2015 vs 2018 比較で見えてきたシリコンバレーの未来と日本のあるべき姿

Daisuke Ishii
Kiara Inc. Blog
Published in
10 min readApr 15, 2018

より仕事がしやすくより生活がしにくい街に

はじめに

4月の出張は3年ぶりとなるシリコンバレー訪問だったのですが、

2015年はOneTractionというアクセレレーター(起業家育成組織)に合格してブートキャンプを3ヶ月受けていました。

その際の様子は ここここ に書いてあります。

ストイックかつグローバルにビジネスを構築する世界から来た天才たちに感化されて、

現在のTeam AIがあると思いますし、人生観が良い方に大きく変わりました。

今回の旅を通じて新しい発見もいくつかあったのでまとめてみたいと思います。

1.世界一働きやすい街

現地のエンジニアの年収:

新卒1200万円

バックエンドエンジニア 1800–3000万円

データサイエンティスト 2400–3600万円

これは中堅企業までの場合で、

GoogleやFacebookで働けばこの数倍はもらえます。

非常に夢がある世界最高の水準であることは間違いありません。

Googleは一回起業で辞めても、

1–2年であればほぼ自由に出戻れる権利があるらしく、

むしろ起業したことでスキルがアップした筈なので歓迎されるそうです。

夜歩きが危ない米国では、創業者以外は残業しません。

夜はネットワーキングイベントに出かけて、技術情報のアップデートをすることで、

エンジニアは生産性を上げることができるので、奨励されています。

Galvanizeという人気のコワーキングスペースには、

スタートアップが沢山入居していますが、

18:00頃になると誰も働いていません。

さらに米国は業務が機能別に縦割りになっているので、

不得意分野を掛け持ちさせられる事もありません。

世界中から一発当てたい天才が集まって来ているので、

スキルも大きくアップすると思います。

定量面・定性面ともに、世界一働きやすい街です。

実際現地日本人エンジニアの交流会にお邪魔しましたが、

みなさん”もう日本では働けないよね!”と仰っていました。

私の目から見ても、日本人は真面目でスキルも高いので、

英語力・粘り強さ・自分への自信を身につければ、

もっと沢山の方がシリコンバレーを目指しても良い様に思います。

皆、Indeed/LinkedIn/Angelist/Hired.com/Glassdoor等で仕事を探しているそうなので、興味があったらリモートで面接を受けてみてください。

グローバルの10億人市場を相手にしている会社がゴロゴロあるので、

東京以上に圧倒的なエンジニア不足が発生しています。

工夫次第で、働くことはできると思います。

ちなみに今回友人になったデザイナーで、HTMLも苦手という事で、

WIXでフロントエンドページ作って稼いでいるフリーランサーがいました。

スーパーハイスキルじゃないとシリコンバレーは働けないイメージがありますが、

そうではないです。IT業界が巨大で、裾野が広いので。

2.住みにくい街

ITの好景気で悪影響が出ているのが住宅危機です。

給与は高いですが、一人暮らしでもサンフランシスコなら家賃50万円になります。

オークランドやデーリーシティといった、BART電車で20–30分の所なら3割くらいは安いと思いますが、住みにくいのは明らかです。私も2015年、全てのWebサイトをあたりましたが、結局アパートが見つからずホテル住まいになり、月50万円払っていました。

私の友人田中さんがCTOを務めるAnyplaceは長期滞在型ホテルを提供するWebサービスなので、はじめてサンフランシスコに住まれる方にはとても良いと思います。

家賃高騰の結果、中心部にはホームレスがあふれています。

街全体が高所得のエンジニアだったらいいですが、

非ITの仕事の方々はこの家賃の高い街でどうやって生活しているのだろう?といつも不思議でなりません。

また、人口100万人くらいの街なので、ソーシャルライフというか、夜の飲み会イベントはとても小ぢんまりとしていて、私の知人のパーティ好きな方はNYと比べて夜は静かだよね!と言っています。

他にも、米国なので銃社会で夜はブラブラできませんし、食事も米国内では美味しい方ですが、東京に比べるとバラエティに欠けると思います。

メリットの高収入に対してデメリットの高い家賃と刺激の少なさはあると思います。

上記を理由に脱シリコンバレーの動きも出て来ています。

私の友人のY Combinator出身社長は、

数億円を調達しましたが、上記の高給与を払っていてはすぐに燃えてしまう為、

CEO/CTOなど少数のコアチームをサンフランシスコ、その他10人くらいの開発チームを物価と給与の安いLAに構えコストを最適化しています。

別に高給与が欲しいから年収1800–2400万円になっている訳ではないのです。

支出が非常に多いので、企業側がそれだけ出さないと人が集まらない問題はあると思います。現地の日本人エンジニアの方も、”年収1000万円くらいだと超貧乏生活を強いられるのですよね。それってどうなんでしょうね。”と仰っていました。

世界に全てが完璧な場所ってないものですね。

3. 他の選択肢が増えた

アンチシリコンバレー的な思想も広がって来ました。

Basecampというシカゴのタスク管理ツールのCEO(Jason)/CTO(DHH=Railsの創業者)は二人ともシリコンバレー一極集中の文化を手厳しく批判しています。

外部投資家を入れず自前の利益でキャッシュを回して成長することをBootstrapと言うのですが、Basecampはその成功例(月額定額課金)です。

“Uberの企業価値5兆円とか全然カッコいいと思わない。企業価値を釣り上げているマネーゲームで中身がない。シリコンバレーの会社はイケてる社長としてメディアに出ているけど、単月黒字が自力でて来ておらず大きな赤字になっているのを投資家の金を燃やしてつないでいるので全然成功とは言えない。最高の会社は、ユーザーへの課金が自力で成功している会社である。投資家にペコペコする必要もない。無理して大型の資金調達しようなんて思わない。”みたいな内容をいつもBlogやYouTubeで発信しています。一理ありますし、両方のスタイルがあっていいのかと思います。

私の友人のYanは米国が長い中国人ですが、サンフランシスコの”Startup Fatigue(スタートアップ疲れ)”が原因で東京に移住しました。”世界を変えるとか、肩に力が入りすぎてて、皆スーパーハイテンションで疲れるのよね!”という意味です。こういうタイプの人がいるのも十分理解できます。いろんな選択肢があっていいですよね。

弊社の事業領域であるAIは、GoogleやStanford大学などに人材や資金が集中し、

米国中心に回っている状況ではありますが、他方でBlockChain業界は”国境がなく、組織自体も分散化している”会社が多数あります。BlockChainはアジアや欧州も元気がいいです。

仮想通貨については、米国政府がテロリストの資金洗浄や詐欺を警戒して引き締めを相当強化しているので、BlockChain系の会社を作るときは米国を避けた方がいいよ!という人もいるくらいです。実際に、仮想通貨の投資会社を経営する知人は、5社中4社の銀行に、銀行の法人口座を作るのを断られたそうです。理由は事業が仮想通貨だからです。日本では考えられないですよね。

また、貿易や軍事で米国と対立が始まっている中国の動きも変化になります。

2015年にはあまりそういった話を聞きませんでした。

私感ですが、シリコンバレーの仕組みや手法の長所を中国は大量の起業家・研究者を通じて吸収し終わり、中国国内に”シリコンバレー的なエコシステム”を作ったのだと思います。

海外で活躍して中国に戻るビジネスパーソンを海亀(ハイグイ)と中国語で言いますが、

そういった凱旋帰国組が最近目立つ様になりました。

Google/Facebook/Twitter/YouTubeが遮断されているグレートファイヤーウォールの中の閉じた13億人市場でインターネット企業を成功させれば、海亀起業家はアリババの様に億万長者になれます。シリコンバレーに匹敵する規模になる可能性はあります。

未来予測 & 日本はこうあるべき

トランプ政権は高スキルビザの発給を引き締め、

“世界中から天才を輸入し、科学技術を発展させる”米国のビジネスモデルを減速させようとしています。中国の動きも顕著です。シリコンバレー一極集中は当面続くでしょうが、ゆるやかに世界の構図は変化しようとしています。軍事とITの発展は密接に関係しているので、米中露英のパワーゲームが変化してくると世界の予算の構図も変わると思います。

日本はどうあるべきか?

良く日本にシリコンバレーを作ろう!という議論がありますが、

私は規模が違いすぎて無理だと思います。競合もできないです。

それよりも、中国スタイルで、大量の起業家と研究者をシリコンバレーに送り込み、

シリコンバレーの”ノウハウの吸収”を国を挙げて行うべきではないでしょうか。

ここには書ききれませんが、個人レベルで相当色々な発見と、日本に応用できる事例があると思います。

弊社では”コミュニティの仕組み”を東京に移植するべく努力しています。(まだ努力の途上ではありますが)

海外に人を送り込む => ノウハウを吸収 => 国家の戦略と民間レベルのビジネス構築に活かす、という循環を一番上手にやっているのは中国ではないでしょうか。

サンフランシスコにもっと日本人が増えた方が、中長期的に見て日本の国力が上がると思います。

最後に

私自身今回の旅で一番良かったのは、

“私の目線が日本や東京しか見ておらず、グローバルな方と話が噛み合わない事が多く、非常に恥ずかしかった事”です。

もっともっと頑張ろうと思いました。精進します。

2015年米国から帰国後、努めてグローバルに活動しようとしていたつもりでしたが、

3年間日本にいて、日本で売上を立てる事ばかり考え続けていると人間が小さくなったのだと思います。シリコンバレーの起業家たちは、まず英語圏10億人を市場として捉え、

最終的に20–30億人の市場を作ろうと本気で頑張っています。弊社もそういった会社にしたいと常々思っています。まだ思いと行動が足りないのだろうと思います。

2015年のシリコンバレー在住は私の中で良い驚きの連続でした。

視点も人生観も変わりました。目標も大きくなりました。2018年からは”どうやって具体的現実的に世界市場を狙うか”という夢を現実にするステージに来ているのだと思います。

帰りの飛行機の中でじっくり中長期計画を練り直したいと思います。

引き続きのご指導どうぞ宜しくお願い致します。

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