【イベントレポート】HEAD研究会総会シンポジウム2023「ひらかれた場づくりを目指して」vol.2 TF活動報告編
本レポートでは、前回の【イベントレポート】総会シンポジウム「ひらかれた場づくりを目指して」vol.1 基調講演編に引き続き、 vol.2 [TF活動報告編]として12のTF委員長による活動報告を振り返る。
(※TF=タスクフォース:テーマごとに継続して活動を進めるチーム。)
※本イベントレポートは2回に分けて掲載。
-TF活動報告:各TF委員長より
現在、活動している12のタスクフォース委員長から、活動方針が紹介された。活動方針を互いに共有し合うことで、TF同士の横の繋がりが深まる場を切り開く。
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TF1:国際化タスクフォース (山代悟委員長)
“建築と林業のブリッジを試みて”
木の国際化をサブテーマに建築の分野に限らない、林業と建築をブリッジできる活動を行っている。
木材の国際的な流通、国内の林業の現状、国内外の中大規模木造に関するオンラインサロンを開催している。
今後の活動展開として、2つのフィールド〈様々な木造中大規模ビル3~5階建て程度を普及していくためにはどうしたらよいのか〉、〈プロトタイプを想定した川上から川下までの議論場と提案〉をテーマとしてTF活動を進めていく予定だ。
TF2:建材部品タスクフォース (山本想太郎委員長)
“建材製品から建築をみる”
主に建材部品についての”建材製品から建築の未来をみる”勉強会を行い、〈建材を通した建築情報プラットフォームを作る〉研究会当初の目的の一つでもあるテーマを掲げ活動している。
毎月の定例研究会は通算147回に及び、定例に加えメーカーや建築家によるプレゼンテーションやシンポジウム等のイベント、研究施設等の見学会を開催。日本能率協会主催の建材アワード「みらいのたね賞」に企画協力した活動に加え、建材をピックアップ、TF勉強会の対象としている。
時代性に伴い出現する建材は、様々な時代の中核的な建築テーマを先取りしていると言える。最新の事例では、研究会が掲げる場の一つ〈箱の産業から場の産業〉のように、建築のハードウェアから暮らしに近いインテリア雑貨傾向のある建材が増えており、建材をみることは建築の未来を見ていく上でも有意義であり、建築を思考する入り口としても有益なジャンルと言えるという。今後も継続して勉強会を行う予定だ。
TF4:リノベーションタスクフォース (宮崎晃吉委員長)
“今後のリノベーションの在り方”
大島芳彦氏から宮崎氏が委員長を引き継ぎ、イベント等活動を行っている。リノベーションスクールを立ち上げ、新たな場の機会として運営をし続けている。
リノベーションの意味合いは変化してきており、普及をしなくてはいけないムードの時代から、当たり前になりつつある時代となった。では、現在の意味合いは何なのか。〈場の産業へ〉を改めてどういう風に考えるべきなのか、場の産業に転職させる話なのか、新たな産業としてのマラソン業であるのか複数の仮説のもと、探求している。
リノベーションスクールの場の運営をし続けることや、生きられ続けるというようなことには初期設定としての空間設計と事業計画TVの古い建物を活用する段階だけではなく、いかに持続させ、長く営みにしていけるかの設計も必要だ。
どのように使い手に〈ひらかれていく〉のか、民主化していくのかについてを重要テーマとしており、生きられたリノベーションとは、単に建築家がつくった瞬間だけではなく、どのように生きている状態にありうるかを思考している。リノベーションの意味合いとして、どう生きられたものになりうるのかを、第二のフェーズとして、取り組んでいくという。
TF5:ビルダータスクフォース (権藤智之委員長)
“〈つくる〉ことの可能性”
工務店所属のゲストを招いたレクチャーや見学会、ワークショップを開催している。
工務店がディテールだけを書いて施工段階はDIYで任せ、材料等の管理のみ担う事例では、 ”つくりかたを変えることで様々な人を巻き込むことができ、社会性や公共性が生まれる”形態が実現していることや、アメリカのGirls Garage (女性技能者向けの教育施設)では、 職人育成に加え、つくることを通じて empowerment(=自信をつける)ことを目標としていることなどの事例から、”つくる”ことが持つ意味や面白さが多方面にあることの可能性をイベントを通して追求している。
今年度は、再度 ”つくる”ことの面白さや可能性を思考できる機会を計画する予定だ。
TF6:不動産マネジメントタスクフォース (倉内敬一委員長)
“地域の声から導かれる福祉問題”
昨年度からのテーマ”地域の活性と福祉”を継続し、定例会にて地方の空き家をどう活用していくのか、地域の活性化にどう繋がるのかをTF活動として地域の方と交流をしながらセミナーを聞いたりその地の意見交換をし、活動を展開させている。
今年度から地域不動産業界以外の方も招き、地域の話を聞ける場を設け、地域の発展という側面で浮き彫りとなる地域住民、賃貸住宅の住民の福祉問題に着目し、メンバー内の知能共有を行っている。今後は地域福祉を含め発信に力を入れていく予定だ。
TF7:制度改革タスクフォース (田村誠邦委員長)
“建築コスト高騰への対応策”
社会的課題を取り上げ、社会情勢の追求活動を行っている。
グローバリゼーションの時代が終わり、デカップリング化の時代が今後も続いていく可能性が高い一方、人材の高齢化で工事費は今後も継続的に上がると予想される。
工事費が高くなったことで、停滞している建築プロジェクトも非常に多く、賃貸事業等も成り立たなくなってきており、箱の産業自体の土台が崩れつつあるかもしれないことを念頭に、他のTFとコラボレーションをして建築コストの継続的な高騰へどう対応すべきかの追求を行っている。
TF8:ライフスタイルタスクフォース (三沢亮一委員長)
“消費者と供給者の発想の結節点を求めて”
建築において、住空間を巡る環境の変化に対し、ライフスタイルを彩る企業にはとりわけ大きな変革が求められる。様々なサスティナブルな発想の転換が必要であり、これらは量的から質的発想への転換、造る側から使う立場での発想、独自性や本質性、国際的価値観基準などにあたる。空間を作ることによって部屋ごとにトータルのまとまった空間を提案しようすることが、最も重要なテーマである。空間には建材だけではなく家具等も含めた構想が”場をつくる”に繋がると仮定して追求を行い、供給側と需給側の双方にとってメリットに結びつくプロジェクトを発信している。
今後も、消費者とつくる側の新しい発想のもとにどんなことをどういうことで結びつけるかの思考を深めながら、新しいスタートにしたいと考えている。
TF10:エネルギータスクフォース (竹内昌義委員長)
“エネルギー問題を一般の方へ”
エネルギー価格や電気代が上昇している中、エネルギーのことを考えながら断熱ワークショップや 弾丸月間ツアーを開催している。
今後の活動動向として、どのようにエネルギーを減らせるのか、作れるのか一般の人に発信できるよう、YouTube動画の作成を進行中だ。また、学生や他のTFとコラボレーションができるよう、極寒ツアーや断熱展など楽しい企画を計画中だという。
TF11:市民防災タスクフォース (山代悟委員長)
“災害に備えた応急補修の開発”
様々な災害の被害を受けた屋根の応急補修の広報開発の活動を行っている。
地震や津波、風雪害は大きな被害を生み、屋根の補修までの期間、1、2年ほど凌げる対策を開発しなければならないと立ち上がった。
活動内容としては、ワークショップや被災直後のボランティア活動、実際の施工実験等を行っている。実際に、1年近く雨漏りをし続けていた住宅を、開発した方法で屋根を塞ぎ、直接1軒の建物を救うことができた。
今後は、様々な専門団体の技術開発の広報を中心に活動を行っていく予定だ。
TF12:コミュニティアセットタスクフォース (田島則行委員長)
“持続的な再生拠点の仕組み”
空き家や有機不動産など活用して公的な役割を担いつつ、自立性持続性のある活動を行えるような〈コミュニティ〉、再生活性化拠点〈アセット〉に纏わる思考を深めるため、空間資源を利用し、どのように持続的に地域とコミュニティに貢献していくかを追求している。
今年度は、コミュニティアセットTFをめぐる仕組みをどのようにつくるのか、資金調達や支援、専門的なノウハウを知恵を集めて〈非専門家〉がコミュニティアセットを作れるというような時代にしていくため、活動展開を行っていく。
TF15:フロンティアタスクフォース (荻野高弘委員長)
“HEAD研究会らしいスタートアップイベント”
一般的なプレゼンテーションでは、投資家に対してプレゼンをするイベントが多い中、一般に開かれたイベントとなっている。建築不動産領域のテーマである〈プレイステック〉を復習する様々なスタートアップ 業者が集まり、話を聞ける機会となっている。
建築不動産にまつわるプロフェッショナルが集まるHEAD研究会とスタートアップの掛け合わせは、建築と不動産領域のスタートアップを支援するHEADらしい仕組みのイベントの開催に繋がっている。
TF16:オープンプロセスタスクフォース (水上幸子委員長)
“子ども・家族にひらくHEAD研究会”
〈場と暮らしと仕事〉のもと、HEAD研究会と家族との有益な時間をどのようにつなげるか思考し、計画を練っている水上委員長である。子どもたちにとって幼少期からHEAD研究会のチャレンジングな大人たちとたくさん交流できる機会があることは、教育的側面でもすごくいいという。そこで、研究会のメンバーの面白い取り組みをされているところに行き、社会でどのようなチャレンジをしているのか五感で感じられる体験として小旅行を計画。家族全員で社会科見学のようなものができるイベントを企画中だ。
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- 総括 (副理事長 山本想太郎氏)
建築の写真や建築デザインに関する話がないことは他のシンポジウムにはない。大学で教えられないことが、建築の周りに多く存在していることがよくわかる。HEAD研究会は、建築の周りにある様々な物事や周りで起こっている状況の、ある”気づき”から始まっており、〈箱の産業から場の産業〉のように、我々が住んでいるのはどこなのか、我々にとっての環境は何であるのか、考えていく必要がある。
近代の築き上げてきた一つの社会システムの時代から研究会が語っている仕組みから、我々の人生の環境を考え直す時代になる〈新たな転換期〉と言える。
その中で、今回の〈HEAD研究会 第2フェーズ〉において、研究会皆の力を借りつついろいろな活動を展開していきたい。
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-レポート後記
本イベントレポートは、総会シンポジウム2023 vol.2【各タスクフォース活動報告編】として執筆いたしました。
3年ぶりのリアル開催、また新たな会場「芝浦工業大学 阿出川シアター」での開催は、会員、子どもたち、学生会員が集い、またその場を利用していた大学生が作業しながら講演を聞いていた状況は、HEAD研究会にふさわしい〈ひらかれた〉場での開催が実現したことを実感できる場でした。
基調講演に続き、会員皆で互いのTF活動展開の動向を認識することは、HEAD研究会としての「ひらかれた場づくり」のあり方を再確認できる場となり、TFを跨いだ横議の場の創出、学生や子ども、大人を巻き込んだ活動は今後更に加速・展開していけるきっかけの場ともなったのではないでしょうか。
(執筆:小山更菜/芝浦工業大学M2)