HEAD研究会と学生 — 参加という「経験」を通じて考える

研究会インタビューシリーズ vol.09 — HEAD研究会 代表理事 松村秀一さん

Okamawari Yukiko
HEAD Journal
16 min readMar 4, 2020

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HEAD研究会 代表理事 松村秀一さん[東京大学教授日本建築学会副会長/建築技術支援協会代表 理事/団地再生支援協会会長]

<新しい人と出会って、新しいテーマを考えるHEAD研究会>

— 松永安光理事長にはHEADの歴史にやこれからのことをインタビューさせていただきました。松村秀一先生も同じ創立メンバーですが、何か特に印象に残っているできごとなどありますか?

HEAD研究会ができたのが12年前ですね。
それでその経緯は松永先生がお話しされたわけですけど。

この10年くらいの間にHEAD研究会で起きたことと僕自身で変わったことだと「リノベーションスクール」が頭に浮かびますね。
リノベーションスクールについては色々なところに書いているのですけれど2011年春にリノベシンポというのを北九州市でやりました。2008年にHEAD研究会が一般社団法人になろうかというころは、日本のリノベーションの人というのかな…まぁ馬場正尊さん、大島芳彦さん、新堀学さんとかですねそういう人が活発に動き始めた時期なんですよね。「リノベーション」という言葉がまだそんなに使われていなかった頃の時期で、面白いことをやっている人たちが何人かいるというそういう状況でした。それまで、「国際化」「建材部品」「情報」の三つで始まったHEAD研究会のタスクフォース(=チーム)の「4」として大島さん、馬場さん、新堀さんに集まってもらって「リノベーションTF(タスクフォース)」を始めたんです。

活動をシンポジウムシリーズで始めましたが、2回くらい大阪や鹿児島でやっていたその頃、清水義次さんが北九州市と小倉家守構想というエリアマネジメントのリノベーションを構想、大きく言うと街をどのように経営していくか、産業政策を含めたことを清水さんに北九州市が相談していたんです。

そのタイミングで北九州市でも「リノベーションシンポジウム」をしたんですけど、僕は人が育たないとまずいと言うか広がらないなと思ったんです。大島さんだとかよりもっと若い人たちが新しい仕事のフィールドでこれからを形成していくと。可能性の大きな分野だし、既存の大学ではまだやっていないし、不動産の学校も少ないしと。すでに建築や不動産の学科で仕事をされている若い人でも今からでもそっちにいく人もいるとだからそう言う人たちの人材育成が非常に大事なんじゃないかと、清水さんと新堀さんとまさに今インタビューしている東大のこの部屋で話したんです。

この部屋で話していて、清水さんがちょうど北九州でそういうことをやっているから北九州でやってみましょうかという形で「リノベーションスクール」ははじまつたんです。

非常に面白いし、熱気を帯びているし、人も集まるしということでリノベーションスクールを運営する人たちは清水さんを中心に立ち上がっていくわけですね。だから僕も時々講演をしたり最終発表の時に立ち会ったりというようなことで関わっていましたけれども…これがHEAD研究会から発生した動きとしてとても大きいです。

もちろんその他にも、それぞれのTFごとにトピックはあって、例えば、建材部品TFの「みらいのたね賞」とかもずっと繋がっているし、不動産マネジメントTFはやはり不動産業の地位向上を目指して新しい業界の形を形成したいということで盛り上がって集まっています。従来HEAD研究会が集まる前に集まっていなかった人たちが集まる集まりの場というのができているというのが大きい。僕自身と松永先生もみんなもそうだと思うんですけど新しい人と知り合って新しい刺激を受けて自分自身が新しいテーマを考えるということにつながっています。

— 確かに学校の中だと不動産とかかなり扱っていないものが多くて、私自身も学校の中だとデザインや意匠だけで勝てる気が全くしていないんです。でもかといって構造や都市にすごく興味があったわけではなくて…でもHEAD研究会に来るとリノベーションTFとかどこでも面白いことをやっているそういうところを学生事務局をやらせていただいているおかげで沢山の業界や沢山の方面で強みを見つけ出している人見れているというのはいいです。

でも学生だけではなくて僕たちも同業者で集まりがちです。HEAD研究会内でもTF内で多少そういう側面はありますけれどもいろんなTFがありますしどれにでてもいいし、時々共同のシンポジウムやイベントがあったりすることで新しい人と出会ったり全く違う仕事ができたりします。学生の方だけじゃなくて大人の人たちでも社会で実際いろんな関係を持っている人でも、なかなかそういう斜めの関係に出会うことがないので。

大学の自分の先生が外でどんな風な姿か見ることもないですよね。山代先生が社会でどんな風にどんな人と喋っているのか、見ることないですよね。

<大学の外の人の姿を見ることができる場としてのHEAD研究会>

— あまりないですね。たまに研究室にプロジェクトを持ち込んでいただいてやらせていただくということはありますけれども…1人や2人スタッフさんと打ち合わせをしてその中でやっていくということが多いので…外ではどんなことが起きているのかわからない部分もありますね。

あと1つHEAD研究会の大きな特徴としてはもちろんそこでやったことがビジネスとして展開していくことは重要ですが、あそこの場で議論していることが明日ビジネスになるとかならないかということではなくて、なんか違うことを1回話しているんです。普通社会で集まって話しているのはもっとダイレクトに経済活動につながる、会社の利益つながる、いつまでに何をしないといけない、納めないといけないというような話なんです。社会人同士での話しかしていないわけですよね。ところが、HEADではざっくばらんに違う人の話を聞いてあれってこうだよね、ああだよねということを話をするんです。もしかしたら学生の方がそういうことを話しているんだけれども、経験がないのでテーマが割と宙に浮いている、リアリティのない議題にしかならないものが多いんです。

例えば、今売れている建築家とか雑誌に書いてあることがどうかとかあるいはこれわからないけどどうかなと…自分が実際に社会と関係を持って何かしようとするときに、なかなか、経験を踏まえてかつ人に言えない意見は出てこないじゃないですか。

— そうですね。雑誌とかみてもどのようにデザインしてどうやって表現したというのは書いてありますが、どのようにビジネスが入っているのか例えば店舗がいっぱい入っていたら区切っているのかとかそういう成り立ちって書いていないので…仕事としてはどのように成り立っているんだろうはよく思いますね。

学生たちが事務局に入ったり学生会員として入る意味は沢山あると思うけれども社会に出るともうわかっちゃうからという考え方があるんですよ。仕事とか。やったら覚えないといけないから。だから知る必要がないと考える考え方もあるんですよ。

でも一旦社会に出てしまうとああいう集まりがなかなかないのでああいう集まりで学生以外の人たちがどんなことをどんな発想で喋っているのかどういう仕事の仕方と結びついてやっているのかというを感じる場というのはなかなかない。
むしろこういうことを社会人になる前にそういう空気とかどのようなことを考えているのか、そういうことを考えることが重要です。

TFによって同じ問題でも考えていることが違ったりするし、何か任されたり自発的に考えたりすること、もっと発言や提案ができる仕組みがHEAD研究会にあるといいですよね。学生にとってもただ聞いているだけ、なんとなくごちそうさまでしたという感じだとまだ十分生かしきれていない気がするんですよね。何かがっつりあるTFに入って活動するタイプの学生の人もいたり事務局で多方面の人と交わったり話を聞く方向で自分の為になると思うタイプの学生がいてもいいと思うんです。

ここ数年は同じようなパターンが続いてきましたが、初めは学生の自由に、あるいは学生にTF自体をまかせちゃおうという時期もあったんです。関心を持っている学生に関心のあることを聞いてどんなことをやってみようということが流行った時代もありました。学生事務局出身で現在オープンプロセスTF委員長の水上幸子さんとかですね。最初の頃の事務局担当でビルダーTFに関心があってビルダーTFも立ち上がったばっかりでお互いなんか知らない工務店の社長同士が集まっていて、でも全然違うことをやっている人が集まっているから、もし水上さんが関心あるなら調査項目とか提案してもらったら自分たちが答えるからという形で始まったりしたんです。

やりたいこととか、こんなデータが欲しいとか、メンバーのこういうことを知りたいとかそんな感じでじっくりやっていた時期もあったので…そういうやり方は今でもあり得ることなんですよ。

<立ち上げの時期は、何をやってもいい時期の面白さ>

それはなかなか今学生に来ていただいているのは10年以上事務局というのが続いてきているのである型が決まって来ていて前の学年がこうしていたからこうしているというのもあるじゃないですか。

— そうですね。そんな気もします。

それが学生の方だけじゃなくてあらゆる会員の方がそうなんですけど…始め集まった頃はみんなで作り始めていたので何をやってもいいとか決まっていないんですよ。それで自由に発案してTFを作ってもいいということになっていた。
今でもそうなんだけどやはり10年以上経つと新しく入って来た人たちはもう組織ができていて一応「型」があってそこに自分をなじませていく形になっているので、むしろそうではなくて、やりたいことは提案してもらって、学生も社会人の会員もやりたいことがあって少し発言してみるとかこんなことできないかなぁとか言ってみたりだとかがもっとあっていいですよね。そのあとの飲み会もあるしね。

そういうところでHEADで相談して見るとか、自由に使ってみることができる場として形にしたいですね。

そういう仕組み…というか雰囲気ですかね?今入るとやはりすでに出来上がっているTFに属して何かをやろうという形が少しやはり壁を作ってしまっている気がしますね。別にTFいくつか掛け持ちしてもいいし新しく作ってもいいという制度にはなっていますが。会員情報の管理の都合上1つの主要となるTFを選択しないといけないので。

一応全てのTFに時間が許す限り参加しても良いという形にはしていますが、企業が会員の方も学生もそうだけれどもそんなに自由な時間があるわけではないので全て出るということはなかなかできないんですよね。

企業の人も本業はそちらですのでそんなにバッチリなんやかんや面白いことをやろうと思っていろんなTFに出ることもしにくいですよね。上司の人にHEAD研究会行って来ますというと…今日もかよと言われてしまうでしょう。色々難しいこともあるけど一応そういうことができるということを知っていただきたいです。

不動産TFの人たちはなんとなくそういうのを認識している感じがしますけどね。みなさん経営者が多いから。

— 自分が経営者だったりしたら個人経営だとしたら自分で判断できますが、大手法人の方だと自由にとはいきませんね。

あと法人の方だと担当が変わったりするとね。大事なんだけどどれだけの能力をここに注ぎ込んでいいのか。それは企業風土によりますよね。

でも学生の方はもっと自由に時間があるときにTFに出てみて欲しいですね。TFでは結構かわいがられるし。

— 今はFacebookのグループ上のお知らせを見るか、事務局をやっていることで運営会議の際に入ってくるメールで私は確認できますけれど、そこに参加していないと情報を入手する手段があまりないというか。

Facebookも無理にやる必要はないけど、今思い出すと以前学生事務局をやっていた沼田汐里さん。彼女が言い出したのが「タイニーハウスプロジェクト」ですね。学生のプロジェクトの発案に大人がついていくというパターン。HEAD研究会と学生の関係としてはすごくいい。とかそういうことができるんだと竹内昌義さん、丸橋浩さんなどがすごく面白がって、クラウドファンディングでお金を集めて展示もしていた。そういう馬力があってHEAD研究会を使うとそれなりに面白いことができるというのがHEAD研究会の面白みでもあると思います。

ちなみに今の学生事務局はどうですか?

— 結構こういうのもまた勉強になりますし、会社がどう動いているのかとか…私はそれなりに楽しんでやっています。

大学の同じ研究室の方はどういうふうに思っているのですか?こういう活動に対して?

— うーん、どうなんですかね。2,3回HEAD研究会に連れて来たことあるんですけど運営会議だったり総会だったので少しやってることがわかりづらかったかな?とも思います。あんまりそれ以降行こうという感じではなかったので今は特別何か誘ったりはしていないです。

やはり何に連れて行くかですよね。興味のあるTFかイベント、シンポジウムに行くかしないと。

— 今年の総会のシンポジウムには来てもらったんです。今年の総会シンポジウムは少し形式が違ったので…HEAD研究会のやっていることが伝わりづらかったのかなと思いますね。

そうなんです。今年は少し性格を変えてみたんですよね。内部会員向けにしようと。入っている会員たちがもっとお互いに交流や関心を持てるようにという話になったんですけど、その前までは、もっと入会を促進することをシンポジウムの目的の半分くらいにしていたんですよ。
(変えなかった方がもしかしたらよかったのかな?)

— 初めての人にとってはわかりやすいしいい話なんだと思いますが、長年会員の方には大体どこがどういうことをしているとかわかってきている人もいると思うんです。そうすると何か新しい話を聞けた方が楽しいのかもしれません。

なるほどね。そうですね。
昔いろんなことをやっていて、嶋田洋一さんがフロンティアTFを始めた頃かな。企業の方と学生の方も両方いたんです。それで学生が普段知らないようなそういう企業の方もたくさんいたんです。それこそ不動産マネジメントTFの橋本樹宣さんとかね。そういう人たちとの出会いの場というのがあるのはお互いいいのではということでシンポジウムで企業にアピールタイムを作るなどしていました。求人というわけではないですが、学生の方が来ているのでそこで出会いの場を用意しようということなどやっていましたね。

まだ組織が若かったし、学生事務局として大人の活動に溶け込んでいたのでこんなことしたらどうかなと気軽に話して面白いですと。人集まるかなと相談すれば集めますよと学生が動いたり、そういった動きがあったような気がします。

— 学生会員のMくんなんかを見ると深くエネルギーTFと関わりを持っているじゃないですか?そう一つのTFに大きく関わると言うのもいいなと思いますね。

エネルギーTFはそういう感じが大きいですね。そうですね、学生も事務局を何年かやるのであれば、そういう段階的なものがあるのもよいですね。事務局入ってからTFに行くとか、TF活動で色々知ってから事務局に行くとか。

<専門だけに偏らないためのHEAD研究会という場>

— HEAD研究会の今後としてはどうですか?

そうですね。もう10年以上やって来ているのでやはり世代交代ですね。どこの組織でもそうなんですけど10年くらいすると固まってくるので、新しい人たちが新しい活動を始めないと面白さがなくなって来ちゃうんですよ。なので学生の人たちに来てもらっているのもそうなんですけど新しい人が入ってくるということなんですよね。TFの委員長もそうなんですけど。リノベーションTFの委員長宮崎晃吉さんのような若い人がいるのはいいんですけどね。
全体にかなり年配になってきているんです。12年前に集まったメンバーは12歳若かったのでその頃は。若い人たちがまた何か作ちゃうというのもあるのですが、ここまで面白い会になっているのでどんどんTFに入りたい人に入って来てもらって、今までやって来たTFを引き継ぐのもそうですけど、新しい活動を、エネルギーTFなんかみたいに…

— そうですね。国際化TFも現在は、「木の国際化TF」になりましたし。これからもどのように変化して行くのか。

やはり何か仕掛けが必要ですよね。誰かこの人面白そうだなという人に来てもらってやってもらうことが必要ですよね。

— 今年は研究会内でいろんな組み合わせという動きが多かったですね。

そうなんですね。例えばどことどこがですかね。

— 不動産マネジメントTFと情報プラットフォームTF、リノベーションTFが協力したり。これまで細分化されていたところが少しづつ変わるのかなどいうような感じがします。

あとHEAD研究会全体としては、対外的な発信が弱まっているわけではないですが決して強まっているわけではないので、面白がられることをやっていかないといけないですね。HEADジャーナルができたのもそういうことだと思いますが安定して来ちゃったんですよね。組織として。

そういう意味で「ジャーナル」っていいですよね。Oさんは大変かもしれませんが。これから文字起こしするんでしょ?雑談になってしまっているところを切ってもらっても。(笑)

— でも私は逆に雑談を多く入れたりしています。HEADは面白い考えを持った方がたくさんいるので、その人がその何をどんな風に考えているのかとか。面白いじゃないですか?その委員長の雰囲気とかそういうのも伝えられたらなというのが委員長インタビューをして行く中で一つ大切にしているところです。

なるほどね。建築って結構狭い業界じゃないですか?最初の話に戻りますが、設計なら設計とかね、考え方が凝り固まっているんです。普通の人から見たらおかしいんじゃないかということを建築の業界の人たちが大事と思っていたりすることもあるんです。
だから私がHEAD研究会をやっているのはそういうことなんですね。あんまり専門だけに偏らないように一般の方と意見交換ができる場ですね。

— 確かにそうですね。結構建築をやっていない友達と話すとその瞬間は衝撃的なことを言ったりするじゃないですか。そういうのを一度持ち帰ってちゃんと考えると確かにそうだなとか、新しいアイデアも思いついたりします。

外から見ている人からするとそんなことで社会は動かないよ、違う原理で働いていると思っているんです。そこをこういう風に考えないとあなたたちの目標を達成できないんじゃないのということに触れる場というのはかなり少ないんですよ。

常務理事の長屋博さんはその最も代表的な人物で、建築の人たちは言っていることがおかしいと、建築界で誰が有名かどうかとか関係ないからと、そういう存在を代表していますね。清水さんもそうだと思います。

松永理事長や山本想太郎さん、私なんかは建築側の人です。それが建築界にこだわる必要のない人たちと会を作ったことに一番大きな意味があると思っています。

— 次回は長屋さんにお願いしようと思っています。

(聞き手・文責 岡廻由貴子)

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