調査レポートvol.1
【オーガニックの課題】需要はあるのになぜ広がらないのか?
オーガニック食品を買うとなると、専門店や宅配というイメージがある。「第1回オーガニックスーパー現地調査」では、野菜のレパートリーや量が少ない、加工品や輸入品専門店みたいという印象を受けた。また、価格も扱っているものも「日常使い」には程遠いことがわかった。
“なぜオーガニックが日常に広がらないのか?”
今回はこの疑問を元に、オーガニックの生産、流通、消費の各段階での課題を探ってみた。
有機農産物への潜在的な需要
有機農産物の需要
日本の消費者や流通・加工業者は、有機農産物をどれくらい求めているのだろうか?農林水産省が2016年に公開した有機農業を含む環境に配慮した農産物に関する意識・意向調査 [1]からは、日本での有機農産物の潜在的需要が高いことがうかがえる。
消費者の購入の意向を見てみると、「現在購入している、18.0%」、「購入したいと思う、64.6%」で、全体で8割を超える。
流通・加工業の取り扱い意向を見てみると、「現在取り扱っている、21.2%」、「取り扱いたいと思う、42.2%」で、全体の約 6割を占めている。
世界第9位の市場規模
次に、有機産品の市場規模を見てみる。
世界の有機農産物の市場規模は約500億ユーロ(2012)で、主要国と日本の市場規模は以下の通りだ。
1位 米国:約 256億ユーロ(以下ユーロ省略)
2位 ドイツ:約 70億
3位 フランス:約 40億
4位 カナダ:約 21億
5位 英国:約 20億
…
9位 日本:約 10億
上位国の有機農業の面積が農業全体の面積に占める割合は、米国(0.64%)、ドイツ(6.19%)、フランス(3.76%)、英国(3.43%)。対して日本は0.36%である(全461万haの内、有機JAS認定を受けている圃場の面積が約0.9万ha(2010))。つまり、日本の有機農産物の市場規模は栽培面積の割に大きいといえる。
このように日本は有機農産物の潜在的需要が高く、比較的大きな市場を持っている。
さらに、有機農産物の格付け(認定を受けた)を見てみると、そのうちの44%が海外で格付けされた農産物であり、日本の有機農産物市場は多くの輸入品に支えられている状況である[2]。
なぜオーガニックが日常に広がらないのか
サプライチェーンの各段階での課題と対応策
- 生産
慣行農法と比べて労力がかかること、収量や品質が不安定であることが指摘されている。農家にとって有機農業は、販売量や価格が不安定になり、リスクのある取組であると言える。
こういった課題に対して、生産技術の研究開発が、国や地方自治体、民間レベル、産官学連携事業のもとで行われている[2]。 - 流通
生産段階での課題と関連して、安定した供給量、品質を保つのが難しいことが課題である。小ロットの流通では、消費者が求める「近場で手軽な価格で購入したい」という要望に応えることが難しく、消費が伸び悩んでいると考えられる。
これに対し、国や地方公共団体で流通・販売面の支援策は講じられている。しかし、有機農産物の情報発信や直売所の整備、生産者と流通業者のマッチング等、間接的な方策にとどまっている[2]。(※1)
直接的な支援は、有機農産物を専門に扱ったり、新規参入農家を支援する卸・流通業者によって広まってきている。(※2) - 消費
安心・安全といった利己的なメリットだけでなく、有機農産物が環境に配慮した農法であるといった利他的な意義(エシカル消費)への理解・共感が広がらないことが課題。
これに対しては、エシカル消費に対する概念の理解が有効な手段であり[4]、国や地方公共団体だけでなく流通・小売り等民間レベルで様々な取り組みがなされている。
上記の内容を踏まえると、日本でオーガニックが日常的にならない理由は下記のようにまとめられる。
有機農産物の需要はあっても、農家の生産技術・体制や経済的に不利な状況により、サプライチェーンの整備が遅れており、結果として日常的に購入できる環境が整わない。
生産、流通段階で課題があることは自明だが、消費者は状況が改善されるのを待っているだけでなく、自ら知識をつけ自分で食べ物を選択できるようになることもまた必要である。
オーガニックを応援したい、だからこそ納得して買いたい
オーガニックが日常に広がらない理由の大枠はつかめた。が、ここで何かできることがないかと思った方もいるのではないか。あなたが農業と関わりのない都市の消費者なら、買って応援することが一番簡単にできることだ。
有機農業を応援している一消費者として、納得して買えるようになるためのアイディアを書いてみる。
商品情報を提供してほしい
・値段の根拠は何なのか?
・調達基準と、そのお店が何を目指しているのか?
・扱っている認証ラベルについて知りたい。
・そもそも有機農産物とは?エシカル消費とは?
・どこで、どうやったら買えるのか?探し方を教えてほしい。
上に書いたような情報を店内POPやホームページ、SNSなどに載せてくれたらうれしい。「この商品、共感できるから買ってみよう」とか、「この値段はこういう理由なのか、それなら買おう」というように、選択の助けになると思う。
これはスーパーに限らず、宅配等も同じことが言える。しかし、一番身近な存在であるスーパーが消費者の関心、理解を得ることに果たす役割は大きいのではないか。この意味でスーパーに期待している。
また私たちも、”認証”や”安心・安全”といったことにとどまらない有機農業の利点や可能性について勉強し、発信していきたい。
参考文献
[1]「有機農業を含む環境に配慮した農産物に関する意識・意向調査」:農林水産省(2016年2月)
[2]今井希(2015):農産物流通を通じた有機農業の推進:日本情報経営学会誌 Vol. 35, No. 2 pp.31–41
[3]堀内芳彦(2019):有機農産物等の市場拡大の要件:農林金融2019.7 pp.2–18
[4]大西茂、田中勝也(2019):「エシカル消費」としての地域農産物に対する消費者選好:環境情報科学、学術研究論文集33 pp.163–168
※注釈
(※1)農林水産省の有機農業支援
2006年12月:有機農業推進に関する法律(有機農業推進法)が成立
2007年04月:上記法律に基づき「有機農業の推進に関する基本的な方針(基本方針)」を公表
基本方針では、農業者たちが有機農業を積極的に取組めるように案るための条件整備に重点を置き、以下7領域にわたる施策が策定された[2]。
①技術開発等の促進
②技術普及の推進
③有機農業者等の支援
④新規就農者等への支援
⑤消費者の理解と関心の促進
⑥有機農産物の流通・販売面の支援
⑦推進体制の整備
(※2)有機農産物(同等の農産物)を専門に扱う生鮮宅配企業の多様化
大地を守る会(1975年~)、らでぃっしゅぼーや(1988年~)、オイシックス(2000年~)、ビオマルシェ(1983年~)、坂ノ途中(2009年~)など様々な有機食品宅配サービスがある。最近では、楽天ファーム(2007年~、2020年に社名変更)など新たな企業も参入して来た。
それぞれの企業理念は様々だが、中でも「坂ノ途中」が目指していることは、多くの企業が掲げている安心・安全や健康を第一としたものではないことが特徴である。
環境負荷の小さな農業に取り組む人たちを増やすことです。
100年先もつづく農業のかたちをつくりたい、
そして持続可能な社会にたどり着きたいと考えています。(HPより引用)
後の世代のために、将来の環境からの前借を減らすような取り組みを農家と消費者とで行っていこうとするライフスタイルそのものに訴えかけるメッセージが消費者に受け入れられている[2]。また、仕入れ先の農家はほとんど新規就農者ということも特徴だ。