寺井元一 インタビュー「ストリートから学ぶ都市の作り方」後編

連載 [ 都市論の潮流はどこへ “ローコスト・アーバニズム” ] 04/Series [ Where the urban theory goes? “Low-Cost Urbanism” ] 04/Motokazu Terai Interview : Learning from the street, the new way of making a city.

前編はこちら

「今」に至っている経路をもう一度たどってみる。

笠置:郷土の無形な資産をアカデミックな系統だてではなく、現代的な感覚で再解釈することは、ブランディングから現代美術に至るまで多く見られるようになりましたね。

寺井:郷土史に書かれている出来事は、単体ではあまり重要ではないと思っています。重要なのは、その出来事を受けて「では僕たちはどうあるべきなのか?」という問いのような、過去の人たちのヴィジョンです。300年くらい前の人の思いを拾ってきて、それのどこを現在の僕らのスタート地点に設定するのか、ということをやりたいんです。

だからMAD City★1は松戸宿★2の正当な後継者だと言い張っています。実際にそう思うし、そうなりたいとも思う。あえて言うと、松戸「宿」であって、松戸「市」の後継者でもないっていうことです。近代とか前近代とかの現代社会の前、場合によると中世とかの社会の後継者として、今という時間をある種で相対化したり、アップデートしていく存在として、MAD Cityというまちづくりをやりたい。

笠置:日本でもスケートボードで遊んでいた人が高齢化していくと、西海岸のようになるかもしれませんね。

寺井:「経路依存」という言葉があります。今この瞬間の状況じゃなく、過去のルートや成功体験をもとに意思決定されてしまう現象のことです。例えば、おじいちゃんおばあちゃんがスケートに普段から乗っているらしい西海岸と、「そんな奴いないよ」って言う人のいる日本、これは、どちらかが間違っているわけじゃないです。それまでの経路が違う、というだけの話なんです。逆に言えば違う成功体験があれば、結果が変わるかもしれない。今の判断を変えたければ過去の体験を変えなきゃいけなくて、それは難しいけれど、今の体験を変えれば未来の判断を変えることができるはず。

だから僕は、その「今」に至っている経路を一度たどって、歴史や文化の文脈に再スタート地点を求めて戻っていて。そうすると、MAD Cityでおじいさんもおばあさんもスケートボードに乗るのが当たり前みたいな街が今後はできる可能性あるんじゃないの?っていう。それぞれの街で良いとされているものは違いがあると思います。それはスケートボードかもしれないし、それ以外のなにかかもしれない。ただ、僕がまちづくりにおいて一番本質的にやりたいことというのは、過去の文脈にスタート地点を定めて、今この瞬間に新たな成功体験をつくることで、未来には違う経路を歩めるようにしたい、ということですね。

笠置:マーク・フィッシャー『資本主義リアリズム: 「この道しかない」のか?』でも自明の社会を疑うことが提言されています。ある時代の正しさが様々に疲労している状況でもありますね。

寺井:一言でいえば、人生をまちづくりを通して変えたいんです。「この街にいれば自分のやりたいことができる」という感覚です。自分のしたいことが叶う街にいく、無理ならば他の街に行けばいい、という街をみんな選択できる形になればいいと思います。「すべてやってオッケー」という街というのはおそらく存在し得ません。渋谷に住みたい人は渋谷のライフスタイルがある、そうでない街にはそれなりのライフスタイルがありえる。渋谷はもちろん、僕が関わっているエリアだと松戸や武雄など、いろんな地方にそういうものが付与できるんじゃないかなと思います。

スクウォットと不動産のあいだに

MAD Cityの古民家スタジオ 旧・原田米店での屋台バー開催の風景(画像提供:まちづクリエイティブ)

笠置:自分から進んでやりたいことをやれる街、かつ、やりたいことをやれる街に住む、というのは面白いです。ただ現状では、例えば不動産においては、賃貸制度が変にこんがらがってしまってDIYができなかったり、といったことがありますよね。そこについてはどのように考えていますか?

寺井:僕は、不動産を知らずにまちづくりに携わるようになりました。むしろ先に、僕はグラフィティの関係者とかを通じて、文化の発信源的な意味の海外のスクウォットカルチャーに触れているんです。そこには賃貸契約はもちろんない。一方で、スクウォットは持続できないと意味がないと思うんです。だから日本でスクウォットと持続性を両立させることについて考えて、MAD Cityのやっている不動産のビジネスモデルに取り組むようになりました。

でも、スクウォットが持っている思想的なところを踏まえて、まちづくりをやっているほうが自分たちにとって本質ですね。一方では、「DIY」や「リノベーション」という言葉自体がメディア的にキーワードで切り取られて、その字面通りに受け取られてしまったりすると「そういうことじゃない」って思ったりしますね。

笠置:寺井さんのやられていることは、根底に流れている深い思想と、パッケージングの妙がうまくバランスしているという感覚はあります。それはまさにグラフィティの思想と通ずるところではないでしょうか?

寺井:僕はグラフィティもストリートバスケも、そこで出会った人たちの真剣さや、出来上がりきっていない分野特有のフラットさや距離の近さがすごく好きなんです。一方で何かのジャンルが特別すごく好きという感覚はなくて、正直言えばグラフィティに対してもバスケに対しても、フラットです。その根底にある価値観が自分にとっても大切で、言葉としてはストリートカルチャーということになるのかなと思っています。スクウォットも、感覚的にはその一部ですね。だから、ジャンルは全然違ってもいいんです。実際、MAD Cityでは最近は福祉の実験的な取組を始めているんです。

笠置:カルチャーと福祉もフラットに考えてみると面白そうですね。具体的にはどのような取り組みなのでしょうか?

寺井:どういう事例かというと、僕らのようにサブリース形式で不動産をやっていると、出会っているのは入居するクリエイターだけでなくて、物件を持っている地元のオーナーさんもいます。それで、最近では単に物件の利活用という以上に、僕らの活動に共感してくれるオーナーさんも現れ始めたんです。そういう方々は「私たちの人生をいかに豊かにするか」ということにすごく期待してくれている。

とあるオーナーの方は60代の大学講師の方で、使わなくなったご実家を一軒まるごと貸してくださっているのですが、今そこに即興系のダンサーが入居しています。何をしているかというと、ダンスがどう社会のなかで新しい価値を生み出せるか、仕事をつくれるかということに取り組んでいる。僕らが入居者と一緒に仕事づくりをしているわけです。

もともとオーナーは地域の高齢者のコミュニティ活動を自分でも実践している方なんです。一方でダンサー側は、コンテンポラリーダンスのなかでもコンタクトインプロヴィゼーション★3 に取り組んでいて、最近は僕らと、その技能をどう活かせるかを起業視点で協議してきました。そして現在は、福祉や医療あるいは地域にどのように連動させることができるかを、体を動かすコンテンポラリーダンスのアプローチから研究するプログラムを開催しはじめています。そのプログラムによって何ができるのかを研究して、できればそこから街で仕事をつくろうという話をしてるんです。

物件は単に住む目的だけではなく、研究会を行うラボ的なスペースとして、関わってもらう他のダンサーや福祉関係の方にも滞在してもらえるゲストハウスとして運用することも考えました。それで今は、ダンサーとまちづクリエイティブ社で協働したプロジェクトを立ち上げて、定期的な勉強会の企画や、ダンサーが管理人になってゲストハウス化する等、細かい取り組みを試行錯誤している最中です。

笠置:前編では「若者の福祉」という話がありましたが、リアルな福祉というものも視野に入れているのですね。

寺井:分かりやすいのは、僕らが福祉事業として老人ホームをやるということだと思うんですが、それってKOMPOSITIONのときの映画館の話と同じだなと思うんですね。実際に必要なのはもっと新しい福祉だと思うし、そうでないと僕らが取り組む意味も薄い。もしかしたらダンサーのプログラムが、僕らなりの福祉事業につながるかもしれない。その研究会には、実際に病院の関係者に参加してもらおうと考えているんです。そのあたりの座組とか事業づくりは、まちづくりの手法がすごく活きるわけです。

そういった意味では、僕らのまちづくり事業は不動産からある種のインキュベーションに近づいています。そこに集まっている人材と、どんな新規事業や新しい活動を作っていけるか、という視点です。

笠置:受託ではなくDIY的に街に仕掛けていくということですね。

寺井:こういう取り組みって、僕らが地方で自生的にオープンイノベーションしてる感じになっているんですね。さらにいうと、ある程度勝手なことをしないとまちづくりは面白くならない。そのプラスアルファのための土台作りは、この何年間かでやっと目処がたってきたんじゃないかという気がします。さらに言うと、将来的なヴィジョンとしてはうちの不動産はより家賃を取らないモデルになっていくと思っているんです。

理屈で考えると、不動産ビジネスが崩壊しつつある地方で、家賃で儲けを得る方法って合理的じゃないんですよ。これから伸びるクリエイティヴィティに溢れた人たちがいたとき、家賃以外のところで彼らと一緒に稼いでいく方が可能性がある。それなら家賃はもっと下げてもよくて、自分たちが付き合いたい、常にベストの人材と出会える装置として機能させる方が合理的だろうなって。

実験場としての地方都市

辰野金吾設計の楼門が武雄温泉のランドマークになっている(撮影:山口雄太郎)

笠置:たしかに都市部でも家電量販店のような店舗から公共空間の社会実験まで、場所で直接的に売り上げをあげる仕組みが陳腐化しているように感じています。場所の作り方によって間接的により広いスケール、たとえばブランドや地域の価値を上げていくようなあり方のほうが、主体にとってもユーザーとってもプラスに働くのではないでしょうか?

寺井:先の話は、不動産が単体物件に関する家賃ビジネスから外れていくっていうことだと思うんです。他領域だと、広告を組み合わせることで価格を下げたり無料化するサービスもあって、でもまだ不動産にはそういう取組は乏しい。業界としてもイノベーションが起きていないと言われています。ただ、時期に合わせてその時々で必要な物件、あるいは複数の物件を状況に応じて使いたい、という多拠点居住の流れは明らかにある。

そう考えると家賃以外のビジネスモデル、一つの物件に限らない不動産関連のサービス、というのが出現する。すでにサブスクリプション型で多拠点居住をサポートしようとする事業もありますね。そういうことをまちづくりに当てはめて考えると、先ほど紹介したインキュベーションに関わるビジネスモデル以外にも、複数エリアをつなぐネットワーク性は必須になると思うんですね。別に僕らも松戸だけが良くなれば良いということではなくて、MAD Cityのようなエリアがもっと増えた方が良いという思いがあるし、民間レベルで姉妹都市的なエリアを創っていきたい。

だから、松戸は僕らにとって、まちづくりのイノベーションのショールームや実験場という認識になってます。そこで実現できたことを他のエリアの市町村や企業に対しても見てもらって、提供していく。まちづくりの事業者って、まちという存在が巨大ですし責任もあるし、自分の地元だったりすることが多くて、実験できるフィールドを持っている人ってあまりいないじゃないですか。それが明確にあるのは、まちづクリエイティブの独自性だと思いますね。

それで、実際に第2エリアになっているのが佐賀県の武雄★4ですね。こちらはもともと武雄市役所から温泉街の活性化を委託していただいたのが事の起こりなんですが、今では自立した民間事業に移行しています。地方にも街の未来を考えるような会社があって、武雄ではそういった企業と弊社が組む方向性になってるのですが、これから面白くなっていくと思います。

笠置:確かに地方都市には工務店やビルダーの二代目あたりが、街で面白い活動のハブになっているところは多いですね。もしかしたら旧来の大工集団というのも、家から広がって街の自治にも関わっていたのかもしれませんね。

武雄にある元喫茶店を現代美術家の菅隆紀氏が1ヶ月かけてペイントした(画像提供:まちづクリエイティブ)

寺井:日本でいうと、大都市圏よりむしろ地方都市の方がそういった古いものは残っています。ただ、地方都市自身、自らの可能性に気づいてないと思うんですよね。だから僕らがやれることがあると思っている。開発にしても地方の方が面白いんじゃないかと思います。

笠置:「開発」という言葉の射程を広く捉えた方がよい時代になっているのかもしれませんね。今まででいえば、開発といえばビルを建てる、ということだった。それが、単に「アートシティをつくる」といった「開発」も生まれてくる時代なのかもしれない。

寺井:「開発」の概念がもっと広い方がいいですね。足りないものはつくればよいと思うんですよ。ただ、足りてるものというのはいつか要らなくなるじゃないですか。それは僕のもともとの研究に近い話です。足りないものは欲しくて、足りるものは欲しくなくなる。だから、100年後には建物をまた建てる、という時代が来るだろうなと思っています。

いま行われている再開発に目を向けると、今の時代は人口がずっと減り続けるから、これからの数十年は建物は足りてるという話だと思うんですよね。僕は「ローコストが良い」かどうかはわかりません。建築的にはローコストになっていくけど、他のところにもっと時間とお金を投じて、試行錯誤が容易になったほうがいいと思います。そして、そのことが必要なハードをちゃんと支えたり、活かしていく道だよね、というのが、あるべき方向性だと思います。

自分一人でやれますよ、ってことだけは知っていた

笠置:お金の使い所も時代に沿って変わっているっていうことなのかな、という気がします。頭を使えば、結果としてローコストにできる。そのほうが新しい価値をつくることができる時代だ、という話です。

寺井:そうですね。価値のつくり方がストリートカルチャー的になっていると思います。というのも、当初はまちづくりに対して、僕も知らないなりに印象はあったんです。まちづくりってすごい大ごとというか、大変そうじゃないですか。建物を建てるのも大ごとですし、時間もお金も掛かれば、関係者も多い。そういう印象があったのですが、実際に動いてみたら、少人数のベンチャー企業的なスタートでこそできるんじゃないかなっていう気付きはありました。

「100人いないとグラフィティができません」という話じゃなく、「一人でも描き始めるしかない」「自分が今すぐやればいい」というところからグラフィティは始まってる。僕は、彼らの手法というか、活動の仕方から、アクティビズムとしてまちづくりを学んだんだと思います。

「お前が松戸に行ったところで明日何が起きるのか、1年後あるいは10年後に何が起きるのか、説明できるのか?」って聞かれたら、説明出来たためしがないんです。でも、自分一人から始めることができますよ、それで良いんだ、ってことだけは知っていた。グラフィティの現場でそういう肌感覚を知っていたということが、自分を支えていた部分は相当ありますね。(了)

寺井元一(てらい・もとかず)

株式会社まちづクリエイティブ代表取締役 アソシエーションデザインディレクター。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。同大学院在学中にNPO法人KOMPOSITIONを設立し、多くの壁画プロジェクトやストリートバスケ大会など、公共空間と民間活力を結びつけて表現者に活動の場や機会を提供する活動を行う。その後、株式会社まちづクリエイティブを設立し、千葉県・松戸駅前を「クリエイティブな自治区」にするMAD Cityプロジェクトを開始。独自の不動産活用/エリアブランディング事業を推し進め、佐賀県武雄市「TAKEO MABOROSHI TERMINAL」、埼玉県埼京線沿線「SAI-KYO DIALOGUE LINE」など他地域でもエリアを展開している。



★1 千葉県・松戸駅前を「クリエイティブな自治区」にする、まちづクリエイティブによるプロジェクト。https://madcity.jp/

★2 水戸街道千住宿から2つ目の宿場町

★3 複数人で身体を接触させながら即興で行われるダンス。

★4 佐賀県西部の武雄市で展開する「TAKEO MABOROSHI TERMINAL」。 https://takeomaboroshi.com/

連載 [ 都市論の潮流はどこへ “ローコスト・アーバニズム” ]

>イントロダクション 笠置秀紀
「ローコスト・アーバニズム その文脈と展望を巡って」

> 01 馬場正尊 インタビュー
「工作的都市へ」

> 02 矢部恒彦
「都市のロマンス化を乗り越えて ポートランドのDIYアーバニズム」

>03 青木彬
「これからのアートと都市を語るために」