また詳細は、下記のセクションの公式ドキュメントからご覧いただけます。
Libra Projectとはなにか?どのように利用されるか?
Libraは、「多くの人びとに力を与える、シンプルで国境のないグローバルな通貨と金融インフラになる」ことをミッションに掲げるブロックチェーンプロジェクトです。
最も分かりやすくLibraを紹介しているのは、Binanceから出されたこちらのレポートでしょう(全編英語)。
ここでは、以下の3つの切り口から、Libraの概要を捉えていきたいと思います。
1. 仮想通貨としての「Libra」
Libraは、開かれた金融基盤として、世界中の誰もが利用できるように、安全性とスケーラビリティ、そして信頼性を芯にすえて設計されています。Libraブロックチェーン上を流通する通貨である「Libra」は、USD、EUR、JPY、GBPの4種類の法定通貨と交換することで、入手することができます。
Libraでは、通貨の価値が乱高下することを防ぐため、これらの法定通貨は、「Libraリザーブ」と呼ばれるバスケットの中に入れられて、管理されます。これによりLibraは、ステーブルコインのように安定した価格を実現します。2020年に初期版がリリースされることが発表されています。
2. ブロックチェーンとしての「Libra」
Libraは、パーミッション(許可)型のブロックチェーンとして、スタートし、5年以内にパーミッションレスへの移行が実現するよう、計画されています。運用開始時の2020年には、およそ100の初期メンバー(バリデータ)がいる状態で、ネットワークが開始する見通しとなっています。
Libraブロックチェーンでは、コンセンサスアルゴリズムとして、PoS(Proof-of-Stake)が採用されており、Libra BFT(Libra Byzantine Fault Tolerance)と呼ばれる、独自のBFTが採用されています。
また、ブロックチェーン上で独自の取引ロジックやスマートコントラクトを実装できるよう、Libraでは、独自のプログラミング言語である「Move」が採用されています。
こちらは既にオープンソース化されており、現在、世界中の誰もが実際にテスト版のLibraと、Moveに触れることができる状態になっています。今後はこちらを用いた、様々なプロダクトが登場するでしょう。
3. プレイヤーとしての「Libra」、およびLibra協会
Libraは、Libra協会と呼ばれる、スイスのジュネーブに本部を置く独立した非営利の機関によって、ネットワークのガバナンスが保たれます。
Libra協会は、Libraブロックチェーンのバリデータノードからなる評議会によって運営されています。Libra協会は、バリデータノード間の取り組みをコーディネートすることに加え、上述したリザーブの価値を保全することを目的として、リザーブの運用も行ってます。
現時点で、Libra協会の創始者メンバーとして、下記の企業らが含まれています。
Libraは今後、「Calibra」というウォレットのインタフェースを通して、次の18ヶ月以内に、FacebookのMessengerやWhatsApp上で、高速送金をできるようにしていくことを目指すそうです。
Libraは、価値創出のプラットフォームとなるか
Facebookはこれまで、AppleのAppStoreや、GoogleのGoogle Play Storeのような、アプリケーションを創出するプラットフォームを持たずにいました。しかし今回、FacebookはLibraというプロトコルを開発したことで、ブロックチェーンを基盤とした新たな価値創出プラットフォームを立ち上げたことになります。
現在、Libra協会にシェアリングサービスの事業者であるUberやLyftが参画しているのは、Libra上でアプリケーション開発をすることで、これまでにないユーザーにリーチできるだけでなく、既存のアプリケーションプラットフォームのような仲介業者による手数料を回避できる可能性に、メリットを感じているからなのかもしれません。
Libra公式から発表された情報
Libraから発表された情報はこちらの公式サイト内にて、ほぼすべてを日本語で読むことができます。
また、上記サイト内からは、下記情報が集約された用途別のWebページを閲覧することが可能です。
Libraについて:メディア掲載
Libraの情報は世界中で高い注目を集め、様々なメディアでトップを飾り続けた、衝撃の一週間でした。ここでは、主要なメディアがLibraをどう報じたかについて、まとめてみましょう。
主要一般メディア
▼日本経済新聞
▼ロイター通信
▼TechCrunch
▼Engadget
▼The Economist
一般のメディアでは、決済事業者をはじめとする、Libraと提携する事業者にクローズアップした記事や、政府関係者や銀行など金融業界の関係者による発言を大きく取り上げた記事が多く見られました。既存の金融業界への影響を懸念した記事も多くありました。
主要ブロックチェーン/仮想通貨メディア
続いて、ブロックチェーン領域で情報提供を行っている、クリプトメディアでの報道を、以下でご紹介します。
▼Coindesk Japan
▼Coinpost
▼CoinTelegraph
▼仮想通貨ウォッチ
先程の一般メディアに対して、ブロックチェーンの専門メディアでは、ホワイトペーパーから読み取れる技術的な特徴や、レギュレーションレイヤーからの発言を敏感に読み取っているようでした。
特に、上記の仮想通貨ウォッチによる記事は、価格をステーブルさせる仕組みや、コンセンサスアルゴリズムに焦点を当てており、わかりやすく興味深い内容となっています。
Libraに関するインフルエンサーの意見
続いて、Libraが発表されて以降、様々なインフルエンサーがどのように反応を示したか、重要なプレイヤーの発言や影響力の大きい投稿中でも示唆に富んでいるものを、ピックアップしてみましょう。
ポジティブ
Circle社 CEO Jeremy Allaire氏
誰もが、第3世代型のブロックチェーン開発に乗り出そうとしている。Libraはまさに、その挑戦をしている。
ShapeShift社 CEO Erik Voorhees氏
Libraは、マス市場に提供されることで、歴史上最大の分散型金融への架け橋となるだろう。これまで、最大の架け橋となっていたのはCoinbaseで、仮想通貨の立ち上がりにおいて、重要な役割を果たしてきた。
Mastering Bitcoin 他 著者 Andreas M. Antonopoulos氏
FacebookのLibraは、オープンで、パブリックで、パーミッションレスで、ボーダーレスで、ニュートラルで、検閲耐性のあるブロックチェーンとは一切競合しない一方で、小売銀行と中央銀行の両方に対しては、 ”競合” する存在である。これは見ものになるだろう。
ネガティブ
米国下院金融サービス委員会 Maxine Waters氏
Facebookは、数十億人のデータを持っておきながら、これまで慎重なデータ管理やユーザーの保護に関して幾度の問題を起こしており、真摯な姿勢を見せていない。同社は、このプロダクトの開発を停止すべきである。
フランス外相 Bruno Le Maire氏
Libraが独立した通貨となることは論外であり、あってはならないことである。
欧州議会議員 Markus Ferber氏
Facebookの仮想通貨参入は、シャドーバンキングを助長しかねない。今回の出来事は、欧州で仮想通貨規制を検討するための、良いきっかけとなるだろう。
規制の逆風を超えられるか
従来のブロックチェーン開発では、オープンさや非中央集権制といった性質がもっとも重要視されてきましたが、現時点でのLibraは、これらに相反するような性質を有していると見受けられます。業界内では「これはブロックチェーン/仮想通貨といえるのかどうか」といった、やや批判的な反応が目立っている状況です。
一方、各国行政府も金融システムの安定性維持や、一般生活者を保護する観点から、同社の動向を注視する動きを見せ始めています。プライバシーのスキャンダルで問題になっている同社に対し、既にLibraを厳しい規制の支配下に置くことを示唆する発言や、開発の即時停止を求めるような発言が、各国政府で飛び交っているようです。また、7月16日に、米国議会での公聴会が行われることも決定しています。
上記の通り、ブロックチェーン業界内と、政府や金融界の両サイドから強い声が出ているのは、裏返すと前例のない取り組みであるという捉え方も可能です。
これまで世界のどこのプレイヤーも取ることができなかったポジションに同社が入り込んだということで、今後Facebookがどのように対応を進めていくのか、より一層注目が集まるでしょう。
直近のFacebookの動向
Facebook の決算資料:
同社はこれまで、広告収入という唯一の柱に頼っているといっても過言ではありません。今後Libraが発展することにより、ここの極端な偏りが、解消されていくかもしれません。
過去にFacebookによって 買収された企業一覧:
・72 Facebook Acquisitions — The Complete List (2019)! [INFOGRAPHIC]
2019年の2月に、独自のスマートコントラクトを開発していることで知られるChainspace社の技術を支える、4名の人物を買収したことが報道されています。
他にも同社は、2018年1月に、生体ID認証のAPIを提供しているConfirm社を買収しており、今後提供予定となっているCalibra上で、同社の技術を使ったAML/KYCが実施されるかもしれません。
直近のニュース:
・Oculusがヘッドセット用コンテンツを2週間で500万ドル販売
・Facebookがロボットを学習させるための本物そっくりな仮想の家を提供
Facebookは、オンライン空間の価値流通を支配するか
現在すでに20億人以上が利用しているMessengerやWhatsApp上にて、法定通貨とLibraとの交換機能を備えたウォレットインタフェースであるCalibraが展開されると、瞬間的に巨大なオンライン決済プラットフォームが成立することになります。
世界規模の多国籍企業であるFacebookは、既に単一国家がガバナンスできる範囲から大きくはみ出た存在となっており、仮に規制レイヤーとの協調なしに上記サービスが提供された暁には、今日の金融システムや国際経済は、前提からして覆されることになります。
消えぬプライバシーへの懸念
そんな同社ですが、プライバシーデータの管理体制に関するスキャンダルは既に数多く報道されている通りであり、今回のLibraの発表を受け、米国議会にて再びそれが取り上げられ、激しい批判に晒されています。Binance CEOのChangpeng Zhao氏も、Twitter上で同社が把握しているユーザー情報の多さを指摘し、「もはやLibraでKYCは不要なのではないか」と皮肉を含んだツイートを行っています。
価値流通の空間的な広がりと、Libraの未来
Facebookは近年、Oculusを始めとするVRの領域にも積極的な投資を行っていることで注目されています。AR/VR関連市場が今後著しく成長する可能性については周知のとおりであり、今後はモバイル端末での滞在時間が、VR機器のような新しい端末へと徐々に置き換えられていく可能性もあるでしょう。
FacebookのLibraは、こうしたプラットフォーム上において、ユーザー同士が価値を交換する際に用いることができるよう、設計されたものです。インタフェースがどう移り変わろうとも、そこにインターネットがある限り、Libraは価値を媒介する手段として、広く使われていく可能性があります。
こちらの記事でも詳しく書かれている通り、ブロックチェーンの登場により、ユニークなデータの所有権を移転できるようになった現在、VR空間上で価値流通が発生していくことは、自然な流れといえるでしょう。
「価値のインターネット」が真に実現するのはこれから
Libraの創始者メンバーに含まれているAndreessen Horowitzも、Libraの公開に寄せて、同社がまだ見ぬ「Internet of Value(価値のインターネット)」を、きっとFacebookは実現していくであろう、と高い期待感を示しています。
a16zの描く世界観は、果たして既に、すぐそこまで来ているのでしょうか。
規制と、インクルージョンの合間に立たされるLibra
今回の発表以降、Facebookは各国の規制プレイヤーと慎重に議論を進め、サービス展開の方法を検討していくものと思われます。経済的なインクルージョン(包含)実現を目指したプロジェクトであるだけに、同社や新技術に対する規制の策定に追われるプレイヤーもいる一方で、これまで金融から取り残されていたプレイヤーが、同社を歓迎する姿勢をみせることも起こり得るでしょう。今後、Libraプロジェクトがどのように進行していくか、引き続き注目していきたいと思います。
ブログを移転しました!(2019/08/15追記)
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