This Week’s Insight:RecruitがLN決済のBreezに出資、その背景を探る

Satoshi Miyazaki
Ginco Research
Published in
16 min readJun 14, 2019

Ginco Researchチームです!Ginco Researchでは、今週も引き続き、話題になっているテーマを深掘りする記事を出していきたいと思います。
先週話題になった記事の一覧は、こちらからぜひ御覧ください。

今週の注目ニュース

前回の記事でもご案内した通り、Nayutaが福岡でLightning Network決済の実証実験を開始するなど、国内でもLightning Network関連の事業者が活発に動き始めている様子が伺えます。

そんな中、今週、Recruitが、Lightning Network関連のサービス開発会社である「Breez」へ出資を決定したとの発表があり、話題になりました。

Recruitは、過去にもBitcoinのプライバシー技術開発を進めているBeamに投資を行うなど、ブロックチェーンプロジェクトに対して積極的な投資を行っています。

本記事では、Breezの詳細に加えて、過去に同社が投資してきたブロックチェーンプロジェクトについても、合わせてご紹介し、最後に同社がどのような意図を持って、ブロックチェーンプロジェクトに投資しているかについて、考察していきたいと思います。

ブロックチェーンプロジェクトに投資を行っているRecruitの関連会社

Recruitには、Recruitの100%子会社である、Recruit Strategic Partners(RSP)というベンチャーキャピタル法人があります。RSPは、Recruit Holdingsが出資するファンドのオペレーションを管理しつつ、世界中のスタートアップ企業への出資やサポートを提供しています。

そのファンドの中でも特に、下記2つのファンドが、ブロックチェーン関連企業に積極的に投資を行っています。

  1. RSP ファンド6号
    こちらのファンドは、リクルートグループの新規事業の創出を視野に入れた投資を行う、合同会社となっています。
  2. RSP Blockchain Tech Fund
    RSP Blockchain Tech Fundファンドは、主に海外にて、株式の取得ではなく、トークンを用いて資金調達を行うスタートアップ企業を中心に、投資を進めています。

上図にある通り、RSPファンド6号は、今回出資が決定したBreezとLoyyal、RSP Blockchain Tech Fundは、BeamとCotiに出資しています。

以下では、今回出資が決まったBreezにフォーカスを当てつつ、この4社の概要についてご紹介します。

Breezはどんな会社?

Breezは、Lightning Networkにおいて課題だった、ペイメントチャネル開設の手間を極限まで削減した、革新的なアプリケーションを提供する会社です。

生活者/事業者向けに、Lightning Network関連サービスを提供

同社は2018年5月にイスラエルで設立され、Lightning Network(以下、LN)を決済に利用できるアプリケーションを開発しています。

Breezの提供するアプリは、生活者と事業者の2つのプレイヤーに向けて開発されています。生活者向けには、LNを使ったモバイル決済アプリ、そして事業者向けには、これに対応するPOS(Point-of-Sales)端末用のアプリを提供しています。

Breezを構成する要素

Breezのサービス全体は、大きくわけて、下記5つの要素によって成立しています。

1. Breez mobile

こちらは、LNに対応した、Bitcoinの送受金ができるモバイルアプリケーションです。現時点では、AndroidのBeta版のみに対応しており、iOS版は今後の開発予定に含まれています。

Breezによると、こちらはNeutrinoベースのSPV(Simplified Payment Verification)軽量クライアントを利用しています。NFC対応の端末では、後述するBreez cardの機能が利用可能です。

2. Breez card

NFCに対応したハードウェアのカードです。後述するBreez POSとの通信に利用します。

3. Breez POS

店頭向けの、BitcoinのSPV/フルノードです。Breez Card内のNFCを読み取る機能に対応しています。

4. Breez Hub

Breezの運営するフルノードです。Breez MobileとBreez POS、Partner Exchange(後述)間で、ペイメントチャネル(決済用に開設するチャネル)を開設する役目を果たしています。

5. Partner Exchange

Breezのパートナーの取引所が運営するフルノードです。現在はまだ開発予定の項目リストの中に入っていますが、今後ここでは、法定通貨とBitcoinの交換機能に対応するようです。

これらをユーザーと店舗側がそれぞれ導入することでペイメントチャネルが開設され、買い物やユーザー間の送受金で、高速なLN決済を楽しむことができます。

BreezのLN決済の仕組み

まずはじめに、ユーザーはBreez Mobileをインストールし、アプリを起動します。実は既にこの段階で、自動的にBreez Hubとアプリ間で、ペイメントチャネルが開設されます。

Breez Hubは店頭のBreeez POSともペイメントチャネルを開いているため、ハブを介して、ユーザーと店頭の間で間接的に、ペイメントチャネルが開設されたことになります。次に、ユーザーはレジにて購入金額を確認後、アプリのNFC機能(Breez card)を使って、Breez POSと通信を行います。

このとき、POS側はアプリ側に、LNのinvoice(送金額を記した請求書)を送信します。ユーザーは端末上で送信されてきたinvoiceを確認した後、それを承認します。すると、POSのウォレットにBTCが送金され、決済が完了します。

チャネル開設の手間いらず

これまでLNでは、ウォレットを常時オンラインにしていなければチャネルが閉じてしまうため送受金できない、というユーザビリティ面での課題がありました。

技術は、それを意識せずとも使えるようになって初めて広く普及する、という、こちらのBreezの記事にもある通り、シンプルな使い心地を実現しています。

Breezでは、Submarine Swap(サブマリン・スワップ)という、オフチェーンのスマートコントラクトのようなものを活用し、LNとBitcoinのメインネット間の送金にも対応するようです。

上記の記事によると、友人間の送金の場合は、アプリ上で生成したリンクを友人に送り、それを受け取った友人は、リンクからアプリを起動して、invoiceを承認するだけで、瞬時に送金が完了するとのことです。

Breezの今後の展望

BreezはOSSのプロジェクトです。BreezのGitHub上では、ユーザビリティ向上につながる様々な機能が、今後の開発予定のアイテムリストに記載されています。

例えば、秘密鍵管理を楽にするため、ニモニック/秘密鍵を、Google Driveや、iCloudに自動バックアップする機能が紹介されています。他にも、パートナーの取引所と連携し、法定通貨とBTCを交換できる機能や、Bitrefillと連携して、アプリ内マーケットプレイスで、BTCをギフトカード購入に直接利用できる機能、また0confirmationでの送金にも対応していく予定となっています。

Recruitが投資を決めた、その他のプロジェクト

さて、以下では、過去にRecruitが投資を決めた、他のブロックチェーンプロジェクトについても、簡単に見ていきたいと思います。

Beam:プライバシーに配慮した匿名性コイン

2019年2月18日、Recruitの投資子会社である、RSP Blockchain Tech Fundより、Beamに対して2500万ドルの出資が行われたことが発表されました。

Bitcoinを始めとする多くの仮想通貨(暗号資産)では、ブロックチェーン上で、他者の送金額やアドレスに含まれる残高なども公開情報として扱われています。

こちらに対する懸念から、これらの情報を秘匿化する、プライバシー技術を搭載したブロックチェーンの開発に期待が集まっています。

Beamは、その中でも、Mimble Wimbleと呼ばれるプライバシー技術を実装したコインのうちのひとつです。Mimble Wimbleについては、こちらのページにて、日本語での解説をご覧いただけます。Beamは、2019年前半にかけて、iOS、Android、デスクトップのウォレット開発を進めてきており、現在は目下、Atomic Swapの開発が進行中とのことです。

Loyyal:ポイントサービスプラットフォーム x BaaS

2019年1月30日、Recruitは、RSPファンド6号を通じ、Loyyalに出資を行いました。金額の情報については、こちらでは公表されていませんでした。

Loyyalは、ブロックチェーンとスマートコントラクトを通じて、ロイヤリティプログラム(企業のポイントサービス)を管理できるBaaS(Blockchain-as-a-Service)を提供しています。

同社のwebsiteや過去のプレスリリースによると、Loyyalを導入することで、企業はポイントサービス導入にかかるコストを下げられるだけでなく、企業間で独立してしまいがちなポイントの連携や共通化を視野にいれたサービス展開が可能になるそうです。

現在こちらは、IBMの提供する、HyperLedger Fabricをベースに開発が進められています。

Coti Holdings:DAGを使った高速決済アプリケーション

2019年4月30日、同じくRSP Blockchain Tech Fundより、Coti Holdingsに対して250,000ドルの出資が行われたことが発表されました。

Bitcoinを始めとするブロックチェーンでは、トランザクションのスケーラビリティが問題となっていますが、Cotiでは、DAG(有向非巡回グラフ)と呼ばれる構造を用いています。これにより、トランザクションが増えるごとにシステム全体のスケーラビリティが向上するため、高速な決済の実現が可能になっています。

DAGに関する詳細な説明は、こちらをご覧ください。

Recruitのプレスリリースによると、Cotiの開発するツール上では、疑わしい取引の自動検知が可能とのことです。またホワイトペーパーには、ユーザーがCotiを利用する際には、必ずKYCを行う必要があるとの記載がありました。高速決済の実現とレギュレーションへの遵守を意識した、実用性の高いプロダクト開発が行われているようです。

まとめ:Recruitの投資戦略

このように、国内外数々のブロックチェーンプロジェクトに対して、積極的な投資を行ってきていることが伺えます。
最後に、ここからは、同社のこれまでの投資先プロジェクトの特徴から、同社の投資の進め方や意図について、考察していきたいと思います。

投資先は、それぞれ異なるレイヤーに存在

これまでRecruitが投資してきた企業は、プロトコル、ミドルウェア、そしてアプリケーションの大きく3分割されるレイヤーに点在しており、同社は各レイヤーにおける課題を解決しうる、先端技術と完成度の高いプロダクトを併せ持っている企業に対し、投資を進めています。
以下では、レイヤーで区切って、それぞれ振り返っていきましょう。

プロトコル:

はじめに、ブロックチェーンプロトコルの課題に取り組む企業から見ていきましょう。
Bitcoinのような仮想通貨を社会に実装していくことを考えると、解決すべき課題はまだまだ山積しています。
その中でもRecruitは特に、トランザクションのスケーラビリティ向上とプライバシーの改善の2つに、解決に乗り出す価値を見出したため、Lightning Networkを扱うBreezや、Mimble Wimbleを実装したBeamへの出資を決定したものと考えられます。

ミドルウェア:

次に、ブロックチェーンプロダクトの開発現場を支える、ミドルウェアの拡充と改善に取り組んでいる企業についてみていきます。
企業のマーケティング活動を支援するBaaSを提供するLoyyalは、まさにこのミドルウェア領域においてブロックチェーンサービスを提供している企業の好例として、解釈できます。
ミドルウェアプロダクトにアップデートや改善が施されていくことで、開発者のユーザビリティが向上し、ブロックチェーンへの参入障壁は低下します。この結果として、ブロックチェーンを用いたアプリケーション開発に乗り出していく事業者も増えていくものと考えられます。
このように、プロトコルから実際のアプリケーション開発へと橋渡しを促進していく際に、ミドルウェアは常に欠かせない存在です。今後この領域への投資は、Recruitに限らず、より活発化していくことでしょう。

アプリケーション:

最後は、実用的なアプリケーションの開発を既に進めている企業について見ていきます。

アプリケーションレイヤーは、最も幅広い可能性を持った領域ですが、Recruitは中でも、決済領域のブロックチェーン企業に絞って投資を進めています。
BreezやCotiは、既に実生活で利用できるレベルの、ユーザビリティの高い仮想通貨決済のアプリケーションを提供しており、このレイヤーの最たる例として、挙げることができます。

Fat Protocol?

このように、Recruitは複数のレイヤーに跨って投資を行っている一方で、仮想通貨の日常的な決済利用をいかに現実にしていくか、という部分にこだわりがあるように見えます。しかしその一方で、それがどのブロックチェーンによって実現されるかにこだわりはなさそうであり、BreezのLN決済や、CotiのDAG決済など、成功する可能性があるものに手広く投資している印象を受けます。

Beamのようなプロトコルに近い領域への投資は、レギュレーションなどの関連領域の「知識を買う」という目線で行っている可能性があります。ただし投資の回収のことを考えると、Breezに引き続き、今後はより一層、ミドルウェアからアプリケーションレイヤーにかけての投資が続いていくものと考えられます。

決済系のプロダクトは、一度一定数のユーザーが定着すれば、ネットワーク効果ですばやい成長を遂げ、プロフィットを生み出せる可能性が格段に上がっていきます。Recruitは世界に先駆けて、「今後仮想通貨による決済は、選択肢になりうるのか」という問いに対する答えを見つけるべく、こうして日々投資を進めているのだと思います。

誰もがブロックチェーンを使っている日を目指して

Recruitの行う投資の延長線上には、どれも生活の場で実際にブロックチェーンが利用されることが想定されている印象を受けました。

誰もがブロックチェーンを気軽に使える状態を、一日でも早く実現するべく、同社は今後も積極的な投資を行っていくことでしょう。Ginco Researchでは引き続き、同社の動向をウォッチしていきたいと思います。

ブログを移転しました!(2019/08/15追記)

最後までお読みいただきありがとうございます。Ginco Researchはブログを以下に移転しております。引き続きブロックチェーン業界の動向や週次・四半期ごとのレポートを公開しておりますので、ぜひこちらもご覧ください!

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